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2014.02.26

07|川・水辺のデザインノート

吉村 伸一((株)吉村伸一流域計画室 |EA協会 副会長)

6.川からのまちづくり計画:和泉川(その3)橋のデザイン

 

川との楽しい出会いの橋

和泉川河川環境整備計画の検討に当たって実施したこどもの遊び環境調査ワークショップ(川・水辺のデザインノート02,05参照)。地図づくりが終わって最後の10分間、「どんな川で遊びたいか」を自由に書いてもらった。

「ぴかぴかばし、どろどろばし、てつのはし、はねばし、ダイヤモンドのはし、二段式のはし、アーチ型のはし、つりができるようなはし、川の上をターザンで走る、木でつくったじょうぶな橋、板を渡す橋、石のはし…」橋の絵がたくさんあった(図1)。

 

図1 子どもたちが描いた「こんな川で遊びたい(橋編)」

 

子どもたちは楽しい川遊びを描いている。橋を渡るということはすなわち川と出会うということ。ただ渡るだけではなくて川との楽しい出会いが生まれる。そういう橋のデザインが重要だと受け止めた。

和泉川では、木の橋を3つ、めがね橋(コンクリートアーチ)を1つ、木製のもぐり橋を数橋架けた。

赤関おとなり橋

最初にデザインしたのが、木製の赤関おとなり橋である(写真1)。橋詰に8個の鳴り車が付いている。橋を渡るときに鳴り車を回すと音がする。8種類の金属でつくっているので音もそれぞれ異なる。この橋は道路橋(人道橋)で、近隣にある原小学校の児童が通学路として使っている。橋を渡るときに鳴り車を回して道草的な遊びをする。渡るとき川に目が行く。学校に行くのも何となく楽しい気分になる。そういう橋にしようと。

今は道路橋として木製の橋を新しく架けることはまずないが、30年ほど前までは横浜でも木製の小さな橋があちこちに残っていた。管理者である道路局と話し合い、「通学路として使われている人道橋」ということで木製の橋にすることを了解してもらった。そう簡単ではなかったが、子どもたちが描いた「川への願い」を武器に?熱意を込めてお願いした。

 

写真1 赤関おとなり橋(初代、1990年1月完成)。鳴り車を手で回すと音が鳴る。

 

この橋は橋梁台帳では「無名橋」だったので、道路局の同意を得て新しく名前をつけることにした。原小学校の校長先生と相談して子どもたちから名前を公募することになった。322の応募があり「おとなり橋」(音鳴り橋、阿久和町と宮沢町をつなぐおとなり橋、16人)が選ばれ、瀬谷区長から「名付証」が手渡された(図2)。

 

 

図2 公募「橋に名前をつけよう」と瀬谷区長から手渡された名付証

 

図3 赤関おとなり橋姿図

 

さて、ここで大問題が起きた。この橋の真ん前に住んでおられた小川さん(当時90才を超えられていた)から「この橋は赤関橋と呼んでいる。勝手に名前を変えるな!」というおしかりをうけたのである。慌てて飛んでいってお話を伺った。元々は小川さんが丸太橋を架けたのが始まりで、赤関橋(字名)と呼んでいたという。おしかりを受けながら頭の中であれこれ考えた末「地名の赤関と子どもたちが名付けたおとなり橋を合体して『赤関おとなり橋』で認めて頂けないでしょうか」と切り出し、なんとか認めて頂いた。

結果的にとてもよかったと思っている。「おとなり橋」というのは橋の特徴を現してはいるけれども地域性はない。地名と組み合わせることによってこの橋のリアリティーというか、地域の橋という性格が明確になったように思う。この橋を最初に架けたという小川さんの気持ちもくみ入れることができた。

小川さんは完成を心待ちにして工事中は毎日のように現場を見ておられた。そして1990年1月橋が完成。町内会や区役所、原小学校などと相談し、渡り初めをすることになった。渡り初めには原小の子どもたちやPTA、町内会の方々など約100人が参加し、親子三代で住んでおられた小川さん一家を先頭に渡り初めを行った(写真2)。

 

写真2 渡り初め。小川さん一家と原小児童代表による「開通のよろこび」

 

 

2代目赤関おとなり橋

さて、それから20年。またまた大問題。橋を架け替えるという情報が入った(2011年3月)。土木事務所に問い合わせると耐候性鋼板の橋にするという。地覆コンクリートの上に木質プラスチック製の高欄を載せる。高欄は横格子をやめて縦格子に変える。木よりも腐りにくい鉄やコンクリートやプラスチックに変えるというわけだ。設計はすでに終わり4月には業者が決まる予定だという。

変更はほとんど無理かなと思いつつも、橋本さん(農村・都市計画研究所)と一緒に土木事務所を直接訪ねて図面を見せて頂く。土木事務所としては今の姿形を最大限配慮したつもりだという。「配慮」は分からないではないが、こちらから見るとまるで違う。そこで、この橋のデザインのいきさつや地域住民の思いなどをお話しして、地域住民や市民の声を聞いてもらいたいとお願いした。市民がそれでいいというならあきらめるしかない。

和泉川でずっと活動しているSさんと相談して、市民グループ対象の説明会をして頂くよう土木事務所に要請。土木事務所では地元町内会を対象に説明会を実施。私と橋本さんは市民グループ対象の説明会に参加。市民グループの方々はできるだけ今の姿形を残したいという意見。地元住民の説明会でも太鼓橋のような今の姿形が残せるなら残して欲しいという意見が多かったという。

すでに施工業者が決まっていることから、金額が増えないことや工期が遅くならないことなどを条件に変更協議に応じていただけることになった。橋本さんに当時の図面を引っ張り出してもらって私が現設計と比較するための重ね図をCADで作成(図4)。変更協議のための代案検討を開始した。これらの作業は、こちらからお願いしていることなので無償ボランティアで行った。

 

図4 発注図(上)と初代おとなり橋(下)との側面図比較

 

まず、橋桁を木製から耐候性鋼板(箱桁)に変えることは受け入れることにした。その上で高欄や床材をプラスチックではなく本物の木にすること、姿形を今の形に近いものにするという方針を立てた。箱桁を1本減らして側面を木板材で隠す構造を提案。地元住民が気に入っていた太鼓橋(床材のアーチ形状)は、床板の根太木をアーチ状に組むことで対応した。私と橋本さんの二人で変更提案図を書いて、数回の打合せで手直しをして最終合意をしたのが図5である。アーチは少し緩くなったが初代赤関おとなり橋とほぼ同じプロポーションに変更することができた。

 

図5 最終合意図

 

変更の話し合いで意外と難航したのは、木質プラスチックを本物の木に変えることだった。すでに材料メーカーが関わっていることもあるが、本物の木にこだわる意味がよく理解できないというのが土木事務所の意見だった。木に近い色と質感があれば十分ではないか。木は腐るがプラスチックは腐らない。維持管理する立場からは長持ちするプラスチックがよいと。

私と橋本さんは「本物の木とプラでは質感や手触りが全く異なる。木は自然材としてのぬくもりがある。プラは腐らないかもしれないが、へたったり割れたりしやすい。プラは触ると夏は暑く冬は冷たい。木はぬくもりがある。自然材の持つ良さを大事にしたい。」と、ある意味説得力に乏しい説明を繰り返した。土木事務所は腑に落ちない表情をしている。最終的な決め手になったのは、木質プラスチックと木(イペ材)とでは金額がそれほど変わらないということだった。変更は受け入れてもらったものの、心からの同意ではないということ。どういう質を求めるかというレベルの話は難しい。説明している私もなんか説得力ないよなと思いつつ…。もう一つ幸運だったのは、材料メーカーが木材(ハードウッド)も取り扱っていたことだった。こういう条件が重なってどうにか本物の木を採用することができたのである。

 

写真3 2代目赤関おとなり橋開通式(2011.11.4)

 

構造物はいずれ更新される。そのときに、どういう選択がされるか。時代の変化・要請や価値観というものが大きな要素になる。全く違う形になることも当然あるだろう。そういうことで考えると、残そうとした私の行為はどう説明できるのかと…。わがまま?。そういう批判もあるかもしれない。幸い、元の形が残せるならばその方がいいと言ってくれた地元住民や市民がいた。やってよかったと思える拠り所はそこだと思っている。

もう一つうれしかったこと。それは、土木事務所の道路係長から届いた次のメールである。

「昨日床材が張られたので、靴を脱いで裸足で床材の感触を確かめましたが、太陽で程よく温もりのある材料の感じは是まで「土木」でつくってきたものとは違質でした。一言で言うと「親近感」を感じるものです。…この場をお借りして、感謝の意をお伝えできればと思います。お天気にも恵まれ、新たな開通を迎えられそうですね。是非、初日は靴を脱いで歩いていただくことをおすすめします。」

説明しながら「説得力ないなあ」と思っていた事柄が、ものができて相手に実感として伝わった。腑に落ちないけれども「木の持つぬくもり」を気にかけてくれていたんだなあと思い、今も胸が熱くなる。もちろん、私と橋本さんは開通の日、靴下脱いで裸足で歩いた。

 

東山ふれあい橋(東山の水辺)

二つ目の木の橋は、東山の水辺に設置した人道橋である。これは河川管理橋としての位置づけで設置した。東山の水辺の下流端に位置する。この橋から上流は通常の川幅よりも3倍広く確保されている(写真4)。

 

写真4 東山ふれあい橋(木製ポニートラス)。上流から下流方向。

 

この橋は東山の水辺のメイン動線に位置する。隣接する道路や管理用通路とのレベル差をできるだけ小さくして橋を渡るときのアップダウンを小さくする、隣接する道路が幅5~6m程度と狭く橋長15mの桁橋を搬入することは困難といったことなどから床厚を薄くできるトラス橋を選択した。

 

写真5 ふれあい橋模型検討

 

森に接する水辺広場であることや搬入や組み立てがしやすい材料(軽量)といった条件を考慮して木製(集成材)トラスを選択。工場でパーツを製作し現地で組み立てるという方針から、和船の竜骨構造をモデルに構造を検討した(図6)。

構造検討はアジア航測(株)の竹内さんが担当。1/100模型で大まかな形を決め原寸模型で細かいディティールを検討した。

 

図6 ふれあい橋の構造

 

写真6 東山ふれあい橋(1996.3架設、撮影2006.5)

 

やすらぎ橋(二ツ橋の水辺)

三つ目の木橋は和泉川の最上流に位置する二ツ橋の水辺のやすらぎ橋である。橋の上にベンチを設けて休めるようにしている。座って前方を見たとき、見通しがきくように手すりの配置間隔を広くとっている。

当初、屋根付橋で考えていたが担当部署の了解が得られず屋根なし橋になった。

 

写真7 やすらぎ橋

 

もぐり橋

もう一つ特徴的な橋は、水辺拠点に設置した木製のもぐり橋である。洪水時には水没して対岸に渡れない。四国の四万十川で有名になったが、あのもぐり橋のミニチュア版である。普通、流水阻害となるという理由で設置されることはほとんどない。水辺拠点は河川敷地が広いことから、仮に水位上昇があったとしてもわずかで、越水するような危険性はないと判断。あえて、もぐり橋を設置した。この橋は子どもたちの水遊び拠点になっている(写真8)。

 

写真8 木製もぐり橋(関ヶ原の水辺)

 

眼鏡橋(コンクリートアーチ)

宮沢遊水地では、第1池と第2池をつなぐ場所に眼鏡橋を仮設した。コンクリートアーチではあるが、表面に石を貼り石橋風なデザインとした。遊水地は芝生法面と石積護岸で構成しているので、石積がなじむと考えた。やや硬い構造物になるので、橋の両サイドに植栽帯を設けている(写真9、10)。

 

最初に紹介した子どもたちが描いた橋と対応させるとすれば、「木でつくったじょうぶな橋、板を渡す橋、つりができるようなはし、アーチ型のはし、石のはし」といったことになろうか。

直接的な橋のデザイン参加はないが、子どもたちのメッセージを念頭に置いて橋のデザインに取り組んできたつもりである。橋は人と川の関わりを生み、人と人の交流を生む。

 

写真9 眼鏡橋(宮沢遊水地)

 

写真10 眼鏡橋(宮沢遊水地) 橋の両サイドに植栽帯を設け柔らかい印象に

土木デザインノート

吉村 伸一Shinichi Yoshimura

(株)吉村伸一流域計画室 |EA協会 副会長

資格:
技術士(建設部門:河川、砂防および海岸海洋)

技術士(環境部門:自然環境保全)

特別上級土木技術者[流域・都市](土木学会)

 

略歴:
1948年 北海道生まれ、石狩川流域人

1971年 室蘭工業大学土木工学科卒業

1971年 横浜市役所 勤務

1998年 吉村伸一流域計画室設立、代表取締役

 

主な受賞歴:
2005年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(和泉川/東山の水辺・関ヶ原の水辺)

2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)

2011年 土木学会デザイン賞 優秀賞(いたち川の自然復元と景観デザイン)

2018年 土木学会デザイン賞 優秀賞(伊賀川 川の働きを活かした川づくり)

2021年 復興デザイン会議第3回復興設計賞(川原川・川原川公園)

2022年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(川原川・川原川公園)

 

主な著書:
日本文化の空間学(東信堂、2008、共著)

多自然型川づくりを超えて(学芸出版社、2007、共著)

多自然川づくりポイントブック(日本河川協会、2011、共著)

図説・日本の河川(朝倉書店、2010、共著)

川の百科事典(丸善、2009、共著)

川・人・街-川を活かしたまちづくり(山海堂、2001、共著)

自然環境復元の技術(朝倉書店、1992、共著)

 

組織:
(株)吉村伸一流域計画室

神奈川県横浜市

Email:yoshimura@ys-ryuiki.co.jp

 

業務内容:
・河川の自然復元および景観デザインに関わる研究、計画、設計

・川づくり、まちづくりに関わるコンサルタント業務

・市民参加、合意形成マネジメント

・その他上記に付帯する業務

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