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2015.06.20

09|出雲大社参道 神門通り

小野寺 康((有)小野寺康都市設計事務所|EA協会)

概要:

神門通りは、大正4年、地元の名士・小林徳一郎氏の寄進により堀川のたもとに大鳥居が建てられ、併せて280本の松並木が植栽されて参道の体裁が整った。しかし戦後の自動車の増加によって、歩行者空間は沿道建物と松並木にはさまれた狭小な部位に追いやられ、その結果、鳥居前町としての沿道商店街は衰微し、やがて参詣者の数とまちの賑わいがまるで連携しないという、いびつな状況が最近まで長く続いていた。島根県は、2013年の出雲大社大遷宮(本殿遷座祭)に合わせ、参道景観を石畳で整え、併せて「シェアド・スペース」の概念を導入して車両通行を抑制し、歩行者主体の通りに転換させるという、モビリティ・デザインを実施した。

 

 

 

整備前の神門通り。大正2年に開通し、同4年にコンクリート製大鳥居と松並木が導入されてできた参道だったが、戦後の自動車の普及によって、またたく間に歩行空間が追いやられ、参拝人の姿がほとんど消えてしまった。奥に見えるのが出雲大社入口の木製大鳥居。この二つの鳥居の間が今回の整備範囲である。

 

 

 

整備前の神門通り。一般部(左写真)の歩行空間は、松並木と建物の間の狭小なものだった。出雲大社の木製大鳥居前の直前90mは、勾配8%程度の坂道(右写真)だが、やはり人影は薄かった。大鳥居前は「勢溜(せいだまり)」と呼ばれ、渋滞しがちなその交差点を拡大することになり、自動的にこの坂道部全体も拡幅され、沿道建物は全て建て替わることとなった。

 

 

 

2011年に実施された白線移動実験。車道幅員が7→5mに縮められ、歩行者が松並木の内側を歩き出した。沿道商店がにぎわいの可能性を感じた瞬間である。しかし、歩行者と車両の間隔が近く、安心して歩ける雰囲気ではなかった。これを解決するため、舗装パターンに「にじみ出し」手法を用いることにした。

 

 

 

神門通りの舗装パターン図。車道部は、大判の石材を“参道らしく”縦向きに敷きつつも、走行車両のタイヤの回転を受け止めるために横目地で配置した。また、車道内側に歩道(路肩)舗装をにじみ出させた。これによって、歩車共存ながらプライオリティは歩行者にシフトする。

 

 

 

一般部の整備イメージ図。参道らしい風情の石畳としつつ、「にじみ出し」によって歩行者に主導権を与える空間デザイン。

 

 

 

神門通り全体整備図

 

 

 

整備された神門通り。白線の内側にはみ出て人が歩くことが自然なものとなった。逆にドライバーは、そんな歩行者を警戒しなければならない。車両は、自然とにじみ出し舗装の内側を通ろうとし、すれ違う際にはこれまで以上に歩行者に注意して、走行が抑えめになった。

 

 

 

神門通り坂道部平面図。植栽や階段の配置は、沿道ワークショップによって協議の上決定したものである。互いの建築計画を持ち寄ってもらい、一枚の図面に合成して調整した。
また「勢溜」交差点の横断歩道は、回遊性を狙って内側の線形をカーブさせることに成功した。

 

 

 

坂道部整備模型。8%の勾配のままでは、沿道建物にとっても間口を整えにくい。沿道側に階段とスロープを組み合わせて、道路と沿道建物との連携を図り、同時に歩きやすさを両立させた。スロープとの境界には植栽桝擁壁などを組み込み、座れる場所や溜まり空間を提供するとともに、ストリートファニチュアを集約させた。

 

 

 

完成した坂道部。沿道側は、建物を眺めながらゆっくり歩ける緩やかな段状構成で、参拝を急ぐ人は中央のスロープ部を通る。松葉のような照明柱と手摺りは南雲勝志のデザイン。極限的な細さの鋳鉄照明であり、その光はLEDと思えない柔らかさである。手摺りは全て形の違う三次元造形だ。信号機は景観のために縦配置にした。

 

 

 

完成した坂道部。植栽桝は、動線を考慮してふんわりした雲のような曲面形状とし、側面には地場材の福光石を用い、フットライトも組み込んだ。舗石は全て荒ノミ仕上げとして滑り抵抗(グリップ力)を高めたのだが、思いがけず高級な質感が演出された。

 

 

 

沿道建物のいくつかは、あえてセットバックし、神門通りと雰囲気を合わせて外構を石畳で整備してくれた。こうなると、どこまでが道路でどこから民地なのか判然としない。歩行者は自然と建物に吸い込まれる。そんなセットバック部に椅子やテーブルを出すと、オープンカフェさながらの光景が出来上がる。

 

 

 

所在地:

島根県出雲市

 

竣工年:

第一期工事2013年3月
現在第二期工事中(竣工2016年3月予定)

 

諸元:

【一般部】
幅員12m(うち車道5m)、延長460m
石畳(グレー御影石基調・数種混合、表面小叩き仕上げ・側面割肌、インジェクト工法)
松並木:植栽安定処理+大型グレーチング
鋳鉄製歩道灯(LED照明)
【坂道部】
幅員12~23m(うち車道5m)、延長90m、勾配8%
石畳(グレー御影石基調・数種混合、表面荒ノミ仕上げ・側面割肌、インジェクト工法)
沿道部:階段+平場組み合わせ
植栽桝:御影石笠石、側面/福光石(乾式工法)、フットライト組み込み
鋳鉄製歩道灯(LED照明)

 

受賞:
平成25年全建賞、平成27年度都市景観大賞・都市空間部門優秀賞など

 

関係者:
事業主体|島根県
詳細設計|株式会社バイタルリード(上部工)、株式会社ワールド測量設計(下部工)
設計協力|有限会社小野寺康都市設計事務所、ナグモデザイン事務所

EAプロジェクト100

小野寺 康Yasushi Onodera

(有)小野寺康都市設計事務所|EA協会

資格:
技術士(建設部門)

一級建築士

 

略歴:
1962年 札幌市生まれ

1985年 東京工業大学工学部社会工学科卒業

1987年 東京工業大学大学院社会工学専攻 修士課程修了

1987年 (株)アプル総合計画事務所 勤務

1993年 (株)アプル総合計画事務所 退社

1993年 (有)小野寺康都市設計事務所 設立

 

主な受賞歴:
2001年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)

2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(与野本町駅西口都市広場)

2002年 土木学会デザイン賞 優秀賞(浦安 境川)

2004年 土木学会デザイン賞 優秀賞(桑名 住吉入江)

2008年 グッドデザイン特別賞 日本商工会議所会頭賞(油津 堀川運河)

2009年 建築業協会賞:BCS賞(日向市駅 駅前広場)

2009年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(津和野 本町・祇園丁通り)

2010年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(油津 堀川運河)

 

主な著書:
グラウンドスケープ宣言(丸善、2004、共著)

GS軍団奮闘記 都市の水辺をデザインする(彰国社、2005、共著)

GS軍団奮闘記 ものをつくり、まちをつくる(技報堂出版、2007、共著)

GS軍団総力戦 新・日向市駅(彰国社、2009、共著)

 

組織:
(有)小野寺康都市設計事務所

取締役代表 小野寺 康

〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-8-10

キャッスルウェルビル9F

TEL:03-5216-3603

FAX:03-5216-3602

HP:http://www.onodera.co.jp/

 

業務内容:
・都市デザインならびに景観設計に関する調査・研究・計画立案・設計・監理

・地域ならびに都市計画に関する調査・研究・計画立案

・土木施設一般の計画・設計および監理

・建築一般の計画・設計および監理

・公園遊具・路上施設などの企画デザイン

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