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2015.04.14

05|南魚沼市図書館「えきまえ図書館 本の杜」

南雲 勝志(ナグモデザイン事務所|EA協会)

概要:

地方都市に於ける駅前の衰退は著しいものがある。このプロジェクトは図書館建設を通じ、地域の資産、素材を生かしながら駅周辺、さらに市全体の活性化に繋げようとする試みである。
南魚沼市は合併後要望の多かった図書館を、利便性を活かし六日町駅前のショッピングセンター「ララ」内に設置する事を決定した。全体面積の1/3を図書館にコンバージョン、以前からのテナントである食品を中心とした店舗、医院との複合施設とすることで、文化、医療、食という日常生活と一体となった地域施設として再構築した。結果的に駅前の立地を最大限に活かした図書館という枠に収まらない、新たな地域コミュニケーションの場として蘇った。

 

 

 

【ショッピングセンター「ララ」(上)とコンバージョンした後の南魚沼市図書館(下)】

駅から30秒という地の利。背景には「天地人」の舞台にもなった坂戸山。その背後には八海山を望む。建築躯体はそのまま利用し、内外装を一新した。ただし用途変更に伴い強度の向上、老朽化に伴い設備機器は一新した。

 

 

 

 

【周辺関係図】
六日町駅東には国道17号線が走り、駅前通りを挟み南魚沼市庁舎も直近にある。また西側に高校が2校あり通勤通学としての利用者は多い。駅前商店街始め駅周辺の商業の活性化も含め、駅前をもう一度市の中心部としての機能を持たせることが同時に大きな目標であった。

 

 

 

 

【外壁杉ルーバー】
図書館の整備にあたり、昭和30年代までこの地で多く使われ、長い間人々に親しまれて来た杉材を多用した。それは、懐かしく記憶に残る素朴な素材である。内外装の主要なエレメントに越後杉を丁寧に使用、気負わず、のびのびとした空間をデザインした。外壁は優しさと知的イメージの表現としてダークグレーの杉ルーバーで覆った。耐久、防腐のために木材ワーキングを設置、今までにない新たな仕様が生まれた。

 

 

 

 

【共用部廊下】
左側壁面の内側が図書館。正面突き当たりが食品スーパー、そして右手が医院である。壁面の杉ルーバーには市内の行政区すべての集落名を表記した。また閉架書庫の入り口には旧農協倉庫の鉄扉の再利用など、地域の記憶を組み込み、親しみを持たせた。

 

 

 

 

【閲覧スペース】
ゆったりと館内を移動出来るよう平面は曲線で構成、緩やかに流れるような導線を確保した。中心部に溜まり空間としての大きな閲覧スペースをつくり、思い思いの使い方が出来るよう様々な家具を用意した。そこでは子供からお年寄りまで書架の間を気持ち良く散策し、楽しみ、興奮しながら、時間を自由に共有出来る。そして自然の本や情報に知識を得、人と人の交流や出会いを通し、創造力の生まれる場となっていく。

 

 

 

 

【開架書架スペース】
柱の配置と無関係に空間が一体的に繋がるよう、書架書庫もすべてアール形状とした。また全体をひとつの空間として把握出来るよう、書架の高さは1.5mに抑えている。同時に本の取りやすさも配慮したモデュールとした。地域らしさの表現として地域産越後杉を積極的に使用している。

 

 

 

 

【学習コーナー】
放課後は高校生の格好の場所となる。子供コーナー、ギャラリーコーナー、情報・休息コーナーなど目的に応じた変化のある場をつくり、利用者が自由に使いこなせるフレキシビリティを持たせた。しかしながら全体としてひとつの空間になるよう極力仕切りをつくらない空間にした。互いに他の利用者を思いやり使用する気持ちが生まれることを期待した。

 

 

 

 

【子供スペース】
唯一緩やかなパーテーションに囲まれた児童コーナー。一目で目の届く書架の構成になっている。木のフローリング部は靴を脱ぎ使用する。寝転んでもOK。冬は円形の炬燵が登場、ほのぼのとした読み聞かせコーナーとなっている。

 

 

 

 

【家具デザイン】
書架、テーブルや椅子、ベンチ等、すべてをオリジナルデザインとすることにした。その地域のアイディンティティを尊重するならば、その地ならではの素材を用い、丹念にデザインする事が重要ではないだろうか。それが記憶に残り未来に繋がり歴史となっていく。単に素材を使えばいいというものではない筈なのだが。

 

 

 

 

【開館後の様子と運営サイドの工夫】
昨年6月に開館、3ヶ月で10万人の利用者が訪れた。また図書館機能だけではない知の情報発信ともいえる様々な動きが生まれ始めている。食、医との複合施設としたことでショッピングカートを押しながら図書館に入るという姿も見られる。さらに閲覧スペースを利用してのセミナー開催、ギャラリースペースでの市内外の情報発信も行われている。最近では市の総合支援学校が運営するカフェが図書館内に3ヶ月間オープンし、多くの利用者で賑わった。まさに地域の資産や風土、気質を表現した、市民の身の丈にあった、親しみと誇りの持てる文化交流空間といえる。

 

 

 

 

地域にとって大切なことはその地域に根ざした市民のための空間である。半年間近く雪に埋もれる厳しい気候風土。周辺は魚野川や坂戸山、背後に連なる越後三山など素晴らしい自然景観が広がる。米作りを始め、農業従事者も多い。立派な施設より老若男女、普段着での心地よさの方がより重要である。我々の役目はそんな地域性をきちんと読み取ったデザインを提供することであった。
最後に初めての自分の出身地の仕事ということもあり、責任に対するプレッシャーと能力の最大限の仕事をしようという心地良いモチベーションの高まりに後押しされながら思い出深い仕事となった。

 

 

 

 

【図書館平面図】
すべての書架やスペースが建築のグリットと無関係に緩やかなアールを描き、緩やかな自然の動線が生まれた。共有通路を挟み下が医院、右側がショッピングセンター。

 

 

 

所在地:

新潟県南魚沼市六日町101番地8

 

竣工年:

2014年6月

 

諸元:

【施設面積】約2500㎡(うち開架閲覧室:約1700㎡、閉架書庫:約240㎡、児童コーナー:約180㎡、多目的室:約100㎡)
【越後杉使用箇所】外壁ルーバー、共用廊下壁面ルーバー、館内天井ルーバー、開架書庫、テーブル、椅子、ベンチ等(総使用量:88.7㎥)

 

受賞:

2014年 グッドデザイン賞

 

関係者:

事業主体|南魚沼市
担当部署|教育委員会 生涯学習課
デザイン、基本設計、家具詳細設計、及びデザイン管理|ナグモデザイン事務所
実施設計、及び現場管理|有限会社 平澤設計

EAプロジェクト100

南雲 勝志Katsushi Nagumo

ナグモデザイン事務所|EA協会

略歴:

1956年 新潟生まれ

1979年 東京造形大学造形学部デザイン学科卒業

 

主な受賞歴:

1995通産省グッドデザイン 家具インテリア部門金賞(project candy)

2003日本デザイン振興会建築施設部門 グッドデザイン賞

(宮崎県日向市に於ける「木の文化のまちづくり」の実践)

土木学会デザイン賞2001 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)

2005日本産業デザイン振興会 新領域部門 グッドデザイン賞

(ふれあい富高小学校特別授業「移動式夢空間」)

土木学会デザイン賞2009 優秀賞(萬代橋改修工事と照明復元)

土木学会デザイン賞2009 最優秀賞(津和野本町・祇園町通り)

土木学会デザイン賞2010 最優秀賞(油津・堀川運河 )

 

主な著書:

デザイン図鑑+ナグモノガタリ(ラトルズ)

都市の水辺をデザインする(彰国社-共著)

ものをつくり、まちをつくる(技報堂-共著)

新・日向市駅 (彰国社-共著)

 

組織:

ナグモデザイン事務所

代表 南雲 勝志

〒151-0072 東京都文渋谷区幡ヶ谷1-10-3-2F

TEL:03-5333-8590

FAX:03-5333-8591

HP:http://www.nagumo-design.com/

 

業務内容:

・景観におけるプロダクトデザイン、設計業務

・まちづくりに関わるコンサルタント業務

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