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2021.09.11
33|東部丘陵線-Linimo-
椛木 洋子((株)エイト日本技術開発|EA協会)
地下鉄東山線と愛知環状鉄道を結ぶ東部丘陵線は、中量軌道輸送システムとして、また愛・地球博の主要なアクセスとして日本初の磁気浮上式リニアモーターカーが採用された。
日本初の交通システム導入にあたっては、線形計画などに必要な「建設規程」およびインフラ設計に必要な「設計要領」を新規に作成。さらに2005年3月の愛・地球博の開幕に合わせるため、設計、施工、試運転期間を含め5年半で完成した。
私が路線計画から詳細設計まで手掛けた新交通システムとしては、20歳代の「横浜シーサイドライン」、30歳代の「ガイドウェイバスゆとりーとライン」に次いで3路線目である。偶然、約10年おきに担うことになったが、前2作でできなかったことを、ここでやっと実現できたと思っている。
デザインコンセプト「人と文化を結ぶ丘の風<陵風ライナー>」のもと、様々な構造形式および材料から構成される駅舎と高架橋に、統一感と連続性を持たせることを重視した。具体的には、下記の2点である。
・駅舎は、地下部のRCボックス構造、RC高架ラーメン橋および鋼ラーメン橋など、異なる形式・材料であっても統一的な門型ラーメン改良案の採用
・軌道高架橋の主桁および橋脚の梁・柱に1:0.3のテーパーを設け、ソリッドな断面を採用。すべての駅と、高架橋に共通の構造、形状を実現、デザインのトータリティの確保
基本設計で最初に着手したことは、概略設計時に計画されていた一般的な鉄道橋に見られる開床式(床版がない)橋梁を道路橋のような床版を有する橋梁に変更することであった。インフラ本体を直接軌道として利用する場合は、厳しい施工精度が要求されるため、街路上に建設される複雑な線形のインフラには、なじまない。床がない構造はシンプルで一見よさそうに思えるが、軌道の運行には様々な付帯工が必要なので、結果として醜い外観になりやすい。
並行して平面街路と高架橋の線形の微調整と交差点における橋脚配置、さらに大型地下埋設物のかわし方などに知恵を絞り、全体として等質性のある高架橋を実現できたと考えている。
個別の高架橋の形の洗練は小野寺康さんに、駅舎は武田光史さんにお任せした。
図-1 路線全体図
地下鉄東山線藤が丘駅と愛知環状鉄道八草駅を結ぶ延長9.1km、9駅からなる路線である。名古屋市区間(藤が丘駅とシールドトンネル0.6km)をのぞく、愛知県担当区間すべての基本設計と
起点側の1.4km区間およびはなみずき通駅の詳細設計を担当した。
図-2 開床式から閉床式へ
軌道の平面、縦断および横断線形に合わせ現場で桁をつくることは難しく、工場製品が基本となり、形状が制約される。また、ケーブル類や避難通路などの付帯工が設置され煩雑な外観となってしまう。閉床式として、路面排水を確実に処理し、安全な避難路を確保することは、都市内高架橋として当然のことである。
図-3 図書館通り高架橋断面図
2車線道路の車道下に大型の埋設物があるため、橋脚基礎を設置するスペースが制約された。鋼製の細い柱を歩車道境界に設け、2方向立体ラーメン構造とすることで、街路への圧迫感を軽減した。単柱のRC橋脚から鋼製門型ラーメンおよび主桁にも1:0.3のテーパーを適用し、統一感を図った。
図-4 図書館通り高架橋
ラーメン橋脚の横梁を主桁と一体化することで、重ね梁や支承のないシンプルな高架橋となり、圧迫感のないすっきりした街路空間を実現できた。高架橋の連続性および等質性が感じられる。
図-5 図書館通りからグリーンロードへの曲線区間
直線から曲線への移行区間でも同じルールが適用され、連続性が保たれている。1:0.3のテーパーが効果的である。
図-6 グリーンロード上の標準的な高架橋断面図
延長の長い高架橋を計画する際に、本線の線形と下の街路の線形を重ね合わせ、橋脚が設けられる位置を見定め、あらかじめ決めた標準構造の適用範囲を広げる努力をする。難しい場合は、標準から外れる場合の橋脚形状の変更ルールをあらかじめ定めておく、あるいは街路の平面線形や中央帯、植樹帯の幅を微調整していただくなど粘り強く関係機関と交渉することも必要である。
図-7 グリーンロード上の標準的高架橋
図-8 PC桁と鋼桁の掛け違い
支間長30m程度まではPC桁とし、交差点上など支間長が長くなる場合は、鋼桁としている。断面を1:0.3のテーパーでそろえるとともに、桁高のすり付けを行っている。橋脚形状にも統一感も持たせている。
図-9 標準部から単路部への移行区間
複線の断面から、駅舎に向かって単路の断面に変化する区間でも、橋脚に統一感を持たせた形状としている。主桁は、軌道系のインフラに特有の条件である駅前後での単路への分岐を前提とした断面として基本設計段階で計画している。
図-10 駅舎断面図
駅舎は、地表部のRCボックス構造、RC高架ラーメン橋および鋼ラーメン橋など、異なる形式・材料であるが、駅本体のラーメン構造と屋根の支持部材の一体感を強調した門型ラーメン改良案とし、統一感をもたせた。外気の流れを意識したデザインに、武田光史さんらしさがあらわれている。
図-11 はなみずき通り駅
軌道が地下区間を抜けて地表に現れる箇所に設けられた駅舎。ホームは地表、コンコースは地下に位置している。駅前広場とアプローチ高架橋の桁下処理にも注目してほしい。駅舎の起点側には、運行するリニモを上から見ることができるスペースが設けられている。
図-12 長久手古戦場駅
グリーンロードの街路中央分離帯上に設けられた標準的なラケット式の鋼ラーメンの駅舎である。地下鉄と違って、ホームは外気の影響を受ける空間であるが、夏の暑さ対策として外気を、冬の寒さには太陽光を、と自然を積極的に呼び込むことを意識している。
所在地:
愛知県名古屋市から豊田市
竣工年:
2005年3月
諸元:
延長:9.1km(営業キロ:8.9km)
主要施設:
1.駅舎(9駅)
RCボックス(地下部) 2駅
RCラーメン高架橋 4駅
鋼ラーメン箱桁 3駅
2.高架橋(7.7km)
多径間連続PC中空床版 18連
単純鋼箱桁 1連
多径間連続鋼箱桁 20連
多径間連続鋼ラーメン箱桁 2連
3.地下部(1.4km)
U型擁壁 69m
開削ボックス 254m
シールド部 1,011m
受賞:
土木学会デザイン賞2020最優秀賞
事業費:
インフラ部 約650億円
関係者:
事業主体|愛知県(シールドの一部は名古屋市)
詳細設計|アジア航測株式会社(他5社)
設計協力|小野寺康都市設計事務所、武田光史建築事務所
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椛木 洋子Youko Kabaki
(株)エイト日本技術開発|EA協会
資格:
技術士(総合技術監理部門、建設部門)
特別上級土木技術者(設計)
略歴:
1955年 北海道生まれ
1977年 北見工業大学工学部土木工学科卒業
2007年 日本技術開発(株)入社
2009年 (株)エイト日本技術開発(社名変更)勤務
主な受賞歴:
2002年 土木学会デザイン賞 優秀賞(銀山御幸橋)
2014年 土木学会田中賞 作品賞(太田川大橋)
主な著書:
新しい合成構造と橋(共著)
組織:
(株)エイト日本技術開発
代表取締役社長 小谷 裕司
代表取締役専務執行役員 古川 保和
本社 〒164-8601東京都中野区本町5-33-11
TEL: 03-5341-5111
FAX:03-5385-8500
HP:http://www.ejec.ej-hds.co.jp/
業務内容:
・建設コンサルタント(河川、砂防及び海岸・海洋/港湾及び空港/道路/鉄道/上下水道及び工業用水道/下水道/農業土木/森林土木/水産土木/廃棄物/造園/都市計画及び地方計画/地質/土質及び基礎/鋼構造及びコンクリート/トンネル/施工計画、施工設備及び積算/建設環境/電気電子
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