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2015.05.07

06|出島表門橋

渡邉 竜一(株式会社ネイ&パートナーズジャパン|EA協会)

概要:

2016年秋の架橋を目指して現在進行中の長崎市にある国指定史跡「出島和蘭(オランダ)商館跡」にかかる出島表門橋の経過報告である。
出島は明治期の中島川変流工事によって扇型の一部を削られ、表門の前の中島川の川幅は30mへと広がった。当時出島と江戸町をつないでいた出島橋は橋長4.5mの橋であり、2016年の段階では石橋のそのものの復元は叶わないが、発掘調査を元に特定された昔の橋の位置に、新しい現代の橋を架橋することとしている。昔の人々と同じように、橋を渡って表門から出島に入り、海に浮かんでいた江戸時代の出島に思いを馳せてもらうことを意図している。日本初の鉄、コンクリート、石の橋はすべて長崎から始まっている。また歴史的な価値のある橋はどれも当時の最先端の技術を結集してできている。復元を望む声にも耳を傾けつつ、新しい文化を常に生み出してきた長崎の歴史に習って、ここにしかない現代の橋を実現したい。長崎から日本の新しい橋の文化が開花してほしいものである。本プロジェクトは、出島表門橋の架橋と表門と対岸の江戸町側の中島川公園整備の2つで構成される。今回は表門橋について紹介することとする。

 

 


 

全体像。出島表門の正面に橋が架かり、対岸の江戸町および公園が出島とつながる。

 

 
 

 

河川内に橋脚を立てないこと、出島への眺望を遮らないこと(上部に構造物を出さない)、国指定史跡の出島では反力を取れないという条件の下、死荷重時に片持ち、活荷重時に二径間連続桁へと変化する構造システムを考案した。江戸町側の橋台をカウンターウェイトに利用しながら、やじろべいのようにバランスする構造である。

 

 

 

 

長崎の都市軸(長崎街道)を意識した舗装の連続性、建物のスケールを尊重し、桁に開口を設けつつ、補剛材としての機能をもつ水平方向のフィンによって橋のスケールを細かく分割している。また、既存歴史建造物との調和を考え、銀鼠色の粒子的な光沢感をもった塗装を考えている。

 

 

 

 

補剛材と開口の様子。素材はスチールを採用、日本の造船技術も取り入れたほかのどこにもない印象的な橋となるだろう。

 

 

 

 
キャノピー越しにみた夜景。
2015年4月現在、表門橋は詳細設計終了段階であるが、定期的に住民説明会、シンポジウムを開催したり、地域のデザイナー、メディア関係者などと交流を深めていたりする。現代の新しいデザインがただできあがるのではなく、地域に深く根付いていってもらうため、長崎に通う日々が続いている。EA協会のメンバーでもあるEAU崎谷さんたちとともに、橋以外にも鋼板を使ったユニークな形状のキャノピー、公園整備、サイン計画、コミュニケーション企画など様々なレベルでの提案を行っている。これらの詳細についてはまた次回以降に。

 

 

 

所在地:

長崎県長崎市

 

竣工年:

詳細設計段階(2015年4月現在)

 

諸元:

2径間鋼連続鈑桁橋,橋長38.5m,メインスパン33.3m

 

関係者:

事業主体|長崎市
橋梁設計|(株)ネイ&パートナーズジャパン、(株)オリエンタルコンサルタンツ
監修|出島表門橋及び周辺整備デザイン検討会議
 篠原 修(東京大学名誉教授)[座長]
 西 和夫(神奈川大学名誉教授・故人)
 林 一馬(長崎総合科学大学教授)
 下川 達彌(活水女子大学 教授)
 高尾 忠志(長崎市景観専門監)
 長崎市(池田建設局長、池田文化観光部長)
 長崎県河川課長

EAプロジェクト100

渡邉 竜一Ryuichi Watanabe

株式会社ネイ&パートナーズジャパン|EA協会

略歴:

1976年 山梨生まれ

1999年 東北大学工学部建築学科 卒業

2001年 東北大学大学院工学研究科都市建築学専攻 修士課程修了

2001-2008年 株式会社ステュディオ・ハン・デザイン 勤務

2009-2012年 Ney & Partners(ベルギー) 勤務

2012年 株式会社 ネイ&パートナーズ ジャパン 設立

 

組織:

(株) ネイ&パートナーズ ジャパン

代表取締役 渡邉 竜一

代表取締役 ローラン ネイ

〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-15-5 シルバラードNo4 401

TEL:03-6677-3781

FAX:03-3713-5679

 

業務内容:

・建築及び土木構造物の企画、コンセプトワーク、構造デザイン

・土木構造設計並びに建設コンサルティング

・インテリア、ランドスケープ、展示会場などに関する企画、デザイン

・プロダクト・家具などのデザイン

・その他上記に付帯する業務

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