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2015.01.27

01|太田川大橋

安仁屋 宗太((株)イー・エー・ユー|EA協会)

概要:

水の都ひろしま。その西側を流れる太田川放水路の河口付近、瀬戸内の島々をのぞむ場所に新設された橋である。国際コンペにて選定されたそのデザインの特徴の一つは、島なみの風景と調和するやわらかい2連アーチである。中でも世界遺産・厳島に連なるアーチを架けることで、厳島をいっそう引き立たせ、地域の人々にとっての「故郷の風景」をつくれないかと考えた。もう一つの大きな特徴が歩道である。本橋から分離することで、渡りやすい勾配(2.5%以下)を実現。さらに、本橋桁下をくぐって海側に抜ける平面線形や、眺めの良い橋詰や中間部に設けた滞留スペースなどにより、利用者が眺めを楽しみながらゆったりと渡れる歩行空間を目指した。

 

 

上流側の庚午橋(こうごばし)からの眺め。2つのアーチは奥に見える厳島と連なり、こちらの歩みとともにその見えがかりの変化を楽しめる。橋梁の全体シルエットについては、周りの島なみや山なみと調和するよう、小振りでアーチライズ(1/8)を低く抑えた柔らかな形状の2連アーチとした。

 

 

 

 

右岸下流からの眺め。本橋は右岸にて堤防道路をオーバーパスする必要があるが,歩道橋を途中で分離し両側の堤防を直接結ぶことで,2.5%以下のゆるい勾配とした。平面配置については,瀬戸内の眺めを確保するため基本的に下流側配置としたが,右岸側については住宅地のある上流側に接続させた。

 

 

 

 

本橋および歩道橋の平面図および立面図。本橋は、鋼製のアーチリブとプレストレストコンクリートの主桁との複合構造である。この組み合わせにより、アーチを連続構造とすることが可能となり、伸縮装置を省くことで、柱頭部にてすっきりとしたおさまりとしている。

 

 

 

 

本橋の下をくぐる歩道。明るく快適な桁下空間となるよう、本橋の床版に楕円形の開口を設けた。歩道を支える吊ケーブルについても,4.5mピッチの千鳥配置としてできるだけ開放感を持たせた。なお、排水側溝を含む舗装両端には経年で汚れにくい自然石を並べ、端部を引き締めることで空間の質を効果的に高めることをねらった。

 

 

 

 

桁下を抜けた所に設置したテラスでは、ベンチやスツールに腰掛けて眺めを楽しむことができる。利用者が直接触れる座面には,地場産材でほのかに赤くやわらかい表情を持つ議院石を用いた。転落防止柵は縦桟が連続するシンプルなデザインとしたが、同じく人の手に触れるトップレールには手触りの良い鋳鉄を用いた。

 

 

 

 

本線に沿って緩やかにのぼる区間では,支持部材(吊りブラケット)の角度を徐々に変化させて対応している。それによって生じるねじれが歩行者に圧迫感を与えないよう,適切な支持ピッチや部材寸法を検討した。また、本橋の地覆形状および投棄物防止柵などの付属物についてもシンプルなデザインとした。

 

 

 

 

歩道上からの眺め。ブレースドリブによるアーチ主構は,眺める位置や時間帯によって様々な表情を生み出すように,箱型の上下弦材と角型の斜材を組み合わせた逆台形断面とした。アーチ基部のフィンバックは、反転した曲線でアーチの流れをやわらかく受けつつ,渡る人への圧迫感の少ない高さを設定した。

 

 

 

 

左岸下流の堤防からの眺め。まわりの景色を眺められる左岸には,人がゆったり座ってくつろげる橋詰広場を検討したが,軟弱な地盤と非常にタイトな施工スケジュールの影響から,スペースの縮小を余儀なくされた。また、現場レベルでの関与が十分にできず,製品選定や仕様が提案通りにならなかったのも非常に残念である。

 

 

 

 

コンペ提案時のイメージパース。2009年に広島市が実施した国際コンペ(選考委員長:篠原修東京大学名誉教授)は、橋梁としては国内2例目。応募数は国内13者および海外2者で、選考段階において、各応募案パネルの公開展示や市民への公開プレゼンテーションが開催された。

 

 

 

 

実施設計段階で製作した縮尺1/50の模型と検討メンバー。周辺を含めた全体模型からディテール検討に必要な部分模型まで、適宜必要な縮尺(1/300〜1/1)の模型を作りながら検討を進めた。またコンペ時より、それぞれ異なる専門分野をもち、かつ幅広い年代のメンバーが集まることで、より多様な視点からデザインの議論を重ねた。

 

 

 

 

右岸陸上部にて本橋と接続する西部高架橋・ランプ橋についても,一連の橋梁としてデザインした。両者ともに曲面を用いたやわらかい主桁形状とし,張り出し床版から壁高欄までの桁外側形状を統一して,視覚的な連続性をもたせた。なお、さらなる西側への延伸の際にも採用されるよう、標準的な構造形式・スパン割りとした。

 

 

 

 

夕暮れの空に向かう2つのアーチ。時間帯や天気によってさまざまな表情を見せる。地域に暮らす人々の日常を支えながら、彼らにとっての「故郷の風景」として残ってもらいたい。

 

 

 

 

所在地:

広島県広島市

 

竣工年:

2014年3月

 

諸元:

【渡河橋】

鋼・コンクリート複合6径間連続アーチ橋,橋長412.0m,アーチスパン116.0m

【歩道橋】

PC床版橋,橋長350m,標準有効幅員3.0m

【西部高架橋】

PC3径間連続箱桁橋,橋長120m×4橋(上下線各2橋)

【ランプ橋】

PC2径間連続箱桁橋,橋長80m×2橋(ONランプ、OFFランプ各1橋)

 

事業費:

約120億円(歩道橋、西部高架橋、ランプ橋を含む)

 

関係者:

事業主体|広島市

詳細設計|(株)エイト日本技術開発

設計協力|二井昭佳(国士舘大学)、イー・エー・ユー、空間工学研究所

監修|篠原修(デザイン提案設計競技選考委員長)

EAプロジェクト100

安仁屋 宗太Sota Aniya

(株)イー・エー・ユー|EA協会

略歴:

1980年 沖縄生まれ

2003年 東京大学工学部土木工学科卒業

2005年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 修士課程修了

2005年 有限会社イー・エー・ユー 勤務 (2015年より株式会社イー・エー・ユー)

 

主な受賞歴:

2010年 グッドデザイン賞 (長崎中央橋)

2013年 土木学会デザイン賞 奨励賞(旧佐渡鉱山 北沢地区工作工場群跡地広場および大間地区大間港広場)

2013年 土木学会田中賞(各務原大橋)

2014年 土木学会田中賞(太田川大橋)

2015年 土木学会デザイン賞 優秀賞(各務原大橋)

2016年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(太田川大橋)

2019年 都市景観大賞特別賞(山中湖村平野 ゆいの広場ひらり)

 

組織:

(株)イー・エー・ユー

代表取締役 崎谷 浩一郎

〒113-0033 東京都文京区本郷2-35-10本郷瀬川ビル1F

TEL:03-5684-3544

FAX:03-5684-3607

HP:http://www.eau-a.co.jp/

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