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2015.03.02

03|秋田駅西口バスターミナル

菅原 香織(秋田公立美術大学 美術教育センター|EA協会)

概要:

秋田駅西口バスターミナルを、日本三大美林の一つに数えられ、全国一の蓄積量を誇る秋田県の財産「秋田杉」をふんだんに使った機能的で美観も兼ね備えたバスターミナルに生まれ変わらせることで、県都秋田市の玄関口にふさわしい「県内外のお客様をお出迎えする空間」を提供することを目指した。また、公共空間における木材利用の先進事例として、秋田駅前周辺および秋田県の景観デザインの手本にしたいと考えた。

 

 

 

秋田駅西口バスターミナルはJR秋田駅西口交通広場にある。事業主体である秋田中央交通は、平成18年に路線移管に伴い秋田市交通局から3バースを譲渡され、計4バースを所有するかたちとなった。土地は秋田市とJR東日本秋田支社から借用している。平日1日あたりの平均乗降者数は6453人。

 

 

 

整備前のバスシェルター(修景前)

 

整備前のバスシェルター(修景後)

 

秋田市では秋田杉を活かした街並みづくりの一環として、秋田杉を活用した都市イメージの向上を図ることを目的に、平成19年5月、産学官連携により鉄骨造のバスシェルターを秋田杉で修景していた。それを建て替えることになったきっかけは、平成23年3月11日の東日本大震災後に実施した耐震性調査の結果、 柱の土台部分に腐食がみられ補強が必要との診断結果が出たことである。築30年が経過し躯体も屋根も老朽化が進行していることもあり、一時しのぎの補強ではなく建替えることになった。

 
 
 

 

歩道は点字ブロックを敷設すると共に、幅員を120cm確保して車椅子通行を可能にしている。背面は乗降客の乗り場間の横断抑止のため全面を縦格子で壁面化し、目線の高さにスリットを設けることで乗客とドライバー相互の視認性を確保した。

 
 
 

 

デザインコンセプトはシンプルながらも優しくしかもインパクトのある「秋田杉のお出迎え空間」。杉、鉄、ガラスといずれも本物の材料を使用し、時間とともに味わいの増す素材で構成するとともに、柱や梁、垂木、壁面格子を連続させることで印象的な形態とした。

 
 
 

 

風雨雪対策として各バースに一カ所、背面および前面をガラスで塞いだ風除室を設けた。ベンチは30cm角の大断面の秋田杉を使用しており、暖かで柔らかい杉の質感を味わえる。ベンチのない壁には曲面を設け、寄りかかると優しく背中を支えてくれるようにしている。

 
 
 

 

シェルター内の照明には90cm間隔で省電力のクリヤー電球型LEDを使用することで、長寿命化と照度確保を実現。連続する裸電球が、夜の駅前全体に懐かしく暖かい雰囲気を醸し出している。

 
 
 

 

極力軽快なイメージにするため、柱脚、梁、桁、ジョイント部に金属による補強を行い、秋田杉には耐久性、安全性の向上と同時に、美しさを損なわない保護材の加圧注入処理(モックル処理)を施している。バス停サインと広告スペースは出来るだけシェルターと一体となったデザインとし、全体がスッキリ見える工夫をしている。

 
 
 

 

バース全体に設置した4基のLED街路灯は強度を確保するため、柱の中心部には鋼管を使用している。外周は秋田杉で覆いバスシェルターに調和するデザインとした。

 

 

 

所在地:

秋田県秋田市

 

竣工年:

2013年10月

 

諸元:

施設用途:バス待合所

用途地域:都市計画区域内 市街化区域 通路は道路占有地

防火地域:準防火地域

階数:平屋建て4棟

構造:木造(門型構造)

小屋組方式:木造軸組構造

最大スパン:1.82m

木材使用量:秋田杉98 m3(軒天以外はモックル処理材)

敷地面積:6112.55m²

建築面積:277.83m²

延べ床面積:277.83m²

最高高さ:4.25m

最高軒高:4.10m

屋根 ガルバリウム鋼板

案内所外壁:スギ本実羽目板縦貼り t=15mm

案内所開口部:スチールサッシ(リン酸亜鉛処理)

道路照明灯:LED照明(山田照明)秋田杉張付鋼管ポール(ヨシモトポール)4灯

 

受賞:

GOOD DESUGN AWARD 2014 グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)

 

事業費:

約1.8億円

 

関係者:

事業主体|秋田中央交通株式会社

ディレクター|菅原香織(秋田公立美術大学)

デザイナー|南雲勝志(ナグモデザイン事務所)

デザインマネジメント|小野寺康(小野寺康都市設計事務所)

実施設計|渡邉篤志(WAO渡邉篤志建築設計事務所)

設計監理|堀井圭亮(間建築研究所)

施工|中田建設株式会社

EAプロジェクト100

菅原 香織Kaori Sugawara

秋田公立美術大学 美術教育センター|EA協会

略歴:

1962年 栃木生まれ

1985年 多摩美術大学 美術学部 デザイン科 立体デザイン専攻 卒業

1989年 秋田市立美術工芸専門学校 専門課程 インテリア科 講師

1995年 秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 助手

2007年 秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 助教

2013年 秋田公立美術大学 景観デザイン専攻 助教

2017年 秋田公立美術大学 美術学部美術学科 准教授

2022年 秋田公立美術大学 美術教育センター 准教授

 

主な受賞歴:

2002年 グッドデザイン賞 (高齢者向け川連漆器 たなごころシリーズ)

 

主な著書:

プロダクトデザインの思想Vol.1(共著)PDの思想委員会編/ラトルズ社発行

 

組織:

秋田公立美術大学

〒010-1632 秋田県秋田市新屋大川町12−3

TEL:018-888-8120

FAX:018-888-8109

HP:http://www.akibi.ac.jp/aua/professor-data/29.html

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