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2024.09.23

40|高蔵寺駅南口駅前広場

大野 暁彦(株式会社エスエフジー・ランドスケープアーキテクツ/名古屋市立大学大学院芸術工学研究科|EA協会)

高蔵寺駅は、JR中央本線及び愛知環状鉄道が乗り入れる高蔵寺ニュータウン及び周辺地区の玄関口である。平成28 年3月策定の高蔵寺リ・ニュータウン計画において「高蔵寺ゲートウェイの整備」として、交通結節機能の改善や都市機能の誘導などを図る都市交流拠点として位置付けられ、利便性だけでなく、交流・滞留機能の向上を掲げられている。高蔵寺駅南口駅前広場ならびに地下道改修はそのパイロットプロジェクトであり、高蔵寺ニュータウン及び周辺地区の玄関口の駅前として「おかえりなさい」の空間整備を図ることをコンセプトに、木質材料とみどりに囲われた明るく暖かみのあるアットホームな空間を創出している。

 

 

 

 

 

交通計画の見直しや施設の抜本的な撤去や新設はしておらず、既存広場線形や躯体形状をうまく活かしながら一体的かつイメージを刷新すべくデザインを展開している。特に地下道と広場の結節点においては日射を透明な屋根とルーバー天井により取り込み、駅に降り立った際のイメージを大きく変えることができたように思う。

 

 

 

 

従前の地下道と広場の結節点は、一部を除いて天井面のほとんどが屋根材で覆われており、暗い印象であったため、天井全面で光が取り込めるようにしている。また勾配の異なるスロープが並列して設置され間口が狭くみえていたが、間口いっぱいをスロープ勾配に統一することでまちに対して広く開けるように再構成している。

 

 

 

 

スロープをあがって右手(西)側に進むと右手(北)側に商業施設が並ぶ。改修前は、商業施設と広場のシェルターは接しておらず離れており、高さも地下道に合わせて低いレベルにあったため、広場と商業施設との関係は弱かった。しかし、本整備にあわせて商業施設側も再整備を行なったことで双方の関係は改善された。

 

 

 

 

改修後は店舗と広場の床レベルが同じになっただけでなく、店舗と広場のシェルターが近接したことで、広場から雨に濡れずに店舗が利用できるようになった。シェルターの店舗側は、透明な屋根とアルミルーバーにより光が店舗内部まで入り込むようになり、シェルターで店舗が影とならないよう工夫した。

 

 

 

 

広場の交通計画に大きな変更はなされていないが、従前より一般乗降場が増えた。またシェルターについても西側へ延伸させて広場全体にシェルターが設置されることとなった。地面レベルでの計画においては、結節点となる地下道の出入り口や、まち側との接点になる南側を中心に滞留空間を合計6箇所新たに設置している。

 

 

 

 

特に重要なのはまち側に設置した3箇所の滞留空間である。この滞留空間上のシェルターは屋根の端部とルーバーの端部をそれぞれ揃えずにおさめており、ゆるやかにシェルター内外をつなぐデザインとしている。パーゴラ状のルーバー下では植栽も設置でき、まち側へ柔らかい印象をつくる。

 

 

 

 

シェルターに合わせてベンチが設置され植栽やルーバー状のパーゴラの下で休むことができ、駅側とまち側をつなぐ滞留空間となっている。南側3箇所の滞留空間には、「おかえりなさい」のコンセプトにあわせた、インテリアようなスタンド照明を設置している。

 

 

 

 

魅せる照明としてあえて駅側から遠い南側に設置し、まちからも駅からもアイストップになる「あかり」としている。「おかえりなさい」というコンセプト実現にあたっては、こうした照明による夜間の景観デザインが重要であると考えていた。ベッドタウンであるニュータウンのまちであるからこそ余計に重要性が高いと捉えている。

 

 

 

 

地下道に正対する滞留空間は、板張りの木天井としてリビングのような居心地をつくりだせないか模索した。帰り際に待ち合わせやちょっとしたおしゃべりなど生活空間の一部として使っていただけることを期待している。背後には植栽が囲い、交通広場からはやや距離が保たれていることで比較的落ち着いて過ごせるだろう。

 

 

 

 

広場に植栽されている植物材料はすべて東海産とすることで地域ごとの遺伝的多様性に配慮した計画としている。さらに一部の植物は高蔵寺産にこだわり、タネを近隣の緑地から採取して育苗した苗木も植栽している。また高木はすべて団地内で育った木を移植し、まちのみどりのストックを再活用している。

 

 

 

 

タネから育てた苗木は地元の幼稚園生とともに植栽を実施した。竣工後も大学生を中心としたボランディア組織である「駅広育て部」が毎月清掃や剪定・除草などを実施している。まちに育つ木々をまちで育てていく試みである。

 

 

 

 

木々には樹名サインがとりつけられており、主要な木々については樹種名と産地を記している。サインは折紙のように立体的につくられた台形形状をしているが、これはまちの地名に「台」とつくものが多いことからこのようなデザインとしている。

そのほかの説明は以下を参照していただければ幸いである。

コンセプトブック1:

https://www.city.kasugai.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/024/972/conceptbook1.pdf

コンセプトブック2:

https://www.city.kasugai.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/024/972/conceptbook2.pdf

 

 

 

 

 

所在地:

愛知県春日井市高蔵寺町4丁目100-19、20

竣工年:

2023年3月31日

諸元:

面積:約3,100 m2

シェルター:屋根材/ポリカーボネート折板、天井材/液体ガラス浸透処理桧材、アルミルーバー、アルミパネル

地下道の改修:アルミカットパネル

ファニチャ:低分子フェノール樹脂処理木材

照明:ダウンライト、ライン照明、スタンド照明(アクリル成形パイプ)
駅前広場舗装:インターロッキングブロック舗装、コンクリート舗装洗い出し仕上げ タイル舗装
駅前広場植栽:高蔵寺産(リョウブ、ヤマザクラ、アオダモ、ヤツデ、ムラサキシキブ、 ヒサカキ、ショウジョウバカマ、ナキリスゲ、チカラシバ、センリョウ、イヌ ツゲ、ジャノヒゲ、シシガシラ、ヤブラン) 東海産(アセビ、サカキ、シャシャンボ、モチツツジ、コバノミツバツツ ジ、コバノガマズミ、ヤブコウジ、ベニシダ、ツワブキ、キヅタ、テイカカ ズラ、ミツバアケビ、ビナンカズラなど)

受賞:

日本サインデザイン賞 中部地区デザイン賞

事業費:

470,000,000円

関係者:

事業主体 春日井市

設計者  株式会社イサム設計、株式会社中部テック

設計協力者 株式会社エスエフジーランドスケープアーキテクツ

有限会社DERO

施工者  岐建株式会社、水野土木株式会社

デザイン監修 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 大野暁彦

有限会社DERO 市原正人

EAプロジェクト100

大野 暁彦ONO Akihiko

株式会社エスエフジー・ランドスケープアーキテクツ/名古屋市立大学大学院芸術工学研究科|EA協会

資格:
登録ランドスケープアーキテクツ

 

 

略歴:

1984年 東京生まれ

2007年 千葉大学園芸学部緑地・環境学科卒業

2009年 千葉大学大学院園芸学研究科 博士前期課程修了

2009年 OKRA landscape architects勤務(文化庁新進芸術家派遣制度)

2010年 OKRA landscape architects退職

2014年 千葉大学大学院園芸学研究科 博士後期課程修了

2015年 中央大学理工学部 助教

     エスエフジー設立

2017年 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 講師

2018年 株式会社エスエフジー・ランドスケープアーキテクツ 設立

2021年 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 准教授

 

主な受賞歴:

2016年 第6回松戸市景観表彰 松戸優秀景観賞(リノア新松戸)

2018年 屋上・壁面緑化技術コンクール日本経済新聞社賞(太田市美術館図書館)

2019年 第13回『みどり香るまちづくり」企画コンテスト』

    「日本植木協会賞」(ぶるーむの森)

2020年  2020 LIT LIGHTING DESIGN AWARDS(鍋屋バイテック会社)

2023年 GOOD DESIGN AWARD 2023受賞(妙祐寺)

2023年 第54回日本サインデザイン賞 中部デザイン賞(高蔵寺駅)

 

主な著書:

世界の美しい庭園図鑑(エクスナレッジ、 2016、共著)

日本の美しい庭園図鑑(エクスナレッジ、 2017、共著)

人と世界との間をつなぐインタラクションデザイン(岐阜新聞社、2021、共著)

 

組織:

株式会社エスエフジー・ランドスケープアーキテクツ 代表取締役

名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 准教授

〒502-0833

岐阜県岐阜市松風町1−30

TEL:080-3466-9077

メール:ono@sfg-landscape.jp

 

業務内容:

・都市デザイン・景観設計

・まちづくりに関わるコンサルタント業務

・都市計画・地域計画

・景観に関する研究・著作

・その他(ランドスケープ・庭園デザイン)

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EAプロジェクト100

2024.09.23

40|高蔵寺駅南口駅前広場