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2015.08.18

10|牛久駅東口駅前広場(前半)

二井 昭佳(国士舘大学|EA協会)

概要:

平成20(2008)年、駅の東側に位置するシャトーカミヤが国の重要文化財に指定されるのをきっかけに、牛久駅東口エリアのまちづくりは本格的にスタートした。市民・行政・学識経験者で構成された牛久市歴史を活かしたまちづくり計画検討委員会(委員長:中井祐東京大学大学院教授)が立ち上がり、住民との意見交換会なども踏まえ、東口の全体構想がまとめられた。そのなかで、まず最初に牛久駅東口駅前広場をリニューアルすることが決定され、翌年より検討が始められた。
検討にあたっては、牛久市中央地区都市デザイン会議(委員長:中井祐教授)と、その下にワーキンググループとして市民や設計チームからなる牛久駅利活用ワークショップ(座長:筆者)が設置された。社会実験も実施しながら2年間かけて議論を進め、『市民や来訪者をもてなす緑に囲まれた牛久の玄関口〜市民主体の運営による駅前広場』をコンセプトとする計画が平成23(2011)年にまとめられた。
計画案では、市の外縁部に残る里山の風景をあらわす雑木による緑と、買い物ついでに一休みできるような広場により、電車に乗らない人も立ち寄る場所を目指した空間デザインになっている。また店舗立地を促す広場のしつらえや商業用駐車場の時間外活用といった工夫も行っている。加えて先述のWSメンバーを中心に駅前を盛り上げる市民団体が立ち上がるという嬉しい出来事もあった。その後、計画案の細かい見直しなどにより停滞する時期が続いたが、2016年春の竣工を目指し施工が進められている。ここでは、これまでの経緯に重点を置いて報告する。

 

 

 

平成27(2015)年5月の様子。写真左側の交通ロータリー部分はおおむね完成し、これから写真右奥の広場の施工が始まる。整備前と比べて、明るく開放的な空間が生まれており、地元の評判も上々である。現在、芝生広場の市民施工やレンガ寄付といった施工プロセスでの市民協働を検討している。

 

 

 

茨城県牛久市は、上野から常磐線で約1時間の距離に位置しており、緑豊かな環境を魅力に東京のベッドタウンとして発展してきた。とくに昭和45年からの30年間で、人口は2万人から7万人へと増加した。しかし皮肉なことに、その結果、市の中心部は駐車場が点在する特徴の乏しい風景が広がるまちになってしまった。上の写真は、東口駅前のビル屋上から撮影したもの。遠景には多くの緑がある一方で、駅近傍には駐車場が広がっているのが見てとれる。

 

 

 

国指定重要文化財のシャトーカミヤ旧醸造施設事務室(現:本館)。明治36年竣工。藤森照信氏らを行司とする日本赤煉瓦建築番付では、東の3大関のひとつに挙げられている。
駅から比較的に近いものの、道が複雑であり、行き方がわかりにくいという課題も抱えていた。

 

 

平成20年度 牛久シャトーカミヤ周辺地区歴史的環境整備街路事業調査報告書より抜粋(筆者加筆)

牛久市歴史を活かしたまちづくり計画検討委員会でまとめられた全体構想。21世紀型環境田園文化都市をスローガンに掲げ、牛久市の“心”(中心部)づくりを目指している。具体的には、地形や緑を活かし、谷津田の広がる柏田川(図右上)から、牛久市役所、近隣公園、シャトーカミヤ、ケヤキ通り、そして牛久駅を緑で繋ぎ、歩いて暮らせるまちを実現する計画である。
計画手法の特徴として、都市マスタープランなどでよく用いられる点線や矢印などによる模式的な空間表現ではなく、将来の具体的な空間イメージにより計画を表現していることが挙げられる。

 

 

同上報告書より抜粋(eau西山氏によるスケッチ)

全体計画に盛り込まれた空間イメージの例。空間のあり方や隣接する空間との繋がり、その使い方などを議論した結果が反映されている。これらのスケッチにより、図面だけでは難しい、整備後の空間イメージを広く共有することができた。模型やスケッチによりイメージを共有しながら進める方法は、その後の駅前広場でも用いている。

 

 

 

整備前の駅前広場。基本的に車のための空間。加えて、車道を横切る人が絶えない遠回りの歩行者動線、一般車の渋滞によりバスが定時発着できないロータリー形式といった交通上の課題も抱えていた。また駅前広場に面する民間用地の有効活用もなされていなかった。

 

 

 

牛久駅利活用ワークショップの様子。議論を始めた頃は、交通渋滞のこともあり、歩行者デッキや全面交通ロータリーといった意見も多かった。しかし次第に、まちの玄関口にふさわしい緑に囲まれた駅前にしたい、お茶が飲めたり一息つける場所が必要、といった空間のイメージや使い方に関する意見が多く出されるようになった。また広場の維持管理については、市民による運営を目指すべきだという意見が出され、結果として駅前広場でのイベントなどを企画することを目的とした、市民で構成される「牛久かっぱつ化実行委員会」が立ち上がり、現在も活動を続けられている。

 

 

平成21 年度牛久駅東口駅前広場基本設計時の設計模型(模型作成:eau)

平成21年時点での案。駅広全体に里山の雑木による四季を楽しめる緑を配し、交通ロータリーを北側(写真右奥)にコンパクトにまとめることで、南側(写真手前)には普段もイベント時にも使いやすい歩行者広場のスペースを確保している。この後、広場の計画案は数度変更されるが、基本的な考え方は踏襲されている。

 

 

 

歩行者広場の使い方の社会実験(平成22年1月31日)。牛久かっぱつ化実行委員会と市役所が中心となり、ロータリーを部分的に通行止にし、キッチンカーやフリーマーケットなどによるイベントを実施した。会場では市民WSのメンバーが訪れた市民に計画案の説明をおこなうシーンも見られた(写真右上)。また、当研究室でも駄菓子屋を出店した(写真右下)。なお、こうしたイベントはその後も数回開催されている。

 

 

 

牛久駅東口エリアは、平成21(2009)年から平成23(2011)年まで、GSデザイン会議が学生を対象に毎年開催している設計演習、GROUNDSCAPE DESIGN WORKSHOPの課題対象地になり、毎年、市民の前で発表会が開催された(写真は2010年の様子)。なお、このほかにも、小学校での景観まちづくり学習やまちづくりシンポジウムなど、まちづくりにかかわるイベントが定期的に開催されていた。短期間の間に、デザイン会議、市民ワークショップ、社会実験、小学生のまちづくり学習、シンポジウムなどを次々と実行できた背景には、当時の市の担当者であった吉田氏の活躍が大きかった。

 

 

平成22 年度 牛久市中央地区まちづくり景観マネジメント業務報告書より抜粋

交通ロータリーの見直しを反映したほぼ最終形のプラン。隣接するスーパーマーケットの駐車場を夕方の迎車用スペースとして活用することや、広場と連動した商業店舗が立地しやすいデザインの工夫なども盛り込んでいる。

 

 

 

平成27(2015)年5月におこなわれたシェルターの照明実験の様子。
駅はバスに乗れれば多くの市民がたどり着ける場所であり、だからこそ電車に乗らない人も訪れる場所を目指して取り組んできた。これからもその実現に向けて努力していきたい。

 

 

 

所在地:

茨城県牛久市

 

竣工年:

2016年3月(予定)

 

諸元:

面積|駅前広場7,000m2
延長|駅前通り90m、標準幅員20m

 

関係者:
事業主体|牛久市
計画監理|筑波都市開発、アトリエ74建築都市計画研究所、アトリエT-Plus建築・地域計画工房
設計|eau(駅前広場全体)、アルメックVIP(交通計画)、Kuaa+空間工学研究所+シリウスライティングオフィス(シェルター)、ナグモデザイン事務所(照明柱・ベンチ・ボラードなど)
アドバイザー|中井祐(東京大学)、二井昭佳(国士舘大学)

EAプロジェクト100

二井 昭佳Akiyoshi Nii

国士舘大学|EA協会

資格:

博士(工学)

 

略歴:

1975年 山梨県生まれ

1998年 東京工業大学工学部社会工学科 卒業

2000年 東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻修士課程 修了

2000年 アジア航測㈱ 入社(道路・橋梁部所属)

2004年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻博士課程 入学

2007年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻博士課程 修了

博士(工学)

2007年 国士舘大学理工学部都市ランドスケープ学系専任講師

2012年 スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)guest professor

2013年 国士舘大学理工学部都市ランドスケープ学系准教授

2014年 国士舘大学理工学部まちづくり学系准教授

 

主な受賞歴:

2006年 第8回「まちの活性化・都市デザイン競技」奨励賞

2007年 景観開花。「道の駅」佳作

2009年 広島南道路太田川放水路橋りょうデザイン提案競技(国際コンペティ

ション)最優秀賞

篠原修・内藤廣・二井昭佳編「GS軍団連帯編 まちづくりへのブレイクスルー 水辺を市民の手に」、彰国社、2010

 

組織:

国士舘大学 理工学部

〒154-8515 東京都世田谷区世田谷4-28-1

TEL:03-5481-3252(理工学部事務室)

HP:http://www.kokushikan.ac.jp/faculty/SE/laboratory/detail.html?id=107007

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