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2011.05.01

02|小野寺康のパブリックスペース設計ノート

小野寺 康((有)小野寺康都市設計事務所|EA協会)

第1部 空間を読む、構想する

ここでいう「パブリックスペース」とは、街路・道路や公園・広場あるいは水辺といった、都市のオープンスペースという一般的な意味で用いていることはすでに述べた。これらの空間をデザインする手順として、空間を読み、構想を練るというところから話を始めようと思うのだが、実のところ筆者にとってこれらはさほど順序だったものではない。そのことは後で述べることにして、まずパブリックスペース設計というものの本義というもの確認しておきたい。

まず、設計というからには当然設計対象としての敷地がある。だが、街路や水辺といった都市空間は本来、設計上の敷地範囲とは別に、都市という総体の中でシームレスに連続し機能する要素である。このことが、いわゆる建築や造園といったプライベート空間とは異なる点だ。つまり、パブリックスペースにおいて設計されるその場所は、常に都市との相対的な関係性の中で構想されなければならないというそのことである。

公共事業として、一つの設計対象敷地が規定される。そこまでは建築や造園の敷地と何ら変わるところがない。だが、パブリックスペースは、都市との関係性の中で「その敷地」を考えるというより、その敷地からつねに「その都市」という総体を志向するのが本義である。むろん、優れた建築家やランドスケープ・アーキテクトであれば、プライベート・スペースであっても都市という総体を意識しているものだ。しかしそれは、都市との関係性からその敷地を考え、またデザインされた施設が周辺環境にどう影響するか配慮するということであって、そもそものベクトルが異なる。

パブリックスペースのデザインとは、常に都市という総体の中でそれがどう働くかということを常に思考する社会運動なのである。小さな公園。ささやかな水辺。たとえそうであっても、そこに構築されるデザインは、その都市という有機的な総体に対していかに貢献するかを設計者は考え、その効果を目的として造形を構築することがパブリックスペース設計の眼目といっていい。

だが、実務では公共事業の縦割りからしばしばそのことは無視されがちであり、隣接した公共用地と一体で構想することで大きな可能性が開かれる場合であっても、それが議論されることは少ない。設計者もまた、自分に与えられた範囲内でしか構想しないという傾向を否定できないのが実情である。だが、パブリックスペースの設計者を自認するのであれば、“公共”という概念の意義をもう一度自らに問いただし、複眼的な視野でデザインに取り組むべきことを確認しておきたい。その姿勢にこそ、公共publicという本来の意味がある。

冒頭に話を戻す。
パブリックスペースの設計に先立ち、その場所性という、いってみればその敷地の都市における位置付けや関係性を読み、解析して、空間を構想するというプロセスが必要だ。
空間を読むことと、そして構想すること。

「読む」ということは、その場所性や空間特性について、「気づき」、「評価する」ことだ。やがてそれを言語化する、つまり「語る」ことで、しだいにその場を「読み解く」ことにつながっていく。鑑賞者から観照者へ、そして分析者から造形者へと移行する一連の行為といいかえてもいい。これらは、一般的には、調査・分析、その後の構想、造形という流れとして捉えられる。

だが、設計者としての筆者の経験を振り返ると、そのように整然と段階を経て取り組んできたことはあまりないように思う。むしろ、同時並行でかつ双方向の思考によって、現場に降り立った瞬間から空間構成の組み立てがはじまるというのが実感なのである。

 

1-1 空間構成

まずは敷地を見に行かないことには始まらない。平行して、現在の都市構造と主要産業や特産など、地域特性を調査する。歴史を調べ、古地図と照らし合わせてその都市の生成を探り、「素性」を読み解く。これらは公共施設を設計する際の基本的な手順だ。新たな土地をサーベイするとき必ずそういった手順は踏む。その際の調査の具体的な方法、その後の構想の仕方についてはすでに様々なマニュアルや解説書が出ているのでここでは割愛する。筆者が書かねばならないのは、実際のプロセスのことだ。
空間を読むことと、そこから立ち上るデザインを構想することは、筆者にとってじつは段階を経ずに、同時並行的なことが多いということはすでに述べた。
現場に降り立った瞬間に、ある種のインスピレーションとして映像が降りてくる瞬間がある。設計者には多かれ少なかれそういう経験があるはずだが、筆者の場合、二次元的な図像(シーン)であるときもあれば、もう少し奥行きと時間軸まで伴ったシークェンスであったり、あるいは概念的な空間構造イメージだったりと様々だ。
ただし、仮に現場から何らかのインスピレーションを得たからといって、基礎調査なしにいきなりデザインするかというと、そういうことは決してない。むしろ、そこからサーベイの方向性を見出し、分析の上でコンセプトを鍛えていくということになる。
現場で得られるインスピレーションとは、過去に体験した空間情報のストックの中から、現場の空間的資質の類似性によって刺激され、想起された図像であるだろう。それが分かっているから、すぐさまそれに飛びつくということはない(少なくとも今は)。だが、最初に降りてきたイメージというものは、存外に的を得たものである場合が多く、いろいろスタディを重ねても最終的にまたそこに戻っていくことが少なくないというのも事実である。仲間うちで話をすると、設計者は大概そういう経験を持っている。
だが、パブリックスペースの場合重要なのは、シーンとしての映像の、その表象ではない。重要なのは、その奥にある空間構成structureである。
パブリックスペースがつねに都市という総体を志向するべきものだということはすでに述べたが、ということは周辺地域や都市との感応性こそが重要であり、それは表層というより、やはり空間構成に依拠するものなのである。むしろ表層は、つねにその空間構成を反映するものでありたい。
北九州市門司港におけるウォーターフロントデザイン「門司港レトロ事業」で初めて現地を訪れたときに降りてきたイメージは、ジョナサン・バーネットの『新しい都市デザイン』における「眺望路(ヴィジュアル・コリドー)」の概念図だった。
門司港には、山に囲まれたコンパクトな地勢の中に市街地が展開し関門海峡に開くという骨格があった。街区構成は基本的にはグリッドパターン(格子状)で、湾曲する水際線に応じてグリッドもゆるやかに湾曲していた。その中で、その海に向かって伸びるいくつかの街路を強調して、都市の構成を海へと方向付けしたのが門司港の空間構成である。

 

ニューヨークのヴィジュアル・コリドー概念図(『新しいと都市デザイン』, J.バーネット, 集文社)水面への眺望路を確保すべくスカイラインを整える街並みのデザインコード

 

門司港レトロ地区の空間構成 水際線に直交する「海への軸線」が重視された

 

船溜を中心とする一定のエリアを歩行者主体のゾーンに位置付けて通過交通を排除すると同時に、この「海への軸線」を強調する空間演出がまずあり、都市を構成する街路や広場の、いわゆる表層の石畳や照明、デッキテラス等の造形すべて、この構成を補強する意図でデザインされている。都市が「海へ向いている」というストラクチュアこそが、港町というウォーターフロント・シティの資質なのだ。

 

 

左:「海への軸線」スケッチ完成した「海への軸線」 右:完成した「海への軸線」

 

また、日向市駅前広場では、それまで市街を東西に分断していた鉄道が、連立立体事業によって高架化され、地上部が一体化した中で駅周辺地区に都市の賑わいを集約する中心的核をつくり出すことが求められた。デザインされた空間構成は、クロスする二つの軸線で表現される。鉄道高架と直交する、東西方向の軸線がそれまで分断していた二つの地区を結び合わせ、かつ、鉄道と並行する南北軸の街路(交流通り)が駅前地区のファサードを形成するという構想だ。

東西軸は、煉瓦の「カーペット」が東西の広場を貫通し、それが保存樹である大銀杏に到達することで表現した。対する南北軸は、シマサルスベリの並木と街灯の連続で視軸(ヴィスタ)を与えた。そして、これら二つの軸線の交点にロータリーサークルがあるという構成である。

 

日向市駅周辺コンセプト図

 

 

左:東西軸における煉瓦のカーペット 右:南北軸のヴィスタ

 

駅舎を中心とする日向市駅周辺地区は、この空間構成にすべて連動するようにできている。メインとなる緑のオープンスペース「ひむかの杜」も例外ではない。その緑地広場は、さらにその内部空間において、鉄道高架と交流通りを領域性の一部に援用し、にぎわいを囲い込む空間構成をもつ。街に開きながら柔らかく多層に包み込まれた内部空間こそが「ひむかの杜」の空間構成である。様々なスケールごとに、それぞれの空間構成が相互に連動している。

 

 

左:「ひむかの杜」の空間構成 右:「ひむかの杜」完成写真

 

ちなみに、このオープンスペースをデザインするに当たり、最初は何のイメージも降りてこなかった。そのため、ひたすらにフィールドサーベイを重ね、スタディを繰り返してはやり直し、それでも途中何らイメージが整わずにやたらと苦しいデザインプロセスだったことを白状する。それでも最終的には満足に足る空間が創出できたのは、多くの人々との会話の積み重ねの賜物であり、あふれる地域への想いを伝えてもらったおかげだ。この設計は、筆者自身のデザインのスタイルを一変させてくれた貴重なプロジェクトになった。

 

 

日向市障がい者センター外構部 南北時としての交流通りの並木と照明が延長された

 

今年、この駅前広場に隣接して、「日向市障がい者センター」が建設された。その前庭に、南北軸である交流通りのヴィスタを延伸する形で、同じ煉瓦が敷かれ、並木と街灯も追加された。そのことで、障がい者センターは、駅前空間の施設として正統に位置付けられた形だ。そして、その軸線の一部に、さらに一つのオリジナルのベンチが慎重に据え置かれた。日向工業高校の「まちづくり課外授業」で学生がデザインした木製ベンチである。日向市ならではの市民参加型のまちづくりの成果なのだが、これも含めて全ての要素が、これまでの空間構成の延長で組み込まれたことが重要である。生きた空間構成とは、成長し続けるものなのだ。

 

日向市駅前周辺全体平面図

土木デザインノート

小野寺 康Yasushi Onodera

(有)小野寺康都市設計事務所|EA協会

資格:
技術士(建設部門)

一級建築士

 

略歴:
1962年 札幌市生まれ

1985年 東京工業大学工学部社会工学科卒業

1987年 東京工業大学大学院社会工学専攻 修士課程修了

1987年 (株)アプル総合計画事務所 勤務

1993年 (株)アプル総合計画事務所 退社

1993年 (有)小野寺康都市設計事務所 設立

 

主な受賞歴:
2001年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)

2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(与野本町駅西口都市広場)

2002年 土木学会デザイン賞 優秀賞(浦安 境川)

2004年 土木学会デザイン賞 優秀賞(桑名 住吉入江)

2008年 グッドデザイン特別賞 日本商工会議所会頭賞(油津 堀川運河)

2009年 建築業協会賞:BCS賞(日向市駅 駅前広場)

2009年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(津和野 本町・祇園丁通り)

2010年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(油津 堀川運河)

 

主な著書:
グラウンドスケープ宣言(丸善、2004、共著)

GS軍団奮闘記 都市の水辺をデザインする(彰国社、2005、共著)

GS軍団奮闘記 ものをつくり、まちをつくる(技報堂出版、2007、共著)

GS軍団総力戦 新・日向市駅(彰国社、2009、共著)

 

組織:
(有)小野寺康都市設計事務所

取締役代表 小野寺 康

〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-8-10

キャッスルウェルビル9F

TEL:03-5216-3603

FAX:03-5216-3602

HP:http://www.onodera.co.jp/

 

業務内容:
・都市デザインならびに景観設計に関する調査・研究・計画立案・設計・監理

・地域ならびに都市計画に関する調査・研究・計画立案

・土木施設一般の計画・設計および監理

・建築一般の計画・設計および監理

・公園遊具・路上施設などの企画デザイン

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