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2013.06.10

12|地方都市のデザイナー、エンジニア・アーキテクトの悩み
~地方都市で若手は育つか

酒本 宏((株)KITABA|EA協会)

我々の事務所(株式会社KITABA)は札幌市に拠点をおいている。市民参加型のプロジェクトやまちづくりのコーディネート、ランドスケープデザイン、水辺空間や街路などの景観デザインなどを行っている。北海道内の市町村から依頼を受けることが比較的多い。

その内容は、まちの総合計画や景観計画の策定、商店街活性化、観光推進プロジェクト、町内会などのコミュニティ活性化プロジェクト、低炭素型まちづくりや再生可能エネルギーによるまちづくりなど多岐に渡る。

これまで我々の事務所は、札幌市のモエレ沼公園や石山緑地の設計などのランドスケープデザイン、北海道の尻別川や札幌市内の小規模河川などの景観デザインに携わってきた。

札幌市内で始めて市民参加型の水辺空間整備を進めた西野川のプロジェクトでは、市民参加と景観デザインの実績等を評価してもらい、ワークショップによる計画づくりから、設計・施工段階の景観デザイン監修、維持管理のしくみづくりまでに携わる機会を頂いた。このプロジェクトでは、計画から設計、施工まで常に市民と対話を行いながら進め、その会議の開催数は3年間で50回を超えた。その甲斐あって今も周辺の住民に使いこまれている水辺空間となっている。

 

西野川

 

しかし、気が付くとこの2、3年これまで得意としてきたランドスケープデザイン、水辺空間や街路の景観設計など、デザイン性の高い設計に携わる機会が極端に減ってしまった。このため、20代・30代の若手スタッフが、設計に携わる機会も減り、自分たちが設計したものを残すことが出来ないと言った悩みにつながっている。これは、我々の事務所だけではないようで、札幌市内に拠点を置く他の事務所も同じ状況である。

設計の機会が減った理由は、それぞれ組織の経営方針や力量によるところもあるが、大きく2つあげられる。

ひとつには、公共事業の減少であろう。北海道においては、公共事業がピーク時に比べ半分になっている。それに伴い設計業務も減少していることは言うまでもない。

加えて、景観デザインを丁寧に考えるべき施設も、コスト削減のもとに景観デザインが置き去りにされ、標準的なデザインに留めていることも要因としてあると思う。

ふたつ目は、価格競争である。

北海道を見ると、全般的に基本計画などはプロポーザルやコンペがあるが、景観を考えなければならない設計業務でも一般競争入札や指名競争入札となっていることが多く、そこに景観デザイン力は関係ない。景観デザインをしかりやろうとすると経費がかかるため、価格競争では勝つことが難しく、設計業務を受注できない状況になっている。

これらの設計に携われる機会が減少していることと合わせて、地方都市に拠点を構えるデザイナーならではの悩みもある。

地方都市に拠点を構える我々のような事務所では、拠点を置く地域がフィールドの中心なり、各まちとの結びつきも強い。我々の事務所であれば、北海道内の市町村と結びつきが強い。そうしたなかで、各まちのニーズに対応しながら仕事を進めていると、必ずしも設計だけに留まらなくなり、自ずと仕事の分野が広くなってしまう。喜ばしいことである一方で、デザイナーとしての専門性が乏しくなってしまうという悩みを抱えるのである。

東京などに拠点を構えるデザイナーが、そのスキルを活かして全国をフィールドに活躍するといった状況と異なるのである。

このように設計に携わる機会が減っていることや専門性の確保の難しさのため、地方都市においては、20代、30代の若手のデザイナーが育ちにくくなっている。

しかし、その解決策は残念ながら持ち得ていない。ただ幸いにして、札幌でも私を含めてランドスケープデザインや景観デザインの仕事に数多く携わることができた40代・50代のデザイナーがいる。

こうしたメンバーが、事務所や会社の枠を超えて、ランドスケープを目指す若手と交流しながら、自分たちの知識や経験を伝えることが必要だと思う。

さらに、その交流を仕事の発注者となる行政の方々に広げ、理解を深めてもらうことも必要であろう。

そうしなければ数年後、地方都市には、本物のデザイナー、ランドスケープ・アーキテクト、エンジニア・アーキテクトが居ない状況になってしまう。

こうしたことからも、エンジニア・アーキテクト協会の役割は大きいのかもしれない。

 

この5月5日から札幌市内に路面電車の新型車両が走り出した。

我々の事務所では、この路面電車デザインを含めたトータルデザインプロジェクトに、GK設計と一緒に携わることが出来た。

走り出した新型車両の車内には、デザインに関わったGK設計とKITABAのプレートが貼ってある。

これまで公共空間や公共施設にデザインした我々の事務所名を載せてもらった記憶はなかった。

ゆえにこの小さなプレートは、大きな意味を持つと感じる。もちろん実際に携わったメンバーにすると大きな喜びであり、誇りにつながり、感慨深いものがあった。

こうしたプレートを見て、地方都市でもデザイナーやエンジニア・アーキテクトを目指す若手が活躍できることを感じて奮起してほしいと思うのである。

 

 

左:路面電車 右:プレートの写真

エンジニア・アーキテクトのしごと

酒本 宏Hiroshi Sakemoto

(株)KITABA|EA協会

資格:

技術士(建設部門・総合監理部門)

 

略歴:

1962年 札幌生まれ

1986年 北見工業大学土木工学科卒業

1995年 (株)グランドデザイン 設立

2008年 経営統合により(株)KITABAへ

 

主な受賞歴:

2001年 札幌市都市景観賞 真駒内用水路(日建コンサルタント(株)と協働)

 

主な著書:

道の駅/地域産業振興と交流拠点 関満博・酒本宏編(新評論)

集落営農/農山村の未来を拓く 共著(新評論)

農産物直売所/それは地域との出会いの場 共著(新評論) など

 

組織:

(株)KITABA

代表取締役 酒本 宏

〒001-0013 札幌市北区北13条西3丁目2番1号 13条ビル

TEL:011-299-8805

FAX:011-299-8990

HP:http://www.kitaba.co.jp/

 

業務内容:

・土木一般、建築、造園等に関わる景観デザイン、設計、コンサルタント業務

・まちづくり、観光、地域産業振興、商業活性化、市民自治、再生可能エネルギーに関わるコンサルタント業務

・市民参加型まちづくり・合意形成コーディネート

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