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2011.12.01
05-2|別府港海岸の整備と里浜づくり その2
町山 芳信((株)地域開発研究所|EA協会)
前回(2011年10月号)では、別府港海岸整備の事業概要を述べたので、今回は整備の完了している餅ヶ浜地区について、合意形成のための取組みやデザイン検討経緯等を段階別に紹介したい。
1.餅ヶ浜地区における検討プロセス
(1)検討段階と体制
餅ヶ浜地区は、早期の着工を目指し、平成14年度までの構想段階で検討された内容をもとに、平成15年度に整備計画の検討、水理模型実験を行い、平成16年度に着工、平成22年度には海浜の利用を開始した。具体的な計画について地域住民との合意形成が図られたのは、平成15年度の設計段階であった。
設計段階での検討体制は、専門家および関係行政機関の担当者からなる計画・景観検討会を設置し、利用及び景観形成に配慮した整備計画を検討し、別途設置された技術検討会との意見交換を行うことにより、施設形状や配置、断面構造に技術的な整合性をとりながら検討が進められた。
また、並行して地域住民を対象としたワークショップを開催し、地域住民との合意形成を図るという体制がとられた。
設計段階では、餅ヶ浜地区の直轄事業による海岸施設と海岸背後の港湾緑地(大分県による環境整備事業)の計画概要が取りまとめられたが、その過程では、ワークショップにおける住民の計画への理解を高め、適切な合意形成が図られるよう、ワークショップに計画・景観検討会から専門家が出席し、計画案の説明や住民および行政の意見交換に参加した。
表-1 検討段階とその体制
(2)構想段階
構想段階当時は、住民説明会はあるものの、住民参加型手法による海岸事業は稀有なことであり、住民がどのように参加し、合意形成を図るべきか模索しながら検討がすすめられたようであった。
そのため、構想段階では住民意見を多く取り入れ、工学的に実現可能なものとして砂浜と磯浜が連続する二つの構想案が示された。
【構想段階の整備方針】
・異常気象に対して安全性の高い海岸(護岸,潜堤等)とする。
・地域住民や観光客の安全を確保するため、耐震性の高い海岸とする。
・誰もが身近に海を感じることができる親水性の高い海岸(砂浜,磯場等)とする。
・観光客を誘致する各種海レクイベントが開催(緑地,砂浜等)できる海岸とする。
・地域の人々を海辺に誘導し、多彩な活動が楽しめる海岸(砂浜,磯場等)とする。
・昔の別府の海岸を思い起こさせる白砂青松の海岸の復元を図る。
・オリアナ桟橋の有効利用(釣り、散策等)を図り、その資質を最大限に生かした海岸とする。
・オリアナ桟橋を境界に、砂浜空間・磯場空間としての良好な空間分離が図られた海岸とする。
図-1 構想段階整備イメージの一案
(3)設計段階
①検討のポイント
●前年度までの構想段階の成果をもとに人工砂浜と人工磯を組合せた3つの案が技術検討会から基本案として提案された。砂浜と磯浜が組み合わせられたのは、多様な利用が可能なようにとの住民要望を踏まえて提案されたものである。しかし、整備方針にある「昔の別府の海岸を思い起こさせる白砂青松の海岸の復元を図る」という方向性に対して、磯浜と砂浜が突堤を挟んで隣接する様は不自然であるとして、景観検討会において全体的に砂浜を基調とする案を加えることが提案された。そこで、砂浜と磯浜を組み合わせた3案と、新たに砂浜を基調とした1案を加えた計4案をもとに、かつて存在した自然の海岸の姿を目指すという方向性と、望まれる利用形態(磯浜の整備)という対立する課題について、ワークショップを通じて検討、合意形成が行われた。
●平行して中央突堤の形状と位置に対する砂の安定といった技術検討が技術検討会で行われ、これに利用や景観の観点から平面配置が景観検討会で検討された。防護機能の確保を前提条件に、利用や景観のコンセプトを見直し、磯浜の是非も含めて、具体的な施設配置についてワークショップを通じて合意形成が行われた。
●結果的に、養浜された砂浜から突然磯場に変化する違和感を避け、砂浜を基調にすることに合意形成が図られた。磯浜については、上人ヶ浜にある自然の磯で機能分担することが可能であることを提案し合意された。同様に、近自然的な海辺空間の創出を目標とし、施設配置についてもできるだけ人工物(遊具・オブジェ・箱物など)を設置せず、自由な発想で海岸緑地を活用してもらえるようにすることをコンセプトにすることに合意形成が図られ、コンセプトに基づいて施設配置が検討された。
図-2 検討のポイント
②ワークショップおよび検討会の経緯
以下の表は、各ワークショップおよび検討会の検討経緯である。検討会での指摘を踏まえ、構想段階には無かった砂浜を基調とする案を加えて、再度整備の方向性から検討する必要があったため、第1回検討会では、ワークショップでの説明と検討会との連携方法が課題となっている。
この検討の結果、検討委員会の委員である齋藤委員が、第2回目以降のワークショップに出席し、検討案の説明および参加した地域住民との意見交換に参加することとなった。このスタイルが、他の北浜地区や上人ヶ浜地区での検討に引き継がれている。
その結果、第2回ワークショップにおいて、砂浜を基調とし、特定の利用のための施設は設けずに近自然的な海辺空間の創出を目標とするといった方向性について、地域住民の合意が得られている。
この方向性と、人工砂浜の安定性等に係る技術検討の結果を踏まえ、各検討項目について利用や景観のイメージを模型やイメージスケッチ、CGなどを用いて評価され、ワークショップを通じて合意形成を図る形で検討が進められた。
表-2 設計段階における検討会及びワークショップの概要
③比較検討案
●A案(突堤を直線的に配置)
・直線的な突堤
・砂浜と磯浜を突堤で分ける
●B案(突堤を曲線的に配置)
・曲線的な突堤
・突堤で砂浜と磯浜を分ける
●C案(突堤を南側のみに配置)
・直線的な突堤
・砂浜と磯浜を連続させる。
●新たに加えられた砂浜のみの案
・砂浜を基調とする
・基本案として設定される。
④汀線形状と護岸法線の検討
技術検討会で示された複数の比較案は、それぞれ汀線と護岸法線が直線で表現されていたこともあり、自然海浜を志向する餅ヶ浜地区の景観形成の目標像と齟齬があり、かつ、不自然な印象があった。
そこで、汀線シミュレーションから汀線形状を予測してもらい、これをもとに護岸法線に緩やかな曲線(R=300~3000m)を導入することを提案した。これは、景観形成のみならず、養浜量の削減といった定量的な経済性の向上にもつながっている。
(左)図-3 VRによる汀線形状の見え方の予測(突堤付近より高崎山方面-鳥瞰)
(右)図-4 VRによる護岸法線の見え方の予測(管理用通路より高崎山方面-アイレベル)
図-5 汀線シミュレーション結果(20年後の予測結果)
【護岸の法線曲線化の景観的効果】
・自然海岸の風景である「白砂青松」の実現を目標とする餅ヶ浜地区にあって、「白砂青松」とともに美しい海岸線を表す「長汀(ちょうてい)曲浦(きょくほ)(ちょうていきょくほ)」を具現化し、相乗的に整備効果を高めることができる。
・護岸法線が直線の場合は通路上を歩いても遠景域の見え方に変化は少ないが、緩やかな曲線を描く護岸上の通路を歩くと高崎山等の眺めが刻々と変化するシークエンス景観を楽しむことができる。
・護岸天端の管理用通路がゆったりと湾曲することで、歩行者から遠方の護岸法面がきれいに見える。(せっかくの自然石護岸をきれいに見せようという考え方。直線だと通路の端から乗り出さない限り、路面しか見えなくなる)
・浜を護岸と飛沫防止植栽帯がゆるやかに囲い込んでいるという印象を与えることで、景観に安定感やまとまりがうまれる。
・南側の緑地幅を確保することにより、南側端部の拠点としての空間規模を確保できる。
図-6 VRによる汀線形状の見え方の予測(護岸上部を高崎方面へ移動)
図-7 VRによる汀線形状の見え方の予測(護岸上部を国際観光港方面へ移動)
⑤飛沫防止帯と背後緑地の検討
●飛沫防止帯の規模
飛沫防止帯の緑濃い植栽帯の市街地側は明るく開放的な空間づくりとして、芝生を基調とした植栽空間としている。市道直近まで密度の高い植栽地を配置した場合(従来の港湾緑地は密度の高い植栽で暗いイメージが強い)に比べ、背後市街地のまちづくりが海を正面に展開される可能性が高くなるとともに、どこからでも入りやすく、どこにも居やすい緑地空間を提供することを意図している。こうした考えのもと、イメージスケッチ等を用いた緑地のイメージ、強いては飛沫防止対の規模等について景観の予測・評価・提案が行われた。
図-8 スケッチによる飛沫防止帯を背景とした明るく開放的な海浜背後の緑地イメージの検討
(資料:東京工業大学大学院 社会理工学研究科 社会工学専攻 齋藤研究室)
●緑地の断面構造
緑地の市街地よりの部分を明るく開放的な空間とするため、この部分は緩衝帯としての盛土につらなる緩やかな芝地とすることについて、イメージスケッチ等により合意形成を行っている。但し、都会的な雰囲気を出すためには、道路との接合部分が重要になるが、当該箇所は県と市の境界でもあり、今後の課題とされた。
図-9 緑地の断面スケッチ
●緑地の園路
緑地の園路のイメージをイメージスケッチ及びVR等で確認し、園路の縦断勾配に凹凸を付ける、平面線形をC、S字にするなど、歩行者による海の見え方に変化を付けるとともに、高崎山を景観に取り入れるなどの方向性が確認されている。
図-10 園路のイメージスケッチ
⑥ワークショップでの合意形成方法の特徴
これまで述べたとおり、各項目を検討するためには、海岸整備のイメージ、その背後の緑地のイメージ、さらに、具体的なディテールについて十分に理解しながら、合意形成を行う必要があった。そのため、当初はビジュアル的に示すためにCGパースによるイメージを中心に議論が進められたが、ワークショップに参加した市民のイメージが湧かなかったたり、イメージに誤解があったりと、事務局等行政側と市民側の間でイメージの統一が図れなかった面があった。この要因としては、住民側がこれらの検討に慣れていないことや、検討システム自体を理解しにくいといったことが考えられた。
そのため、後半は模型やバーチャルリアリティ(VR)をツールに、平易な言葉で解説、提案が行われた。この結果、意志疎通が容易になったものと考えられる。
一方、検討会とワークショップのつなぎ役として、検討会委員がワークショップに参加し、精力的に市民と意見交換を行ったことも、合意形成に当たって大きな効果があったと考えられる。
市民にとって、行政、あるいは、行政が委託しているコンサルタントが説明等を行うと、ワークショップでの意見が意図的にコントロールされているといった疑念を参加した地域住民が持つことが心配されたが、中立的な立場の専門家である検討会委員が検討会での議論を解りやすく、論理的にワークショップにおいて説明したことで、市民の理解も高まり、適切に合意形成が行えたと考えられる。
VRを使ったワークショップでの説明は、ビジュアルで具体的であるため、ワークショップ参加者にも理解されやすかった。
VRを使ったビジュアルな計画(案)の説明を熱心に聞くワークショップ参加者。
検討会委員による模型を使った計画(案)の説明は、ワークショップ参加者への計画への関心を高めた。
検討会委員による模型を使ったビジュアルな計画(案)の説明を熱心に聞くワークショップ参加者。
(4)整備段階
平成15年度の計画段階の成果をもとに、平成16年6月から、潜堤の整備を皮切りに工事に着工した。なお、とりまとめられた整備計画案には、大分県の管轄(緑地部分)、別府市の管轄(市道部分)が含まれるが、連絡調整会議を通じて調整が行われ、それぞれの主体が整備計画案を元にした整備を行っている。
図-11 整備計画案と大分県、別府市の管轄
資料:別府港湾・空港整備事務所「里浜づくり新聞15号」平成18年11月1日
また、平行して整備後の利活用と維持管理を検討する、別府港海岸施設計画検討会が平成18年度から開催され、その一貫として平成18年10月に、地域住民等を対象とした説明会が開催され、その後の変更を含めた餅ヶ浜地区の整備計画および工事の進捗状況についての説明と、現地見学会が行われた。
写真 整備計画等の説明と、現地見学会
(5)維持管理段階
平成22年8月1日に餅ヶ浜地区の高潮護岸及び砂浜部分の施設が先行して完成、供用を開始した。
8月1日は、別府国際観光港みなとまちづくり協議会が主催する「別府ポートフェスタ2010」に合わせ、利用開始式が行われ、県知事や市長、行政関係者、地元住民を含め約150人が出席し、テープカットなどが行われた。また、新しくできた砂浜では、ビーチバレー大会やビーチフラッグス大会、ビーサン(ビーチサンダル)飛ばし大会、子どもたちのためのシャボン玉大会、魚のつかみどり、桟橋では釣り大会など、様々なイベントが行われ、多くの人で賑わった。
現在、日常的に散策などを行う人の姿が見られ、個人的にゴミ拾いなどを行う人もちらほら見られる。今後は餅ヶ浜を積極的に維持・活用する仕組みや主体が現われることが期待されている。
写真 整備前後の餅ヶ浜海岸
写真 ポートフェスタ時の餅ヶ浜の様子
写真 日常の餅ヶ浜の様子
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町山 芳信Yoshunobu Machiyama
(株)地域開発研究所|EA協会
資格:
技術士(建設部門)
略歴:
1960年 千葉県生まれ
1982年 東京農業大学農学部造園学科卒業
1982年 (株)ラル計画事務所勤務
1984年 自営
1987年 (株)シビルテック勤務
1990年 (株)地域開発研究所勤務
主な受賞歴:
2001年 土木学会景観・デザイン賞 優秀賞(鹿児島本港の歴史的防波堤)
主な著書:
歴史的土木構造物の保全、鹿島出版会、2010.9.20、(共著)
組織:
(株)地域開発研究所
代表取締役 山下 正貴
〒110-0015 東京都台東区東上野2-7-6 東上野T.Iビル
TEL:03-3831-2916
FAX:03-3831-6259
業務内容:
・開発史、港湾、海岸、河川、景観、地域計画・観光計画、経済、環境、広報・PI、国際協力、地域開発全般の調査・計画・設計業務
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