/ all
2011.07.01
03|札幌の新たな水辺 ~そのプロセスとともに想う
酒本 宏((株)KITABA|EA協会)
この春、札幌の都心に新たな公園が完成した。「創成川通アンダーパス連続化事業」に伴い、札幌のまちの基線である創成川が都心の公園として生まれ変わった。
生まれ変わった創成川公園は幅約30m。札幌の都心部を南北に南4条から北1条まで約820m続く。公園の両サイドは、片側2車線の幹線道路。車道から創成川公園を見るとやや狭い印象を受ける。しかし、実際に歩いてみると狭い印象はなく、心地よい囲まれ感があり、水辺を眺めながらゆっくり休みたくなる空間になっている。
写真1:生まれ変わった創成川公園
その証拠にベンチに座り読書にいそしむ人や、ソフトクリームを食べながらおしゃべりを楽しむカップルの姿があちらこちらで見かけることができる。
特に季節がよくなった6月頃からは、利用する市民も増え、水辺で遊ぶ子供や芝生でくつろぐ家族連れの姿も見られる。
創成川公園の魅力は、散策路沿いや広場に置かれたアート作品にもある。
水辺の両岸には、レンガで縁取られた散策路が続き、その途中には、北海道美唄市生まれの安田侃氏の白い彫刻やランドスケープデザイナーの団塚栄喜氏、パブリックアートの彫刻家 西野康造氏のアート作品が置かれている。
土曜日や日曜日になるとこうしたアート作品の周りで遊ぶ子供や、アート作品の前で足をとめ写真を撮る人の姿も見かける。眺めるアートではなく体感するアート作品や発見の装置となっているアート作品が、水辺空間の魅力を高めている。
公園の南側、狸小路と二条市場、創成川が交差する箇所には、「狸二条広場」と名付けられた橋上広場がある。これまで創成川により分断されていた狸小路と二条市場の間に、2つの商店街をつなぎ、イベントなどに活用できる広場が設けられた。
広場の中央部には、安田侃氏の白い彫刻が置かれ印象的な空間になっており、市民だけでなく二条市場などを訪れた観光客の待ち合わせの場所にも最適な場所になっている。
写真2:橋上に設けられた狸二条広場、中央の彫刻は安田侃氏による作品。
このように生まれ変わった創成川公園を歩くとそのプロセスが思い出される。創成川公園の整備にあたっては、市民議論が行われてきた。私どもの事務所が、そのプロセスに少なからず関わってきた。
創成川公園の市民議論は、2003年1月に、周辺住民や商店街関係者、市民団体、学識者などが参加した「創成川市民懇談会」から始まった。当初は、事業ありきの議論や行政主導を疑問視する意見が多数出され、公園のあり方など、当初目的としていた議論が進まない状態だった。このため、途中からは、市民が主催者となり懇談会を開催することとし、ようやく議論が進むようになった。しかし、事業の賛否に関する議論は毎回のように出されていた。
そして2003年の11月、「1000人ワークショップ」と名付けられた大規模な市民参加のワークショップが開催され、創成川の事業と札幌駅前通地下歩行空間の事業について、その賛否や空間のあり方が議論された。この1000人ワークショップによって、条件付きながらも創成川公園の整備について前進し、整備に向けて検討が進められることになった。
1月に始まった「創成川市民懇談会」は、1000人ワークショップを含めて10回ほど開催された後は、専門家からなる検討委員会にバトンが渡され、デザインの詳細が検討されて完成した。
また、「狸二条広場」の整備も、1000人ワークショップ以降様々な場面で市民や商店街の関係者から意見が出され、2007年に整備に向けて狸小路商店街や二条市場の関係者で検討会を組織し、幾度となく激論が交わされ、ようやく完成に至った。
生まれ変わった創成川公園を歩くと、こうしたワークショップや検討会に参加していた市民や関係者の顔と激しい議論の様子が思い出される。
同時に、多くの市民や関係者が時間をかけて議論を重ねてきた水辺だからこそ、市民に親しまれ、活用されながら、札幌の新たな顔になっていくのでないかと想うのである。
風景エッセイ
- 2013.06.17
- 12|窓山に戻った風景
- 菅原 香織(秋田公立美術大学 美術教育センター|EA協会)
- 2013.05.10
- 11|私の原風景
- 南雲 勝志(ナグモデザイン事務所|EA協会)
- 2012.12.01
- 10|境界の冒険
- 星野 裕司(熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター/工学部土木建築学科|EA協会)
- 2012.10.30
- 09 |共同体の意思が生み出す風景
- 二井 昭佳(国士舘大学|EA協会)
- 2012.07.02
- 08|欧州の保存活用に見る時間へのまなざし
- 八馬 智(千葉工業大学創造工学部デザイン科学科|EA協会)
- 2011.12.01
- 07|”ものこわし事業”での景観整備
- 関口 佳司(関口佳司マネジメント・コンサルタント&景観研究所|EA協会)
- 2011.10.01
- 06|ウォーターフロント再考
- 2011.09.01
- 05|地形が醸成する性格
- 八馬 智(千葉工業大学創造工学部デザイン科学科|EA協会)
- 2011.08.01
- 04|商店街とショッピングセンター:歴史と記憶に関して
- 高松 誠治(スペースシンタックス・ジャパン(株)|EA協会)
- 2011.07.01
- 03|札幌の新たな水辺 ~そのプロセスとともに想う
- 酒本 宏((株)KITABA|EA協会)
- 2011.06.01
- 02|かなざわ -おんな川の風景
- 今度 充之(東京コンサルタンツ(株)|EA協会)
- 2011.05.01
- 01|妄想的風景鑑賞法
- 真田 純子(徳島大学|EA協会)
酒本 宏Hiroshi Sakemoto
(株)KITABA|EA協会
資格:
技術士(建設部門・総合監理部門)
略歴:
1962年 札幌生まれ
1986年 北見工業大学土木工学科卒業
1995年 (株)グランドデザイン 設立
2008年 経営統合により(株)KITABAへ
主な受賞歴:
2001年 札幌市都市景観賞 真駒内用水路(日建コンサルタント(株)と協働)
主な著書:
道の駅/地域産業振興と交流拠点 関満博・酒本宏編(新評論)
集落営農/農山村の未来を拓く 共著(新評論)
農産物直売所/それは地域との出会いの場 共著(新評論) など
組織:
(株)KITABA
代表取締役 酒本 宏
〒001-0013 札幌市北区北13条西3丁目2番1号 13条ビル
TEL:011-299-8805
FAX:011-299-8990
業務内容:
・土木一般、建築、造園等に関わる景観デザイン、設計、コンサルタント業務
・まちづくり、観光、地域産業振興、商業活性化、市民自治、再生可能エネルギーに関わるコンサルタント業務
・市民参加型まちづくり・合意形成コーディネート