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2017.05.18
20|八王子甲州街道 歩道照明
南雲 勝志(ナグモデザイン事務所|EA協会)
2009年の夏、八王子甲州街道の関係者が、四谷新宿通りを視察したいという連絡を篠原修さんからいただいた。当時の国交省相武国道事務所Y所長始め、八王子甲州街道商店街代表など関係者が訪れた。
四谷新宿通りは遡ること、2005年に完成、歩道の設計を担当した小野寺康氏とともに現場を案内した。薄暮の頃からは夜景を見ながら照明のデザインとその効果を説明し、その後軽く吞みながら通りの整備について議論した。その時のY所長の感想は今でもはっきり覚えている。「いやぁ、驚きました。歩道照明で歩道の印象があそこまで変わるとは思わなかった。車道照明は高価なので、今直ぐには出来ないけど、歩道照明は可能性がありますねぇ〜。」
四谷新宿通り商店街 夜景
当時相武国道事務所では八王子駅周辺甲州街道景観形成検討会議という組織を設置、議長が篠原修(政策研究大学院大学教授)、副議長を二井昭佳(国士舘大学)が務め、地元商店街関係者らと八王子駅周辺甲州街道の景観に相応しい整備を取りまとめ、その後の整備を検討中であった。市民が街を認識しながら気持ちよく甲州街道を歩くことで街並みを魅力的にしていくことが、この会議の目的でもあったと記憶する。対象範囲は甲州街道八王子駅交差点から追分交差点までの延長約2km。
計画路線(google mapより作成)
当初の検討項目は、歩道舗装や横断抑止柵、車道照明のデザイン、また祭りの際に山車が通行しやすくなるための道路標識の設置方法であった。ただ新宿通りを視察後、歩道の印象付けとしても効果としても大きい、というY所長の思いもあり、歩道照明についても検討することになった。少し間は開くが、新宿通りの縁もあり、私がデザインを提案することになった。
八王子は学生時代過ごした事もあり、比較的親しみもあった。その頃は甲州街道もまだ賑やかで、ユーミンこと荒井由美の実家、荒井呉服店などで知られてもいた。山梨で育った二井さんにとって、子供の頃の都会と言えば八王子だったという。江戸時代、甲州街道の宿場として発展し、養蚕、生糸、織物で繁栄し、ずいぶんとりっぱな街なみであったようだ。しかしながら戦後、養蚕の繁栄が終わり高度成長を経て気がつくと、他の地方都市と同様、甲州街道のアイディンティティは徐々に失われていった。
ひとつの要因は雨に濡れないで歩ける便利さを選択した結果、延々とアーケードが整備され、華やかさと引き替えに魅力的な古い建物のファサードや通りの風情が徐々に見えなくなり、消えていったことだ。現在でも昔の商店街の面影を残すファサードや商店も少なからずまだ残っている。今ならまだ、八王子甲州街道らしさのイメージを残すことも間に合うかも知れない。
そんな中で照明のイメージは八王子甲州街道を再び活気づけるきっかけにすることであった。古い写真を見ると夜もなかなか賑やかだったのだ。
そのため第一の機能としてはウェルカム八王子、まさに八王子の導入部を意識づけることであった。そしてデザインの狙いは賑やかさや味わいを持ったボリュウムのある光をつくる事こと、それは見える光(拡散型照明)で灯りを認識させる事であった。また予算の都合はあるが、時間が経っても味わいが残るよう良い素材を使用することと、質の良い和のテイストを感じるデザインとを目指した。さらにヒュウマンスケールを意識した親しみのあるサイズとし、それをある程度細かなピッチ(20m程度)で配置することで連続感のある面としての光景を表現することを目指した。
しかし最も難しい事は2kmの長い通りを統一したデザインでいけるかどうかであった。そこには12の商店会があり、同じ通りといえ、ライバル心もあるわけで、それぞれの個性を表現するためにアーケードの形さえ変えてあるほどだ。また別の整備メニューですでに独自の歩道照明を新設した箇所もあったのである。それらをひっくるめてトータルに整備することは、魅力的な通りにするために一緒に手を組み、1〜2年ではなく、短くとも10年を見据えた先の長い視野を共有する必要であったのだ。
だがそれはなかなか簡単に決断できる話ではない。デザインを決定する最終回の会議ではなかなか結論が出ずに重い沈黙が流れた。それを破って発言したのがすでに新設の照明を建てた商店街のH氏であった。「皆さん、これから八王子甲州街道を元気にして行くためにはこんな事で悩んでいるようではダメだ。みんなで今まで一生懸命議論してきたこの案一本に絞り、2kmをひとつの魅力的な商店街にしようではありませんか。私の商店街は恐らく最後の整備となりますが、10年頑張ってその時を待ちます。皆さん、この案で一緒に進みましょう!」と勇気ある発言をされた。その言葉に他の商店街の代表も頷きながら拍手で答えた。物事の決定には勇気と覚悟、そして責任感が必要である。そのことを我々も身震いしながらひしひしと感じていたことを覚えている。同時に良いものをつくる責任感とやる気が湧くのである。
さて、とはいっても延長約2kmに20mピッチということは単純計算で、片側100本、両側で200本になる。もちろん一気に200本の整備など出来るはずはない。ただ最終的な目標を200本とすることで型生産の効果があること、それによってコストダウンが期待出来る。仮に一年平均20本を10年作り続けるという想定で仕様は本体をアルミ鋳物、灯具をアクリルの型製作とした。そして型は発注者持ち、年度ごとに受注したメーカがその型を使い、終わったら又返すという徹底した分かりやすさも条件に加えた。
翌年度、2010年12月10日、八王子駅との交差点に最初の5本の照明が建った。たった5本であったが、これは200分の5ではなかった。商店街の思いをのせた具体的な形がそこに建ったのである。相武国道事務所主催の点灯式には議論重ねた商店街初め、関係者集まり、点灯した瞬間笑顔で喜び握手を交わした。
先月二井さんと一緒に久しぶりに現場を訪れた。
初めての5本から6年半の歳月が流れた。現在は約100本が建柱されている。通りの導入部として圧倒的な分かりやすさと雰囲気を醸し出していた。なんというか目立つと言うよりも、絹の柔らかさを持った上品なあかりがそこにあった。以前連なっていたアーケードも徐々に撤去されオープンで明るい通りに変わり、新たな魅力的な商店も徐々に増えていることを実感した。国道の歩道照明はパブリックなあかりであり、通りを印象づける大きな要素であるが、商店街にとっては商店そのものの魅力が最も大切なものであることは間違いない。
そしてそこに関係者の思いが重なって見える。相武国道の所長は2年で異動、しかしながら地域のために2kmの通りに毎年予算を確保し照明を建てるという所長の意志は現在もきっちり引き継がれている。そしてそれに答えるよう良いものを丹念に作り続けているメーカーのものづくりの力、そういう思いが相乗的に交わりながら継続し良い風景が出来る。その継続性に敬意を払い、近い未来の八王子の姿を語りながら美味しい酒を飲んだ。
整備された歩道照明見学会 篠原先生+二井研究室 2013年7月
夜景2017年3月 撮影 二井昭佳
夜景2017年3月 撮影 二井昭佳
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南雲 勝志Katsushi Nagumo
ナグモデザイン事務所|EA協会
略歴:
1956年 新潟生まれ
1979年 東京造形大学造形学部デザイン学科卒業
主な受賞歴:
1995通産省グッドデザイン 家具インテリア部門金賞(project candy)
2003日本デザイン振興会建築施設部門 グッドデザイン賞
(宮崎県日向市に於ける「木の文化のまちづくり」の実践)
土木学会デザイン賞2001 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)
2005日本産業デザイン振興会 新領域部門 グッドデザイン賞
(ふれあい富高小学校特別授業「移動式夢空間」)
土木学会デザイン賞2009 優秀賞(萬代橋改修工事と照明復元)
土木学会デザイン賞2009 最優秀賞(津和野本町・祇園町通り)
土木学会デザイン賞2010 最優秀賞(油津・堀川運河 )
主な著書:
デザイン図鑑+ナグモノガタリ(ラトルズ)
都市の水辺をデザインする(彰国社-共著)
ものをつくり、まちをつくる(技報堂-共著)
新・日向市駅 (彰国社-共著)
組織:
ナグモデザイン事務所
代表 南雲 勝志
〒151-0072 東京都文渋谷区幡ヶ谷1-10-3-2F
TEL:03-5333-8590
FAX:03-5333-8591
HP:http://www.nagumo-design.com/
業務内容:
・景観におけるプロダクトデザイン、設計業務
・まちづくりに関わるコンサルタント業務
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