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2011.07.01

02-3|熊本駅周辺の都市デザイン その3:水辺のデザイン

星野 裕司(熊本大学大学院自然科学研究科/工学部社会環境工学科|EA協会)

前回の街路に続いて,今回は水辺のデザインについて述べたいと思う。熊本アートポリスによる駅前広場などに比べるといささか地味だ。あえて取り上げる理由は,筆者が主にかかわったプロジェクトであるというのもその一つだが,それ以上に,都市の魅力は脇役が支えるものだし,熊本駅周辺都市デザインの最も大切なコンセプトである「景」は,このような地(図に対して)のデザインによって支えられるものだと思っているからである。

 

水辺広場の概要

今回紹介する水辺広場は,広域的には,駅前を貫通する「出会の景」と坪井川沿いの「水辺の景」の接点に位置しており,もう少し狭く見ると,再開発地区と坪井川を繋ぐ広場として位置づけられるものである。
商業施設などの開発を,基本的に自発的な民間の力にゆだねている熊本駅周辺整備において,唯一の行政主導の再開発が東A再開発である。これは,「熊本駅前東A地区第二種市街地再開発事業 事業提案競技」(2006年)によって選定された建設業務代行者と熊本市を中心に整備されるものであり,その提案競技では,3つの分棟によって囲まれた敷地中央のコミュニティウォークと呼ばれる通り抜けが,駅と川の結節を良くすると評価された。そこで,まず課題となるのは,コミュニティウォークとの連続性をいかに担保し,かつ魅力的なものにするかということであった。

 

図1 東A再開発と水辺広場(1/200模型写真)

 

連続性の創出

「景」が,ひとの目線から捉えた空間のまとまりであるならば,その視点が固定されていては,構図的な美しさを整える以上の意味を持ちえない。視点が動き回り,多様なまとまりをつくりながら,都市空間全体をつなげていく。それによって初めて,都市デザインのコンセプトになりうるだろう。再開発と水辺広場の連続性を創出する試みは,そのためのケーススタディである。行った検討作業は単純で,再開発と一体的な1/200の模型をつくり,一方,コミュニティウォークから水辺広場に至るシークエンスをスケッチ群としてあらわすというものであった。このような作業から,遺構(後述)の価値を再確認したり,再開発が提案していた遺構を囲むサークルベンチのデザインを調整したり,コミュニティウォークの並木を水辺ギリギリまで延長したり,などの成果を得ることができた。

 

図2 シークエンス検討資料

 

遺構の保存

上記のシークエンス検討においても,空間を分節(区切りつつ繋ぐ)する要となっているのは,旧石塘堰という遺構である。これは,大正13(1924)年に建造された農業用の取水堰であるが,昭和28,32年に起こった水害の要因になったとして廃止され(代替堰が下流に新設されるのは昭和52年),その一部が,建て込んだ家々の裏にひっそりと,壊されずに残っていたものである。この遺構の保存には,様々な困難があった。まず,特別に価値があるものではない(むしろ,水害を引き起こした負の遺産である)こと。再開発や水辺広場の施工にあたって邪魔になること。治水上の障害物となること。人が登ってケガをした時の責任の問題,などなど。これらの問題が解決されるためには,私たちWG,駅事務所の県職員,再開発担当の市職員,坪井川を管理する県の土木事務所による入念な検討が必要であったが,おそらく,私たちWGには窺い知れない粘り強い議論が行政内にあったのではないかと推察される。結果,橋梁の維持にならった堅実な補修を行い,保存されることとなった。私たちがこだわった理由は二つある。ひとつは,先のシークエンス検討で示した価値で,この場所を際立たせるランドマークであり,ひとを水辺へいざなうゲートである。そしてもう一つ。下の写真でも分かるように,当地区は再開発によって,昔の面影はほぼ消滅すると考えて良い。そのような場所では,土地の履歴に錨を下すものが欲しい。神社の大木が,場所に落ち着きを与えるように。この遺構は,場所が記憶喪失を起こさないための重要な鍵なのである。

 

図3 旧石塘堰周辺の施工前と施工後

 

ワークショップで大切なこと

さて,熊本駅周辺整備は,様々な主体と連携を取りつつ議論を進めているが,実は市民との直接的な接点は意外と少ない。これは,本当の完成である平成30年に向けて,今後の大きな課題である。今までに持たれた大きなものは,ユニバーサルデザインに関するUDWSである(全3回開催されている)。視覚、聴覚の障害者、車椅子利用者と地元市等の約60名が参加した。ここでは,サインの字が読みづらい,トイレの位置がわかりづらい,段差が危ないなど,様々な要望が出された。このような具体的で“強い”意見は,対策が取りやすいため集約されやすい。しかし,そのような意見だけが大切なのか。私は次のような話を聞いた。「最近は,どんな公共空間も,バリアフリーになってないことの方が少ないよね。昔に比べたら,本当にありがたい話なんだけど,でもさ,スロープとかってだいたい階段の横とか端のほうにあるでしょ?スロープを下りていくと,空間の隅っこの方に行っちゃって,一緒に来たみんなとだいぶ遠くにはなれちゃうんだよね。本当は,みんなと一緒に降りたいんだけどさ」という一人の車椅子利用者の話である。おそらく,WSとは,このような“弱い”つぶやきにこそ,耳を傾ける場なのだと思う。

 

水辺広場の主役

一般に都市の水辺をデザインする場合,治水のために生まれる高低差をいかに処理するかが課題となる。大きな段差で分断してはならず,また,階段やスロープで単に繋げても,転落防止柵天国のような空間ができるだけである。上に記したつぶやきを耳にした私たちは,この水辺広場で,通常脇役であるスロープこそ,空間の主役にすべきだと考えた。スロープの再開発からの入口は,先に述べた遺構を抱き込むように開き,遺構のゲートを通って,自然と導くような工夫を施し,スロープ全体は,高低差を埋める盛り土の中を緩やかに通し,柵の設置を必要最小限とすることで,伸びやかな空間を実現している。さらには,スロープの折り返し部を,坪井川の上下流に見通しのきく,水辺広場の中でも最も眺望の良い場所に設定した。動きの展開によって,自然とパノラマを体験でき,その快適さを車いす利用者も健常者も共有することができるのである。
以上のような工夫によってつくられた水辺広場は,2011年末に東A再開発のオープンと共に開園される。再開発マンションの住民だけでなく,周辺の専門学校生たち,あるいは近隣の人々が,何気なく立ち寄り,自然と時間を過ごす,そんな場所になることを期待している。

 

 
図4 1/50模型写真
図5 完成間際の水辺広場と照明実験の様子

エンジニア・アーキテクトのしごと

星野 裕司Yuji Hoshino

熊本大学大学院自然科学研究科/工学部社会環境工学科|EA協会

資格:

博士(工学)、1級建築士

 

略歴:

1971年 東京生まれ

1994年 東京大学工学部土木工学科卒業

1996年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 修士課程修了

1996年 (株)アプル総合計画事務所 勤務

1999年 熊本大学工学部 助手

2005年 博士(工学)取得(東京大学)

2006年 熊本大学大学院自然科学研究科 准教授

 

主な受賞歴:

2012年 グッドデザイン賞サステナブルデザイン賞 受賞

2011年 第25回公共の色彩賞 入選 (熊本駅周辺地域都市空間デザイン)

2009年 深谷通信所跡地利用アイデアコンペ 専門部門 優秀賞

2009年 平和大橋歩道橋デザイン提案競技 入選

2003年度 土木学会論文奨励賞 受賞

 

主な著書:

「風景のとらえ方・つくり方」(共著、共立出版、2008)

「川の百科事典」(共著、丸善、2008)

 

組織:

熊本大学

〒860-0555 熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1

TEL:096-342-3602

FAX:096-342-3507

HP:http://www.civil.kumamoto-u.ac.jp/keikan/

 

業務内容:

・景観デザイン・まちづくりに関する研究および事業支援

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