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2017.03.13
19|牛久駅東口広場(後半)
崎谷 浩一郎((株)イー・エー・ユー|EA協会)
その日、牛久駅東口の駅前広場は人であふれていた。夏の日差しも和らぎ、夕涼みにはちょうどいい。友達と家族と、広場のいたるところで人の輪ができている。見ていて幸せな気持ちになる風景だ。その風景は、明らかに広場のリニューアルがもたらしたものであった。
平成28(2016)年8月 5日(金)、計画から約9年を経て牛久駅東口は晴れてオープニングの日を迎えた。『まちの玄関口である駅前広場を、市民主体の運営でつくりあげる』という計画当初からの一貫した方針がひとつの形となった瞬間だった。冒頭の人であふれていたところは、リニューアル前はバスロータリーだった。『まちの玄関口である駅前広場』の交通機能を再配分して人のための場所を生み出すというハード整備の成果と『市民主体の運営でつくりあげる』というソフト面の取り組みが広場のオープニングの風景としてその日現れたのだった。本稿では、昨年8月に全面供用開始された牛久駅東口駅前広場のデザインおよび市民主体のオープンングイベントの実現について解説する。
デザイン思想とポイント
牛久駅東口駅前広場のリニューアルは“何気ない日常の中に原風景となる場所をつくる”ことがテーマであった。江戸時代、現在の牛久駅南西部にあった宿場町、牛久宿をまちの起源にもつ牛久にとって牛久駅(明治29(1896)年開業)の東口はまちの裏側であった。明治36(1903)年、日本初の本格的ワイン醸造所としてシャトーカミヤができてから発展してきたが、気づけばそこには人が集まりたたずむ場所も友達とお茶をする場所さえ無かった。都心への通勤で疲れたサラリーマンや通学する学生の送り迎えで交通ロータリーは渋滞し、一日2万8千人の駅利用者がただただ通りすぎるだけの駅前であった。これからも牛久に人が愛着を持ち快適に豊かに住み続けるためには、広場のリニューアルによって渋滞や交通問題が解消され便利で快適に通過するだけではなく、そこに佇みまちや土地に対する思いを育める時間を、場所を、名もない日常の風景に埋め込むことが必要だった。
思いを実現するために交通問題が最大の課題であったことは言うまでもない。こちらについては東京駅八重洲口の交通計画も担当された五十嵐淳さん(アルメックVPI)に参加してもらった。アルメックVPIは牛久市でのコミュニティバスの導入事業も手がけており、トータルで柔軟な交通戦略で駅前広場の交通問題を技術的に解消してくれた。五十嵐さんは目指す空間イメージを共有しながら議論ができる数少ないエンジニアで他のプロジェクトでもいくつか協働している。
デザインは過度に即物的ではなく印象的な造形、長い時間に耐える素材選定、日常時とイベント時いずれも使い勝手の良い広場、印象的な夜景、それらが適度なメンテナンスで維持可能であること、がポイントであった。
意図していなかったトスカーナレンガと壺
広場を埋め尽くすレンガ敷きは牛久市の友好都市であるイタリアのグレーヴェ・イン・キアンティ市との友好のあかしとして現地から輸入したトスカーナレンガ(w70×d280。厚みは日本の規格に合わせt60,t80とした。)である。これは実施設計段階で市より提案され、舗装材や芝生広場の外縁を階段状に囲む造形物として採用された。寸法精度や構造強度に対する考え方など日本の規格と異なるところや破損した際の補修が課題だったが、最終的には市の判断で採用が決定したものである。
広場南東側に設置されている大きなテラコッタの壺もトスカーナから輸入したもので工事終盤に地元の銀行から寄贈された。完成後はトスカーナレンガとともにすっかり広場の印象的な要素となっているが、これらは基本設計段階では全く想定していなかったものであった。舗装材はレンガも含めたいくつかの素材を候補として検討していたが、こうした想定外の要素を受容するためには、ゆるぎないコンセプトと空間骨格に強度が必要である。ちなみにこの原稿を書いている間にも、稀勢の里関の横綱昇進凱旋パレードに合わせて寄贈された記念碑が広場に設置された。(http://www.asahi.com/articles/ASK2J5Q55K2JUJHB00Q.html)
広場のシンボル屋根とロータリー部キャノピー
大きな傘のようなシンボリックな屋根だが、こちらも基本設計段階では描いていなかった形状である。機能的にはロータリーを囲むキャノピーと駅の出入り口を接続する屋根である。広場の中央に設置される屋根は牛久駅の印象的な日常の風景づくりのためにその形態が大事なのではないかと考え直し、実施設計段階で思い切ってシンボリックなものにした。建築設計を担当した瓜生浩二さん(kuaa. http://www.kuaa.jp/)と相談し、平面形は五角形で広場の動線と牛久のシンボル牛久大仏やシャトーカミヤ、筑波山、牛久沼方面へ開いた形状となっている。主構造は鉄骨で屋根の素材は膜構造とすることで優雅で明るい印象を広場に与える造形とした。設計段階では屋根の中央部分を空けるか、閉じるかというところで議論があったが、最終的には雨仕舞いの良さや中央で見上げたときに見える牛久の空の風景を重視して空けることにした。ロータリーを囲むキャノピーも瓜生さんの設計である。平面線形は交通ロータリーの形状に沿い、シングルコラムの鉄骨構造、ガラスの屋根に茨城県産のヒノキ材がルーバーとして使用されている。地上の軽快さを確保するために基礎は地中梁となっており、こちらも屋根越しの空が印象的な屋根である。明るさ、軽快さ、温かみを合わせたデザインは利用者の評判も良い。
印象的な夜景
シンボル屋根、ロータリー部キャノピーのライティングデザインには東京スカイツリーのライティングを手がけられた戸恒浩人さん(シリウスライティングオフィス http://www.sirius-lighting.jp/)にご参加頂いた。ロータリー部のキャノピーは路面照度を確保しながら交通広場を囲む柔らかな線をより印象的に魅せ、会社や学校帰りの人々を暖かく迎える。
(シリウスライティングオフィス作成資料より)
「季節を振りまく光の花」と題されたシンボル屋根のライティングは、季節や時節に合わせて10のプログラムで変化する光によって夜の駅前広場をしとやかに彩る。プログラムの調整を行えば特別なライトアップも可能だ。このシステムを入れるために約500万円のコストがかかっているがその効果を考えると決して高くはないのではないだろうか。まちなかにおける印象的な夜景づくりは都市間活動、経済活動への影響も見込まれ、これからの都市競争の時代においてますます重要になっていくと思う。公共空間におけるライティングデザインの可能性はこれからも探り続けたい。
ファニチャーデザイン
(ナグモデザイン事務所作成資料より)
広場のファニチャー類(サイン、ベンチ、スツール、車止め、照明)は南雲勝志さん(ナグモデザイン事務所http://www.nagumo-design.com/)のデザインである。カッパの皿のようなスツール(通称カッパスツール)は人懐こい表情で昼も夜も利用者に語りかけ、広場照明は印象的な三本柱で情緒的な光を広場に灯す。しかし、交通広場の歩車道照明は発注段階で仕様が変更され、結果的に当初設計とは異なるものが現場に入り、残念ながら歩行者にとって目に眩しい光となってしまった。様々なことが起こる公共事業とはいえ、その場所のために何が良いか真剣に考えてきた設計者やデザイナーの意思や考えはもっと尊重されるべきではないか。本当にいいものをつくるためには、発注、設計、製作それぞれの立場にある人が、前例や慣習に甘んじることなく、考え続けることを辞めず、意識を持って諦めずに取り組む必要がある。
境界の設え
フラットな広場の中ではちょっとした地形の変化や立ち上がりが印象的な空間をつくりだす。芝生広場は緩やかなアンジュレーションの周囲にレンガを階段状に立ち上げて人が佇める場所にした。トスカーナレンガをより印象的に使えないかという発注者のリクエストもあり、高さは歩行者の目線を基準にスタディして決めた。また、芝生広場にある円形ステージはイベント時のお立ち台や子供の遊び場であり、そのサイズは大相撲の土俵の大きさにすることで馴染みのあるスケールとした。
利活用ワークショップからオープニング実行委員会へ
平成27(2015)年度に駅前広場の最終整備と並行して、市からの委託(都市再生推進法人でもあり牛久駅西口の再開発施設牛久エスカードの管理運営に関わる第3セクター、牛久都市開発株式会社へ随意契約)で、広場に合わせた利活用ワークショップの企画運営に携わり、実行委員会立ち上げのプロセスに関わった。議論のプロセスでは計画当初からデザイン監理ワーキングに至るまで継続的に関わり続けた国士舘大学の二井先生を中心に、「工事中にできること」、「オープニングでできること」、「広場完成後にできること」などフェーズに応じた市民主体の活動可能性についてのブレストや、実行委員会・市役所・関係団体との関係性や体制のイメージの共有などを行いながら、準備会含め計6回の協議やワークショッップを経て、平成28年2月に「うしく駅東口オープニング実行委員会」(事務局:牛久市都市計画課)が発足した。
年度が明け、業務とは離れたが8月の広場オープニングに向けて月に一度の頻度で開催されたオープニング実行委員会の打合せにはできるだけ参加しながら二井先生とサポートを行った。オープニング実行委員会の母体となった組織はNPO法人牛久駅前かっぱつ化実行委員会(http://www.ushiku-shimin.jp/uckdp3/)で、駅前広場のリニューアルを考えるワークショップにも参加していたメンバーを中心に立ち上がった市民団体である。ここに、インターネットを使って牛久のローカル情報の発信やイベント・プロモーション活動を展開するNPO法人ちゃんみよTV(http://chanmiyo.tv/)、牛久市(http://www.city.ushiku.lg.jp/page/page004312.html)シティプロモーション、牛久市商工会青年部(http://www.ushiku-seinenbu.com/)、ぶどう園通り商店街(https://www.facebook.com/budouenst.ushiku/)、牛久および周辺の自然環境をフィールドに環境改善活動・支援事業展開しているNPO法人うしく里山の会(http://ushiku-satoyama.org/)が加わり、今後の広場利活用を進める上でも貴重なチームが編成された。実行委員長を務めたちゃんみよTVのMC、綾部みよさん(愛称ちゃんみよ)を中心とした実行委員会の皆さんの尽力に心から敬意を表したい。綾部さんのことはFacebookを通じて活動を知って声をかけた。牛久エスカードの特設スタジオからインターネット配信で平日毎日1時間の放送を5年以上続けていて、2016年7月28日に放送1000回を達成している。彼女の牛久を思う気持ちが実行委員会の大きな原動力となったことは間違いない。
告知ポスター作成にあたってキャッチフレーズをつくろうという話になった。「牛久市民でよカッパ!」は、牛久で育つ若い人たちへの綾部実行委員長からのメッセージでもある。
ひろばの愛称募集
実行委員会は広場オープニング企画告知と同時に愛称募集も行った。約1ヶ月の募集期間で188件の応募があり、実行委員会を中心とした愛称選定委員会で「やっぺやっぺ広場」に決定した。昭和56年から続く牛久かっぱ祭り(http://www.ushikukankou.com/matsuri_kappa01)での河童囃子が名前の由来となっている。応募者はかっぱ祭りが始まった頃に牛久に移り住んできた男性で、当時の河童囃子が印象的だったそうだ。
広場の芝張りイベント
オープニング当日は広場の芝張りイベントも開催された。NPO法人うしく里山の会の協力も得て、夏休みだったこともあり、市内在住の親子が多数参加し約200m2の芝張りを行った。
地元の高校生と一緒にオープニング企画を行うことは綾部実行委員長の肝いりだった。音楽やダンスなど数々のパフォーマンスでイベントを盛り上げた。みんなで「よカッパー!」、彼らの記憶にも残ったことと思う。
ほろよい横丁
毎年夏に開催している牛久市商工会青年部によるほろよい横丁は、この年広場のオープニングに合わせて開催され、開催6回目で過去最大の売り上げを記録したという。
駅前広場で続いた熱のこもったパフォーマンスの様子。牛久の駅前は音楽が似合う。(動画)
「芋千」の夢
(上記2点、芋千Facebookページよりhttps://www.facebook.com/imocen/)
東口を出てすぐ右手に広場に面した一軒のお店、芋千(いもせんhttp://imo1000.com/)がある。店主の冨岡大晃さんはかっぱつ化実行委員会のメンバーでもあり、利活用ワークショップで出たアイデアのかっぱ出没プロジェクト(かっぱの姿をして工事現場に出没)やオープニングでのライブパフォーマンスも行うなどマルチな才能を持つ人だ。広場完成後のある日、お店のFacebookページにコメントがあがった。『やっとできました。野立ての赤い傘。これやるの夢だったんす。』店の前に縁台と傘を出すという念願が叶ったという内容だった。広場がきっかけになって、ひとつ夢が叶う。こういう出来事が少しずつ広場に積み重ねられていくといいなと思った。
たくさんの人が関わり、長い時間をかけてきたプロジェクトについて、サラリと語ることはできなかった。実は僕自身、計画当初こそ関わっていたが、基本設計段階では一旦現場を離れ、実施設計から再びプロジェクトに関わることになった。まだまだ書ききれないほど、いろいろ悩み、考えたプロジェクトだったので、つい長文になってしまった。入社以来、計画当初からずっと担当者として最後まで頑張った田中もこの場を借りて労いたい。今もまた、広場ではいろんな人が佇み、思いを育んでいると思う。ともあれ、今日も名もなき日常の風景が牛久の人たちにとって印象的でありますように。
以上
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崎谷 浩一郎Koichiro Sakitani
(株)イー・エー・ユー|EA協会
略歴:
1976年 佐賀生まれ
1999年 北海道大学工学部土木工学科卒業
2001年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 修士課程修了
2001年 日本工営(株) 勤務
2002年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程入学
2003年 (有)イー・エー・ユー 設立
2005年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程中退
2008年- 国士舘大学非常勤講師
2011年- 文京区景観アドバイザー
2011年- 東北大学非常勤講師
2012年- 土木学会デザイン賞幹事
主な受賞歴:
2010年 グッドデザイン賞(旧佐渡鉱山北沢地区広場および大間港広場)
2010年 グッドデザイン賞(長崎中央橋)
2011年 グッドデザイン賞(大分竹田白水ダム鴫田駐車場・トイレ)
2019年 都市景観大賞特別賞(山中湖村平野 ゆいの広場ひらり)
組織:
(株)イー・エー・ユー
代表取締役 崎谷 浩一郎
〒113-0033 東京都文京区本郷2-35-10本郷瀬川ビル1F
TEL:03-5684-3544
FAX:03-5684-3607
業務内容:
・土木一般、建築、造園等に関わる景観デザイン、設計、コンサルタント業務
・都市開発、都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務
・その他上記に付帯する業務
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—東北大学建築・社会環境工学科景観・デザイン演習—