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2021.07.02
31|長門湯本温泉 土木・ランドスケープデザイン
金光 弘志((有)カネミツヒロシセッケイシツ|EA協会)
山口県最古・開湯600年の歴史をもつ長門湯本温泉は、音信川(おとずれがわ)沿いに広がる山あいの自然豊かな温泉街である。かつては団体客中心に賑わいをみせていたが1984年をピークに宿泊客数の減少、2016年の老舗温泉ホテルの倒産など様々な問題をかかえていた。長門市では廃業したホテルの跡地利用にあたり、星野リゾートにホテル誘致とともにマスタープラン作成を委託し温泉街再生の観光まちづくりプロジェクトがスタートした。プロジェクトは官民連携推進体制構築、民間事業者による外湯再建、まちづくりファンド組成、光のまちづくり、社会実験、河川準則特区による川床の設置、道路協力団体によるベンチ等の設置、プロモーション戦略、空き家リノベーション、エリアマネジメントなど多くの取り組みによって実現している。これらは各専門家によって情報発信がされているのでそちらを参照いただきたい。ここでは金光が担当した土木・ランドスケープデザインについて紹介する。
マスタープランでは「全国の温泉地ランキングTOP10入り」という目標とともに、長門湯本温泉における魅力的な温泉街形成のための6つの要素「外湯」「食べ歩き」「文化体験」「そぞろ歩き(回遊性)」「絵になる場所」「佇む空間」の整備が掲げられており、土木・ランドスケープデザインでは「そぞろ歩き(回遊性)」「絵になる場所」「佇む空間」の創出が役割として求められた。
2016年1月整備前の温泉街図。赤線で囲んだ敷地が廃業したホテル跡地である。音信川沿いには河川遊歩道、おとずれ足湯、渡せ橋(沈下橋)、音信川河川公園、水辺の広場など多くの施設が既に整備されていた。
2021年3月の整備完了時の温泉街図。ホテル跡地には長門湯本温泉駐車場、星野リゾート界長門、恩湯広場、事業予定地として暫定利用の芝生広場が整備され、長門湯本温泉駐車場と音信川をつなぐ竹林の階段、紅葉の階段などの回遊動線がつくられた。
長門湯本温泉の玄関となる国道316号からの長門湯本温泉駐車場ゲート。元々別の場所にあった長門湯本温泉バス停も駐車場内に移設された。写真中央奥はバス回転スペースとなっている。
長門湯本温泉駐車場。駐車台数は一般車95台で休日の日中は満車になることも多い。茫漠とした空間とならないようにトウカエデの並木を挿入している。
長門湯本温泉駐車場にある小広場はかつての地名から「堂ノ上広場」と名付けた。カツラの樹林と敷地にあった自然石を配置している。竣工後の夏の暑さで葉が傷んでいるが枯れているわけではない。
長門湯本温泉駐車場バス回転スペース奥にある「みはらし座」。高台を利用して眺望スペースを整備した。音信川や赤瓦屋根が印象的な温泉街を一望できる。
駐車場から温泉街へと至るメイン動線の「竹林の階段」。長門湯本温泉を代表する「絵になる場所」として位置づけている。約350本のモウソウチクとLEM空間工房による行灯照明と光のデザインによって幻想的な印象となっている。
西の高野と称される曹洞宗古刹・大寧寺に向けたコの字配置デザインの「礼湯(れいとう)泉源モニュメント」。かつては武士や僧侶といった高貴な身分の人のみ入湯を許された礼湯があった場所に位置する。
竹林の階段からつづく「竹林の路」。舗装材は本プロジェクトのために急勾配に対応する側面特殊溝加工した自然石インターロッキングブロックによって整備した。
長門湯本温泉のシンボル空間となる「恩湯広場」。芝生広場や河川階段護岸を一体として命名している。人々がなにげなく音信川へと足を運ぶように広幅員の階段護岸とし、腰掛けとなる段差とともに両脇護岸にも座面石を設けて川の舞台のような場を構成している。
もとは休耕田の棚田であった場所に長門湯本温泉駐車場から温泉街へと至るサブ動線として整備した「ゆずきち坂」。もとの棚田の石積み擁壁にスロープ整備において新たな石積みを挿入している。長門市の名産「ゆずきち」の苗木を植えており、将来的には観光客へのPRの場となる。
高台にある長門湯本温泉駐車場と音信川沿いの温泉街をつなぐ第二動線として整備した「紅葉の階段」。約13mの高低差・108段の階段はジグザグ配置として高低差による不安感を和らげている。階段両脇のモミジの半分は温泉街整備地にあった樹木を移植している。
恩湯通りに設置したベンチ群。再生木材の座面、ヒバ集成材の背もたれ、人工大理石のテーブルによって構成している。星野リゾート界長門の音信門で販売されるどら焼きとドリンクとともに目の前に広がる音信川の豊かな表情を眺めながら時間を過ごす場としている。
橋梁耐震改修にあわせて舗装・高欄・親柱を再整備した「曙橋」。曙橋の奥は星野リゾート界長門が位置する。既製の歩行者兼用C種高欄のトップレールにコの字型に加工したアセチル化木材を被せ端部側面にもまわしている。親柱は既存の親柱の天端石を厚みのある自然石に取り替えLEM空間工房がデザインした行灯器具を載せている。
春になるとソメイヨシノが満開となる「恩湯通り桜の小径」。道路管理者との協議により許可車・軽車両・緊急車両を除き歩行者専用となっており、車を気にすることなく安心してそぞろ歩きができる。
音信川の上流に位置する「一ノ瀬広場」と「一ノ瀬渡し」。もともと幅員が広い市道区間に「一ノ瀬広場」と名付けた階段護岸を整備して前述の恩湯広場の階段護岸とともに既設の河川遊歩道へと降りる動線を整備して回遊性を創出している。さらに4カ所の飛び石(「渡し」と命名)を整備して音信川両岸の回遊性が生まれている。ここは4カ所の飛び石のひとつで、この付近が一ノ瀬と呼ばれていたことから「一ノ瀬渡し」と名付けている。
一ノ瀬渡しの上流、大谷山荘前にある既存の飛び石は河川遊歩道とともに昭和の終わりに整備された施設である。今回のプロジェクトで「二ノ瀬渡し」と名付けた。この既存の飛び石の存在が今回のプロジェクトで音信川への飛び石整備を提案したきっかけとなった。
一ノ瀬渡しの下流、星野リゾート界長門の前に位置する「柳桜の渡し」。右岸に新たに植えたソメイヨシノと左岸の既存シダレヤナギをつなぐ意味を託し名付けた。
既存の沈下橋「渡せ橋」。背後の階段護岸も河川遊歩道とともに昭和の終わりに整備された施設である。これらの既存の河川内施設を活かしつつ、恩湯広場や一ノ瀬広場の幅広い階段護岸の整備やあらたな飛び石(渡し)の挿入によって親水性がより強化された。
既存の「おとずれ足湯」は河川遊歩道内の広場スペースにある。前述の「紅葉の階段」は「おとずれ足湯」を正面に見るように配置している。
岩場へ足を踏み入れることを想定して蛇行配置とした「清水の渡し」。その昔この付近から清水が湧き出ていたことから名付けた。
恩湯広場につながる「湯端(ゆばた)の渡し」。かつての地名から名付けている。飛び石はGRC製で擬岩仕上げとしている。飛び石の大きさや間隔は簡易なモックアップを作成して決定している。
実施設計コンサルタントによって京都大学防災研究所で行われた1/15モデルによる飛び石水流実験の様子。
新たに整備されたステンレス製の配湯施設は周辺景観に配慮してダークブラウン色のフィルムラッピングを行い、足元の配管類がみえないように木塀を設置している。中高木・低木・地被の多層植栽や配湯施設を解説するサインも整備している。
所在地:山口県長門市
竣工年:2020年3月
諸元:約20ha
関係者:
事業主体|長門市、山口県(河川工事)
土木・ランドスケープ|(有)カネミツヒロシセッケイシツ
照明|(株)LEM空間工房
グラフィック|(株)ファンタス
マスタープラン|(株)星野リゾート
まちづくり司令塔|(有)ハートビートプラン
まちづくり|長門湯本温泉まち(株)
長門湯守(株)
長門湯本温泉オソト活用協議会
(株)アルセッド建築研究所
(株)日本海コンサルタント
東京都立大学川原研究室
金剛住機(株)
(株)YMFG ZONEプラニング
恩湯設計|設計事務所岡昇平
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金光 弘志Hiroshi KANEMITSU
(有)カネミツヒロシセッケイシツ|EA協会
ランドスケープアーキテクト
略歴:
1968年 広島市出身
1991年 日本大学理工学部交通土木工学科卒業
1991年 アプル総合計画事務所(〜2000年)
2000年 オンサイト計画設計事務所(〜2004年)
2004年 有限会社カネミツヒロシセッケイシツ 設立
主な受賞歴:
2020年 グッドデザイン賞(長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト)
2021年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト)
組織:
(有)カネミツヒロシセッケイシツ
mail:kanemitsukhdo@gmail.com
業務内容:
・公園、庭園、建築外構など屋外空間の計画立案、設計、監理
・ 道路、橋、河岸など土木施設のデザインに関する計画立案、設計、監理
・ 地域ならびに都市計画に関する調査、研究、計画立案
・その他上記に付帯する業務
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