SPECIAL ISSUE/ all

2011.08.01

エンジニア・アーキテクトとしての自覚

金光 弘志((有)カネミツヒロシセッケイシツ|EA協会)

私は、エンジニア・アーキテクトにはふたつのタイプがあると考える。ひとつは、土木エンジニアという言葉によって一般的に連想されるように、橋梁工学や河川工学等、土木の個々の専門分野をベースとしたエンジニア・アーキテクト。力学や専門工学を直に駆使して形や空間を創造する能力を有しており、自然と真っ向から対峙する土木技術者の本来あるべき姿と考えている。もうひとつのタイプが、橋梁・河川・港湾・道路など様々な土木分野を扱い、設計対象に応じて個々の専門家とコラボレーションしてデザインを行うエンジニア・アーキテクトである。私は実際に構造計算をすることはできないし、外部空間の様々な要素を対象とするので後者に属する。

いくつか、私が手がけたプロジェクトを紹介したい。

日本女子大学泉プロムナードは、2005年秋に行われた大学主催の設計者選定プロポーザルの最優秀案で、カスヤアーキテクツオフィスとの共同設計作品である。大学創立百周年事業のひとつとして正門前の旧校舎を解体した跡地に広場(泉プロムナード)が整備された。記念性・象徴性・歴史性とともに大学からの与件として求められていた機能性・社会性・文化性という多岐にわたるテーマを表象する造形を生み出している。基本・実施設計期間3ヶ月、施工期間(設計監理期間でもあるが)5ヶ月とプロポーザル時から僅か1年足らずの2006年8月に竣工を迎えている。設計時および施工時には学生や教職員を対象としたワークショップが開催され多くの意見交換を行い、圃場での樹木確認に立ち会ってもらうなど対話と共同作業によって生み出された作品であることも付け加えておきたい。

写真1・2 日本女子大学泉プロムナード

FプロジェクトとLプロジェクトは、ともに今夏竣工を予定しており、Fプロジェクトは8.6haの民間企業の工場1期整備、Lプロジェクトは2.5haの公共図書館の外部空間デザインである。いずれも並木道を介しての視線の行方、建築、周辺環境との関わりがテーマとなっている。それぞれ時代を代表する建築家とのコラボレーションである。

写真3(左)/Fプロジェクト 写真4(右)/Lプロジェクト

これらのプロジェクトをみて、私をエンジニア・アーキテクトではなくランドスケープアーキテクトだ、と思ったかもしれない。なぜなら、多くのプロジェクトは民間事業で主に植栽を扱った場のデザインであるから、あるいは、建築家との共同作業として建築の外部空間を対象としたデザインであるから等の理由だと思われる。その見方は間違っていない。現に私の持つ資格は登録ランドスケープアーキテクトである。

しかし、私は「土木の人」「ランドスケープの人」といった枠組みにとらわれて仕事を行っているのではない。そもそも、対象とする外部空間は絶え間なく連続しており、要素も相互に関係性をもってつながっているからである。だから、公共事業とか民間事業といったことにとらわれないし、橋梁や河川でも、広場でも個人邸のお庭でも自らのデザイン対象としている。また、建築設計はできないけれども外部空間から建築内部へと連続して通じる半ばパブリックな空間であればデザインの対象である。この対象にある場・空間・構造物をデザインして普遍的な価値として社会が認める作品づくりに努める。それが私のデザイナーとしての志である。

この志は、私が土木学科を卒業して独立するまでの13年半の下積み時代を背景としている。最初に勤めた設計事務所で公共空間を対象として都市デザインや土木デザインを行い、しかし、それだけでは外部空間をトータルにデザインできるスキルは身につかないと考え、建築家とのコラボレーションによって民間のランドスケープデザインプロジェクトを数多く手がけている設計事務所に転職して実務を担当してきた。

エンジニア・アーキテクトの職能に関する特集であるにもかかわらず、読者を混乱させたかもしれないが、私は先に述べたエンジニア・アーキテクトの後者のタイプである。その設計対象がたまたま建築の外部空間であり、あるいは民間のプロジェクトであったというだけで、例えば、設計対象が似たような広場や公園であったとすればエンジニア・アーキテクトの枠組みにいる存在であっても良いと理解いただけると思う。

私が手がけたプロジェクトの話に戻る。仕事の依頼を受けると簡単に与件を聞いたうえですぐにデザイン作業に入る。ドローイング、模型、パース等をもって事業主や建築家と議論を重ねる。コラボレーションする構造家、照明やサイン等のデザイナーも参加する。何度もデザインをやり直したうえで、実施設計をまとめ、積算段階での調整を終え、工事発注に至る。施工段階での設計監理では、事業主や建築家に加えて施工者との対話を重ねながら詳細な現場指示、施工図や製作図の確認と承認、サンプルやモックアップ確認、工場や圃場での検査、コストマネジメント、竣工検査といったプロセスを経て竣工となる。プロポーザルから竣工まで1年未満しかなかった日本女子大学泉プロムナードでも、設計から施工まで2〜3年のFプロジェクトやLプロジェクトでも、多少の差異はあっても一貫したこの流れは変わらない。土木事業では、設計段階の流れは全く同じだと思うが施工段階の設計監理への関わりとなるとそうはいかないようである。やはり、施工段階では設計では予期しないことが発生することが多く、また材料の最終決定など設計では示しきれないスペックもあるので、やはり最後は現場に関わり、現場で決めることが最善の方策であると考えている。その意味では、エンジニア・アーキテクトが理想とするプロジェクトへの関わり方はこうした流れとほぼ似ているのではないかと思われる。

では、こうした理想とするプロジェクトへの関わり方によって目指すもの、それは地域の文化に貢献し、社会の普遍的価値となるストックを創出することであろう。この目的のためにエンジニア・アーキテクトは、課題としてとらえている発注システム、プロセス、報酬、著作権のあり方など様々な提言を行っているわけだが、一方的に声を発していてはイーブンな関係とは言えないと思う。逆に社会から求められていることは何かと考えてみると、創出された空間や構造物に対する「結果」と、エンジニア・アーキテクト個人として「責任」を負うことではないだろうか。いくらプロセスが素晴らしくても「結果」が悪ければエンジニア・アーキテクト個人として甘んじて批判を受け入れなければならないのである。先に紹介したプロジェクトにおいても設計者は事業主の代理人としてデザインのみならず、そのデザインの基盤となる技術的事項についても等しく承認することで一切の責任を負っている。今まで土木分野では匿名性のもとに設計活動が行われてきて、その匿名性がゆえに責任という自覚もやや曖昧であったと思われるが、高々とエンジニア・アーキテクトを社会に宣言するということは、相応の覚悟をもって責務を果たすことだと考えている。

次世代を担うエンジニア・アーキテクト

金光 弘志Hiroshi KANEMITSU

(有)カネミツヒロシセッケイシツ|EA協会

ランドスケープアーキテクト

 

略歴:

1968年 広島市出身

1991年 日本大学理工学部交通土木工学科卒業

1991年 アプル総合計画事務所(〜2000年)

2000年 オンサイト計画設計事務所(〜2004年)

2004年 有限会社カネミツヒロシセッケイシツ 設立

 

主な受賞歴:

2020年 グッドデザイン賞(長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト)

2021年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト)

 

組織:

(有)カネミツヒロシセッケイシツ

mail:kanemitsukhdo@gmail.com

HP:http://www.khdo2004.com/

 

業務内容:

・公園、庭園、建築外構など屋外空間の計画立案、設計、監理

・ 道路、橋、河岸など土木施設のデザインに関する計画立案、設計、監理

・ 地域ならびに都市計画に関する調査、研究、計画立案

・その他上記に付帯する業務

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