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2011.08.01

04|商店街とショッピングセンター:歴史と記憶に関して

高松 誠治(スペースシンタックス・ジャパン(株)|EA協会)

「あの思い出の街角はどこへ行った?」寂しく変わり果てた故郷の商店街を前に、地方出身者(それは私)は嘆く。幼い頃の記憶、多感な頃の諸々の出来事、自己と他者との繋がりの確認。今、あの場所に帰って記憶をたどることができない。近頃は、閑散とした中心市街地に対する議論があまり聞かれなくなったような気がする。「シャッター街」という言葉も、もはやセンセーショナルな響きを失いつつある。
こんな商店街の「敵」としてしばしば位置づけられるのがショッピングセンター(以下、SC)、特に郊外型の大型SCである。その利便性から、市民には概ね好意的に受け入れられているが、「街」の支持層からの評価は一様に低い。地域経済の観点からだけでなく都市デザインの観点からも、自動車依存の象徴であり、建築的な質も低く、また経済的に立ち行かなくなると撤退するかもしれないSCは好ましくないというがその主張である。
しかし一方で、「街」よりも街らしいSCも存在する。写真に示す千葉県船橋市のSCがそれである。1981年のオープン当初は、2核1モールというアメリカの古典様式(?)を踏襲したものだったが、その後、増殖、新陳代謝、外科手術を繰り返し、現在の姿となっている。このような経緯から、オーガニックな雰囲気の(巧まずして個性的になった)空間が随所にあり、既成市街地のような回遊の面白さがある。もちろん、大手ディベロッパーによる運営のもとで、世界トップレベルの綿密な空間レイアウト、店舗配置の検討が行われており、買物の魅力度や利便性は高い。

 

写真1 ららぽーとTOKYO-BAY(千葉県船橋市)

 

さらに特筆すべきは、このように変容しながらも「30年続いている」ということである。かつて親に連れられてきた子供が、今は成人して新たな家族を連れている。あるいは3世代が一緒に訪れているかもしれない。個々の店舗は代わっていても、特徴的な場所は変わらずそこにあり、関連付けられた記憶とともに継承される。街よりも、「街」的に人々の脳内に浸透しているのではないかと思う。
今後もリニューアルを重ねながら存在することと思う。もちろん、建築的、空間的な部分については改善の余地がある。例えば、臨海部という立地を活かして、隣接する船橋港親水公園と連続的な屋外空間を形成するもの一つの手であると思う。表層は時勢に対応して更新されていくと思われるが、人々から「あの場所」といわれるような場の特性、空間構成は残ってほしいと願う。

さてここで突然、舞台を船橋市から英国の港町リヴァプールへと移す。
写真の「Liverpool ONE」は、リヴァプールで最新かつ最大のSCである。核テナントのデパートのほか、大小のファッションストア、レストランなどを見ると、そのテナントミックスはSCそのものである。ただ、その立地は中心市街地の真ん中であり、また空間構成は、伝統的なハイストリート(商店街)を継承し、街路に面した店舗配置を基本としている。また、ブロックごとに分割された建築物群は、周辺の伝統的な街路・街区に違和感なく埋め込まれ、繋げられている。実はこのプロジェクトはオフィスや住宅も含む複合再開発であるが、その最重要テーマは「この場所の小売業の再生」であった。

 

写真2 Liverpool ONE (英国リヴァプール)

 

細かく見れば、エスカレータの配置など一部の空間構成には文句をつけたい部分もあるが、歴史的な街のレイアウトを継承するマスタープラン、質の高い空間づくりについては、日本の中心市街地が学ぶべきところが多くあると思う。日本の中心市街地も、400年以上「そこ」にあり続けているものが多く、地勢的な必然性や、歴史の積層による空間の個性がある。中心市街地、とくに商店街の質は、その地域の生活の質そのものを反映する。後回しにせずに、再考しなければならない対象であると思う。
商店街は、住宅地などと違って、地域内のほとんどの人々の記憶と結びついている。その再生には、専門的な視点からの「場」の理解とデザイン戦略が必要であり、また何より小売業の集積地として成立させなければならない。SC経営からも多くを学びながら、多軸的な専門家のチームで取り組まなければ、その再生は達成できないだろう。ショッピングや外食を楽しみ、人との繋がりや時間の繋がりを感じられる「場」が、日本全国の「わが街」にできることを願ってやまない。

風景エッセイ

高松 誠治Seiji Takamatsu

スペースシンタックス・ジャパン(株)|EA協会

資格:

技術士(建設部門:都市および地方計画)

 

略歴:

1972年 徳島市生まれ

1995年 徳島大学建設工学科卒業(都市地域計画)

1997年 東京大学大学院社会基盤工学専攻修士課程修了(交通工学)

1998年 東京大学大学院社会基盤工学専攻博士課程中退(景観デザイン)

1998年~2000年 (株)プランニングネットワーク勤務

2002年 ロンドン大学UCLバートレット校修士課程修了(先進建築学)

2002年~2006年 Space Syntax 社(ロンドン)勤務

2006年~現在 スペースシンタックス・ジャパン(株)設立、代表取締役

2008年~2014年 首都大学東京 都市環境学科 非常勤講師

2015年~ 東京大学まちづくり大学院 非常勤講師

 

組織:

スペースシンタックス・ジャパン(株)

代表取締役 高松 誠治

〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-52-5

原宿N.S.H. アネックス206

TEL:03-3403-3299

HP:http://www.spacesyntax-japan.com/

 

業務内容:

・中心市街地、商店街等における歩行者動線・行動の調査分析

・公共空間整備、再開発事業等における計画設計案の評価分析

・既存の公共施設、商業施設の再活性化を目指した空間ポテンシャル分析

・人の認知や活動、地域社会の観点からの都市空間のポテンシャル分析

・防災、防犯、交通安全等の観点からの都市空間のリスク分析

・GISを用いた、都市デザインのための各種空間特性の解析、活用

・その他、空間構成の計画、レイアウトデザインに関するコンサルティング

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エンジニア・アーキテクトのしごと

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風景エッセイ

2011.08.01

04|商店街とショッピングセンター:歴史と記憶に関して
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