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2011.11.01

08|モケイづくりを始めよう その5~植栽の表現

西山 健一((有)イー・エー・ユー|EA協会)

■はじめに

前号では建物の表現について取り上げた。今号では土木の模型における植栽の表現を取り上げる。植栽の表現は工夫次第で様々なバリエーションが考えられる。ここでは土木の模型の中で使用頻度の高い「高木」の表現に絞って紹介する。
建築雑誌などを見ていると、お隣の分野である建築の模型では、実に様々な高木の表現がなされている。一番ポピュラーなカスミ草を用いた樹木、アクリルやガラスを用いた透明感のある樹木、プラ板をピンで留めただけの樹木などデフォルメの仕方や素材の使い方に様々な工夫が見られる。建築模型では多くの場合、樹木は建築本体を引き立てる脇役的な存在である。しかしその表現方法一つによって、模型全体の印象が大きく異なってくる。
またもう一方の隣の分野であるランドスケープの模型では、樹木が模型の主役になることが多い。そのため、1本1本の樹木が何の樹種であるのか識別できる位まで細かく作り込まれるものもある。模型全体が華やかになるよう、特定の季節(春や秋などが多い)をイメージして作られる場合もある。

 

■土木の模型における植栽表現

では、土木の模型ではどうか?前号の建物表現でも触れたが、樹木の表現を考える上でも、「主役/脇役(又は図/地)」そして「スケール」という2つの観点は大切なポイントになる。以下順に紹介する。

○「主役」であるか「脇役」であるか
土木の模型において、樹木は「主役」と「脇役」のどちらの場合もありうる。例えば橋梁のような構造物の模型の場合、建築模型と同様に主役は構造物になる。そのためそこに添えられる樹木は脇役的な存在になる。(脇役であるからといって、いい加減に表現して良いという話ではない。)作る模型のスケールや性格に応じて表現を簡略化し、主役である構造物が引き立つような適切な表現を選ばなければならない。
また樹木自体が主役になる場合もある。例えば「樹木に囲まれた駅前広場」や「シンボリックな街路樹が植えられたメインストリート」などが該当する。こういう種類の模型の場合、ランドスケープの模型と同様に、樹種毎に樹木を作り分け、場合によっては季節感も演出することも求められる(写真1)。
同じ模型に「主役」と「脇役」が同居する場合もある。前号で紹介した建物と同様、前者を「図の樹木」、後者を「地の樹木」と仮に呼ぼう。古くから残る既存樹木や計画上シンボル的に植える樹木などが「図の樹木」にあたる。他の樹木とは表現を差別化し、その樹木が模型の中で浮き上がって見えるように表現したい(写真2)。一方、山に生えている樹木や計画上それほど重要でない緑地の樹木は「地の樹木」と言える。山の樹木の場合、地形だけの表現だけにとどめ、あえて樹木を表現しない場合もある。表現する場合でも1本1本表現せずに木々の塊をボリュームとして表現する方法もある。「地」の樹木は、多くの場合本数が多くなるため、制作の手間を考えながらその表現手段を選びたい。

左)写真1 樹木が主役の広場:樹種毎に色を使い分けつつ、春の広場の様子を表現
(U駅駅前広場計画案スタディ模型 S:1/150 EAU作成)
右)写真2 堀割周辺の空間:街路樹は「図の樹木」であり、「地の樹木」である周辺の宅
地の樹木と表現を差別化している。(H市堀割周辺空間検討模型 S:1/200 EAU作成)

○スケールに応じた表現
もう一つ重要な点がある。スケールである。よく学生が課題で作る模型を見ると、1/500の模型であっても、1/50の模型であっても、同じカスミ草を使用している場合が見受けられる。同じ材料を単にそれぞれのスケールに合わせて長さと大きさを変えただけである。スケールが10倍異なれば、当然高さや葉張りも10倍異なる。しかしそれだけでなく、葉の大きさや密度も10倍異なる。高さや大きさをスケールに合わせるだけでは不充分で、葉の大きさや密度感も変えないとスケール感が狂ってしまう。作るスケールに合わせて、樹木を作る素材や表現の方法を変えることを心がけたい。

 では具体的にはどのような表現方法があるのか?以下にスケール毎にその方法を紹介する。

■樹木の表現例

①1/1000程度の広域模型
1/2000よりスケールの小さい模型では、樹木はほとんど表現対象とならない(1/5000の模型では10mの樹木でも2mmになってしまう)。1/1000程度(10mの樹木が10mm)の模型から樹木が表現対象となる。この位のスケールの場合、マップピンと呼ばれるピンがよく用いられる(写真3)。プラスチック製の球体がついたピンであるため、模型に設置しやすい。スプレーで様々な色に着色をすることによって樹種を表現することもできる。サイズは何種類かあるものの、基本的には規格品の画一的な大きさであるので、様々な大きさの樹木の表現には向いていない。街路樹など大きさがある程度揃った樹木の表現に使用すると良い。またこのスケールでは樹木1本1本を表現しない場合もある。「図」となる樹木を除いて、「地」となる樹木は、綿状の素材などを使って一つの塊として表現する方法もある(写真4)。

左)写真3 1/1000の樹木の例:マップピンを使用
右)写真4 1/1000模型での樹木の表現例:街路樹はマップピン、緑の塊には綿状の素材を使用。
(A市歩道橋架橋位置周辺模型 S:1/1000 EAU作成)

②1/500~1/300程度の模型
プロジェクトの初期に作成することの多いスケールである。1/300では10mの樹木が33mmになる。1/300程度のスケールの場合、ピンや針金のような部材に綿状の素材をつけて樹木にする場合が多い(写真5)。高さや葉張りをある程度ランダムにつくることもできる。また小さいハサミを用いて樹形を整えることや針葉樹と広葉樹を作り分けることも可能である(写真6)。

左)写真5 1/300の樹木の例:ピンに綿状の素材を貼りつけて作成
右)写真6 1/300模型での樹木の表現例:様々な樹種の樹木を表現
(N公園検討模型 S:1/300 EAU作成)

③1/200~1/100程度の模型
1/200~1/100程度の大きさになると、樹木自体の大きさも存在感を持ってくる(1/100では10mの樹木が100mmになる)。1本1本の樹木を丁寧に作らないとスケール感が出ない。1/100程度のスケールの模型の場合、樹種の区別もできるよう、樹木図鑑で、枝の出方、葉の付き方、全体の樹形、高さなどを調べながら制作する(写真7)。

左)写真7 1/100の樹木の例:カスミ草を束ねて作成
右)写真8 1/100模型での樹木の表現例:(熱海渚親水公園検討模型 S:1/100 EAU作成)

またこのスケールになると、樹木の高さや表情もはっきりと認識できるスケールであるため、竣工後何年後の姿なのか?季節はいつなのか?など表現される空間の「時期」を具体的にイメージして作らなければならないケースもある。間違っても、サクラがピンク(春の開花)で、同時にモミジがオレンジ(秋の紅葉)というような事は避けなければならない。

④1/50~1/20程度の模型
1/50位より大きい拡大模型になると樹木は主役というよりは、検討したい部分の脇に添えられる存在になる。10mの樹木は1/20で500mmの大きさにもなる。場合によっては樹木全体を作るのではなく、幹のみを制作する場合もある。いずれにしても、拡大模型の中で樹木を植えて何を検討するのか(例えばベンチを樹木との距離感を把握する等)を考えるようにしたい。

■終わりに

今号では植栽の表現について、樹木の「図」と「地」に着目しながら、スケール毎にその表現方法について紹介した。冒頭でも述べたが、表現方法は無数にある。自分が考えているイメージがより効果的に模型に表現されるよう、デフォルメの仕方や素材の使い方を工夫してもらいたい。次号では、土木の模型の必須要素である「水」の表現について紹介する。

ドボクノモケイ

西山 健一Kenichi Nishiyama

(有)イー・エー・ユー|EA協会

資格:

技術士(建設部門:都市および地方計画)

 

略歴:

1975年 東京都生まれ

1998年 東京大学工学部土木工学科卒業(景観デザイン)

2000年 東京大学大学院社会基盤工学専攻修士課程修了(景観デザイン)

2000年〜2002年 (株)日本設計勤務

2002年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程入学

2003年 (有)イー・エー・ユー設立

2005年 東京大学大学院社会基盤工学専攻博士課程中退(景観デザイン)

2005年〜2007年 国土交通省東北地方整備局 景観デザイン研修講師

 

主な受賞歴:

2008年 土木学会デザイン賞 奨励賞(片山津温泉砂走公園)

2009年 広島南道路太田川放水路橋りょうデザイン提案競技(国際コンペティ

ション)最優秀賞

 

組織:

(有)イー・エー・ユー

取締役代表 西山 健一

取締役代表 崎谷 浩一郎

〒113-0033 東京都文京区本郷6-16-3幸伸ビル2F

TEL:03-5684-3544

FAX:03-5684-3607

HP:http://www.eau-a.co.jp/

 

業務内容:

・土木一般、建築、造園等に関わる景観デザイン、設計、コンサルタント業務

・都市開発、都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務

・その他上記に付帯する業務

 

 

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