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2012.09.11

11 |「国内の石丁場の現況」第2回:呉石材合資会社

前田 格((株)東京建設コンサルタント|EA協会)

今回は、前回に引き続き国内の石丁場の現況について、御影石の産地である瀬戸内の中でも良質な桜御影石(国会議事堂にも用いられている議員石)を産出する倉橋島の呉石材合資会社のお話をご紹介いたします。2007年7月に実施した中川秀己社長と中川竜介専務取締役へのインタビューを元に編集いたしました。

 

1.呉石材合資会社の業務概要

桜御影石(議院石)の生産を、60m3/月程度行っています。平成元年頃までは150m3/月程度の生産量がありました。生産減は、国内での建材としての需要が減ったことと、中国産材に押されてのことですが、中国の影響が大きいです。
議院石は同じ物が中国には無く、独自性の強い商品です。建材としての利用が殆どであり、墓石は10%弱です。しかし、最近墓石が増えてきています。建材は、建築外壁材と雑割の積み石が半々程度です。
大正12年に、国会議事堂の建設にここの桜御影石が採用され、使用石材の約80%を供給しました。このことから、議院石と称するようになりました。倉橋島の他の丁場で出る石は、似ている物もありますが、同じ物はありません。議院石はここの丁場だけです。
島内の他の丁場は皆閉山してしまっています。建材は外装材が主で、25~30mm厚です。建材を採った端材は野面石となります。地方によっては木っ端石と呼ぶようですが、ここでは野面と呼びます。昔は、丁場から出た野面を近所の農家が安く買い取り、段々畑の石積みに使用していました。
賦存量は10万トン程度です。

 

丁場全景

 

石の切り出しの様子

 

2.雇用している石工について

現在、4人の石工を雇用しています。石工は、丁場での石の大割りから雑割石の加工、墓石の加工まで何でも行いますが、積みはしません。

石工の年齢は、60、58、45、42歳程度です。雇用している石工は、他に修行に出てはいません。一からここで覚えました。

国会議事堂の石を供給していた頃は、何百人も雇っていました。今と異なり、当時は便利な機械も無かったことにもよります。

 

 

3.積み石の生産と動向について

墓石などを採った端材から雑割石を生産しています。積み用の雑割石については、4~5千個のストックがあります。大量の注文については、この数しか請けられません。切り出した石はあるものの、商品価値の高い墓石等になる石を雑割に割って出荷する訳にはいかないのです。

石積み用の石は、面240×300控え330の「イン2」雑割だけです。これが現在のスタンダードです。昔は控え1尺5寸の「イン5」もありましたが、40年前くらいの話です。控えは錐状に尖っておらず、三角柱の形です。輸入の中国材は、面300×400控え300で入って来ています。国産の雑割は13個/m2の使用量であることに対して、面の大きい中国産材は8.5個/m2であることから、中国産材の方が積むのが楽です。

価格は、ここの雑割が1個\1,000、中国産材は1個\1,500程度であり、使用量も考慮した単価としては大きな価格差はありません。しかし、中国産材は正確に加工されており土建屋でも積むことができてしまうことや、少ない個数で楽に積めてしまうこと、さらに、倉橋島の石は硬く加工手間がかかることなどで、中国産材に押されていると思われます。現場では手間のかかる石よりも、簡単な石を欲しがります。乱積み用の石は石工から苦情が出ることが多いのですが、雑割は苦情が出ません。現場では石工の意見が通ります。特に乱積みの場合、わがままになる石工が多いです。

雑割の注文は建設会社から来ますが、建材の注文は関ヶ原石材などの大手の石屋から来ます。ゼネコンから直接来ることはありません。

 

雑割石のストック(この写真の山で2~3千個の量)

 

雑割石の形状

 

4.石積み工事の実績及び動向について

数年前に、下蒲刈島三之瀬の防波堤の石を供給しました。元請けの建設会社からの注文でした。修復と新設だったと思います。灯籠が乗った綺麗な防波堤です。積みは坂の山本という石工がやったと聞いています。※1

桂浜のドックの護岸の石積みに今年石を供給しました。※2

 

※1・・・本シリーズ「一人親方の石工」第2回に取り上げた山本宝彦氏のこと。

※2・・・本シリーズ「一人親方の石工」第1回で取り上げた丸谷清氏が積んだ石垣

 

 

5.倉橋島の石積み職人について

倉橋島内では、坪井氏と丸谷氏という積み専門の石工がいます。坪井氏は40代、丸谷氏は75歳くらいの父と40代の息子の2代で石工をやっています。丸谷父の弟子が坪井氏です。

石積み職人は、10年くらい前までは5万円/日の日当に旅費や宿泊費も付くような好待遇でしたが、現在では2万5~6千円/日程度の待遇であろうかと思います。

 

 

6.ここで産出する建築外装材の価格

変動が激しく、価格は固定されていません。概ね、中国産材の6倍程度の価格です。中国産材に対しては、価格ではなく、ブランド価値で対抗しています。

 

 

7.雑割石について

雑割石の価格1個千円程度は、全国的に国産の花崗岩としては横並びの金額であろうかと思います。ただし、他の地域では控え300がスタンダードになりつつあり、ここの控え330はやや大きめのようです。中国産材に押されてはいるものの、中国では生産が減っており、日本に入ってこなくなっています。中国産材の雑割石については、1,000個程度の注文までしか対応できなくなっており、それ以上の注文になるといつ採れるかわからないような状況だと聞いています。そのことの影響と思われますが、最近、雑割石の注文は増加傾向にあります。注文は増加傾向にあるものの、今のところ、4,000個以上のストックを持つことは難しいです。注文は全国各地の建設会社から来ており、特定のお得意先があるといったことではないです。

 

8.近年雑割石を使った工事について

雑割石は海や川の護岸への使用が主です。近年納入した場所としては、桂浜ドック、三之瀬防波堤、太田川護岸です。

 

 

9.雑割以外の積み石の生産について

城石垣用の石を供給したことはありません。

乱積み用の大型の石も生産しています。使用先は個人宅が多いです。これは注文生産となります。

 

 

 

次回がいよいよ本シリーズの最終回です。最終話は、自身も手練れの石工でありながら国内で唯一大学において石積みを教える宮島秀夫先生(ものつくり大学非常勤講師)のお話を紹介したいと思います。

職人礼讃

前田 格Itaru Maeda

(株)東京建設コンサルタント|EA協会

資格:

一級建築士

 

略歴:

1967年 千葉県生まれ

1993年 多摩美術大学美術学部建築科卒業

1993年 (株)地域開発研究所 入社

2011年 (株)東京建設コンサルタント 入社

 

主な受賞歴:

2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鹿児島港本港の歴史的防波堤)

2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)

 

組織:

(株)東京建設コンサルタント

〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-15-6

TEL:03-5980-2648

FAX:03-5980-2613

HP:http://www.tokencon.co.jp/

 

業務内容:

・土木、造園、建築の計画及び設計業務

・都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務

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