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2011.07.01
03|日本石材研究所代表小林喜勝氏の話「その3:積み石の形」
前田 格((株)東京建設コンサルタント|EA協会)
過去2回にわたり、日本を代表する石工職人、小林さんが語る石積の技について、初回は「裏込めの役割」、2回目は「透水と止水、色々な石積み」についてご紹介させていただきました。今回は小林さんが語る石積みの技についての話の最終回として、石積みの極意とも捉えられる「積み石の形」を中心にご紹介します。
1.積み石の形について
基本的に石垣の積み石は、いわゆる2番や3番と言われる胴の部分に接点があります。これは重要なことです。控部分が小さくなりますが、上から見ると矢のような形でも、横から見ればやや太い形が良いとされています。
地震時の上下の揺れは瞬間ですが、横揺れは時間が長いです。木っ端詰めの量が、そのような揺れに対応します。お尻の背を高くすれば、お尻が下がらないのです。石垣の孕みは、お尻の飼番が抜けたりしてお尻が下がることが一番の原因です。矢を縦に高く使った物が並んでいれば、五百年でも千年でも崩れないのです。
先生方は月に一回くらいしか見に来ないことから、上からしか見ません。積まれている石の控えは、どの方向から見ても三角だと思ってしまっています。
良い石垣の積み石はこのような形です(図1)。
図1 積み石の形
青葉城の時に、もっと理想的には四角柱のような石を使えば良いのだが、文化財として将来のことを考えれば上からは矢型で尻の背が高い形が良いと言いましたが、あんまり先生方が三角三角と言うものだから、使われていた石の検分を行いました。
職人達を15班に分けて、15分間で9千個の石をA型(お尻の背が高い)、B型(お尻が平べったい)、AB型(四角柱的な形)O型(先生方が良いと言う間知石型)の4種に分ける検分をさせました。
図2 青葉城における既存積み石の検分時の分類
最初は職人達でも少し戸惑いましたが、5分すると目が良いから覚えてしまいました。その結果、A型が70%以上であり、B型が15%程度、AB型が10%程度、O型は2~3%程度しかありませんでした。
先生方は今でもO型が主だと思っていますし、石工も練積みになれてしまっているからO型だと思ってしまっています。積んでいる時は大きい木っ端を入れるなどをして保ってしまいますが、地震などで尻が下がってしまいます。O型石とA型石の、それぞれの石の下にローラーを入れ、同じ荷重をかければ、O型は前へ転がってしまうのです。
図3 O型とA型の鉛直荷重に対する抵抗
こういうことがわからなければなりません。横揺れの地震に対して、柔構造を維持しなければならないのです。
ショックアブソーバーは必要です。このような栗は、詰石であり、胴込めでもあるので、前に話した裏込めとは異なります。O型で済むのは、低い石垣、荷重の少ない石垣です。
2.練積みについて
練積みとは、コンクリートが出てきてからの言葉だと思います。石に漆喰を使うにしても、それは建築に多かったはずです。例えば、石で蔵など積んだ古い物は、練積みと言ったかもしれませんが、石垣についてはコンクリートができてからだと思います。
港湾構造物で使われていた三和土(たたき)については、建築から出た物で、ハガネ工法のような物であったと思います。練積みとは異なります。
3.自然石積みと切石積みの技術の相違について
自然石を積む際にも、ABOのような事が基準となります。庭師が積む場合、石が動いてもかまわないような場合があります。純粋な庭師が積む石積みは、石垣になりません。自然石しか積めない、今で言う庭師上がりの人は甘柿に例えられます。石を加工できて、自然石も両方やる人は渋柿です。渋柿は甘くなることもできるが、自然石から入った人は絶対に渋柿になれません。加工から入った人は、純粋な甘柿には成りきれないが、甘くはなれるのです。
切石積みができるようになった頃から、このような区分がなされてきたと思います。慶長年間あたりには角石に加工した石を用いていたことから、かなり早い時代からであったと思います。
昔から、切石屋の方が値段が高かったのです。切り込みハギができる石工がどんどん減っています。皇居の石垣でさえベビーカッターを使ってしまい、道具だけで切り込みハギができる職人がいなくなってきています。電動工具が出てきた昭和30年代後半からの石工とそれ以前の石工は、大きく異なります。以前の石工は矢で石を割り、のみと玄翁とこやすけくらいの道具で積んでいけました。それができる石工が少なくなっています。自然石を積んでいる石工達に打ち込みハギや切り込みハギをやらせようとすると、ルートハンマーでしか石を割れないことから、矢の跡を付けられません。文化財は困ったことになります。丁寧な仕事で石積みを造るには、予算の問題もあります。
4.石山の課題について
石の山も意識が低いです。Aのような形の物を採ってくれと頼んでも、いきなり間知石から天端石に変わってしまいます。練積みの発想なので、間知と天端の二種類しか無いのです。コンクリで固めてしまうことから、お尻がどんなに尖っていても関係無いのです。
天端石は間知石の4~5倍の値段になってしまいます。石山にも教育が必要です。
図4 石山で生産されている積み石の形
5.研究者と現場の石工の課題について
委員会などでも、構造を知らない先生が多すぎます。新谷洋二先生などの、2~3人の先生が非常に構造を気にしていますが、それ以外の先生は石垣の構造を知らず、写真を撮った表面しか見ていません。奥行きを気にしておらず、立体的に石垣を見る先生が増えないといけません。
A型の石の場合、現場で整形する際に落とす部分が大きく手間がかかりますが、間知型の場合は合わせるのが簡単であることから、現場の石工も間知型の石を好んでしまっています。
図-5 積み石の現場における加工
間知は良くないといくら言っても、先生方がダメ、山の石屋がダメ、現場の石工がダメといった現状であり、これが良くならないと文化財は良くなりません。
自分のところでは、12人くらいの職人を抱えており、外注の形で仕事を出しています。石工の雇用の際には、歩合性だけだと雑になる部分もあります。また、例えば、角石をやるのは損だと言って職人がやりたがらなかったりもします。常用と歩合と、両方を使い分けなければなりません。
6.メンテナンスの課題について
農業土木の段々畑の石垣はメンテナンスが優れています。崩れたら一年の収穫が無くなるために、田の草取りと同様に石垣の草取りをしています。最近は、文化財指定されたことにより草を取られない物があります。石垣のメンテナンスにどれだけの力が入っていたのかを考えなければなりません。
7.技術の解明と交流の必要性について
フォーラムのような物の立ち上げることは良いと思います。自分も文化庁でそのような提案をしたことがあり、全国でがんばっている11社22人が呼ばれました。修復のために必要なことを述べた際に、大半の石工から、そんなことができるのは小林さんだけだと言われました。文化庁からは、一社しかできないのでは無理だとの話になってしまいました。
昔の技術については、今の技術で解明できることがたくさんあるはずです。現場の職人の意見を沢山聞く機会が必要です。委員会の先生は1箇月か2箇月に一度しか来ないが、毎日現場でやっている人の方こそ、現場の博士です。本を一冊書いたくらいで、意見が通るのはおかしいと思います。
昔は職人が渡っていたことから技術交流が盛んでした。今は技術交流をしようと言ってもなかなかできません。技術が盗まれるなどと言うのは大勢職人が居た時代の話であって、今や技術が無くなろうとしているのです。
※ 添付した図画はヒアリング時に小林氏が作画した物である。
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前田 格Itaru Maeda
(株)東京建設コンサルタント|EA協会
資格:
一級建築士
略歴:
1967年 千葉県生まれ
1993年 多摩美術大学美術学部建築科卒業
1993年 (株)地域開発研究所 入社
2011年 (株)東京建設コンサルタント 入社
主な受賞歴:
2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鹿児島港本港の歴史的防波堤)
2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)
組織:
(株)東京建設コンサルタント
〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-15-6
TEL:03-5980-2648
FAX:03-5980-2613
業務内容:
・土木、造園、建築の計画及び設計業務
・都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務
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