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2011.11.01
07|「組織として石積み技術を保持する会社」第1回:(株)寒風(その2)
前田 格((株)東京建設コンサルタント|EA協会)
前回より、組織として高度な石積み技術を保持し続ける会社のお話として、男鹿石の産出と石材工事の両方を行う、男鹿の「(株)寒風」をご紹介させていただいております。前回は、(株)寒風における石工事の動向や石積職人の現状をお伝えいたしました。今回からは、実際に(株)寒風により施工された石積工事の実際をご紹介していきます。
【横手川ふるさとの川整備事業】秋田県横手市 平成7年~
石積みが活かされている横手川ふるさとの川整備事業
約10年間、継続して整備を行っています。整備の話が出た当初より、昔から男鹿石の谷積みで護岸が形成されていた地区であったことから、役所に男鹿石を売り込みました。正式な図面はコンサルから出ていますが、石積みの構造等についても提案を行いました。材料及び手間については、見積で見てもらうことができました。
男鹿から横手は距離があり、石工も通いでは難しく、最初は職人達も嫌がり、見積の作成にも戸惑いました。しかし、役所の担当官が情熱のある方であり、職人達とも相談の上、コスト的に妥当な額を見てもらうことができました。
寒風で生産している男鹿石の雑割間知石は、建設物価調査会などによると雑割石とされてしまっています。自社としては、間知石だと主張しているが認めてもらえません。そもそも安山岩に間知石という概念が無くなっています。不思議なことに、御影は間知石があることになっています。寒風で生産している雑割間知石は、二面落としの雑割石と、四面落としの間知石の中間に位置付けられる形状です。この雑割間知石は、積みの現場で加工を施しながら合端を合わせて積んで行くことで、石積みらしい味わいのある目地ができあがるものです。この仕上がりのレベルは以前の間知積みと同様です。
施工の歩掛については、以前は間知積みの歩掛があったのですが、現在は雑割石積みしかありません。御影についても同じで、材料としては間知が認められているのに施工手間は雑割石積みとなってしまいます。雑割石積みの歩掛の本来の作業レベルは、目地モルタルを入れることが前提で、石の加工が少なく仕事も早いものです。しかし、仕上げとしては合端が詰まった物を望まれることが多く、実際には手間がかかります。合端を詰める作業は、間知積みの作業と同じです。寒風の職人は、雑割でもきちんと叩いて積みます。これは職人のプライドです。合端を合わせることで強度も出て、本来ならば空積みも可能となります。目地をモルタルで埋める物では弱くなってしまいます。
乱積みについては、現在でも見積で見てもらえます。役所の担当が変わると、これまで見積で見てもらっていた工種が、単に本を見て雑割の歩掛にしてしまったりすることもあります。現状を知っている人はこのような事をしないものです。
左岸側の間知石谷積み
右岸側の乱積み
左岸側は以前から間知石谷積みの護岸があったことから、これと連続する箇所については踏襲して谷積みで施工しました。右岸側及び蛇の崎橋から上流への眺望で見える範囲の左岸側については、城石垣のイメージに合わせて乱積みとしています。
谷積みと乱積みとでは、乱積みの方が作業効率が良いです。コストも谷積みの方が高くなります。これは、乱積みの石の方が大きく、間知よりも仕事が早く進むことによります。石が大きくなると吊りの機械が必要となりその損料が加算されますが、それでも乱積みの方が安価である場合が多いのです。
法線が川側に膨らんで曲線となっている箇所の乱積みは難しかったです。最初、和算で丁張りを出そうとして難儀していたところ、元請けの監督が優秀な方で、きちんと丁張りをした上で、石屋に任せてくれました。石屋としては、下と上の位置さえ出してくれれば、勘で積むことができるのです。この部分の乱積みの施工で中心になった石工が、武藤広氏です。乱積み部分は石工3人係りで積みました。一人当たり3~5m2/日程度の作業量であり、2~3箇月泊まり込みで従事しました。
左岸側の間知石谷積みの階段部
低水護岸の石張り
練積みですが、深目地で施工し、空積み風に見せています。男鹿石は御影と異なり吸水率が高く苔が付き易いのですが、深目地とすることで草も生え易くなり、年月と共に自然に馴染みます。
低水護岸部も男鹿石の石張りとしています。「張り」か「積み」かは、勾配1割を基準に分けています。低水護岸も裏込めコンクリートを用いていますが、深目地とすることで草が付き、自然に馴染んできています。
左岸側排水口部遠景
左岸側排水口部近景
コンクリートを用いているので10m毎に伸縮目地(エラスタイト)を入れていますが、なるべく排水口などの構造物で止めることや、石なりの線型に合わせて目地を曲げることなどで、真っ直ぐな線が極力目立たないよう配慮されています。年度工事の端部処理も目地処理と同様の考え方で、石なりの形で止めるように配慮しており、護岸全体での一体感が創出されています。
水抜きパイプ部ディテール
伸縮目地部ディテール
施工直後に目地を水で洗うことで深目地としています。洗わないと、コンクリートが出てきてしまいます。このような工法は、積みをしっかり行うことで実現できるものです。
裏込めコンクリートを打つことから、水抜きパイプが必要となりますが、深目地に潜り込ませることで極力目立たないようにすることができます。伸縮目地も同様で、石なりの形で深目地内に設置された目地は、丹念に探さなければわからないほどです。
そもそも石垣とは離れて見るものであり至近から眺めるものではなく、石屋としては水抜きパイプやエラスタイトなど大きな問題ではなく、むしろ深目地に草などが付き、自然と一体となることへの期待が大きいのです。
戦後に別会社により施工されたモルタル目地の石積み
橋詰部の間知ブロック(別会社施工)
上流側には、戦後に別会社により施工された谷積みの部分が残ります。石屋の視点からは、目地でごまかして積まれており、技術的に低い石積みです。
橋詰部などには、間知ブロックが用いられています。おかしなことに、おそらくその後の橋の架け替えに合わせての上部の嵩上げには男鹿石が使われています。このような場所をきちんとした積み方に直して行きたいと考えています。
次回は、(株)寒風のお話の続きとして、その他の石積み工事の現場のお話をご紹介させていただく予定です。
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前田 格Itaru Maeda
(株)東京建設コンサルタント|EA協会
資格:
一級建築士
略歴:
1967年 千葉県生まれ
1993年 多摩美術大学美術学部建築科卒業
1993年 (株)地域開発研究所 入社
2011年 (株)東京建設コンサルタント 入社
主な受賞歴:
2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鹿児島港本港の歴史的防波堤)
2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)
組織:
(株)東京建設コンサルタント
〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-15-6
TEL:03-5980-2648
FAX:03-5980-2613
業務内容:
・土木、造園、建築の計画及び設計業務
・都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務
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