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2011.06.01
02|日本石材研究所代表小林喜勝氏の話「その2:透水と止水、色々な石積み」
前田 格((株)東京建設コンサルタント|EA協会)
前回より、日本を代表する石工職人、小林さんが語る石積の技についてご紹介させていただいています。前回は「裏込めの役割」についてご紹介させていただきましたが、今回は「透水と止水」、「色々な石積み」についてご紹介します。
1.透水と止水
品川台場の石垣は、裏に別の石垣がありました。その裏の土は版築してあります。水位が変動する範囲に裏の石垣があり、その間が栗でした。栗の中で水が行き来し、目詰まりを起こさせないようになっていたようで、裏の土が吸い出されない構造です。
図-1 :品川台場の石垣
2年程前に直した江戸城の汐見崎と梅林坂の間の石垣にも同様な構造がありました。裏の土が裏込めの中に入らない構造です。土圧を受けることと、土が裏込めに入らない両方の効果があると思われますが、工期的な問題もあったのではないかと考えています。
お台場の場合は、水の問題からの二重構造であったと思います。信州の五稜郭、龍岡城では、ハガネ工法で石が積まれており、ハガネ工法とは何かとの問い合わせが来ました。自分もハガネ工法は知りませんでしたが、止水の役目の物ではなかったのかと思います。
千枚田では、田んぼからの水を止める物をハガネ土と言うそうで、酸素が欠乏し、水を漏らさない物に変化した物があるそうです。それを使っていたのではないかと思います。
図-2: ハガネ土
出島の場合、裏栗の後に、最初から粘土を混ぜてやったのではないかと思います。粘土の多い石山の場合、栗や砂利が粘土と混じり合って、止水層になっている物があります。花崗岩の山は粘性化する土が多いので、砂利と栗が一緒になり、山水が外を流れるような場合が多いです。こういった物を見て経験的にやった物かもしれません。
2.色々な石積み
(1)軟石の石積み
大谷石の石垣は、空積みと練積みの中間的な構造です。大谷石は規格化されており、高さが4~5mある石垣でも一尺角が一番大きく、30cmの厚さしかない石で積まれています。基本的には控30cmで、僅かなモルタルで接着しています。(長さは60、90cmの物が多い。)
かなりの急勾配で積まれており、部分的に縦使いすることで、控を深く入れる部分があります。後の状態により控の数を増やしたり減らしたり、高さも自由にできますが、積み石の後に控え受けという物を入れて、お尻を載っける構造となります。
積み石と控え受けの間は、木っ端と土を混ぜた物で叩き上げます。普通の石垣は栗ですが、栗とも石ともつかぬ、石と泥の混じった物です。
水抜きの竹を入れ場合もあります。
図-3 :大谷石の石垣
交互に積む積み方は、古くからあった技術の応用です。穴太積みでも、控え受けとしてこのように入れています。
方形の石が出るようになったのは、軟石が出るようになってからのことです。古い例とすれば、大谷石のもっと上の那珂川を伝って東京に持ち込まれた石や、鋸山のかまど石などがあります。これらは規格材として江戸に入っていました。火に強く、かまどに使われたことからかまど石と言います。石垣もかまど石で積まれていました。
大谷や軟石は、土と引っぱり合うような地元の土と同化し易い性質があります。全国各地に、たとえ軽くても良い石垣となるような、そのような石があります。新発田城の石や高知城の石も土に馴染みやすい石で積まれています。永年経つと表面が土と似た状況になり、地盤と一体化します。そのため、厚い裏込めが必要とされないのです。そういう物が使われているかどうかで、裏込めが関係してきますし、裏の岩盤にも関係します。裏が岩盤なら、薄くても良い場合があるのです。
(2)海や川の石垣
もともと波止場の石垣には杭は打っておらず、捨石工法が主でありました。海の方が陸上よりも遙かに難しかったと思います。波が空隙から中に押す力と、引く時の引っぱる力が大きいからです。
自分のところに来ている潜りの石工連中が居ますが、陸上の石の方が丁寧な施工です。海の中の仕事は検査が難しいということもあるのかもしれません。他に、井戸を積む石工も居り、それぞれに特異性があるようです。河川の石積みも、河川の特性に合わせた難しさがあります。知らない人は、水に逆らった積み方をすると言われています。
油津運河を積みに行っていますが、角柱に近い石を使っています。角柱に近いので抜け難く、万が一抜けてもそれだけで済むようにしています。三角の石を使うと、一つ抜けると崩れてしまいます。お台場の石も角柱です。角柱に近い石を使うのは、波で抜けた時に崩れないようにすることの他に、吸い出させないようにする意味もあります。水が入り難くなります。本来、水辺の技術を陸上にも使うべきですが、陸上の方が遙かに手抜きをしています。城石垣も、波止場や塩田を積んでいる石工が呼ばれて積んでいたと言われていますが、彼等にしてみれば、陸上の石垣は簡単であったと思います。杭を打たずに、筏だけの物、胴木だけの物は昔からありました。胴木が動かないように、短い杭を打った物もありました。これらの杭は摩擦の役目です。
海の中では、比重の重い石を使っていたはずです。台場の場合は、実際の石垣よりもだいぶ前の方から松杭が打たれています。松杭の間に軟岩を捨てて、波に引っぱられないようにしています。
(3)石製構造物の基礎の工夫
眼鏡橋などのアーチは、空積み以上に難しい構造体です。基礎の部分が柔構造で、かなりの工夫が見られます。
根津神社の鳥居を直したことがありますが、昔の石屋は頭が良いと思いました。下は版築された盤でしたが、そこに石を並べ、鳥居の足の台の中に2つの石が入っていました。これは、地震時に中の石が少しの隙間を動き振動を吸収するものです。縦揺れにも横揺れにも対応しています。
図-4 根津神社の鳥居の基礎
次回へ続く。(次回、積み石の形について等予定)
※ 添付した図画は、ヒアリング時に小林氏が作画した物である。
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前田 格Itaru Maeda
(株)東京建設コンサルタント|EA協会
資格:
一級建築士
略歴:
1967年 千葉県生まれ
1993年 多摩美術大学美術学部建築科卒業
1993年 (株)地域開発研究所 入社
2011年 (株)東京建設コンサルタント 入社
主な受賞歴:
2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鹿児島港本港の歴史的防波堤)
2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)
組織:
(株)東京建設コンサルタント
〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-15-6
TEL:03-5980-2648
FAX:03-5980-2613
業務内容:
・土木、造園、建築の計画及び設計業務
・都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務
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