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2011.04.01
エンジニア・アーキテクト協会創立にあたって
篠原 修(GSデザイン会議|EA協会 会長)
我国では道路・橋梁・河川・ダム・港湾などの社会基盤施設は土木、住宅・オフィスビル・図書館・美術館などの建物は建築と言う具合に仕事が載然と別れている。この分業システムは長らく続いているので、日本人はこの分業を誰も怪しまない。しかしこの分業システムを世界的な観点から見ると、極めて特殊日本的な、例外的なものであることに気づく筈である。
ルネッサンス以降、特に産業革命以来、先進国の名を自ら冠して世界をリードしてきた欧米においては、土木と建築の分業システムは日本のそれとは全く異なっている。日本では前述のように作るものの対象によって土木、建築を分けているのに対し、欧米では対象ではなく仕事に求められる役割によって土木(シヴィルエンジニア)と建築(アーキテクト)を分けているのである。エンジニアは構造を担当し、アーキテクトは意匠(形)と統合(まとめ役)を担当している。従ってアーキテクトは橋梁やダム・港湾もデザインするし、勿論建築のデザインも行う。一方のエンジニアは勿論、橋や道路もやるが、建物の構造も担当するのである。日本式がよいのか、世界の主流となっている欧米式が優れているのか、軽々に判断は出来ないが、今の日本のシステムが極めて特殊であることは認識しておいた方がよい。
我国の建物の場合、建築家は建築構造家、建築設備家(いずれもエンジニアである)と組んで建物をデザインする。これは欧米のエンジニアと組んでデザインを行うアーキテクトの方式とほぼ同じと言ってよい。日本の建築家が、特に構造家、坪井善勝や川口衛と組んでデザインを実践した丹下健三以来、世界的に評価が高いのも、その仕事のやり方が欧米式に則っているからであろう。これに対し土木の場合は、前述のように対象で仕事を分けてしまった為に、土木の領域となった道路や橋梁、ダムなどに建築家は参画出来ない。これらの構造物、施設は土木(エンジニア)しか関与出来ない。建物に例えれば構造家だけでデザインせよと言うに等しい。我国のエンジニアは明治の工部大学校、帝国大学以来デザイン(意匠)の教育、訓練は受けていないから、土木の構造物、施設には当然の帰結として一部の例外を除いてデザインは不在であった。その結果、地上にあって最も大規模な土木の構築物には機能のみがあって、美しさが不在である。これは国民的な不幸ではないか。日本式の分業システムは、建築にあってはうまく機能しているが、土木にあっては機能不全であったといわざえるを得ない。それは我国の橋梁と、建築家が意匠を担当しているヨーロッパの橋梁を比べれば一目瞭然であろう。
我国の都市と国土を美しくと考えるなら、その骨格となっている土木の構造物、施設の意匠と統合を誰かが担わなければならない。それは建築家であっても、車や車輌のプロダクトのデザイナーであってもよいのだが、土木の景観から出発してデザインを実践しているエンジニア(エンジニア・アーキテクト)が当面その責を担うのが最も現実であると考える。エンジニア・アーキテクト協会は、そのエンジニア・アーキテクトの母体を築こうとする試みに外ならない。
但し、この協会は建築やプロダクトなど、他の出自の人物を拒むものではない。かってのヨーロッパでは、近代工業化以前の時代にあってシヴィルエンジニアは未だ建築家からスピンアウトしておらず、今の土木を含む建築家が建物、橋梁、港湾、ダムなどを全て設計していたのであった。土木とか建築などという狭隘な区分がなかった時代のように、出自にかかわらず好きな対象をデザイン出来る社会となることが本来の姿であるのかも知れない。
エンジニア・アーキテクト協会、始動。
- エンジニア・アーキテクト協会創立にあたって
- 篠原 修(GSデザイン会議|EA協会 会長)
- エンジニア・アーキテクト協会設立座談会を振り返って
- 西村 浩((株)ワークヴィジョンズ|EA協会 副会長)
- エンジニア・アーキテクト協会WEB機関紙「engineer architect」創刊にあたって
- 二井 昭佳(国士舘大学|EA協会)
篠原 修Osamu Shinohara
GSデザイン会議|EA協会 会長
資格:
工学博士
略歴:
1968年 東京大学工学部土木工学科卒業
1971年 東京大学工学系研究科修士課程修了
1971年 (株)アーバン・インダストリー勤務
1975年 東京大学農学部林学科助手
1980年 建設省土木研究所研究員
1986年 東京大学農学部林学科助教授
1989年 東京大学工学部土木工学科助教授
1991年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
2006年 政策研究大学院大学教授、東京大学名誉教授
主な受賞歴:
1986年 国立公園協会 田村賞
1990年 土木学会田中賞(森の橋・広場の橋)
1996年 土木学会田中賞(東京湾横断道路橋梁)
2000年 土木学会デザイン賞優秀賞、土木学会田中賞(阿嘉橋)
2000年 土木学会出版文化賞「土木造形家 百年の仕事-近代土木遺産を訪ねて」
2001年 土木学会デザイン賞 最優秀賞、土木学会田中賞(新港サークルウォーク)
2002年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(阿嘉橋、JR中央線東京駅付近高
2004年 土木学会田中賞(朧大橋)
2004年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(陣ヶ下高架橋)
2004年 グッドデザイン賞 金賞(長崎・水辺の森公園)
2005年 土木学会田中賞(謙信公大橋)
2006年 土木学会出版文化賞「土木デザイン論-新たな風景の創出をめざして-」
2007年 土木学会田中賞(新西海橋)
2008年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(苫田ダム空間のトータルデザイン)
2008年 土木学会田中賞(新豊橋)
2008年 ブルネル賞(JR九州 日向市駅)
2008年 日本鉄道賞ランドマークデザイン賞(JR四国 高知駅)
2009年 鉄道建築協会賞停車場建築賞(JR四国 高知駅)
2010年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(新豊橋)
主な著書:
1982年「土木景観計画」、技報堂出版
1985年「街路の景観設計」(編、共著)、技報堂出版
1987年「水環境の保全と再生」(共著)、山海堂
1985年「街路の景観設計」(編、共著)、技報堂出版
1991年「港の景観設計」(編、共著)、技報堂出版
1994年「橋の景観デザインを考える」(編)、技報堂出版
1994年「日本土木史」(共著)、技報堂出版
1999年「土木造形家百年の仕事」、新潮社
2003年「都市の未来」(編、共著)、日本経済新聞社
2003年「土木デザイン論」、東京大学出版会
2005年「都市の水辺をデザインする」(編、共著)
2006年「篠原修が語る日本の都市 その近代と伝統」
2007年「ものをつくり、まちをつくる」(編、共著)
2008年「ピカソを超える者はー景観工学の誕生と鈴木忠義」、技報堂出版
組織:
GSデザイン会議
東京都文京区本郷6-16-3 幸伸ビル2F
TEL:03-5805-5578
FAX:03-5805-5579
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