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2011.05.01

プロポーザルで選ぶ設計者とアフターケア

篠原 修(GSデザイン会議|EA協会 会長)

前稿ではプロポにおける評価を中心に述べたので、ここではプロポで選ぶことになる望ましい設計者像と、プロポ後プロジェクトが実施するまでの審査委員会の役割について述べる。

 

1.望ましい設計者像

結論を先に言えば、当該分野に実績があって斬新なアイデアを呈示し、且つそのアイデアを地元市民、事業担当者の諸要請に応えて柔軟に展開できる人物が望ましいと言うことになる。若干の解説を加えよう。

デザインとは優れて個人の行為である。従って設計者が所属している会社、あるいは主宰している設計事務所の規模の大小は関係なしということになる。国交省他の評価の項目になっている技術士が何人いる等ということは評価の対象とすべきではない(それらの何人、何十人が寄ってたかってデザインをするわけではないのだから)。とは言っても、橋や道路や河川は大規模であり、画家が一人で絵を仕上げるようなわけにはいかない。図面を仕上げる人間(ドラフトマン)やコストをはじく積算の人間も必要である。従ってインフラ施設の設計は必然的にチームプレイとならざるを得ない。問題はどういう人間の組み合わせでデザインチームを編成すれば良いデザインが可能となるかということになる。

大手のコンサルタントはその人間を全て自社でまかなおうとする。総合コンサルタントと称し、人員も多いからそれは当然の考え方でもあろう。しかし筆者の見る所、総合コンサルタントと称するものの、実は得手不得手は歴然としている。河川に強い会社は橋などの構造物には弱く、逆に構造物を得意とする会社は水系が不得手である(これは一般論であるが)。同様のことは、大手の建築設計事務所にもある。学校等の公共施設に強い事務所、民間のオフィスビルやホテルに強い事務所、飛行機のターミナルビルに強い事務所等、様々である。事業主体は(特に民間の企業は)、その得手不得手を勘案して、仕事を発注している筈である。このような得手不得手を見て設計者を選んでいるか、というと、土木ではそれがないように思える。水系に強いコンサルタントが橋のプロポで選ばれることも多いからである。

本当はプロジェクトの性格に合わせて、それに相応しい人間を集めてチームを組めば良いのである。現に建築の世界ではそうなっていて、意匠の強い設計事務所からは意匠家が出て(大抵の場合デザインチームのリーダーとなる)、構造事務所と設計事務所から相応しいエンジニアを選んで設計チームを編成する。このやり方は世界共通のやり方で、近年では全てをまかなっていた大手事務所も、アトリエ系の意匠家と組むことが普通になった。組織事務所では個性的なデザイナーを育てにくく、それではコンペ、プロポに勝てないからである。

土木でも組織単位にとらわれず、こういう適材適所の考え方で人間を集め、デザインチームを編成することを積極的に考えた方がよい。プロポの応募者募集においてもそう考えるべきである(J.V.での応募)。会社が設計するわけではなく、個人が集合した設計チームが仕事をするのであるから。

 

2.設計内容の担保と審査委員会の役割

設計者の選定が終わってしまえば、審査委員会は解散となるのが通常である.そして設計者と事業主体はその後、契約により乙と甲の関係になる。ここから、余り表には出ないが、様々な問題が生ずる。プロポ時点でははっきりしていなかった地盤等の調査による設計条件の物理的変更、地元要望等による社会的な変更、予算制約による工事費の削減、設計費用を巡っての折衝等々、既に事業者との関係で乙になっている設計者の立場はどうしても弱くならざるを得ない。「こんな筈では」という設計者の声を聞くことも多い。建築家の内藤廣さんのアドバイスに従って、事業担当者には工事竣工まで審査委員会を残しておいて欲しいと要望している。何か問題が起こった際に設計者と事業主体との間に立って調停する役割を担う為である。これによって、甲と乙の関係がギクシャクするのを防ぐ。設計者がやる気を失ってしまえば、それは必ずデザインの質に悪影響を及ぼすことになる。審査委員会はプロポが終われば用済みではないのである。

又、予備設計でプロポを実施し、詳細設計の段階で再びプロポを行う、あるいは入札で設計者を決める等ということが行われている。これは不可解である。プロポでその提案と設計者の力量を評価して選定したのだから、その設計者に完成まで任せるべきである。詳細設計で設計を行う設計者がプロポ時点の設計者の考え方やデザインの傾向を引き継ぐことは、人間が違う以上、はなはだ困難である。プロポ時点の案を尊重すれば、それはデザインの盗用に外ならず、それをいさぎよしとしなければ、デザインはプロポ時点のものとは全く別物となってしまう。これではプロポを行った意味がない、ということになろう。

以上に述べたプロポ案の実現と設計者の継続性の担保の点からしても、人事異動で担当者が変わるインハウスのエンジニアのみでの審査会を構成することには問題が多いということになる。

公共事業のプロポーザル方式を問う

篠原 修Osamu Shinohara

GSデザイン会議|EA協会 会長

資格:
工学博士

 

略歴:
1968年 東京大学工学部土木工学科卒業

1971年 東京大学工学系研究科修士課程修了

1971年 (株)アーバン・インダストリー勤務

1975年 東京大学農学部林学科助手

1980年 建設省土木研究所研究員

1986年 東京大学農学部林学科助教授

1989年 東京大学工学部土木工学科助教授

1991年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授

2006年 政策研究大学院大学教授、東京大学名誉教授

 

主な受賞歴:
1986年 国立公園協会 田村賞

1990年 土木学会田中賞(森の橋・広場の橋)

1996年 土木学会田中賞(東京湾横断道路橋梁)

2000年 土木学会デザイン賞優秀賞、土木学会田中賞(阿嘉橋)

2000年 土木学会出版文化賞「土木造形家 百年の仕事-近代土木遺産を訪ねて

2001年 土木学会デザイン賞 最優秀賞、土木学会田中賞(新港サークルウォーク)

2002年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(阿嘉橋、JR中央線東京駅付近高

2004年 土木学会田中賞(朧大橋)

2004年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(陣ヶ下高架橋)

2004年 グッドデザイン賞 金賞(長崎・水辺の森公園)

2005年 土木学会田中賞(謙信公大橋)

2006年 土木学会出版文化賞「土木デザイン論-新たな風景の創出をめざして-

2007年 土木学会田中賞(新西海橋)

2008年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(苫田ダム空間のトータルデザイン)

2008年 土木学会田中賞(新豊橋)

2008年 ブルネル賞(JR九州 日向市駅)

2008年 日本鉄道賞ランドマークデザイン賞(JR四国 高知駅)

2009年 鉄道建築協会賞停車場建築賞(JR四国 高知駅)

2010年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(新豊橋)

 

主な著書:
1982年「土木景観計画」、技報堂出版

1985年「街路の景観設計」(編、共著)、技報堂出版

1987年「水環境の保全と再生」(共著)、山海堂

1985年「街路の景観設計」(編、共著)、技報堂出版

1991年「港の景観設計」(編、共著)、技報堂出版

1994年「橋の景観デザインを考える」(編)、技報堂出版

1994年「日本土木史」(共著)、技報堂出版

1999年「土木造形家百年の仕事」、新潮社

2003年「都市の未来」(編、共著)、日本経済新聞社

2003年「土木デザイン論」、東京大学出版会

2005年「都市の水辺をデザインする」(編、共著)

2006年「篠原修が語る日本の都市 その近代と伝統」

2007年「ものをつくり、まちをつくる」(編、共著)

2008年「ピカソを超える者はー景観工学の誕生と鈴木忠義」、技報堂出版

 

組織:
GSデザイン会議

東京都文京区本郷6-16-3 幸伸ビル2F

TEL:03-5805-5578

FAX:03-5805-5579

HP:http://www.groundscape.jp/

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