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2016.01.31
自然の偉大さ
篠原 修(GSデザイン会議|EA協会 会長)
昨秋のある日、そうかと思って生物の本を読む事にした。高校の理科の選択では物理と化学を取った。大学受験では東大の理科1類を受けようと思っていたからである。理科1類に入って工学部に進学するつもりだった。農学系の理科Ⅱ類や医学部にいくⅢ類なら生物を選択するのが普通である。従って小生の生物の知識は中学生止りなのである。もともと暗記科目が嫌いで、より正確に言うと軽蔑していて、英語と同様に熱心になれなかった。しかし世の科学の進歩は目覚ましく、生物は今や暗記科目ではなく、最先端の分野の一つなのである。「これはいかん」。そしてずっと以前から21世紀は「生物の時代」であると考えていた事も手伝っている。小生の勝手な定義によれば、19世紀は「機械と土木の時代」(これは定説である)、20世紀は「コンピュータと車の時代」なのである。買った本はブルーバックスの「アメリカ版・大学生物学の教科書」 (MITで採用されているがうたい文句である)。第一巻・細胞生物学から読み始めたのだが、驚いた事に半分も分からない。これは読み方が悪いのだと気がついて、三巻・分子生物学できりをつけ、「新しい『高校』生物の教科書」から出直す事にした。五巻の生態学まで読み終って、果てさて生物は何と精妙で出来ているものよと、感嘆した。誰が命令する訳でもないのに環境の変化に応じて自己を変革し、進化して来たのである。まあ、これが昔から言われている自然淘汰なのだが。
これに味をしめて、次に宇宙の本に手を染める事にした。宇宙は生物とは違って中学生時代の好んだテーマだった。SFマガジンは小生の愛読書で、仲間と情報を交換しながら語り合った事を思い出す。安倍公房が好きだったのも彼が書く小説がSFそのものだと考えていたからである。「砂の女」が代表作のように言われているが、お勧めは「第四間氷期」。来るべき氷河期に備えて人間が海中に戻る訓練をするという話なのである。宇宙の本を読んでみるとこれまた、自分が時代遅れになっている事に気がついた。極小世界の素粒子物理学と極大世界の宇宙物理学は別物だと思っていたのだが、今や素粒子物理学が宇宙の誕生と進化を解く鍵になっているのである。科学記者などが書く本は分かりやすいが(生物と違ってもともと物理が好きなので)、かの南部陽一郎が書いた「クオーク」はやはり半分もわからないのだった。「仕方がない」。結論として、ダークマターとダークエネルギーを筆頭に宇宙は分からない事だらけである、という事が分かった。人間は好奇心の動物なんだから、時々は専門を離脱してこういう世界に遊ぶ事を勧める。
2016年 新年のご挨拶
- 自然の偉大さ
- 篠原 修(GSデザイン会議|EA協会 会長)
篠原 修Osamu Shinohara
GSデザイン会議|EA協会 会長
資格:
工学博士
略歴:
1968年 東京大学工学部土木工学科卒業
1971年 東京大学工学系研究科修士課程修了
1971年 (株)アーバン・インダストリー勤務
1975年 東京大学農学部林学科助手
1980年 建設省土木研究所研究員
1986年 東京大学農学部林学科助教授
1989年 東京大学工学部土木工学科助教授
1991年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
2006年 政策研究大学院大学教授、東京大学名誉教授
主な受賞歴:
1986年 国立公園協会 田村賞
1990年 土木学会田中賞(森の橋・広場の橋)
1996年 土木学会田中賞(東京湾横断道路橋梁)
2000年 土木学会デザイン賞優秀賞、土木学会田中賞(阿嘉橋)
2000年 土木学会出版文化賞「土木造形家 百年の仕事-近代土木遺産を訪ねて」
2001年 土木学会デザイン賞 最優秀賞、土木学会田中賞(新港サークルウォーク)
2002年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(阿嘉橋、JR中央線東京駅付近高
2004年 土木学会田中賞(朧大橋)
2004年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(陣ヶ下高架橋)
2004年 グッドデザイン賞 金賞(長崎・水辺の森公園)
2005年 土木学会田中賞(謙信公大橋)
2006年 土木学会出版文化賞「土木デザイン論-新たな風景の創出をめざして-」
2007年 土木学会田中賞(新西海橋)
2008年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(苫田ダム空間のトータルデザイン)
2008年 土木学会田中賞(新豊橋)
2008年 ブルネル賞(JR九州 日向市駅)
2008年 日本鉄道賞ランドマークデザイン賞(JR四国 高知駅)
2009年 鉄道建築協会賞停車場建築賞(JR四国 高知駅)
2010年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(新豊橋)
主な著書:
1982年「土木景観計画」、技報堂出版
1985年「街路の景観設計」(編、共著)、技報堂出版
1987年「水環境の保全と再生」(共著)、山海堂
1985年「街路の景観設計」(編、共著)、技報堂出版
1991年「港の景観設計」(編、共著)、技報堂出版
1994年「橋の景観デザインを考える」(編)、技報堂出版
1994年「日本土木史」(共著)、技報堂出版
1999年「土木造形家百年の仕事」、新潮社
2003年「都市の未来」(編、共著)、日本経済新聞社
2003年「土木デザイン論」、東京大学出版会
2005年「都市の水辺をデザインする」(編、共著)
2006年「篠原修が語る日本の都市 その近代と伝統」
2007年「ものをつくり、まちをつくる」(編、共著)
2008年「ピカソを超える者はー景観工学の誕生と鈴木忠義」、技報堂出版
組織:
GSデザイン会議
東京都文京区本郷6-16-3 幸伸ビル2F
TEL:03-5805-5578
FAX:03-5805-5579
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