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2014.08.22

05|本当にデザインの仕事をしたいのかよく考えなさい
—高知工科大学 システム工学群 建築・都市デザイン専攻 景観デザイン演習—

重山 陽一郎(高知工科大学|EA協会)

本稿では、高知工科大学、システム工学群、建築・都市デザイン専攻における、デザイン教育について紹介する。「ドボクの手習い」というのがお題なのだが、本学では建築と土木を同時に教育しているため、それを含んでお読みいただきたい。

1. 建築と土木が卒業時まで融合した教育

本専攻は、建築と土木の両方を教えている。他大学では、入学時には建築と土木が同じ教室にいても、3年生ぐらいから別れてしまう場合もあるのに対して、本学では卒業まで区別無く教育している。学生は、建築物と土木構造物の分類は知っているので、それぞれへの興味の強弱はあるものの、それは建造物の分類項目の1つに過ぎない。むしろ学生にとって重要なのは、構造と意匠のどちらが得意か?だったり、設計などのデスクワークと施工現場に出る仕事とどちらに進むか?だったりする。学生が建築と土木の違いを強く意識するのは、就職先を考える時であり、それまでは建築と土木という分類は、あまり大きな意味が無い。

3年生の夏に研究室配属が行われるが、その際は、私の研究室を希望する学生の過半は、建築のデザインに興味を持っているし、OBOGでも、建築設計事務所でデザインの仕事している者が大勢いる。

2. カリキュラムの概要

建築・都市デザイン専攻の、デザイン教育に関する科目一覧を図1に示す。「演習」と名のある科目があるが、実際には全ての科目で座学と実技を融合して教育している。普通の土木工学科に比べると、設計演習のボリュームが非常に多いが、建築学科に比べるとやや少ない。ここに示す全ての科目の紹介はできないので、以下、「景観デザイン演習」を紹介する。

 

図1:デザイン教育のロードマップ

3. 「景観デザイン演習」の概要

本学は1年間を4つのクォーターに分け、週2回、2か月で15回の講義となっている。景観デザイン演習は3年生の4月〜5月の2か月間にわたって行っている。学生は、1〜2年生の間に模型、スケッチ、図面、CAD、印刷物のレイアウトなどの基礎的な技術は身につけている。

本専攻は全員で50名程度の学生数だが、「景観デザイン演習」の履修者数は、多い年で40人、少ない年で20人程度である。

 

課題の内容は、高知市中心市街地にある「中央公園」のリニューアルである。以下に概要を示す。

 

(1)主な設計条件

・中央公園とその周囲の建築物のいくつかをリニューアルする。公園内の建築物でも構わない。中央公園についてはこちらをご覧下さい。(GoogleMapにリンク http://bit.ly/1n50DnW )

・公園の地下にバスターミナルを設ける。

・現在は埋め立てられた、はりまや橋の下の堀を復元し、中央公園からはりまや橋を抜けて、鏡川〜浦戸湾〜桂浜までの水上交通を構築する。それを前提として、中央公園に船着き場を設ける。

・現状では中央公園とその周囲の商店街が全く無関係となっているが、両者の関係を再構築する。

・地下は津波で水没する恐れがあるが、この演習では考えなくて良い。

 

(2)提出する成果品

・以下の内容をA1サイズの紙、8枚以内にまとめる。ダイアグラム、図面、模型写真、スケッチ、文章など、これまでに身につけた技術は何でも使う。

・公園、バスターミナル、船着き場の計画・デザインを示す資料。

・公園周辺、または公園内部の建築物の計画・デザインを示す資料。

 

(3)作業体制と環境

・2人または3人のグループ作業とする。1人はNG。

・公園、バスターミナル、船着き場は全員の共同作業とし、建築物は1人1件の建物を設計する。建築物の代わりに歩道橋のデザインを選択することもできる。

・設計演習室を24時間利用できる(図2)。1グループ1台のテーブルを利用できる。

・ノートPCなどを持っている学生は、設計演習室の無線LANが利用できる。

・ワークステーション室は別にあって、7時〜22時まで利用できる。A3サイズまでカラー印刷可。

 

図2:設計演習室

 

4. 「景観デザイン演習」の狙い

この科目の狙いを以下に示す。

(1)建築と土木の両方を考えることを当然と考える技術者になる。

これは、技術者にとって当然必要なことであり、本専攻の特徴でもある。就職先では建築と土木の交流が乏しい場合が多いが、本専攻の卒業生は、常にもう片方を考慮に入れる癖を身につけてほしい。

 

(2)グループ作業を経験し、チームを説得し、意見を拾い上げ、まとめる技術を身につける。

これは全ての技術者に必要な素養だろう。言葉では説明がしにくく、定量的には優劣が決めにくい問題について、メンバーとうまく議論し、チームとして力を発揮できるようになってほしい。

後で聞てみると、私のいない所でかなり激論が交わされるらしく、仲間割れが起きる場合もあるらしい。大学院生になってからこの科目の話をすると「あのときは若かった....今なら....」などと言う。

 

(3)「ボツ」に慣れ、試行錯誤を繰り返すことを厭わない強さを身につける。

この科目に至るまでに、設計演習を繰り返しているので、かなり「ボツ」には慣れているが、さらに耐久性を高めるとともに、試行錯誤を繰り返すことを(つまり没案を積み重ねることを)楽しめるぐらいになってほしい。作り上げた模型を私に切り刻まれると、最初は泣きそうな顔をしていたものだが、しだいに頼もしくなると嬉しくなる。

 

(4)手が早く腰が軽い技術者になる。

上記の(3)を実現するには、とにかく早くなければ時間切れで終わってしまう。考え込んだままいつまでも手が動かないタイプの学生は、とりあえず何を考えているのか聞いてみて、そうしながら学生が考えていることを、その場でスケッチや図面に描いてあげる。そうすると、学生が元気になってくるので「自分でさっさと描かないと全部俺が描いてしまうぞ、俺が描いた分は成績評価しないぞ」と脅すことにしている。

 

(5)広く浅く一気に最後までやってみる。

広い範囲(都市計画から施工まで、地下2階ぐらいから地上3階ぐらいまで、建築から土木・造園まで、市民から観光客まで、日常から非日常まで、空間の形から使われ方まで、など色々な意味での広範囲)のことを一度に考え、一気呵成に最後まで纏め上げることによって、学内・学外で個々に学ぶ項目の意味や繋がりを考える。当然、全てを考え抜くことは不可能で、あちこちに綻びが目立つ、破れかぶれの成果品となってしまうが、それで構わないし、そのことで成績評価を下げたりしない。

個々の綻びの繕い方はいつか(卒業後にでも)学べるし、教えてくれる先達もたくさんいる。しかし、綻びを含めて全体を視野に入れて総合的に悩むチャンスはあまり無い。

 

(6)自分がデザイナーになりたいかどうか考える。

課題の全てにマジに取り組もうとすると、作業量はかなり巨大で、拷問に近いものになりかねないが、これを拷問と感じるようなら、デザインを志すのはやめた方が良い。スポーツでも何でも専門家への訓練は、カジュアルな気持ちの者にとっては拷問である。「重山に1日1000回の素振りをやれと言われたら拷問だが、野球部の君は耐えられるし、どちらかというと喜んでやるでしょ」というと全員が理解してくれる。

本専攻は建築学科という側面があるので、入学時点では大部分の学生がデザインを志望しているが、この科目でかなり方向性がはっきりする。

 

 

5. 「景観デザイン演習」の成果

学生が提出する成果品については、毎年冬の土木学会景観・デザイン研究発表会に展示するので、それをご覧頂きたい。1作品だけ写真を示す(図3、4)。

 

図3:成果品の模型

 

図4:成果品のA1パネル(6枚組を3人1チームで作製したもの)

 

前述の「科目の狙い」の達成度については、むろん個々の学生の資質に依る部分が大きいのだが、(2)(3)(4)については、まあまあ上手くいっているような気がしている。(1)(5)については、就職してからの挙動でしか判断できないので、卒業生をご存知の方々の批判をお受けしたい。(6)については、あまり鍛えすぎると研究室配属時に希望者がいなくなる、というジレンマに陥っていて、だからといって手加減できるほど人物ができていないことを、毎年のように反省&後悔している。

 

重山 陽一郎Yoichiro Shigeyama

高知工科大学|EA協会

資格:

土木学会上級技術者(流域・都市)

 

略歴:

1963年 宮崎生まれ

1987 東京大学工学部土木工学科卒業

1988 アプル総合計画事務所

1996 フリーのデザイナー

1997 高知工科大学助教授

2008 同大学教授

 

主な受賞歴:

皇居周辺道路景観整備(東京都千代田区:土木学会デザイン賞優秀賞)

門司港周辺の一連の環境整備(福岡県北九州市:土木学会デザイン賞最優秀賞)

 

組織:

高知工科大学

〒  782-8502 高知県香美市土佐山田町宮の口185

 

TEL: 0887-57-2402

FAX: 0887-57-2420

 

業務内容:

景観デザイン、景観デザイン教育

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