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2011.10.03
私の設計監理術
金光 弘志((有)カネミツヒロシセッケイシツ|EA協会)
私は今月号の「特集:デザイン監理のすすめ」の原稿依頼を受けて、資料として保管していた雑誌記事を十数年ぶりに読み返してみた。そこに書かれている記事は以下のとおりである。
「役所の担当者が設計者の意図を十分にわかっていれば、デザイン面の工事監理も役所でやればいいが、そうもいかない。設計者が行うのが現実的だ。」
「設計者の意図がすべて図面に表現され、それが役所の担当者がわかっているかは疑問。しかも役所には人事異動がつきもの。設計した人が責任を負わざるを得ないのではないか。」
「あまりあってはならないことだが、よりよいものにするために施工段階で設計の手直しが発生することがある。思ったような材料が入手できなかったり、条件の変更が生じることだってある。こういう時にはやはり、設計した人が対応しなければうまくいかない。」
いずれも『日経コンストラクション1993.11.26 環境デザイン’93』のなかで「効果上げる設計者によるアフタケア」と題したコーナーに紹介された篠原修のコメントである。
同記事には、デザイン監理業務を発注した行政側のコメントも紹介されている。
「工事の進行に伴って、デザインの改良点が色々と出てくるので、設計した人が現場についていてくれると、行政側も助かる。デザインの基本的な考え方は我々行政が考えたものでなく、他人の知恵。設計内容を変更する場合は、最初から考えてきた人の方が応用がきく。」
「関係機関と協議しなければならないことが多く、その結果、設計変更もあり得る土木事業においては、デザイン意図を一貫させるために、設計した人による工事監理が必要だと思う。」
上述の記事をみれば土木分野におけるデザイン監理の意義が明快に示されているのがわかる。しかも18年も前の記事である。原稿を書いている私に対して「引用で済ませるなんてずるいなぁ」という声が聞こえてきそうであるが、あらためて私がその意義について書きたてなくても良さそうである。
さらに同雑誌では、1995年7月14号で「環境デザイン’95 特集:施工とデザインの関係学」、つづいて1996年2月9日号では「環境デザイン’96 特集:さらば、むなしき設計」という特集が組まれ、土木分野における設計者の職能確立について議論になっており、デザイン監理についても話題があがっている。
こうした議論がメディアで展開されている当時、私は今から考えれば恵まれていたと思うのだが、某橋梁のデザイン設計からデザイン監理まで7年間一貫してプロジェクトを担当していた。行政・施工者・設計者が一体となって本来あるべきプロセスを遂行したプロジェクトで、行政側の理解さえあれば土木でもデザイン監理という責務を担わせてくれるのだと実感したことを覚えている。
その後、私は立場を変えてランドスケープデザインの分野に身をおき、同じ公共事業でも建築工事発注におけるランドスケープアーキテクトの立場から、あるいは民間事業におけるランドスケープアーキテクトの立場から土木をみつめている。
御承知のとおり公共でも民間事業でも建築工事の場合には設計者が設計監理を行っている。最近の公共建築事業では、第三セクターなど第三者機関が設計監理を行い、設計者は「設計意図伝達業務」という位置づけでしか契約させてもらえず、実質的に設計者が大半の監理業務を行っているにも関わらず、その報酬や立場が曖昧になってしまっている事例もでてきているようであるが、いずれにしても設計者の現場での役割が位置づけられているのは確かである。
私が建築事務所のランドスケープ協力事務所として様々なプロジェクトに参画してわかったこと、それは、建築本体工事は別として外構工事は土木の人達で構成されていることである。もちろん建築の人が外構工事の現場監督につくこともあるが、特に公共建築工事の場合多くは土木の人が現場監督としてやってくる。私としては愛着のある人達だから喜ばしいことだが、そう言っていられない状況がすぐにやってきてしまうのである。それは、しばらく現場の動きは止まってしまうこと。
まず、私は、建築家やランドスケープアーキテクトのもとで仕事をしたことがありますかと現場監督に聞くが、ほぼ間違いなく経験がないと回答される。そこで施工図について私は説明をする。土木では設計図=施工図であるが、建築や民間ランドスケープの世界では設計図≒施工図である。つまり施工者によって施工の方法も異なってくるし、使用する材料メーカーが異なり、材料調達方法も材料加工方法も異なってくるから設計図=施工図とはいかない。よって、施工者として設計図の内容に対してどのように施工してくれるのか詳細に示して、それを設計者と施工者、場合によっては事業主を含めて確認してから施工にとりかかることにする。そうすれば三者が納得する状況で施工に取り組むことができる。現場の職人も詳細な施工図をもとに施工するわけだから間違いも起こりにくい。と淡々と説明をしていくのであるが、土木技術者の現場監督は日頃、設計図=施工図という認識だから理解に時間がかかってしまう。だから、しばらく現場が止まってしまうのである。
ここで読者は疑問に思うかもしれない。なぜ施工図を施工者に書かせることができるのか。それは特記仕様書あるいは図面特記として「施工図によって設計監理者の承認がなければ施工にとりかかれない」と記載しているからである。実は、この特記仕様書は非常に重要な契約事項である。特記仕様書の内容の多くは国交省や自治体等で出されている仕様書をもとに記載していくが、線で構成された図面内容だけでは伝えることができない設計者の意図を伝達させる意味で意義があると考えている。
私は、特記の中で、設計者が現場でどのようなプロセスでものごとを決めていきたいのか、を具体的に示すことにしている。この特記を担保として、施工にとりかかる前の承認までのプロセス、デザイン的に重要なところはサンプルを何種類準備すること、どのくらいの大きさのモックアップを作成すること、現場で位置出しをして関係者全員の確認を得ること等々を事細かく記載している。設計者の意図することを施工者に伝達する手段は少しでも多い方が良いし、あらかじめ特記仕様書にこれらを記載しておけば施工者は経費を見込んで見積を提出するから現場であれこれともめることも少なくなる。
施工図のやりとりの重要性を土木技術者の現場監督が少しずつ理解してくると、次は施工図の書き方の指導になる。おかしな話ではあるが土木の分野では普段施工図なんて書かないから、設計図をそのままコピーしてくるような施工図が最初は出てきてしまうのも仕方がないのである。あれこれ学生に製図指導をするように現場担当者に教えていき、こちらが望むような施工図がでてくるのに1ヶ月以上はかかってしまうことが大半である。この工期ロスは非常にもったいないが、ここで設計監理側が妥協してしまうと現場での確認作業がないがしろにされてしまうので辛抱強く対応していかなければならない。一方的に施工者に図面作業を行わせていると誤解しないでほしい。同時に設計監理側からは、より詳しくデザイン意図を伝える図面やスケッチもどんどん渡す作業が行われている。
そして、一度施工者が施工図の意味を理解してくれると、ほぼ順調にものごとは進んでくる。概して土木の人達はルールにはきちんと従う習性があるようなので、こちらがびっくりするような緻密な施工図がでてくることもある。もちろん、この段階までに設計監理者と施工者相互の立場を尊重しながら人間関係をつくっていくことは言うまでもない。
こうして現場が軌道にのってくると、次は設計監理側の対応が現場を左右することになる。施工者からの確認依頼や質問等について迅速的確に対応して調整や指示を行っていくこと、さらには設計変更が往々にして生じたり、現場の進行に追われ大変な状況の連続となるが、これこそが監理の醍醐味であって、この手応えを現場で感じることができれば現場の進行はほぼ順調なのではないかと思われる。
もうひとつ、私が設計監理で行っていることを紹介する。
ランドスケープアーキテクトとして設計監理を行うとしても毎日現場につきっきりになることは契約金額のうえであり得ない。建築事務所は規模の大きなプロジェクトであれば担当者が現場常駐するが、協力事務所のランドスケープ事務所が現場常駐ということはほぼ無いと言って良い。でも当然現場が気になってしまう。そこで、私は現場監督に御願いして、毎日の現場の様子(現場全体の様子と当日工事した箇所)をデジタルカメラで数枚撮影してもらい毎晩メールで送ってもらうことにしている。現場監督は何気なく撮影しているのかもしれないが、意外と問題点に気づくことも多く、すぐに連絡して再度詳しく状況を確認してトラブルを未然に防ぐことに役立っている。やむを得ない場合は次回現場に行くまで問題箇所の施工を待ってもらうこともある。現場監督も余裕のない工期の中で、月に数回しか契約上現場に来ることができない設計者に、少しでも早く状況を確認してもらい了解を得ることの方がいいに決まっているから快く協力してくれることがほとんどである。これで設計者が現場に出かけなくて良いなどと言うことは論外であるが、事業主が準備してくれる契約金額のなかで、少しでも現場を気にしていようと思うのであれば様々な監理方法を思いつくものである。
この20年、内から外から土木をみてきたが、土木分野でも設計者がデザイン監理に参画して諸処の課題に対応することができるのは明らかである。自治体の予算の都合もあるのかもしれないが、それは民間工事も同じこと。少ない予算なりに工夫はいくらでもできるはずである。そもそも役所の担当者が設計監理している一部の責任を設計者に分担させれば良いだけのことで、役所の担当者だって本音は嬉しいはずである。
民間事業や公共建築事業であれば事業主が監理を行うことが困難だから代理人として設計者が設計監理を行っており、公共土木事業でも役所の担当者が自身で設計していないことを監理することに対して無理があるのであれば、それを設計者が一部責任分担して補助するといった体制をとるのが、やはり素直な流れなのかなと思っている。
金光 弘志Hiroshi KANEMITSU
(有)カネミツヒロシセッケイシツ|EA協会
ランドスケープアーキテクト
略歴:
1968年 広島市出身
1991年 日本大学理工学部交通土木工学科卒業
1991年 アプル総合計画事務所(〜2000年)
2000年 オンサイト計画設計事務所(〜2004年)
2004年 有限会社カネミツヒロシセッケイシツ 設立
主な受賞歴:
2020年 グッドデザイン賞(長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト)
2021年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト)
組織:
(有)カネミツヒロシセッケイシツ
mail:kanemitsukhdo@gmail.com
業務内容:
・公園、庭園、建築外構など屋外空間の計画立案、設計、監理
・ 道路、橋、河岸など土木施設のデザインに関する計画立案、設計、監理
・ 地域ならびに都市計画に関する調査、研究、計画立案
・その他上記に付帯する業務
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