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2011.04.01
エンジニア・アーキテクト協会設立座談会を振り返って
西村 浩((株)ワークヴィジョンズ|EA協会 副会長)
去る、2010年12月5日、エンジニア・アーキテクト協会(以下、EA協会)が発足会を経て活動を開始した。発足会後の座談会には、ゲストとして、藤本貴也氏(建設コンサルタンツ協会副会長)、竹内直文氏(民間都市開発推進機構/常務理事)のお二人をお招きし、篠原修(EA協会会長)と私、西村浩(EA協会副会長)の二名を加えて、討論は始まった。
会場には、本協会の会員を中心に約50名の方々にお集まりいただいた。普通であれば「会場は熱気に溢れ…」と報告したいところだが、参加者の顔は皆、どこか難しい表情のように思えた。私も多くの方に声をかけていただいたが、皆の関心の多くは「EA協会は何を目指すのか?」である。戦後以降現在に至るまで、行政とコンサルタントという組織の組み合わせでプロジェクトが粛々と進められてきた土木の世界の中で、景観やデザイン・まちづくりといった視点から物事を考えていこうとする「エンジニア・アーキテクト」と称する個人の集まりが、なんと協会を立ち上げて世の中の流れを変えていこうというのだから、新しい風への期待と同時に、「やっぱり何も変わらないのではないか?」というあきらめが入り混じった表情だったのではないかと思う。
座談会は、篠原氏の「何かを変えるためには、どこかできっかけが必要なのではないか?」という問いからはじまった。竹内氏は「公共事業で街を変えるということはほとんど終わっている。住んでいる人が街の景観を自分の利益と思えるかどうかが大切であり、地域住民が自ら行動を起こして、国や県がそれをサポートする時代だ」と述べ、また藤本氏も「国や県はあくまでも応援団であり、まちづくりの担い手には成り得ない。やはり地元ががんばらないと…」と述べた。竹内氏も藤本氏も出身は国土交通省である。国の財政状況を考えれば、これまでのような公共事業に頼りきった社会のままでは未来はないことは明らかで、両氏が地域住民の主体的な街づくりに期待する気持ちは十分に理解できる。ただ、全国に広がる地方都市の惨状は、これまでの行政主体で進めてきた都市政策の結果である。縮退するまちの未来について、まずは行政がこれまでの反省の上に立ち、率先して知恵を出し汗をかくべきではないか?住民協働のまちづくりは、そこからはじまるような気がしてならない。
昨年度末で政策研究大学院大学を退官された篠原氏は、これまでの仕事を振り返り「景観の講義を国や県で随分やってきたけど、一向に実際の仕事に反映しない。何のためにやってきたのかという思いはある」と述べた。標準設計一辺倒だった土木の世界に、“景観”や“デザイン”という言葉は確かに定着した。全体から見れば数は少ないが、優れた公共空間のデザインの実践も見られるようになった。ただ、人間が息をするのと同じように、当たり前の日常として、行政や設計者は街や市民のためのものづくりを真剣に考え、一方で市民は街を共有の財産として意識するような社会には、未だ到達していないのが現実だ。
大学を中心に景観教育が本格的に始まって20数年。我々と意を共にするたくさんの若者たちが既に社会で活躍しているはずだ。「そろそろ30代40代の若者に受け継ぐべきかな」という、座談会の中での篠原氏の“エール”に応えれば、エンジニア・アーキテクト協会は、これからの社会を担う若者たちのための活躍の舞台なのである。
どこか他人事のように「何をやっても変わらない」と嘆くのではなく、「変えていく」という主体性と意思を持ち、質の高いモノづくりを実践できる社会づくりに向けて、みんなの力を合わせて大きなムーブメントにしていこうではないか!
エンジニア・アーキテクト協会、始動。
- エンジニア・アーキテクト協会創立にあたって
- 篠原 修(GSデザイン会議|EA協会 会長)
- エンジニア・アーキテクト協会設立座談会を振り返って
- 西村 浩((株)ワークヴィジョンズ|EA協会 副会長)
- エンジニア・アーキテクト協会WEB機関紙「engineer architect」創刊にあたって
- 二井 昭佳(国士舘大学|EA協会)
西村 浩Hiroshi Nishimura
(株)ワークヴィジョンズ|EA協会 副会長
資格:
一級建築士
略歴:
1967年 佐賀県佐賀市生まれ
1991年 東京大学工学部土木工学科卒業
1993年 東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻 修士課程修了
1993年 (株)GIA設計 勤務
1999年 ワークヴィジョンズ 設立
現在
(株)ワークヴィジョンズ代表取締役
北海道教育大学芸術課程特任教授
東京藝術大学美術学部デザイン科非常勤講師
日本大学理工学部社会交通工学科非常勤講師
お茶の水女子大学生活科学部 人間・環境科学科非常勤講師
主な受賞歴:
2003年 グッドデザイン賞(環境デザイン部門/長崎県万橋)
2004年 グッドデザイン賞・金賞 (環境デザイン部門/長崎水辺の森公園:橋梁群担当
2005年 第15回トータルハウジング大賞パートナーシップ賞(伊勢原市NR邸)
2005年 グッドデザイン賞(環境デザイン部門/鳥羽海辺のプロムナード)
2007年 土木学会デザイン賞 優秀賞(長崎水辺の森公園:橋梁群担当)
2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鳥羽海辺のプロムナード「カモメの散歩道」)
2008年 照明学会照明普及賞 優秀施設賞(岩見沢複合駅舎)
2009年 第4回まち交大賞プロセス賞受賞(岩見沢複合駅舎及び周辺地区)
2009年 第34回北海道建築賞(岩見沢複合駅舎/日本建築学会北海道支部)
2009年 鉄道建築協会賞 最優秀協会賞(岩見沢複合駅舎/鉄道建築協会)
2009年 グッドデザイン賞・大賞(岩見沢複合駅舎/日本産業デザイン振興会)
2009年 北海道赤レンガ建築賞(岩見沢複合駅舎/北海道)
2010年 日本建築学会賞(作品)(岩見沢複合駅舎/日本建築学会)
2010年 第51回BCS賞(岩見沢複合駅舎/建築業協会)
2011年 作品選奨(岩見沢複合駅舎/日本建築学会)
2011年 ブルネル賞(岩見沢複合駅舎/鉄道関連国際デザイン賞)
2011年 アルカシア建築賞(岩見沢複合駅舎/ARCASIA)
主な著書:
グラウンドスケープ宣言 土木・建築・都市−デザインの戦場へ(丸善、2004年5月、共著)
まち再生への挑戦−岩見沢駅舎建築デザインコンペ作品集− (北海道旅客鉄道(株)、2006年4月、共著)
ものをつくり、まちをつくる GS軍団メーカー職人共闘編(技報堂出版、2007年1月、共著)
『駅・復権!』-JR岩見沢複合駅舎誕生とまち再生への軌跡-(岩見沢複合駅舎完成記念誌制作委員会、2010年5月、共著) 他
組織:
(株)ワークヴィジョンズ
代表取締役 西村 浩
取締役 田村 柚香里
〒140-0002 東京都品川区東品川1-5-10 丸長倉庫B
TEL:03-5715-7761
FAX:03-5715-7762
HP:http://www.workvisions.co.jp/
MAIL:info@workvisions.co.jp
業務内容:
・建築の企画・設計及び監理
・地域並びに都市計画に関する調査、研究及び計画立案
・都市デザイン並びに景観設計に関する調査、研究及び計画立案
・インテリア及び家具の設計、製作及び販売
・広告、パンフレットの企画、編集、製作
・その他上記に付帯する一切の業務
SPECIAL ISSUE
- 2014年 新年のご挨拶
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- デザイン監理のすゝめ
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