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2011.06.01

そもそも、まちはつくるものではない

西村 浩((株)ワークヴィジョンズ|EA協会 副会長)

今回のお題目の「まちづくり」「市民協働」という言葉が、今のように頻繁に使われるようになったのは、いつごろからだろうか?私が関わっている限りにおいては、今や、公共に関わる全てプロジェクトにおいて、これら2つの言葉がセットでつきまとう。僕の事務所に訪れる学生達に将来のことを聞いても、土木・建築の出身に関わらず、かなりの確率で「まちづくりをやりたい!」と堂々と宣言する。
思い返してみれば、日本が好景気に舞い上がっていた20世紀の終わりまでは、あまりこれらの言葉を耳にしなかった。「右肩上がり」の時代には、勢いに任せて見て見ぬふりをしてきた都市や社会システムの“病”を、景気の長期低迷や今後の人口減少、超高齢化といった縮退傾向の社会を迎えて、いよいよ見過ごせない状況に街が追い込まれているのではないかと思う。
だが、そもそも、街というものは、意識してつくるようなものではないと僕は思っている。日頃のご近所同士の挨拶や、庭先の通りの掃除など、そこに暮らす人々自身が、街を愛し大切にする心を持ち、お互いに支え合いながら暮らす日常の姿そのものが、そのまま街の活気であったはずである。自然への畏敬の気持ちが、暮らしの中に知恵を求め、それが形となって街特有の美しい風景を予定調和的につくりだしていたはずだ。だから僕は、わざわざ、「まち」を「つくら」なければならない状況自体に、むしろ、現在の都市や社会の歪みを感じてしまうのだ。
そう考えると、「まちづくり」の最終的な目標は、今、はやり言葉のように使われている「まちづくり」という言葉を使う必要のない街の状況をつくりだすことに尽きる。それは、日常の暮らしの中で、自然と街がよい方向へ“自走”できる仕組みをつくることだ。そして、時代の価値観が大きく変わる今後において、この“自走”を支えるのが、市民なのである。
僕はモノをつくることが仕事である。そのモノが街の中に生まれることで、必ずその街や市民との“化学反応”が起こる。その反応ができるだけ持続的によい方向へ向かうように、市民の方々と協働してモノづくりに取り組んできた。2009年に竣工した北海道の岩見沢複合駅舎では、世界中から募集を募り、参加者の名前や出身地を刻んだレンガで駅舎の壁をつくる刻印レンガ募集プロジェクト「らぶりっく!! いわみざわ」(写真1)や、6年半に渡りお世話になった仮駅舎に感謝を示すプロジェクト「ありがとう! 仮駅舎」(写真2)といった様々なイベントを市民の方々と協働して実践してきた。市民協働の成果は、多くの市民の方々が執筆に参加してくれた「駅・復権!−JR岩見沢複合駅舎誕生とまち再生への軌跡−」の出版(写真3)へと繋がった。

( http://lovebrick.cart.fc2.com/ )

 

写真1

 

写真2

 

写真3

 

また、私の故郷佐賀では、疲弊した中心市街地の賑わい再生を目指して、市民有志の方々と共に「佐賀市街なか再生計画」をつくった。そして今年の6月からは、その中で整理されたアクションプランに基づいて、街なかの空き地を活用して人々を街に呼び込むための社会実験「わいわい!! コンテナ」プロジェクト(写真4)を実施する予定である。この社会実験は、中古の貨物用コンテナを使った仮設の図書館と芝生広場を空き地に設置して、この場がどれだけ人々を呼び込み、その人々がどれだけ街なかを回遊して、商店街の賑わいに繋がるかを検証するものだ。そして、図書館の運営や広場の維持管理には、地域の方々に協力していただき、市民が自ら街を大切に使っていく持続的な仕組みを作り上げるための社会実験でもある。広場は、雨の中集まってくれたたくさんの子供達の手で芝生を張り、街を自分たちの手で育てることの大切さを学ぶ教育の場としても位置づけた(写真5|「芝生であそぼ!」プロジェクト)。

 

写真4

これらの実践事例は、あくまでも非日常的なイベントに過ぎないが、イベントの成功云々は然したる問題ではない。これらのプロジェクトを通じて、街なかに再び人と人の繋がりが生まれてきたり、地域の方々で街をシェアするという気持ちと共に、持続的な活用や維持管理への参画意識を醸成していくことに大きな意義がある。非日常のイベントというきっかけが、どれだけ日常の豊かさを支える“自走力”に繋がるかという視点が、市民協働の勘所だと思う。

西村 浩Hiroshi Nishimura

(株)ワークヴィジョンズ|EA協会 副会長

資格:

一級建築士

 

略歴:

1967年 佐賀県佐賀市生まれ

1991年 東京大学工学部土木工学科卒業

1993年 東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻 修士課程修了

1993年 (株)GIA設計 勤務

1999年 ワークヴィジョンズ 設立

現在

(株)ワークヴィジョンズ代表取締役

北海道教育大学芸術課程特任教授

東京藝術大学美術学部デザイン科非常勤講師

日本大学理工学部社会交通工学科非常勤講師

お茶の水女子大学生活科学部 人間・環境科学科非常勤講師

 

主な受賞歴:

2003年 グッドデザイン賞(環境デザイン部門/長崎県万橋)

2004年 グッドデザイン賞・金賞 (環境デザイン部門/長崎水辺の森公園:橋梁群担当

2005年 第15回トータルハウジング大賞パートナーシップ賞(伊勢原市NR邸)

2005年 グッドデザイン賞(環境デザイン部門/鳥羽海辺のプロムナード)

2007年 土木学会デザイン賞 優秀賞(長崎水辺の森公園:橋梁群担当)

2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鳥羽海辺のプロムナード「カモメの散歩道」)

2008年 照明学会照明普及賞 優秀施設賞(岩見沢複合駅舎)

2009年 第4回まち交大賞プロセス賞受賞(岩見沢複合駅舎及び周辺地区)

2009年 第34回北海道建築賞(岩見沢複合駅舎/日本建築学会北海道支部)

2009年 鉄道建築協会賞 最優秀協会賞(岩見沢複合駅舎/鉄道建築協会)

2009年 グッドデザイン賞・大賞(岩見沢複合駅舎/日本産業デザイン振興会)

2009年 北海道赤レンガ建築賞(岩見沢複合駅舎/北海道)

2010年 日本建築学会賞(作品)(岩見沢複合駅舎/日本建築学会)

2010年 第51回BCS賞(岩見沢複合駅舎/建築業協会)

2011年 作品選奨(岩見沢複合駅舎/日本建築学会)

2011年 ブルネル賞(岩見沢複合駅舎/鉄道関連国際デザイン賞)

2011年 アルカシア建築賞(岩見沢複合駅舎/ARCASIA)

 

主な著書:

グラウンドスケープ宣言 土木・建築・都市−デザインの戦場へ(丸善、2004年5月、共著)

まち再生への挑戦−岩見沢駅舎建築デザインコンペ作品集− (北海道旅客鉄道(株)、2006年4月、共著)

ものをつくり、まちをつくる GS軍団メーカー職人共闘編(技報堂出版、2007年1月、共著)

『駅・復権!』-JR岩見沢複合駅舎誕生とまち再生への軌跡-(岩見沢複合駅舎完成記念誌制作委員会、2010年5月、共著) 他

 

組織: 

(株)ワークヴィジョンズ

代表取締役 西村 浩

取締役 田村 柚香里

〒140-0002 東京都品川区東品川1-5-10 丸長倉庫B

TEL:03-5715-7761

FAX:03-5715-7762

HP:http://www.workvisions.co.jp/

MAIL:info@workvisions.co.jp

 

業務内容:

・建築の企画・設計及び監理

・地域並びに都市計画に関する調査、研究及び計画立案

・都市デザイン並びに景観設計に関する調査、研究及び計画立案

・インテリア及び家具の設計、製作及び販売

・広告、パンフレットの企画、編集、製作

・その他上記に付帯する一切の業務

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