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2012.01.03

激特に景観を!

戦後という時代が終わり、「災後」という新たな時代の最初の新年が明けた。本来なら、喜びに溢れたご挨拶をすべきであるが、改めて、東日本大震災でお亡くなりなった方々へ哀悼の意を表すことから始めたい。被災地から遠く離れた九州で暮らす私は、現時点で、自らの考えを述べることは適当でないとも考える。ここでは、九州の小さな取り組みを紹介するにとどめたい。ほのかな明かりであるが、どこか別の場所にも光が伝わることを信じつつ。

 

災害常襲地帯九州は、毎年どこかが被災し、緊急対応の工事がある。未曾有の大災害ではないが、常態としての不幸、あるいは暮らしの中に織り込み済みの禍といえば良いのだろうか。工事の多くは復旧なのだが、予算の付き方も、その工事方法も、疑問に感じることがいくつもあった。あるところでは、当該部署では消化しきれないほどの予算が付き、博物館のようなものさえ造られる。別の河川では、二度と河床が洗掘されないようにと、数十メートルにわたりコンクリートで固めた。痛々しい光景だが、発災直後は住民もそれを望む。久しぶりの大工事は、地元建設業界には願ってもない再興の機会でもある。平成18年に発生した川内川の記録的豪雨による洪水とその災害復旧もまさに、戦場であった。

 

さて、国土交通省には、河川の河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)に対し、多自然型川づくりアドバイザーを派遣する制度がある。ただし、景観デザインに関しては、短期間にデザイン案をまとめ、現場との関係を保ちつつ完成まで見届けた例は少ないようである。私たち熊大グループに求められたのは、曽木の滝分水路の景観検討であった。デザインの詳細については、文献を参照されたい。ここでは、簡単に人的な役割分担について述べたい。

 

1) 迅速な作業とWebでの情報交換

市長や住民代表も参加した景観検討委員会で、コンセプト案がまとまったあと、水理解析用の地形データの3次元化と横断面データの算出は学生が行った。このデータがWeb(SNS)を介して、福岡(コンサル)・熊本・川内(河川事務所)で共有され、複数の計画案が解析された。この時点で、水理解析の専門家や河川工学の研究者とのやり取りは、勉強になったし、信頼関係ができたように思う。立ち上がりの困難(情報共有、工学的担保、迅速な方針の提示等)は、これで凌げたと思っている。

 

2) 模型による深化

計画案が一案(B案)に縛り込まれた後、詳細な地形の検討を横断面の模型を切り出し、B1案からB7案まで、細部の詰めが行われた。案がまとまるごとに、大学や事務所に模型を持ち込み、意見交換が行われた。この間、行政側の技術者から徐々に意見や反論が出てきた。大変良いことであるが、その都度宿題が出され、学生達が断面変更を繰り返した。やはり、日帰り圏内に現場があることが重要であると実感した。

 

3) 工事現場の対応

粘土模型を現場に持ち込み、施工業者とイメージの共有を試みた。前半は、かなりの違和感を示す人もいた。期限の切られた現場で、いきなり「丁寧に」などと依頼しても、そう簡単にはいかない。しかし何度も現場へ足を運ぶ中で、互いに世間話もできるようになり、後半の掘削は我々の期待以上に丁寧な出来映えであった。

 

4) 望ましい人事

発注側の担当者は、通常は2年ごとに転勤する。当初我々との窓口となった係長も異動したし、3人の事務所長と付きあうことにもなった。しかし調査と工務の課長は5年間同じポストであった。またある人は、調査課から工務課への配置転換となった。これはまさに、検討事項を実現するための起用であった。直接現場と向き合う出張所の所長も、久留米での景観研修(2泊3日)にも参加し、我々の思いを共有してくれた。

 

通常の委員会であると、こちらが何かを主張しても、担当者が変わっていくことで、思いが伝わらないことが良くある。しかし激特事業では、各自の中に「やるしかないので、話をまとめよう」という前向きな姿勢がある。むしろ激特事業こそ、景観デザインが成功するのではないかと考えている。ただし条件として、①全員が迅速に動く、②行政の担当者(キーパーソン)は転勤しない、③関係者は日帰り圏内で招集する、といったことが重要な気がしている。なお非常時であるということを加味すれば、④若者(学生)のチカラというものも重要な要因だと思う。

 

参考文献

1)島谷他:川内川虎居地区の檄特事業における景観デザインの実践、景観・デザイン研究講演集 No7、pp.295-306、2011.10

2)星野他:曽木の滝分水路の整備、景観・デザイン研究講演集 No7、pp.307-3166、2011.10

3)大井智子:土木のチカラ 地域への思いを込めた美しい分水路--川内川激特事業の宮之城地区、曽木の滝地区、日経コンストラクション(535),pp.20-27,2012.01

2012年 新年のご挨拶