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2012.07.02

Gマークの変遷と目指すもの

南雲 勝志(ナグモデザイン事務所|EA協会)

高度成長期以降のものづくり主導型社会から、よりゆとりのある豊かな社会をめざしデザインの価値は大きく変化してきた。さらに昨年の東北震災を経験し、今我々が最も大切にすべき事、守り引き継いで行くべき事、そしてデザインの本質は何か?いまだ大きく揺れ動いる状況にある。そんな中で今回は今までグッドデザイン賞に何度か応募し、また数年間審査に関わって来た身としての所見を述べてみる。

自分にとってのGマーク

グッドデザイン賞(以下Gマークと記す)は、1957年に通商産業省が創設したグッドデザイン商品選定制度を前身とする。当時は自動車や家電などに代表される日本企業の製品の国際レベルの普及び産業育成を国として支援することが目的であった。

個人的にGマークを意識したのは学生の頃であった。なにかの調べ物で事務局を訪れたが、浜松町の世界貿易センター内にあり、暗くお堅い雰囲気でのあった事を記憶している。その頃は企業の賞という認識が強く、当然自分にはあまり縁を感じない存在であった。

初めてGマークに応募したのは家具のデザインをやるようになってから。1994年、ProjectCandyシリーズという一連の家具が家具部門賞を受賞した。今の金賞に値する。こんなデザインどうせ評価されないだろう、取れたら儲けもの、的発想でエントリーしただけに、Gマークも徐々に変わりつつある、未来に向けた新しい提案もちゃんと認められるんだ。と少し興奮した事を覚えている。この受賞がなかったら、現在もGマークは縁のない賞になっていたかも知れない。賞状の印は、まだ通産大臣橋本龍太郎であった。

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1998年に民営化、財団法人日本産業デザイン振興会となる。(現在、公益財団法人日本デザイン振興会)産業育成から、広く生活,産業,社会の豊かさのために、日本の文化に息づくデザインを世界に発信しようという意識がより強くなったように思う。そして新たに施設部門、建築・環境デザイン部門 、新領域デザイン部門などが加わり、土木、景観、まちづくりといった社会領域が、広くGマークの対象となっていく。

その1998年、門司港の街路灯が景観賞施設部門を受賞。製品としてだけでなく、豊かな景観を形成するという評価であった。この頃から広く環境や、取り組みも含めて評価するように変化したGマークに、新たな可能性を感じていった。2003年に「日向市のまちづくりに於ける木のとり組み」、続いて2005年には、「ふれあい富高小学校特別授業-移動式夢空間」を新領域部門に応募、木材関係者とのワーキングや市民を巻き込んだメンテナンスの仕組み、さらに課外授業を通した小学生のまちづくりの参画など、プロセスや取り組みに対して評価での受賞だった。2007年には「ITかかし」を同じく新領域で受賞、地方における線路や無人駅の有用性を市民と新しい情報システムの組み合わせの提案であった。最近では、デザインの領域も広がり、それらはもはや新領域ではなく、普通に社会領域の範疇になっている。2010年には「佐渡相川北沢選鉱場、大間港の整備」が社会領域で「obisugidesign」が生活領域で中小企業長官賞を受賞。いずれもこれからの地域での取り組みが評価されたと思っている。

自分の応募作品を引き合いに出したが、Gマーク主催者側もその時代性や環境で大きく変化し、応募する側も同様にそれに応じて対応し、相互に変化してきたと言えるのではないかと思っている。

Gマークの頂点であるグッドデザイン大賞も、以前は自動車やパソコンなど家電製品がほとんどを占めていたが、最近ではごく普通に建築・環境・社会領域での応募が受賞するようになる。1997年には「金沢市民芸術村」、2001年、「せんだいメディアテーク」、2002年、「モエレ沼公園」、そして2009年には「岩見沢駅複合駅舎が受賞したのはまだ記憶に新しい。

財団化以降、デザイン賞をあげる立場というより、質の高いデザインを共につくり高めて行こうという姿勢が強くなったように思う。たとえばWEBデザイン、賞状や年鑑、トロフィーに至るまで、賞を出す側がまずグットデザインであるべきという思想がある。それは一般市民にも広くGマークを浸透させるプロモーションにもなっている。

同時にひところよりも受賞者が喜ぶ機会が増えてきたように思う。これは、取り組み、仕組みといった評価から応募者やその関係者の幅が広がったため、その恩恵を受ける層も広がってきたからだ。昔はGマークというと企業や専門家の名誉だった賞が、ユーザーが共有出来るまで浸透して来たともいえる。そして不況下でも応募数は年々伸び、現在約3000点の応募があり、約3割程度が受賞している。うち公共関連の応募は300点ほどである。

Gマークの審査基準

グッドデザイン賞の定義として以下の5点が掲げられ、これはずいぶんと変わっていない。以下GマークHPより

グッドデザイン賞では、5つの重要な言葉を通じて「理念」として掲示しています。人間(HUMANITY)もの・ことづくりを導く創発力
本質(HONESTY)現代社会に対する洞察力
創造(INNOVATION)未来を切り開く構想力
魅力(ESTHETICS)豊かな生活文化を想起させる想像力
倫理(ETHICS)社会・環境をかたちづくる思考力
これらを一つの文章にすると、「人間のために、高い倫理性を踏まえ、ものごとの本質を見据えたうえで、魅力的な創造活動をおこなうこと」となります。追求される豊かさの質が如何に変化するにせよ、このデザインの思想は普遍です。そしてこの言葉は、グッドデザイン賞が掲げる「グッドデザイン」の定義でもあるのです。

その年の審査テーマは、この定義の上に審査委員長、副委員長が中心となり、社会の変化や今の流れを読み取りながら決めていく。したがって審査委員長の権限は重い。そのため審査委員長の任期は原則3年となっている。対して審査委員の任期は基本的にない。審査委員長や事務局が判断し、継続かどうかが決められているらしいが詳しいことは知らされていない。もちろん辞退をすることは自由である。

僕が審査員になったのは2005年からで、担当ユニットは社会、公共領域でなぜかずっと変わっていない(理由はよく知らない)。当時は喜多俊之氏が審査委員長であった。その前は川上元美氏である。その後、内藤廣氏が2007年度-2009年まで審査委員長を務める。内藤さんは今までのGマークの体質を再構築し、新しい体制のベースをつくることが自分の仕事だと語っていた。同時に社会領域の重要性をより高めていったことは間違いないであろう。そして現在は深澤直人氏が3期目である。
今年の審査テーマは「インタラクション」と「仕組み」である。東日本大震災後、消費者は生活の必需品や本当に必要なもの、を意識するようになった。

公共領域に於いても、安全安心に対する技術的解決や造形としての美しさ、他の事例に対しての先進性などは基本的な条件で、その上で施設やモノがつくられる背後にある相互の関係性や、仕組みがきちんと説明出来るかどうかが必要になっている。

人と人を魅力的に繋ぎ、情緒や思いやり、愛といった、感性を誘発するような取り組みが、今後より重要視されていくと個人的には思っている。

Gマークはユーザー(消費者、使用者)を豊かにするために存在する。低成長、少子高齢化が進む中で、ゆっくりとした豊かさを感じられるデザインがこれから必要だと思っている。デザインの良さを社会にわかりやすく伝え、今後進むべき方向へ導いて行く事がグッドデザイン賞の最も大きな特徴であろうか。

変化するデザインのものさし

南雲 勝志Katsushi Nagumo

ナグモデザイン事務所|EA協会

略歴:

1956年 新潟生まれ

1979年 東京造形大学造形学部デザイン学科卒業

 

主な受賞歴:

1995通産省グッドデザイン 家具インテリア部門金賞(project candy)

2003日本デザイン振興会建築施設部門 グッドデザイン賞

(宮崎県日向市に於ける「木の文化のまちづくり」の実践)

土木学会デザイン賞2001 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)

2005日本産業デザイン振興会 新領域部門 グッドデザイン賞

(ふれあい富高小学校特別授業「移動式夢空間」)

土木学会デザイン賞2009 優秀賞(萬代橋改修工事と照明復元)

土木学会デザイン賞2009 最優秀賞(津和野本町・祇園町通り)

土木学会デザイン賞2010 最優秀賞(油津・堀川運河 )

 

主な著書:

デザイン図鑑+ナグモノガタリ(ラトルズ)

都市の水辺をデザインする(彰国社-共著)

ものをつくり、まちをつくる(技報堂-共著)

新・日向市駅 (彰国社-共著)

 

組織:

ナグモデザイン事務所

代表 南雲 勝志

〒151-0072 東京都文渋谷区幡ヶ谷1-10-3-2F

TEL:03-5333-8590

FAX:03-5333-8591

HP:http://www.nagumo-design.com/

 

業務内容:

・景観におけるプロダクトデザイン、設計業務

・まちづくりに関わるコンサルタント業務

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