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2012.05.10

楽しくなければスギダラじゃない!

菅原 香織(秋田公立美術大学 美術教育センター|EA協会)

2003年、残暑の厳しい9月。新宿のリビングデザインセンターOZONEで開催された「プロダクトデザインの思想展」での展示会場でのことだった。そこに展示されていたのは、「すぎっちょん」という名の、まるで昆虫のような杉の家具。愛嬌のあるデザインが印象的だった。(いったいどんな人がデザインしたのだろう?)「杉材を使った家具」と書かれたキャプションの作者のプロフィールを見ると、「南雲勝志」とある。この時まで南雲さんのことも、南雲さんのデザインしたものも失礼ながら知らなかった。

 

パネルには、杉を使った家具の作品の写真とともに、宮崎県日向市での景観プロダクトの写真が掲載されていた。(新潟県六日町出身か。どうして九州で杉を使ったまちづくりに関わるようになったのか?)当時私は秋田杉の問題についていろいろ知る機会があり、「杉」という言葉に敏感になっていたこともあるが、秋田と同じように杉の一大産地である宮崎で、地場産材の杉を活かしたストリートファニチャをデザインしているということに驚き、杉材で家具をつくろうというプロダクトデザインの提案にも驚いた。

 

秋田でも戦後の植林政策で県民がこぞって植林した結果、現在では日本一の蓄積量をもつほど、そこいら中「スギダラケ」になった。杉は子孫に残せる「財産」だったはずなのに、外材の輸入解禁によって国内需給の80%以上が外材に変わり、山から切り出すとかえって赤字になるという「厄介者」になってしまった。同じスギの産地である宮崎での取組みに興味を抱き、いつか南雲さんにぜひ秋田に来てほしい・・・と思った。

 

年が明けて2004年6月、南雲さんのことが気になってネットで検索していたらある掲示板で「スギダラの方は楽しそうだね」という書き込みを発見。そこに貼られていたリンクから「日本全国スギダラケ倶楽部」のサイトに辿り着く。「スギダラとは」のページには見覚えのある一文が。

 

 

『もともと杉には杉としての魅力があって、日本を代表する木として生活の中に溶け込んでいたはず。今、もう一度「杉の良さ」「杉の使い方」を改めて考え、気持ちよく楽しく暮らすための道具として、その使い方を提案していきたいと思っています。「一家に一台杉の家具」をキャッチフレーズに。』

 

 

この文は、プロダクトデザインの思想展で南雲さんのパネルにあったものだ。日向市の杉材を活かした街づくりプロジェクトがきっかけとなって、若杉浩一さん、千代田健一さんという協力者が現れ、多くの「スギダラファニチャー」を生み出し、オフィスやまちなかにスギプロダクトを広めていることを知る。しかも、専門家でもデザイナーでなくても誰でもその活動に参画できる。これまでにこんなデザインのしくみがあっただろうか。

生産者、製造者、市民、地域をまきこんだスギダラプロジェクトは共感を呼び、どんどん仲間が増えて、8年間で会員数は1400名を超えた。そして全国各地の支部を中心に、杉コレクション、杉モノデザイン展+、Obisugi Design、屋台屋、う木う木まtreeなど、スギの魅力、楽しさをみんなで考える運動が展開されている。

 

そして秋田でも、秋田杉見学ツアー、能代市上町「杉のオープンカフェ」、里山文化を次世代に伝えるためのランドスケープと木材活用のデザインコンテスト「白神山麓・窓山デザインコンテスト」の開催、限界集落の持続可能なデザインを考える「窓山デザイン会議&ワークショップ」の開催、ふるさとの森を守り、感謝の心を次世代に伝え、放置林の整備と木材の利用拡大を目指す「おくりばこプロジェクト」などの機会に、南雲さんに秋田に来てもらいたいという想いが実現した。さらに今年5月26日に、杉を活かして秋田駅周辺に、にぎわいとおもてなしの空間を作る「秋田杉恋プロジェクト 秋田杉景観デザインコンペ&景観デザインセミナー」が現在進行中である。9年前の南雲さんとの出会い、そしてスギダラの仲間の応援がなくては決してここまでは出来なかったと思う。そういう意味では南雲さんとの出逢いは、私の人生のターニングポイントだった。

 

2004年9月に出版された「デザイン図鑑+ナグモノガタリ」(ラトルズ社)のなかに次のような一文がある。

 

 

『考え方は大事。機能も大事。しかし、人の生活を有益にするためにデザインは存在すると定義するなら、楽しくなければデザインじゃないはずである。(中略)そのためには、自分が楽しい生き方をするべきではないか。』

 

 

いつも南雲さんが口にしている「楽しくなければスギダラじゃない!」の出発点はここにある。杉を通して見えてくる今の日本が抱える問題を、暑苦しい程に共に語り、飲み、時にはぶつかり合い、共に働く。スギダラ活動はいつもたくさんの仲間の笑顔にあふれている。スギダラ活動は南雲勝志の生き方そのもの。生活にゆとりをもたらし心を豊かにする、生きていく上で水や空気と同じ必要不可欠ものなのである。

 

モノづくりから始める地域づくり-南雲勝志の方法

菅原 香織Kaori Sugawara

秋田公立美術大学 美術教育センター|EA協会

略歴:

1962年 栃木生まれ

1985年 多摩美術大学 美術学部 デザイン科 立体デザイン専攻 卒業

1989年 秋田市立美術工芸専門学校 専門課程 インテリア科 講師

1995年 秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 助手

2007年 秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 助教

2013年 秋田公立美術大学 景観デザイン専攻 助教

2017年 秋田公立美術大学 美術学部美術学科 准教授

2022年 秋田公立美術大学 美術教育センター 准教授

 

主な受賞歴:

2002年 グッドデザイン賞 (高齢者向け川連漆器 たなごころシリーズ)

 

主な著書:

プロダクトデザインの思想Vol.1(共著)PDの思想委員会編/ラトルズ社発行

 

組織:

秋田公立美術大学

〒010-1632 秋田県秋田市新屋大川町12−3

TEL:018-888-8120

FAX:018-888-8109

HP:http://www.akibi.ac.jp/aua/professor-data/29.html

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