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2012.05.10

『もの』と『人』が「こと」をおこし、場が豊になる。
南雲勝志の内から外への眼差しと行動

川上 元美((有)川上デザインルーム代表)

1960年代初め、学生時代に建築や土木、造園、インダストリアル(プロダクト)デザイン、インテリアデザイン、ビジュアルデザインなどの学際を横に串刺しにつなぎ、境界領域を埋めようとした動きがおこった。さまざまな模索をへて、デザインフィールドから環境デザイン学科が発足したのが1973~77年に架けてであった。「人」を取り巻き、「空間」が形成される、その空間形成への媒体として「モノ」が存在する。輻輳するデザインの諸要素を関係付けて、統合するデザインの領域で有り,人々のアメニティーの形成の場である。環境デザインの基点はここに有る。

それぞれのジャンルの微妙に異なる「言語」を大学4年間の一気通貫で学び、習得することは困難なことである。しかし当時から世の中はこの関係性の視点を要請していた。

南雲さんも出発をたどると,やはり学生時代にこの洗礼を受けて、今日が有る。

 

ナグモ工作少年は多感なガキ大将の時代を過ごし、長じて今日に至るまでに、プロダクト•デザインの世界で多くの家具デザインをものしている。1996年、ミラノ、家具サロンの時期に、長箱や長板に大きなキャスターがついた「コロバコ」や「コロダイ」、甲板の裏側が波形をしたテーブルなどを、ミラノの小さな通りでの個展会場で偶然見かけ、「南雲勝志」の名前を知ったことが、大変印象深く記憶に残っている。これは家具というより環具だと思った。

時を経て、(株)内田洋行のデザインをいくつか始めた頃に、スギダラ活動の核である、若杉浩一さんと千代田健一さんに出会った。その場に『杉』に関わる一連の仕事とともに、南雲さんが居て、お付き合いが始まった。

このころ、実に小気味の良い名前のついた杉のイスやテーブルが多く生み出されていた。角材を扱っただけのシンプルなものであるが、杉の魅力をダイナミックに表現してみせたデザインであった。また桑名市の入り江に設けられた桑形(クワガタ)や日向の杉材を上手に使ったストリートファニチャーの仕事を見るにつけ、この人は凡手に有らずと見ていた。

 

あれよあれよという間に、杉ダラに引き込まれて、その後、宮崎の杉による町おこしのイベントに参加することになった。且つて「弁甲杉」と呼ばれた飫肥杉の積み出し港だった運河の町、油津でのコンペの審査会では、南雲さんのプロデュースによる、杉をテーマに地場を活性化させる仕組みつくり、祭りとコンペを併催しながら、全国に杉問題を発信すると同時に地元の人々の意識を高める或は、気付きを促すためのムーブメントである。

地元の木材関係の人々と共にイベントを創出させながら、ことを進める手法は実に見事。ああもうこの次元に来ているのかと、皆の熱さに感動すら覚えた。

これほど楽しくコンペに関わったことは、初めての経験であった。

それぞれの、地場に優れた人材があり、その人たちが現実を捉えながらも、遊び心を忘れずに活動をともにする。南雲さんにはそれを束ねる力量と行動力がある、時には強引すぎる手管も使っているようであるが。まさに「木の癖組は人の心組み」、誰かが云った人と人を繋ぐコネクター役でもある。杉問題にのめり込みながら、かつて日本社会では、住民が寄り合い所に集い論議を重ね、神託として合意していた当然の行為に似た、もともと存在するものを導き出す、言うところのアフォーダンスな知の理論を結果的に試行しているように思えるのだ。

環境を人為で左右する欧米の思考から、日本本来の、自然にゆだね融合したサスティナブルな社会への眼差しがある。

昨今、環境に関する、もろもろのインフラ作りにデザインの参加がめっきり少なくなったが、笑い飛ばしながら輪を広めていくさまは、肌触りの良い暖かさ、優しさを持ち、実直にのびた杉の凛とした立ち姿と、南雲さんと重なるのである。少々ほめすぎかも。

モノづくりから始める地域づくり-南雲勝志の方法

川上 元美Motomi Kawakami

(有)川上デザインルーム代表

1940年兵庫県に生まれる。

東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了後、

’66年〜’69年 アンジェロ・マンジャロッティ建築事務所(ミラノ)に勤務。

1971年 川上デザインルームを設立、日常ワークとして、

プロダクト・デザイン、インテリア•デザイン、環境デザインなどを手がける。

また地方産業や人材の育成にも従事している。

東京藝術大学、金沢美術工芸大学、多摩美術大学、神戸芸術工科大学等の客員教授を歴任。

毎日デザイン賞、国井喜太郎産業工芸賞、土木学会・田中賞、横浜まちなみ景観賞、IF賞、グッドデザイン金賞等受賞。

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モノづくりから始める地域づくり-南雲勝志の方法

2012.05.10

『もの』と『人』が「こと」をおこし、場が豊になる。
南雲勝志の内から外への眼差しと行動