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2015.03.18

04|石積み学校

真田 純子(徳島大学|EA協会)

概要:

「石積み学校」とは、石積み技術を持つ人・習いたい人・直してほしい田畑を持つ人の3者をマッチングする仕組み。修復出来なくて困っている人の田畑で、実際の修復作業を通じて技術を習うことで、技術の継承と同時に修復のボランティアを行う複合的な目的を持つ。農民の間に伝えられてきたが現在はほぼ途絶えている石積みの技術を新しい形で継承することで、中山間地の資源であり文化である棚田や段畑の風景を技術の面から支えようとするもの。
受講生が受講料を払って参加する仕組みとし、また企業の新人研修として活用してもらうことで事務局運営をひとつの生業とし、持続可能性のあるシステムを目指している。

 

 

 

中山間地によく見られる石積みの棚田や段畑。こうした場所を「教室」にし、石積み学校を開催している。写真は徳島県吉野川市美郷の石積みの段畑。ここに住む石工の高開文雄さんによりよく管理されている。高開さんは石積み学校の講師の一人でもある。

 

 

 

今にも崩れそうな石積み。直せる人や直す体力を持つ人が減っており、修復がままならない。徳島県内での調査では積む技術を持つ人のほとんどは80歳以上であった。修復する際にコンクリート擁壁になることが多いが、高齢者が自分が食べるためだけにつくっているところでは、崩れたらそのまま耕作放棄地になることもある。

 

 

 

石積み学校の様子。安全に効率よく作業するため、最初に道具の使い方について説明を行う。道具にはそれぞれ目的があり、適切に使うと作業が楽になる。また、道具ひとつひとつにも先人の知恵が詰まっており、石積みの技術もひとつの文化であることを感じさせてくれる。

 

 

 

石積み学校の様子。最初に古い石積みを崩したあと、石を積む作業に入る。表面に積む「積み石」の裏にはグリを入れるため、積む作業やグリ集めなど、分担しながら進めていく。

 

 

 

修復刷る前の石積み。一番下の石は「縦石」と言い、石が縦に置いてある。荷重が少ない面積に集中するため、良くない積み方である。これが原因でこの石が沈み、上が崩れ始めている。

 

 

 

同じ場所の修復後。一番下の石まですべて外し、一から積み直した。下の方が大きな石で上の方に小さい石を積むことで安定感も増した。

 

 

 

積んだあとの記念撮影。

 

 

 

習いたい人、教えられる人、直して欲しい人の3者をマッチングするのが石積み学校の基本的な仕組み。現状では、地域の人に習ってもらいたいからということで「場所=教室」と「参加者=生徒」が用意された上で、石積み学校が呼ばれることもある。

 

 

 

石積み学校の運営の仕組み。参加者が授業料を払うことで講師料や事務局運営費をまかなっている。

 

 

 

石積みの教科書にもなる積み方の冊子を作成した。どうなったら積み直すか、どのような手順で積むか、積み方のコツや避けるべき積み方などが書かれている。最終ページには石積み学校について情報を載せ、石積み学校の宣伝にもなっている。

 

 

 

石積み冊子の入手希望者からの手紙。全国から希望があり、2014年2月の発行以降、約1年間で約3000冊が配布された。積み方が分からず困っていたという声も多い。なお、印刷費は徳島大学の社会貢献事業費を使用している。

 

 

 

石積み学校運営を一つの生業として成立させるため、新人研修に使ってもらうプロジェクトを推進している。石積み修復作業は協調性や根気を養うなど、人材育成に向いている。また企業のCSR活動にもなると考えている。2015年2月に新人研修として活用してもらうための企業向けパンフレットを作成した。

 

 

 

所在地:

徳島県の中山間地域等

 

竣工年:

2013年3月

 

受賞:

グッドデザイン賞、グッドデザイン地域づくりデザイン賞(2014年)
土木学会市民普請大賞優秀賞(2014年)

 

関係者:

石積み学校
徳島大学地域創生センター

EAプロジェクト100

真田 純子Junko Sanada

徳島大学|EA協会

資格:

博士(工学)

 

略歴:

1974年 広島生まれ

1996年 ヴルカヌスプログラム(日欧産業協力センター)にてイタリア留学(1年)

1998年 東京工業大学工学部社会工学科卒業

2000年 東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻 修士課程修了

2005年 東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム選考 博士課程修了、博士(工学)取得

2007年 徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部 助教着任

 

著作:

都市の緑はどうあるべきか 技報堂出版 2007年

 

組織:

徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部

〒 770-8506    徳島県徳島市南常三島町2-1

 

TEL:088-656-7578

FAX:088-656-7579

 

業務内容:

・土木一般、造園、都市計画、まちづくりに関わる景観デザイン・プランニング・マネジメントに関する調査、研究、コンサルティング

・一次産業の作る風景保全のための地場産業の活性化に関する調査、研究、コンサルティング

・その他上記に付帯する業務

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