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2016.09.10

15|女川町震災復興シンボル空間
   女川駅前広場及びプロムナード「レンガみち」

小野寺 康((有)小野寺康都市設計事務所|EA協会)

概要:

女川町震災復興事業における「シンボル空間」とは、再開された女川駅と駅前広場をはじめ、この広場から海へと伸びる幅15m・延長約300mのプロムナード、及び女川湾に接したメモリアル公園と観光交流エリアという、いわば町の基幹施設の総称である。このプロムナードを主軸に、両側にテナント型商店街「シーパルピア」や「まちなか交流館」、物産センター(仮称)が並び、その周辺には自立再建店舗や業務施設と公設の駐車場が分散配置されている。いわば、駅から国道に挟まれた、“海が眺められる”エリアにまちの商業・業務施設が集約され、皆で一か所に集まって、ここから新たに町を再建する構想だ。

 

女川町を初めて訪れたのは、東日本大震災から約一年半後の2012年10月であった。

瓦礫はようやく撤去され、始まったばかりの造成地には盛土高さを示すヤグラが建てられていた。

 

 

中心市街地の配置計画(女川町HPより)。

オレンジで囲まれた範囲は、海側をS字で抜ける産業観光軸(国道398号線)を事実上のL1防潮堤として建設される居住制限区域であり、ここにまちの商業・業務地が集約される形になっている。このエリアの骨格の中心は、駅前広場から海へ向けて伸びる幅15m・延長300mのプロムナードであり、これを主軸にテナント型商店街や物産センターなどが並ぶ。この中心市街地に近接して、町役場や学校、生涯学習センターなどの基幹公共施設がL2以上の高台に設けられ、連携する計画である。

 

 

女川町震災復興のイメージ図(女川町HPより)。

中央下にあるのが駅舎であり、そこから海へとプロムナードが伸びる構想だ。この線形は、元旦の日の出の位置に正確に向けられている。

 

女川駅と駅前広場及びプロムナード「レンガみち」及び水辺のメモリアル公園が連携するシンボル空間の全体平面図(これらの南側にさらに観光交流エリアがつながってシンボル空間となる)。駅前広場の先にはテナント型商店街「シーパルピア」が両側に並び、さらにその周辺に町設の駐車場が分散配置されている。白地の部分は自力再建の商業・業務地であり、シーパルピアに刺激されてか建設が活発化している。

 

 

「レンガみち」の初期計画段階の模型写真とイメージスケッチ。

駅前広場から海へとバロック的な軸線が伸びているが、権威的な意図は全くなく、すべては「海を眺めて暮らすまち」を実現させるための空間構成である。街路にオープンカフェや店舗がはみだして並ぶ構想になっており、そこから海を眺めて商売しよう、が合言葉。

 

 

プロムナード「レンガみち」の基本構成スケッチ。

様々な樹種で連なる二列並木は、むろん大型河川暗渠の埋設のためだけではない。街路空間を三分割し、中央部で海へのヴィスタ(視軸)を実現させ、同時に両側の建物と並木に挟まれた場所に商業的なにぎわいを与える意図を持っていて、沿道の商業空間から舗装などのデザインがはみ出すことを求めている。

 

 

JR石巻線が従来の場所より少し山側にシフトした位置で再建され、温泉施設「ゆぽっぽ」を内包した新たな女川駅、そして駅前広場が完成し、女川町は2015年3月21日「まちびらき春」を迎えた。

 

 

この段階では、確かに駅前広場は完成したものの、周辺はまだ造成真っただ中の状態であった。須田善明町長は、「まちびらき春」の式典で来賓や町民を前に「皆さん、周囲を見てください。絶賛造成中です。女川のまちづくりはこれからです!」と語った。

 

 

2015年12月にプロムナード「レンガみち」とその両側にテナント型商店街「シーパルピア」が完成し、女川町は「まちびらき冬」を迎えた。二列並木で生け捕られたヴィスタを見て、誰もが「海が近くなった」という印象を持ったようだ。

 

 

完成したレンガみちとシーパルピア。

みんなで一つの場所に集まってまちを再建しよう、海を背景に商売する場所をつくろうという目標が実現した。

 

 

完成したシーパルピアも中庭にレンガが敷き込まれ、さらにそのデザインがレンガみちに滲み出して、どこまでが民地でどこから公共用地なのか判然としない。むろん意図通りであり、自然に回遊性が生まれ、みんなで一つの場所にいるという一体感が現れた。このシンボル空間は幸いにも好評で、週末となると駐車場が満車になる状態が続いている。

 

 

夕暮れのレンガみちと女川駅。

夕暮れを過ぎ、夜遅くなっても集まれる場所ができた。酒食をともにしながら語らう場というのは、やはり人が人らしく生きていくために重要であり必要なものなのだ。

 

 

 

所在地:

宮城県牡鹿郡女川町

 

竣工年:

まちびらき春(石巻線再開と女川駅開業、駅前広場完成)2015年3月

まちびらき冬(プロムナード「レンガみち」完成及びテナント型商店街「シーパルピア」開業)2015年12月

 

諸元:

【女川駅前広場】

9800㎡(交通広場含む)

レンガ舗装、レンガ擁壁ベンチ、木柱歩道灯

【プロムナード「レンガみち」】

プロムナード「レンガみち」:幅員15m、延長170m完成済み

レンガ舗装、レンガ擁壁ベンチ、木柱歩道灯

関係者:

事業主体|女川町

詳細設計|株式会社建設技術研究所

設計協力|有限会社小野寺康都市設計事務所、ナグモデザイン事務所

 

EAプロジェクト100

小野寺 康Yasushi Onodera

(有)小野寺康都市設計事務所|EA協会

資格:
技術士(建設部門)

一級建築士

 

略歴:
1962年 札幌市生まれ

1985年 東京工業大学工学部社会工学科卒業

1987年 東京工業大学大学院社会工学専攻 修士課程修了

1987年 (株)アプル総合計画事務所 勤務

1993年 (株)アプル総合計画事務所 退社

1993年 (有)小野寺康都市設計事務所 設立

 

主な受賞歴:
2001年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)

2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(与野本町駅西口都市広場)

2002年 土木学会デザイン賞 優秀賞(浦安 境川)

2004年 土木学会デザイン賞 優秀賞(桑名 住吉入江)

2008年 グッドデザイン特別賞 日本商工会議所会頭賞(油津 堀川運河)

2009年 建築業協会賞:BCS賞(日向市駅 駅前広場)

2009年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(津和野 本町・祇園丁通り)

2010年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(油津 堀川運河)

 

主な著書:
グラウンドスケープ宣言(丸善、2004、共著)

GS軍団奮闘記 都市の水辺をデザインする(彰国社、2005、共著)

GS軍団奮闘記 ものをつくり、まちをつくる(技報堂出版、2007、共著)

GS軍団総力戦 新・日向市駅(彰国社、2009、共著)

 

組織:
(有)小野寺康都市設計事務所

取締役代表 小野寺 康

〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-8-10

キャッスルウェルビル9F

TEL:03-5216-3603

FAX:03-5216-3602

HP:http://www.onodera.co.jp/

 

業務内容:
・都市デザインならびに景観設計に関する調査・研究・計画立案・設計・監理

・地域ならびに都市計画に関する調査・研究・計画立案

・土木施設一般の計画・設計および監理

・建築一般の計画・設計および監理

・公園遊具・路上施設などの企画デザイン

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