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2012.07.02

土木のデザイン、その変化と可能性

崎谷 浩一郎((株)イー・エー・ユー|EA協会)

■言葉

最近よく耳にする言葉でソーシャルデザインと呼ばれるものがある。社会の仕組みや制度から生活環境に至るまで社会全体をどう構築していくか、どうデザインしていくか、という概念である。閉塞感と先行き不透明な日本の社会状況を生き抜くためには、社会そのものをデザインし直す必要もあるのだろう。おそらく、エンジニア・アーキテクトの目指すデザインも広義のソーシャルデザインに含まれるだろう。建築、都市、ランドスケープ、プロダクト、環境、コミュニティ…。あらゆる分野、あらゆる立場におけるデザインの価値は、いつの時代も言葉によって語られてきた。果たして、土木におけるデザインという言葉は、どのような社会的意味と価値を持ち得るのだろうか。そして、我々はどのような未来を見据えるべきなのだろうか。

 

■土木のデザインは市民権を得ているか

建築に「意匠」という言葉がある。建築における「意匠」は、建築物を世に成立させるために欠かすことができないと考えられている「材料」や「構造」、「設備」、「法規」といった言葉と肩を並べている。それは作品を顕彰する賞やコンペティションの多さからも伺い知ることができる。もちろん、全ての建築家が意匠の必要性を説いてきたかと言われればそうではない。国技館や東京駅の構造設計を担当した建築家で構造学者、佐野利器(1880-1956)に言わせれば『 形(デザイン)の良し悪しを考えるのは女子供のやること』である。しかし、様々な議論を経て、現代社会において建築における「意匠」がある一定の市民権を持っていることに異論の余地はないだろう。

一方、土木で「意匠」という言葉が同等の市民権を持っているかと問われれば、まだまだそういう状況には至っていない。近代社会の形成過程の中で、あくまで人間が生きていくため、命を守るための共有施設としての基盤づくりに、最小の投資で最大の効果を生み出すことを社会的使命としてきた土木分野の、その本質は今でも変わっていない。ただ、その求められる効果が単純に経済だけに留まらないことが現代的特徴であろう。

 

■土木デザイン草創期

『景観とは人間をとりまく環境のながめにほかならない』土木における「景観」という言葉は、中村良夫先生を中心に編集された『土木工学体系13景観論(土木工学大系編集委員会編、彰国社1977)』にその定義付けがある。この景観という視点に端を発した土木におけるデザインの潮流は、その後『美しい橋デザインマニュアル(土木学会、1982)』、『街路の景観設計』(技報堂出版、1985)、『水辺の景観設計』(技報堂出版、1988)、『港の景観設計』(技報堂出版、1991)といった景観設計の手引書として次々と世に出版されていく。

さらに、今はあまり使われることが無くなったが、昭和63年(1988)には土木学会誌で「シビックデザイン」という言葉が提唱されると、平成3年(1991)には『シビックデザイン導入手法研究委員会(1989-1991、建設省(当時))』によってシビックデザインという言葉の定義がなされる。シビックデザインとは、地域の歴史・文化と生態系に配慮した、使いやすく美しい公共土木施設の計画・設計であり、「長期に使用して飽きない永続性」、「共有財産としての公共性」、「歴史・文化・自然生態系に調和する環境性」の3要件が備えるべき要件とされた。しかし、この言葉はバブルの崩壊とともに泡と消えたような印象が無くもない。言葉が消えるとともに世の中から土木のデザインの市民権も薄れていった。

 

■土木デザイン黎明期

土木のデザインが市民権を獲得しようとする動きのひとつとして、平成5年(1993)から平成17年(2005)年まで12年間活動を続けた『景観デザイン研究会』がある。土木で景観やデザインマインドの必要性に共鳴したゼネコンやコンサルタントといった民間会社、大学などの研究関係者が集まった任意の研究会である。橋梁や河川、道路、トンネルなど分野毎の部会をつくり、それらの景観、デザインに対する研究、調査活動を行った。活動費は会員の会費によって賄われ、その研究、調査成果は会員限定の報告書として配布された。

また、平成8年(1996)には、土木学会に『景観・デザイン委員会』が設置され、平成13年(2001)には土木構造物や公共施設、公共空間のデザインを顕彰する制度『土木学会デザイン賞』が創設された。賞設立当時の議論がテキスト化されているので、ぜひ一度読んでみて頂きたい。

http://www.jsce.or.jp/committee/lsd/prize/aboutprize_text/2001announce.html#tamura

 

土木学会デザイン賞受賞作の推移

 

土木の分野にもデザインで競い合う土壌を、事業者の意識変革の先に見据えた美しい日本の風景の再興にかける並々ならぬ決意と意思がそこに込められている。創設12年目を迎え、受賞作品にも緩やかな変化が見られる。過去の受賞作品を種別で見てみると、当初の橋に代表されるモノ単体からまちづくりなどトータルな視点、また規模は小さくとも地域の暮らしに根ざした良質なデザインに対する評価を与える傾向が見られる。地域については関東が最も多く、中部、九州と続き、北海道、東北がやや寂しい。事業主体では109の受賞作のうち、市町村が35、都道府県が25と半数以上を占める。いずれにせよ、こうした賞の創設は、競争の原理と土木におけるデザインの意味や価値について議論を行い、世に問うという点で非常に重要なアクションである。

http://www.jsce.or.jp/committee/lsd/prize/index.html

このような学会等の動きと並行し、国も平成15年(2003)に美しい国づくり政策大綱、平成16年(2004)に景観法、平成20年(2008)の歴史まちづくり法といった良好な景観形成のための法整備を進めてきているのが現状である。

 

■変化するものさし

先程、黎明期、と書きはしたが、土木分野におけるデザインの市民権獲得運動は、学会や様々な組織体による社会的活動を通じて、今もなお続けられている。エンジニア・アーキテクト協会も、世にその必要性を説いていく組織体のひとつである。

今回は「変化するデザインのものさし」というテーマに対し、土木におけるデザインの位置づけを言葉と時間の流れとともに概観してみた。面白いと思ったのは、これまでの土木のデザインが決して景観や風景と切り離して考えられたことが無い、ということであった。つまり、土木のデザインはどこまでいっても自己完結しがたいものなのだ。自己完結しがたいもののデザインのどこに価値を見出すのか。その価値を図るものさしのひとつが「眺め」としての景観や風景である。

では、いま、そしてこれから、景観や風景の他にどんなものさしが求められているのだろうか。これは自分が今様々なプロジェクトを通じて実感していることから述べるしかない。いくつかあるものさしのひとつが「共有」である。個人主義化、粒状化した現代社会におけるつながりや共有の必要性を説く声は多い。人として生きていく上で、ある価値を共有することは、体験を通じた生きがいや生きている実感を得ることに通じ、豊かな人生を育む上で欠かせないことである。僕は土木のデザインにこそ、この共有の価値を生み出す潜在力を感じている。それは土木が人間の暮らしや営みと不可分な領域を横断しており、かつ自己完結しがたいという特質を持つからである。楽しい、嬉しい、気持ちいい。多くの人が直感的に共有しやすい体験や感情を生みだすデザイン。土木のデザインでもそういった価値を生み出すことができるはずである。言葉には価値を与えなければならない。そのためには、言葉が示す現実のモノやことを人が直接的に体感、享受しなければならない。その価値が敷衍していった先に、日本の風景の再興も見えてくるはずだ。我々エンジニア・アーキテクトは言葉に価値を与えることを意識しなければならないし、それを示す空間や施設の実現のために妥協を一切してはならない 。

変化するデザインのものさし

崎谷 浩一郎Koichiro Sakitani

(株)イー・エー・ユー|EA協会

略歴:

1976年 佐賀生まれ

1999年 北海道大学工学部土木工学科卒業

2001年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 修士課程修了

2001年 日本工営(株) 勤務

2002年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程入学

2003年 (有)イー・エー・ユー 設立

2005年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程中退

2008年- 国士舘大学非常勤講師

2011年- 文京区景観アドバイザー

2011年- 東北大学非常勤講師

2012年- 土木学会デザイン賞幹事

 

主な受賞歴:

2010年 グッドデザイン賞(旧佐渡鉱山北沢地区広場および大間港広場)

2010年 グッドデザイン賞(長崎中央橋)

2011年 グッドデザイン賞(大分竹田白水ダム鴫田駐車場・トイレ)

 

組織:

(株)イー・エー・ユー

取締役代表 西山 健一

取締役代表 崎谷 浩一郎

〒113-0033 東京都文京区本郷6-16-3幸伸ビル2F

TEL:03-5684-3544

FAX:03-5684-3607

HP:http://www.eau-a.co.jp/

 

業務内容:

・土木一般、建築、造園等に関わる景観デザイン、設計、コンサルタント業務

・都市開発、都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務

・その他上記に付帯する業務

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