SPECIAL ISSUE/ all

IMGP6713

2011.06.01

小さな事から始まる大きな自信

南雲 勝志(ナグモデザイン事務所|EA協会)

6年ほど前、ひょんな事から小さなプロジェクトに関わった。延岡市から五ヶ瀬川沿いに国道218号を一時間ほど上った北方町(現在は延岡市に統合)に新しく架かる上崎橋と地域の関わりについて、東臼杵土木事務所(当時)の植村幸治さんから相談があった。上崎橋は林道橋で、それまで陸の孤島となっていた上崎地区を国道218号に直結するもので、地域住民にとっては40年に及ぶ悲願でもあった。しかし植村氏は、「単に行政側がつくって与えるだけではなく、架橋に際して地域住民が思いを共にし、記憶に残る何かを付加したいのです。」と語っていた。実は植村氏は東臼杵に来る前に油津港湾事務所で堀川運河の整備を我々と一緒にやっていて、地域と協働してつくる意義を十分認識していたからだった。

そこまでは良いのだが話を聞くと、「実は、橋梁本体の発注はすべて終わっていて、予算がほとんど無いのですよ〜。考えられるのは橋詰め広場に絡んだ整備くらいです。」と言う。「またか・・・。」ここに大きな問題がある。上崎橋は橋長200mほど。そこにこんな立派な橋が必要なのか、と思うほどのアーチ橋は予算が20数億円と記憶している。ところが地域と絡めた予算はほとんど無い。なぜその巨費の中に1%程度の地域協働費を事前に入れておけないか。費用対効果は歴然としているのに・・・。しかしそうも言っておれず、とりあえず集落やその周辺を見て回った。戸数25、人口80数名だったと思う。のどかでやさしく、とても美しい風景の集落だ。気候が温暖で糖度の高い果物の出荷が年間途切れることがないという。しかし少子高齢化は進み、小学生はわずか2名(当時)、中学生はゼロであった。いろいろ検討を重ねたが、コストのかかるプロジェクトは出来ない。結局橋梁の色彩と高欄、親柱、橋詰めの検討を一緒に考えるワークショップを行うことになった。そこでこちらから提案したことは、彼らが大切に育てた杉材を寄付していただき、その伐採から取付けまでみんなで行い、橋をつくるプロセスを一緒に共有しようというものであった。但し、木はそのままでは腐るのでみんなの財産を守り育てるために、毎年皆さんの手入れが必要だ。という条件付きで協力を要請した。しかしほとんど高齢者だけのワークショップの反応は決して良くなかった。「私たちだけで出来る自信がない。」日向市のように子供の力は期待できない。そこで考えた。「スギダラや近くの大学も協力を要請しますから何とか頑張りましょう!」 そう言って最初の住民WSは終わった。2005年6月の事であった。

一ヶ月ほど悩み続けた後、山主の一人が搾り出すような口調で、「わかった、うちの山の木を使っていいよ。」と言ってくれた。とにかく良かった。さっそく彼の山に行き、使えそうな樹齢の杉を数本チェックし、次回伐採をする段取りをした。
森林でのワークショップは、伐採、葉枯らしの後、半年ほどで玉切り、運搬と続いた。協力は全国から集まったスギダラメンバーと延岡福祉大学。建築やまちづくり系学科はもちろんないが、高齢者とまちづくりの協働の可能性という形で参加してくれた。参加者は伐採を自ら行う事でその難しさ、倒される木に対し敬愛の念を感じる。山師達は実践を指導していくうちにみるみる生き生きとしてくる。そう、自らに役割を感じた瞬間、人は自信と輝きを増すのだ。当初活気のなかったワークショップも会を増すにつれ、会話が増え、笑いも増え、終了後はいつもバーベキューと宴会で盛り上がるようになっていった。
杉はその後、工場での丸加工、他地域の小学生を含めた研磨加工、取付けの予行演習といった工程を経て、いよいよ取付け本番の日を迎える。将来の思いを高欄の裏に記した後、二人一組で練習通りに取りつけていく。おばあちゃんのインパクトドライバーの扱いはたいしたものだった。心配した事故もなく橋はついに完成、翌日の竣工式に備える。
2006年11月20日、晴れやかな青空の下、住民総出の竣工式は盛り上がった。橋でも高欄でもない、主役は間違いなく住民達であり、まさに「明日に架ける橋」が完成したことをその笑顔に見た。同時に一年半に及ぶワークショップが終了した。帰路の福岡行きの高速バスを待っていると、住民の一人、”民ちゃん”が涙ながら声をかけてくれた。「私たちの地域を元気にするきっかけをつくってくれて本当にありがとうございました。」それを聞けただけで嬉しかった・・・。そして我々の役割は終わった。

それから5年、住民達は毎年秋に清掃、研磨、オイル架けという高欄、親柱のメンテナンスを行って来た。行政からはそのためのオイルのみが供給されているはずだ。(多分1回2~3万円) 次に彼等が目指したこと、それは自分達の地域のために自分達で出来る事を行う事であった。橋詰め広場に花を植えたり、河川敷に菜の花の栽培をしたりし始めた。年々その規模は大きくなり、やがてその菜の花を見るために外から人がやって来るようになった。「人を呼ぶために何かえをやるのではなく、自分たちが楽しいと思うことをやっていると自然と人は集まってくる。」の実践である。

ポイントは3つ。架橋に於いて地域の記憶を埋め込みたいと言い出した行政の担当者、そして自分たちの素材を元に動き出した住民の力とその協力者の存在。それに喜びを感じた住民が自ら行動し持続していること、であろうか。もっといえば公共というものが行政を離れ民でつくられた瞬間でもあった。そう公共は実はみんなでつくるものなのだ。
住民達のそれらの一連の活動は客観的に評価され、平成21年延岡市都市景観賞優秀賞を受賞するに至る。僕はとても嬉しかったが、彼等にはその受賞は特にどうでも良かったのかも知れない。今年もまた上崎橋の下の河川敷は菜の花で真っ黄色に染まった。

今、地域が誇りを持って自立しなければならない時代である。そのために素材やコスト、そしてプロセスを考慮した上で、その場に相応しい、且つ住民が守りたくなる造形や仕組みをつくっていく事はデザインの大きな役割だと思っている。

 

01杉の運搬:地元の指導の元、延岡福祉大の学生、スギダラメンバーにより行った玉切りと運搬作業。

 

02取付当日:あいにくの雨だったが、ほぼすべての住民、スギダラなどの有志により短時間で完成した。

 

03年に一度のメンテナンス:毎年秋10月の土木の日周辺で住民による清掃、ワックスがけが行われている。

 

04 河川敷一面の菜の花

 

地域を動かすデザイン 〜市民協働まちづくりを考える

南雲 勝志Katsushi Nagumo

ナグモデザイン事務所|EA協会

略歴:

1956年 新潟生まれ

1979年 東京造形大学造形学部デザイン学科卒業

 

主な受賞歴:

1995通産省グッドデザイン 家具インテリア部門金賞(project candy)

2003日本デザイン振興会建築施設部門 グッドデザイン賞

(宮崎県日向市に於ける「木の文化のまちづくり」の実践)

土木学会デザイン賞2001 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)

2005日本産業デザイン振興会 新領域部門 グッドデザイン賞

(ふれあい富高小学校特別授業「移動式夢空間」)

土木学会デザイン賞2009 優秀賞(萬代橋改修工事と照明復元)

土木学会デザイン賞2009 最優秀賞(津和野本町・祇園町通り)

土木学会デザイン賞2010 最優秀賞(油津・堀川運河 )

 

主な著書:

デザイン図鑑+ナグモノガタリ(ラトルズ)

都市の水辺をデザインする(彰国社-共著)

ものをつくり、まちをつくる(技報堂-共著)

新・日向市駅 (彰国社-共著)

 

組織:

ナグモデザイン事務所

代表 南雲 勝志

〒151-0072 東京都文渋谷区幡ヶ谷1-10-3-2F

TEL:03-5333-8590

FAX:03-5333-8591

HP:http://www.nagumo-design.com/

 

業務内容:

・景観におけるプロダクトデザイン、設計業務

・まちづくりに関わるコンサルタント業務

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