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2014.01.16

年頭に当たって

吉村 伸一((株)吉村伸一流域計画室|EA協会 副会長)

あけましておめでとうございます。

新年にふさわしく明るい話題と思うのですが、原発再稼働、原発輸出、特定秘密保護法、武器輸出、アベノミクス、国家予算96兆円…。この国はどこに向かうのか、不安な気持ちにさせます。

内山節(哲学者)さん(『新・幸福論-「近・現代」の次に来るもの』)の言葉を借りると、今は「近現代の幻想からようやく解き放たれはじめた」時代だという。近現代的な変革の理論そのものが力を失っていると指摘しています。「自由は個人の中にあるという幻想から、個人を自由にする結び合いの模索へ。個人のエゴイスティックな社会から、共に生きる社会へ。勝ち続けることをめざす経済から、共に生きる経済へ。ゆえに今日とはローカリズムの時代でもある」と。若者を中心に「結び合いの中に自分の生きる場をつくりだそうとする模索」があちこちで生まれているという。私たち(団塊)の世代が掲げてきた変革の理論というのはもう通用しない。若い世代に期待したいと思います。

さて、東北の震災復興。巨大防潮堤問題に関心を持っています。話題になっている計画を見るとどうしてこうなるのと思う。L1(レベル1)の高さがすべて。設計としてはきわめて単純でこういうとなんですが面白くない。高さと法勾配を与えれば絵はすぐ描ける。今回の津波に該当するL2(レベル2)はギブアップしたわけですから、津波がL1堤防を越えることもあることが前提になっています。しかし、問題となっているL1計画は防ぐということしか考えていないように見えます。

桑子敏雄(東工大・哲学)さんは「恵みとリスクの包括的管理」が必要だと指摘しています。海や川がもたらす恵みの配分とともに海や川がもたらすリスクをどう引き受けていくのか。それを包括的に考える思想と技術が問われています。どれだけ安全でありたいのかを考えるというのは、どれだけのリスクを引き受けていくのかということです。そしてそれを考え選択する主体はあくまでも地域住民ではないでしょうか。海の恵みとリスクをどう引き受けていくかというのが防潮堤を考える主題であって、L1という高さの是非ではないと思います。高さの是非になっているのは、それがL1高さという価値軸しか示していないからだと思う。私は、川と海が交わる河口域における新しい防災まちづくりが生まれてくるといいなと考えています。

2014年 新年のご挨拶

吉村 伸一Shinichi Yoshimura

(株)吉村伸一流域計画室|EA協会 副会長

資格:
技術士(建設部門:河川、砂防および海岸海洋)

技術士(環境部門:自然環境保全)

特別上級土木技術者[流域・都市](土木学会)

 

略歴:
1948年 北海道生まれ、石狩川流域人

1971年 室蘭工業大学土木工学科卒業

1971年 横浜市役所 勤務

1998年 吉村伸一流域計画室設立、代表取締役

 

主な受賞歴:
2005年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(和泉川/東山の水辺・関ヶ原の水辺)

2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)

2011年 土木学会デザイン賞 優秀賞(いたち川の自然復元と景観デザイン)

2018年 土木学会デザイン賞 優秀賞(伊賀川 川の働きを活かした川づくり)

2021年 復興デザイン会議第3回復興設計賞(川原川・川原川公園)

2022年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(川原川・川原川公園)

 

主な著書:
日本文化の空間学(東信堂、2008、共著)

多自然型川づくりを超えて(学芸出版社、2007、共著)

多自然川づくりポイントブック(日本河川協会、2011、共著)

図説・日本の河川(朝倉書店、2010、共著)

川の百科事典(丸善、2009、共著)

川・人・街-川を活かしたまちづくり(山海堂、2001、共著)

自然環境復元の技術(朝倉書店、1992、共著)

 

組織:
(株)吉村伸一流域計画室

代表取締役 吉村伸一

〒245-0008 神奈川県横浜市泉区弥生台9-1-12-103

TEL:080-5414-7135

 

業務内容:
・河川の自然復元および景観デザインに関わる研究、計画、設計

・川づくり、まちづくりに関わるコンサルタント業務

・市民参加、合意形成マネジメント

・その他上記に付帯する業務

SPECIAL ISSUE

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