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2012.12.18

共有される設計プロセスとは

渡邉 竜一(株式会社ネイ&パートナーズジャパン|EA協会)

1.デザインと設計、アーキテクトとエンジニア

意匠設計、景観設計を意味する「デザイン」と、意匠を現実化する工学的な「設計」が存在する。橋梁の世界でも、アーキテクト・デザイナーとエンジニア、両者の協働によって橋がデザインされることはある。アーキテクトが周囲の景観的観点もしくは利用者の使い勝手の観点から橋の「かたち」を決め、その後エンジニアが成立させる構造を考える。もしくは工学的観点から橋梁形式が決まり、アーキテクトが「かたち」を整えていく。一方で、大半の橋梁はエンジニア単独で工学的な「設計」のみでデザインされる。よく前者が理想的とされ、後者に問題があるといわれる。ただ僕はエンジニアの工学的な設計を悲観的に捉えてはいない。不十分な部分はあるが、ある一定の理にかなった価値観の中で設計が行われているからだ。また、反対によく言われるようにアーキテクトとエンジニアの協働によってすばらしい橋が生まれるとも限らないと思っている。僕は、どちらにもすばらしい橋が生まれる可能性は残されていると考える。ただし、いずれの設計プロセスも初期段階に「かたち」が存在する設計プロセスである。このことに着目したいと思う。

設計は、多岐に及ぶ検討項目から成り立つ。美しさや構造、機能のほかにも経済性、耐久性、環境性、歴史性など様々な要素のバランスから成り立っている。橋は公共性が高く、後世に残る社会資本である。時代の中での価値のみならず、時を経ても失われない「かたち」の強度が必要である。「かたち」がはじめに存在する前述のような設計プロセスからは、様々な要素を統合的に解くような「かたち」は生まれにくいのではないか。アーキテクトの描く「かたち」は、エンジニアの工学的観点から修正を余儀なくされることがしばしばあるし、一般的な技術解は人間的スケールを欠くことがあるからだ。美しいけれど経済的ではない、数年後にメンテナンスが困難なことにより悲惨な状況になっている橋を、これまでいくつも見てきた。反対に経済性や利便性のみから造られた「かたち」を、後世の人々は老朽化した際取り壊すことをいとわないだろう。デザインは装飾として捉えられ、工学設計はヒューマンスケール持たない非人間的な人工物を造りだすものとして考えられるようになった。いつの間にか両者の間には大きな隔たりが存在してしまった。

2.エンジニアの「かたち」

構造自体の在り方が純粋な芸術として見える「かたち」。「かたち」が力学から生み出され、重力に逆らって軽快に浮かぶ姿は美しい。ボーフムにあるシュライヒ設計の歩道橋は、ロケーションに合わせて軽やかに設計された好例だ。まるで空中を散歩するかのような浮遊感が心地よい。手すりや桁下の構造ディテールも程よくデザインされている。高台をつなぐロケーションがあるからこそのデザインでもある。

 

写真1:Bridge across Gahlensche Strasse, Essen (DE)

 

構造美は普遍的側面をもつが、美しいという感覚的思考に似た側面があることは忘れてはいけない。究極の力学解が美しく最もふさわしい解とは限らない。架設される場所によっては、主張の少ない設計が最善の選択ではないケースもあるからだ。自然の風景の中の橋と都市の中の橋の在り方が違う。橋は渡る、眺めるという機能だけではなく、人が空間として利用する営みの場としての役割を担うこともある。エンジニアの「かたち」の中で、この観点から上手にデザインされた橋は少ない。優れた構造エンジニアの設計で、一般的に評価の高い橋梁であっても、実際に訪れてみると味気なく違和感を感じたことがしばしばあった。構造は、あくまで「かたち」を形成するひとつの要素なのだと思う。リカルド・モランディのローマにあるVia Olimpica橋は構造と空間が融合した興味深い例だと思う。桁下の構造の造形が美しく、橋の下が夏の日差しを遮り心地よい空間になっている。桁下はちょうどバス亭になっていて、都市の中で上手に使われていた。

 

写真2:Via Olimpica Viaduct, Rome (IT)

 

一般的にエンジニアの思考は、物事を定量化して評価する思考が中心になる。構造の新しさ、技術的な思考にとらわれすぎると、技術が生み出す「かたち」が先に存在することになる。構造物をつくる目的の議論が抜け落ちてしまう。

3.アーキテクトの「かたち」

一人の感性が生み出す美しい造形としての「かたち」。丁寧な人間的スケールをもったディテールで構成される「かたち」。人間的で美しい構造物が、一人の建築家・デザイナーによって生み出された例もある。ヴェネチアにあるカルロ・スカルパの小さな橋はその好例である。構造的にはごく普通のアーチで、遠景からは非常にシンプルな佇まい。しかし近づくと丹念にデザインされたディテールが心地よいスケール感を生み出している。

 

写真3:Querini Stampalia Bridge, Venice (IT)

 

コンピュータの発達に合わせて、解析技術、施工技術は、飛躍的に向上した。複雑な3次元曲面の形も解析、建設可能になってきている。より一層、設計者のモラル、設計プロセスが重要となるように思う。一人の感性による思考は、人間的なスケールをもった美しい「かたち」を導く。一方で、恣意的な思考に支配されるため、多くの人と共有することが困難になることが多い。過去を見るとコストや耐久性を無視した「かたち」を生み出してきてもいる。

4.共有されるデザイン、思考へ

僕が4年間在籍したベルギーのネイ&パートナーズでは、興味深い設計プロセスで設計が行われていた。「かたち」が先に存在しないのだ。はじめに条件、方向性の議論を行う。この段階では「かたち」のスケッチは出てこない。プロジェクトによって、建築家やクライアントが入ることもあれば、最近では住民を巻き込んだワークショップのような場合も出てきている。「かたち」を伴わない方向性の議論は、専門家でなくても参加が可能であり、時に専門家でない人の意見が重要なエッセンスを含んでいることもある。プロジェクトの方向性というのは、広い意味での「コンセプト」であり、意匠や構造の新しさに加えて、経済性、メンテナンス、施工性、環境性、利用の形態など多岐にわたる項目から抽出され決定されていく。プロジェクトの方向性、すなわち条件の重みづけの議論が終わると、「かたち」は、条件を最も満たす力学解から導き出される。厳密な意味での力学的な最適解ではないが、次善の解という在り方に近い。その後「かたち」を意匠と技術それぞれの観点から反芻し検討を繰り返すことで洗練させていく。技術的な新しさや魅力的な造形は、時に無くてはならないものではあるが、数多くある要素の中の一部でもあることを忘れてはいけない。写真の3つはネイ&パートナーズのプロジェクトである。新しい技術、街のシンボルとしての「かたち」(写真4)、歴史的景観の中での「かたち」(写真5)、住民参加から生まれた「かたち」。様々な有り様が見て取れる。(写真6)

写真4:Knokke Footbridge, Knokke-Heist (BE) ©Daylight

写真5:Smedenpoort Footbridge, Bruges (BE) ©A. Trellu

写真6:Promenade bridge, Nijmegen (NL) ©bmd

歴史を振り返ってみると日本でも、熊本の通潤橋、岩国の錦帯橋など、目的、地場の技術、メンテナンス、施工性など条件を統合的に解いた結果導かれた「かたち」がある。今のように無数の選択肢などなかった時代、「かたち」はフリーハンドで任意に決められるものではなかったのだと思う。これらの橋が僕を魅了するのは、橋自体の美しさもあるが、目的、「かたち」の意味が読み取れ、条件や制約を解いた結果立ち現れた「かたち」であるからだろう。必然性を感じさせてくれるのである。

もうひとつだけ最後に付け加えると、「かたち」が結果として生まれる設計プロセスは、逆を辿ると、「かたち」に至るまでのプロセスを明確に示したプレゼンテーションになる。ネイ&パートナーズが欧州で数多くの橋梁の設計コンペを勝ち取っている秘訣の一端がここにある。共有する議論の場を開放すること、プロセスを明確にプレゼンテーションできることの2つは、これからの橋梁の設計を考える上で鍵となる。「かたち」がプロセスの結果として立ち現れるような設計は、まさにエンジニア・アーキテクトの仕事と呼べるのではないだろうか。

2012年、欧州から帰国し、東京に株式会社ネイ&パートナーズジャパンを設立した。すばらしい技術を持った日本のエンジニア、日本特有の繊細な感性を持ったアーキテクト、デザイナーと協働していきたい。また、欧州とは異なる環境・システムの中で、欧州にはない仕事のあり方を模索し、エンジニア、アーキテクトの垣根を越えた「適正なデザイン」を実現するため、僕は新しいスタートをきっている。

写真7:株式会社ネイ&パートナーズジャパン コンセプト

橋梁デザインのゆくえ

渡邉 竜一Ryuichi Watanabe

株式会社ネイ&パートナーズジャパン|EA協会

略歴:

1976年 山梨生まれ

1999年 東北大学工学部建築学科 卒業

2001年 東北大学大学院工学研究科都市建築学専攻 修士課程修了

2001-2008年 株式会社ステュディオ・ハン・デザイン 勤務

2009-2012年 Ney & Partners(ベルギー) 勤務

2012年 株式会社 ネイ&パートナーズ ジャパン 設立

 

組織:

(株) ネイ&パートナーズ ジャパン

代表取締役 渡邉 竜一

代表取締役 ローラン ネイ

〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-15-5 シルバラードNo4 401

TEL:03-6677-3781

FAX:03-3713-5679

 

業務内容:

・建築及び土木構造物の企画、コンセプトワーク、構造デザイン

・土木構造設計並びに建設コンサルティング

・インテリア、ランドスケープ、展示会場などに関する企画、デザイン

・プロダクト・家具などのデザイン

・その他上記に付帯する業務

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