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2012.12.18

暮らしの風景を創る橋

大野 美代子((株)エムアンドエムデザイン事務所|EA協会)

1. 縁あっての橋梁デザイン

日本のデザイナーで初めて橋をデザインしたのはプロダクトデザイナーの柳宗理氏であろう。当時の八幡製鉄から歩道橋のデザインを依頼されたが、日本では参考資料が見付からない。その頃ヨーロッパへ旅立った私は資料収集をお引き受けした。その中で橋の美しさを知った事が橋との縁の始まりかもしれない。

1976年、老人病院や精神病院の仕事を終えた直後に歩道橋のデザインが舞い込んだ。36年も前のことである。思えば病院の廊下は、歩道橋の通路と同様の空間である。初めての世界にとまどいながら、私達は橋そのものの造形よりも、多様な人々の利用する都市の歩行空間としてのデザインに力点をおいた。そして歩道橋として初めての土木学会田中賞受賞は、全くの想定外であった。

それから36年、数多くの橋づくりに参加した。規模の大小、橋の種類、架橋地域も様々。いずれの仕事も技術者との共同作業である。

 

蓮根歩道橋/東京都/1977

 

2. 様々なケースの橋梁デザイン

橋は道路の一部として計画され、位置や幅員の決まっているケースがほとんどであった。大規模な橋は構造のシステムまでも。平面計画を含めて、比較的自由なのは、歩道橋である。

かつしかハープ橋や横浜ベイブリッジでは、斜張橋というシステムや橋脚の位置までも決定済みで、形状(タワーや橋脚の形状・ケーブルの張り方)を工夫。スケールが大きいだけに地域に新たな風景を創り、走行空間のアクセントとなった。当時設計段階としてはめずらしい500分の1の模型を製作し、形状とその空間性を具体的に検討。橋の持つ地域景観への影響の大きさをあらためて認識した。

 

かつしかハープ橋/東京都/1986

 

横浜ベイブリッジ模型

 

一方、同時期に設計したフランス橋歩道橋は、取り付け部の公園入り口と一体化した平面計画を構造のシステムを含めて提案。横浜市の道路局、緑政局、経済局、都市デザイン室、首都高と常時十数人の会議で承認を得ながら進めた。歩道橋は人に近いため、ディテールのデザインも重要である。施工時にデザイン監理という発注項目がないため、その必要性をアピールすべく無料で行い、1984年に完成。2004年、近接する地下鉄駅の出現で周辺建物の多くは変わったが、橋は28年の年月を経てほぼ同じ姿を保っている。これも橋梁デザインの宿命といえる。

 

フランス橋/横浜市/1984

 

広島市の鶴見橋では平和大通りの端部に架かるため、橋と共に橋詰め広場を提案。依頼された橋のみではなく、道路や川との連続性や、大通りで行われるパレード等の溜まり空間を考えての提案である。周辺の風景に馴染ませると共に、都市の中での役割を考慮した。

 

鶴見橋/広島市/1990

 

小田原ブルーウェイブリッジは海際を走る高速道路橋であるが、町並みに近接している。日本で初めてのエクストラドーズド橋という構造形式のため、新たな形態を求めて、発注者、設計者、施工者、デザイナーの共同作業であった。地域や走行空間を分析した上で、構造に関わる面も提案。構造形状に加えて高欄や照明・色彩までトータルな空間計画のできることがデザイナーの強みかも知れない。土木の技術者はあまりに専門化されているので。

 

小田原ブルーウェイブリッジ/1994

 

高知の鉄道高架橋は街中の低層住宅密集地を貫く。そのため、沿線住民の反対運動が大きく、それまでの鉄道高架橋の圧迫感や将来のスラム化など地域景観の悪化を懸念してのことである。そこで軽やかな桁を中央によせた2本の円柱で支えるという、住宅のスケール感や街中の暮らしに馴染む形態を提案。橋下で金曜市の行われる箇所もあり、桁下利用のしやすい見通しの良い空間をつくった。篠原先生に協力。

 

JR土讃線 鉄道高架橋/高知市/2008

 

3. 橋梁デザインの集大成/鮎の瀬大橋

熊本県の文化運動「熊本アートポリス」に組み込まれた橋で、通潤橋で有名な山都町(旧矢部町)の山中に架かる。深さ140m、幅300m余の厳しい谷に阻まれ、不便な生活を耐えてきた両岸の集落には待望の橋であった。

1989年、初めて目にした現地は緑豊かな谷、眼下に清流の流れる美しい風景にいたく感激。まず地域に馴染みのよいコンクリートを選択し、アンバランスな地形を活かして斜張橋とV脚を組みあわせた構造形状とした。町の中心から見通しのきかない中を集落に向かうと、突然視界が開け谷の上に出る。その先、緑を背景に斜張橋のタワーがオレンジ色のケーブルを広げて出迎える。このようなシークエンス景観も大事にした。橋詰めには谷の風景を楽しむ小広場、開けた側に駐車場付きの大きめの広場を設け、集落のお祭りなどの利用をイメージした。5年6ヶ月の施工期間中、デザインの監理を行い1999年に完成。

幸いにも2002年土木学会デザイン賞最優秀賞をいただいたが、それよりもうれしかったのは2010年、両岸の集落による開通10周年の記念行事に招かれたことである。大きめの広場の片側にトラックの荷台を改造した舞台、反対側には畳とイスによる観客席が用意され、広場がうまく使われていた。広場に面して集落の経営する物産館が建てられ、それが人々のたまり場にもなっている。

この11月22日、熊本県の景観シンポジュウムに招かれたが、タイトルを「暮らしの風景を創る−橋梁のデザインを通して−」とした。視覚的な美しさだけではない、居心地の良い空間を創る−これが長いデザイナー生活の結論である。アプローチの仕方は、人それぞれでよいのではないだろうか。

次の日バスで山都町へ出かけたが橋は健在で、集落には農家レストラン、縁側カフェなどが出現。この橋が地域の活性化に少しでもお役に立てば幸いである。

 

鮎の瀬大橋/熊本県/1999

 

 

橋梁デザインのゆくえ

大野 美代子Miyoko Ohno

(株)エムアンドエムデザイン事務所|EA協会

略歴:
1971年、エムアンドエムデザイン事務所設立

1977年、初めて手掛けた蓮根歩道橋のデザインを契機に、様々な橋梁、道路及びその付属施設の景観デザインを手掛けるようになる。

かつしかハープ橋(1987)、小田原ブルーウェイブリッジ(1994)長崎県女神大橋(2005)など、多数の橋をデザイン。

 

主な受賞歴:
土木学会田中賞/蓮根歩道橋(1977)、かつしかハープ橋(1986)、横浜ベイブリッジ(1989)、小田原ブルーウェイブリッジ(1994)、屋代橋梁(1996)、陣ヶ下高架橋(2003)、女神大橋(2006)

土木学会デザイン賞/鶴見橋(2001・優秀賞)、鮎の瀬大橋(2002・最優秀賞)、陣ヶ下高架橋(2003・最優秀賞)、川崎ミューザデッキ(2010・優秀賞)、はまみらいウォーク(2011・優秀賞)

グッドデザイン賞/鮎の瀬大橋(2000)

都市景観大賞/鶴見橋(1991)、くすの栄橋(1999)  等

 

主な著書:
BRIDGE-風景を創る橋(2009/鹿島出版会)

 

組織:
(株)エムアンドエムデザイン事務所

〒151-0051東京都渋谷区千駄ヶ谷2-2-1-2F

TEL:03-3402-5723

FAX:03-3404-0692

 

業内内容:
・橋梁デザイン・・・長大橋梁、中小橋梁、高架橋、歩道橋、鉄道橋、他

・道路、広場デザイン・・・自動車専用道路、一般街路、橋詰広場、公園

・道路関連デザイン・・・トンネル坑口及び内装、地下道、換気塔

・道路付属施設デザイン・・・遮音壁、防護柵、高欄、照明、他

・インテリアデザイン・・・病院、公共施設、住宅、家具、他

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暮らしの風景を創る橋

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