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EA07

2011.07.01

隣人から土木デザイン教育へ一言

川添 善行(東京大学 生産技術研究所 川添研究室/川添善行・都市・建築設計研究所|EA協会)

隣り合う建築と土木

隣にあれば違いを見つけたくなるし、遠くにあると似ているところを探したくなる。人間はいつの時代もそんな性質を持っているのかもしれない。建築と土木の関係は、どうだろうか。例えば、私が勤める東京大学では、建築学科と社会基盤学科(かつての土木工学科)は、工学部1号館という建物の中に隣同士に位置している。日本の大学における両学科の生い立ちを考えれば、両者の関係を象徴的に示す状況だとも考えられる。一方で、一時とはいえ、両方の学科での勤務経験を持つ筆者としては、その違いは、想像以上に大きい。教員・学生を含めた人間の気質や、専門分野の意味合い、教育理念など、その違いを挙げれば枚挙にいとまがない。
本稿では、建築と土木のデザイン教育の違いを比較し、土木デザイン教育のあり方について考えてほしいという編集チームからの要望があったので、両者のデザイン教育の何が異なっているのか、というところから始めたい。筆者が語る場合は主に東京大学における、という趣が強くなってしまうが、それも上記の象徴的な意味、という点でご容赦頂ければ、と願う。

 

デザイン教育の違い

建築学科では、カリキュラムの中心に設計演習がおかれることが多く、学生たちは1週間のうちの多くの時間を設計課題に費やす。そして、設計を通して、構造や材料、歴史のことを学んでゆく。学生たちは、時間の大半を製図室(大学によって呼び名は多少異なるだろうが、意味していることは同じ)で過ごし、そこで同級生だけでなく、先輩や後輩とも知り合ってゆく。カリキュラムとしても、学生が過ごす時間も、培われる人間関係も、すべてが設計ということを中心にしている。これを図にしてみれば、図1のようになるだろう。土木学科ではどうか。たしかに近年、デザイン教育の重要性が叫ばれ、様々な大学で設計演習がカリキュラムに組み込まれることになった。実際の現場で活躍する実務者も講師として呼ばれることもしばしばであり、一見すると何だか充実の様相を呈している。しかし、実態はどうか。いわゆる設計演習は、他の様々な演習の一つに過ぎず、学生たちは他の様々な演習の一つとしてしか取り組むことができない。各分野には熱心な先生も多く、それぞれの演習には、課外の作業時間も多く要求され、設計演習の講義時間以外は、設計のことを考える時間さえ与えられていないことが多い。よく言えば、多様な分野をバランスよく学べる、ということかもしれないが、設計を通して構造や材料、歴史を考えるということにはならない。これを図にしてみると、図2のようになるだろうか。

 

左:図1建築のカリキュラム図 右:図2土木のカリキュラム図

 

土木のカリキュラムは何を伝えようとしているのか

自分で書きながら、はたと困った。土木のカリキュラムは何を伝えようとしているのか。土木学科でのカリキュラムの中心にはいったい何があるのだろうか。ひとつ面白い演習がある。それは、東京大学社会基盤学科の唯一の必修単位である「フィールド演習」である。1週間ほど、山中湖の寮に泊まり込んで、森林の様子を観察し調査するというものである。1週間も一緒に過ごすから、教員も学生も互いに相手のことをよく知る機会になり、共同作業の面白さと難しさを体験する。最初はただの飲み合宿かと思っていたが、実はこの演習は奥が深い。土木にまつわる仕事は何らかのかたちで、自然を破壊し、現状の環境に改変を迫る。それは、この分野の職業にまとわりつく業(ごう)のようなものである。このフィールド演習は、森林(自然)を抽象的なものとしてではなく、自らの身体によって体験するものである。この演習を通して、将来の自分の仕事が何らかのかたちで自然に影響を与えることを想像し、自分の描く1本の線がどのような自然を破壊するのかを身をもって理解する。土木のカリキュラムの中心にあるもの。私は、それは「自然」ではないかと思う。設計も、国土計画も、測量も、地盤も、それらはすべて自然への適切な理解と真摯な応答を模索するものであるからである。土木のカリキュラムが教えようとするものは、自然への哲学だと考える。

 

写真1:東京大学フィールド演習の様子

 

隣人から一言

近年、特に盛んになってきている土木分野におけるデザイン教育。筆者が東京大学社会基盤学科に在籍していた間にも様々な演習が行われた。ただ、後悔がないわけでもない。土木におけるデザインの多様さについて、きちんと学生に伝えられなかったという忸怩たる思いがある。広場のあり方については、設計演習でも取り上げられたが、例えば、橋のデザインの多様さ、選択肢の広さ、その周辺環境への影響力の大きさなどは全く教えられなかった(もちろん、筆者自身の不明はあるとして)し、1本の道が地域にとってどのような意味を持ち、どのようにまちを変えるのか、ということも扱うことができなかった。土木デザインが扱う対象はとても多岐にわたるし、自然との関わり方もほんとうに多様である。その幅の広さを土木デザイン教育ではきちんと伝えるべきである。建築学科のデザイン教育が模範というわけではないが、学生の間に美術館から集合住宅、個人住宅まで、一通りの設計を経験するカリキュラムになっている。近年の状況では、美術館のような建物を設計する経験など、ほとんどすべての卒業生にとって皆無であるが、それでも建築の幅の広さを体感することは、やはり重要である。近年、土木の分野でも、コミュニティが大切、モノのデザインばかりをやっている時代ではない、という議論を良く耳にする。毎回それを聞くたびに、隣人として本当に心配になる。本当に大丈夫ですか?あなた方のやるべきことは別なところにたくさんありますよ。専門家として必要なスキルもなく、自分たちがカバーするべき領域の広がりすらわからない人に、本当に土木のデザインができるのですか、と時に尋ねたくなる。ちょっと耳あたりはよろしくないが、隣人としては正直な感想である。土木デザインは自然を対象にするのだから、ほんとうに大変である。

大学における土木デザイン教育の意義

川添 善行Yoshiyuki Kawazoe

東京大学 生産技術研究所 川添研究室/川添善行・都市・建築設計研究所|EA協会

資格:

一級建築士

 

略歴:

1979年神奈川生。オランダから帰国後、東京大学 景観研究室 にて内藤廣に師事。現在、東京大学 川添研究室(建築設計学)主宰。川添善行・都市・建築設計研究所 代表。Dr. (eng)。

ベレン公園図書館、shibuya1000、白水ダム周辺整備計画 鴫田駐車場・トイレなどの作品があり、現在も国内外での建築設計に携わる。世界の都市再生事例を集めた『SSD100 都市持続再生のツボ』(共著)は、日本国内だけでなく韓国でも出版されている。

 

主な受賞歴:

2008年 土木学会景観デザイン研究発表会優秀講演賞

2009年 グッドデザイン賞(shibuya1000)

2011年 グッドデザイン賞(白水ダム周辺整備計画 鴫田駐車場・トイレ)

『世界のSSD100 都市持続再生のツボ』共著(彰国社)

 

組織:

東京大学 生産技術研究所 川添研究室

〒153-0041 東京都目黒区駒場4-6-1

TEL:03-5452-6153

FAX:03-5452-6859

HP: http://www.kwz.iis.u-tokyo.ac.jp

 

川添善行・都市・建築設計研究所

HP:http://www.gandz.com/

 

業務内容:

・建築設計

・地域再生に関する調査・研究

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