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2017.12.19

23|天神川水門

重山 陽一郎(高知工科大学|EA協会)

天神川水門は島根県松江市に2015年に竣工した。16.4mのゲートが2門ある、ライジングセクタゲートという形式の水門です。重山がデザインを担当しました。

この水門のデザインの要点を5つ紹介します。

 

これは施工前の現況です。宍道湖から天神川の方向に川の水が流れます。

宍道湖の堤は3.5mありますが、天神川は2mしかなく、洪水が来たら溢れるため、水門を造るというのが、このプロジェクトです。
水門の近くに島根県立美術館と岸公園があり、対岸は白潟公園です。宍道湖の向こう側に夕日が沈むため夕日の名所として名高い場所です。

 

島根県立美術館からの夕日の写真です。このように非常に美しい夕焼けを眺めるために、多くの人が集まる場所です。

 

既存の道路橋(嫁島橋)からも夕日が見えます。そのような場所に造る水門なので、デザインを疎かにすることはできないプロジェクトでした。

 

デザインの要点1としては、水門の形式と、管理橋の位置と高さの設定が非常に大きな問題でした。

250分の1の模型を作って、検討しました。

 

普通の水門では、宍道湖の風景をほとんど遮ってしまうので、問題でした。

 

様々な案を比較検討した結果、ライジングセクターゲートを採用することになりました。

 

これが竣工写真です。かまぼこみたいな形のステンレスのゲートが幅が約3m、長さが約16.4mあり、それが2門あります。風景を妨げないという意味では、狙い通りのものができたと思います。

これを実現するのに、まず宍道湖の河川管理者の国土交通省と、天神川の管理者の島根県河川課で、設計条件の設定から形式の選定まで、素晴らしい判断をしていただきました。

また、この辺りは島根県松江市の景観計画で夕日の名所として位置づけられており、「土木構造物は圧迫感のないものにする」というような方針があります。それに基づいて松江市の景観審議会で色々なアドバイスと後押しをいただいて、それも大きな要因でした。さらに、設計チームの、いであ株式会社、株式会社IHIインフラシステムの技術力がなければ、このような成果は実現しませんでした。

 

これが断面図です。図の右側が宍道湖で堤防が3.5m、左が天神川で2mです。

 

 

水位が1.4mまで上がると、円盤が回って閉まります。

 

 

最高でここまで水が来ることを想定しています。

 

 

この部分がカーテンウォールと管理橋を兼ねています。カーテンウォールとは、ゲートの可動部分を少しでも小さくするために、固定された止水壁です。

今回のデザインでは、この「カーテンウォール兼管理橋」の位置と高さが重要な要素でした。

 

 

通常は、カーテンウォールは下流側にあります。また、管理橋は桁下余裕を取るために、橋の路面が堤防より高くなります。

今回は、カーテンウォールと管理橋を兼ねたものが、上流側の低い位置にあるため…

 

宍道湖側から見たときに、管理橋の向こう側にゲートがすっぽり隠れて全然見えなくなり、普通の橋のように見えます。

 

洪水時には、点線の部分まで水が来ますので、普通は管理橋がもっと高い所にあります。

この橋は2つの公園を結ぶ遊歩道としても利用されますが、橋がもっと高い位置にあると、階段やスロープを造る必要があり、デザインも、歩きやすさも損なうため、「管理橋の位置と高さ」は非常に重要でした。

 

 

要点2は、円盤周りの収まりです。

 

 

天神川水門は日本で14番目のライジングセクターゲートですが、先行事例を調べたところ、円盤の周りは煩雑な形になりがちでした。

 

 

そこで、円盤とコンクリート躯体の隙間、スリットみたいなところに何もかも押し込んでしまいました。これは、IHIインフラシステムの皆様に頑張っていただきました。

 

 

ゲートの上にアーチ型の金属がありますが、これは取り外すことができます。

 

 

取り外して、止水ゴムのメンテナンスなどを行います。機能的・構造的にはこのままでも良いのですが、あまり美しくないので、カバーを着けてあります。

 

 

反対側は地覆と高欄もあるので、アーチ型のカバーが地覆を兼ね、高欄も一体となって、まとめて外れるようになっています。

 

 

要点の3番目は、躯体の仕上げです。

コンクリートの表面仕上げは、なかなか難問でした。

 

 

これは施工前の写真ですが、周りはすべて自然石か、擬石コンクリートで仕上げられていました。

ですから、ここに水門をつくってコンクリートの打ち放し仕上げでは問題だと思われました。

 

 

それなら自然石で仕上げるかとなると、それはそれで葛藤があって、最終的には「はつり仕上げ」にして、まあまあ上手くいったと思っています。

 

 

施工現場で、はつり仕上げの強さを変えたサンプルを造っていただきました。

 

 

施工は半分ずつ、出雲土建株式会社と松江土建株式会社が担当されましたが、はつり仕上げの職人さんは同じ方を採用していただきました。コンクリートの工場も同じ、骨材も同じにして、向こうとこちらで違いが出ないように努力していただきました。

 

 

要点の4番目は、翼壁と橋詰めのデザインです。

 

実は、手前に昔から架かっている嫁島橋の長さと、水門の幅が異なります。

 

 

嫁島橋と水門で、このぐらい差があります。

 

 

水門本体はこの部分なので、そこから先は嫁島橋の長さまで凹んでも機能的構造的に問題はないです。

通常はそうなることが多いのですが、見た目には違和感が大きいので……

 

 

まっすぐ、すっきりさせました。

 

 

そのため、嫁島橋の高欄の外側、川だった所が、橋詰広場になっています。橋桁と広場の隙間がほぼゼロで、ここは施工会社に素晴らしい仕事をしていただき、全く違和感なく仕上がっています。

 

最後は操作室の位置とデザインです。白潟公園の中に操作室を造らせていただきました。

 

公園管理者は、松江市の歴史まちづくり部公園緑地課です。

普通は公園の中に操作室は作れないのですが、操作室を兼用工作物、つまり公園としても使える施設として位置づけていただくことで、実現しています。

建屋のデザインについては、松江市の景観計画で「陰影のある」というキーワードがあって、それらを考えて軒を深くし、入り口の扉を壁より奥に凹ませて、のっぺりした建物にならないようにしてあります。

 

 

同じ公園の中にあるトイレですが、茶室みたいなデザインになっています。むくりのついた緑青の屋根です。

 

 

東屋も同様に、むくりのついた緑青の屋根です。

 

 

そこで、操作室も同様に、むくりのついた緑青の屋根になっています。また、兼用工作物として、縁側のような空間を造り……

 

そこからも宍道湖を眺められるようになっています。

 

このようにして、天神川水門が完成しました。

 

 

美しい夕日の風景を遮らないものができました。また、2つの公園を結ぶ遊歩道としての橋もでき、水面の上から湖を眺める新しい視点場も造ることができました。

ここを訪れた方は、水門だと気づかないことが多いらしいです。

 

 

 

 

参考資料:

日経コンストラクション 2015年4月27日号

建設コンサルタンツ協会誌 273号

土木学会デザイン賞ホームページ

天神川水門の位置(GoogleMap)

 

 

 

 

EAプロジェクト100

重山 陽一郎Yoichiro Shigeyama

高知工科大学|EA協会

資格:

土木学会上級技術者(流域・都市)

 

略歴:

1963年 宮崎生まれ

1987 東京大学工学部土木工学科卒業

1988 アプル総合計画事務所

1996 フリーのデザイナー

1997 高知工科大学助教授

2008 同大学教授

 

主な受賞歴:

皇居周辺道路景観整備(東京都千代田区:土木学会デザイン賞優秀賞)

門司港周辺の一連の環境整備(福岡県北九州市:土木学会デザイン賞最優秀賞)

 

組織:

高知工科大学

〒  782-8502 高知県香美市土佐山田町宮の口185

 

TEL: 0887-57-2402

FAX: 0887-57-2420

 

業務内容:

景観デザイン、景観デザイン教育

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