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2021.03.12

29|藤沢駅北口デッキ・リニューアルの設計

松井 幹雄(大日本コンサルタント(株)|EA協会)

1.はじめに
駅前デッキの先駆的事例でもある、昭和54年(1979年)竣工の藤沢駅北口デッキ(4700㎡)のリニューアルに向けた設計業務を報告する。
リニューアル設計者は、大日本コンサルタント株式会社と株式会社GK設計のJVで、藤沢市(事業者)が主催する公募型プロポーザル(設計コンペ)において選定されたものである。設計期間は2015年〜2017年で、以下の要求性能に対して、基本計画(コンペ時提案)から詳細設計までを実施している。(図1参照)
①市の玄関口としてふさわしい装い。太陽や緑を感じることができるデザイン。
②日常時とイベント時の両方において、誰もが使いやすいユニバーサルデザインの実装。
③耐震補強済みのため、荷重増にならない配慮。

図01(上)  :主なリニューアル箇所(完成イメージパース)
写真01(下):デッキ全景(駅から北方向を見る)

写真02(上)  :デッキ鳥瞰景(駅ビルから見る)
写真03(左下):デッキ鳥瞰景(リニューアル直前)
写真04(右下):デッキ鳥瞰景(工事中:利用しながら動線を3段階で切り替えての施工)

 

 

2.デッキの構造的特徴
本デッキの地上部はバスターミナルとして利用され、そのターミナル動線を避けるように、道路を跨ぐ方向に13.65m、道路方向に8.5mピッチで配置された鋼管橋脚上に、約2.8mのグリッドを基本とするSRC構造の床組みがワッフル状に展開している建築的な構成である。
リニューアルにあたり、デッキ上に照明支柱等を新たに配置したが、その際にはこのグリッド交点位置に支柱アンカーを配置し、支柱から伝達されるモーメントを効果的に主構造に伝達するような工夫を加えるなど、デッキ上の施設配置デザインと構造特性上の制約とのパズルを解くような設計となった。

写真05(左上):桁下の様子(構造支柱が並ぶ分離帯に3本の大木が根を下ろしている)
写真06(右上):上から見るグリッド(床が不要な場所)
写真07(下)  :桁下の様子(バス用道路が3本、納まっている)

 

 

3.既存ビルとのアクセス改善(既存エレベータの改築)
デッキと既存ビル2階フロアとは2.25mの階差があり、従前は階段及びメイン出入口から離れた場所のスロープでの接続で、車いす利用者はもとより乳母車の利用者にも不便な状況にあった。デッキレベルと地上階および地階へアクセスするEVはあったが、片方向扉でビル2階フロアへのアクセスは出来ない状況であった。そこで、EVを双方向扉型に更新し、それに必要なビル及びデッキ構造の変更、空調ダクト類の切り回し、等を工夫,2階フロアへのアクセスを実現した。加えて、空間レイアウトを工夫しスロープも新設した。エレベータかご寸法の設定は、病人等の運搬時の利便性を考慮し、ストレッチャーの使用を前提に調整し、救急体制面の向上にも配慮した。

写真08(左上):既存EVの改修(リニューアル前)
写真09(右上):既存EVの改修(リニューアル後)
写真10(左下):既存EVの改修(リニューアル後・スロープ)
写真11(右下):既存EVの改修(リニューアル後・地下階)

 

 

4.エレベータ、エスカレータの新設
先述した既存エレベータの改築の他、地上バスターミナルへ接続するEVを1基を新設。また、代替動線が確保できる既存階段2基を廃止し、その場所にEVおよびエスカレータを新設し、デッキ全体としてのユニバーサルデザイン化を実現した。エレベータかご寸法の設定は、病人等の運搬時の利便性を考慮し、ストレッチャーの使用を前提に調整し、救急体制面の向上にも配慮した。エスカレータ設置においては、機器設置の空間を確保すべく、既存RC梁を除去し代替の鋼製梁を設置したり、既存の地下通路への荷重増を防ぐEPS利用など、様々な荷重軽減策を適用して実現している。

写真12(左上):既存階段のエスカレーターへの改修(リニューアル前)
写真13(右上):改修後のエスカレーター(右上に見える市役所への動線上に設置された)
写真14(左下):改修後のエスカレーター(既存支柱の改築の様子がわかる)
写真15(右下):既存階段をEVに改築(リニューアル後)

 

 

5.軽量化の工夫(高欄、床構造)
高欄はコンクリート製の壁高欄を全てガラス高欄に更新して軽量化、装いを新たにした。
従前のタイル舗装は、その路面高さの調整のための均しコンクリートが厚いところで20cmほど使用されていたため、排水勾配を残してこれを剥ぎ、浮き床式のタイル舗装と木製デッキに更新した。軽量化とともに、排水施設の床下化に伴う歩行性向上を図った。

写真16(左上):グリッド構造を跨ぐ照明支柱アンカー

写真17(右上):浮き床構造の様子(60cm角の平板)

写真18(左下):

リニューアル前の壁高欄(比較的健全な箇所は表面を洗い設計当時の表情を出し保護塗装の上、再活用する検討(試験施工)したが、事業者の賛同を得られず全箇所ガラス高欄とした)

写真19(右下):ガラス高欄の様子

 

 

6.回遊動線確保のための増床(木陰の演出)
軽量化の一方、デッキ上の回遊性や魅力を向上させるための増床も実施している。
従前から床版を有しないグリッドから樹冠を大きくデッキ上に張り出していたクスノキの周りには歩廊を追加し、樹冠が落とす木陰に人がたたずむ場所を設えた。できる限りのベンチも配置し、公園のような柔らかい雰囲気を醸すことを狙った。

写真20(左上):

クスノキの周辺(リニューアル直前)
写真21(右上):

クスノキ周辺(リニューアル後)デッキ床面を拡張し、ベンチの配置、歩廊の追加などを実施。
写真22(下)  :

クスノキ周辺(リニューアル後)デッキ床面を拡張し、ベンチの配置、歩廊の追加などを実施。

 

 

7.座る場所の増設(ベンチ延長140m)
従前もベンチがたくさん設置されていたが、木製座面の維持管理が行き届かず、機能を発揮できていない様子が顕著であった。そこで、材質を維持管理が容易な石材に変え、その量(延長)も倍増させて、総延長約140m(200人強)のベンチ空間を設えた。イベント時は立食用テーブルも多数用意されるが、デッキの至る所で座って談笑できるようにした。あらゆる場所にベンチを配置して、気分に応じて使えるように考えたのであるが、完成後の利用形態を観察すると、その目論見は、ウィズコロナの状況下においても、うまくいったようである。

写真23(上):

クスノキの周辺(リニューアル前)うっそうとしてるが、座る場所がなく、木陰を活かせていない。

写真24(下):

クスノキの周辺(リニューアル後)デッキ全体にベンチを配置。高欄、照明支柱は環境に埋没するよう、濃いトーンで押さえ、植栽の緑、ベンチの白(御影石)、床の木デッキとタイルのYR系のグレートーンの構成で、すっきりした印象を演出。

 

 

8.イベント時への対応(副動線確保、設備配置)
従前から設定されていたメイン動線に並行して副動線を確保して、イベント時の人の流れを複線化した。また、飲食等ブースの使いやすさを向上すべく、要所に電源、給排水設備、パラソル設置基礎を配置するなど、デッキの多様な使い方を想定した計画とした。加えて、都市的な健康活動にも使えるように、従前、藤棚があった空間を開放的な人工芝広場に更新した。なお、従前のデッキにおいて、シンボル的な藤棚はデッキの中二階のような落ち着ける別空間に移設した。

写真25(左上):イベント時(ベンチでの飲食/コロナ禍前)
写真26(右上):イベント時(デッキにテーブルを出して賑わう/コロナ禍前)
写真27(左中):イベント時(人工芝広場で式典の様子)
写真28(右中):互いの距離をとって思い思いのアクティビティーが見られる
写真29(左下):イベント時も副動線により歩行機能を確保
写真30(右下):
移設された藤棚の様子。デッキの主要動線から外れているため、イベント時は本部や別用途に活用されている。

 

 

9.照明デザイン(安心と洗練)
従前は、ハイマスト照明がデッキ全体を照らす計画だったが、成長した既存樹木が影を落とし、機能的とは言えず、洗練と安心感に少し欠ける状況であった。リニューアルにあたり、街の賑わいを演出するバナーポールを兼用するポスト照明を基本に、光が届かない箇所等には、高欄およびベンチに埋め込んだ照明と併用する計画とした。デッキ全体に、洗練された夜景空間を演出すべく、輝度を制御し、必要な路面照度を確保する計画とした。新たに路面立てる照明柱は、先述したように、桁を構成するグリッド交点を跨ぐように配置し、デッキ上に無粋な(重力式の)基礎が現れないようにしている。地上階のバスターミナルの天井となる桁下部分は全グリッドに演出照明を配置し、従前の暗い桁下のイメージを刷新した。

写真31(右中):普段使いの夜景。(写真:GK設計)

 

 

10.おわりに
コロナ禍がまだ始まっていない2019年12月21日に完成式典が行われた。多くの市民によって広場的デッキ空間を楽しんでいただけたが、人々が密に集う状況はその日だけで、今日(2021年2月)に至っている。かといって、デッキ空間が閑散としているわけではないようで、(一社)藤沢駅周辺地区エリアマネジメントの精力的な活動により、コロナ禍の中でも、感染防止に努めながら様々なイベントが打たれ、市民が集う場所としてうまく使いこなしていただいている。今後も活動のバリエーションを増やしていくそうで、設計者としても嬉しい限りです。この場を借りて、藤沢市をはじめ関係者の皆様に感謝します。「いつもありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。」

 

 

所在地:神奈川県藤沢市(JR藤沢駅北口)
竣工年:2019年12月
諸 元:1979年竣工の駅前デッキ(約4700㎡)
受 賞:なし
事業費:約21億円

関係者:
事業主体|藤沢市
設  計|大日本コンサルタント株式会社(松井幹雄、初鹿明、原隆士、出牛和美)
株式会社GK設計(入江寿彦、西元咲子、加賀美鋭)
設計協力|(建築設計)小池泰明、武居由紀子
施  工|熊谷組・田中建設工業・山藤建業共同企業体

 

 

 

付録1.ウィズ・コロナの今、思うこと(2021年2月)

設計していた頃は、コロナ禍のことは想定外だった。ただ、駅前の貴重な空間は、歩行に便利とかいった機能面だけでなく、公園のように気ままな行動を許容することが肝要と考え、ひたすらベンチをたくさん配置するようにした。デッキ上に大きく成長した樹木は安全性の面から除去せざるを得なかったが、地面から生長している大木は、3本とも残すことが出来た。デッキが完成してつくづく思うのは、この大木が憩いの空間を形作るのに効いていることだ。人は自然と木陰のある場所から座るし、樹冠越しに見れば、味気ないビルもそれなりに納まる気がする。

今回のリニューアルは、このデッキを永久化するものではない。事業者は2、30年のスパンを想定しているようであった。それは、今振り返ると卓見であるように思う。2、30年後、公共モビリティーや街づくりの様相は変わり、このデッキ下に展開しているバスターミナル機能は別のものになっている気がする。そうなれば、空間を重層化して活用するデッキの役目も完了し、次のフェーズはデッキの立替でなく撤去になるだろう。となれば、この場所の履歴の証人は、今回も残した3本の大木になる気がする。バージニア・リー・バートンの「ちいさなおうち」の物語では、文明の波にのまれたそのおうちは、最後は引越しを余儀なくされたけれども、この3本の大木はこの場所に残り、次の世代の未来をまた見続けることになるだろう。大事に見守っていきたい。そう思っていることを記して、報文を終わります。

付録2.人工芝について

最近、人工芝のプラスチックが雨水下水を経由して河川および海洋に流れマイクロプラスチック課題の要因となっていることを知った。本デッキでも人工芝広場を擁しており、今後、対策が必要と考えている。事業者と協議し、対応できたら、また報告したい。

EAプロジェクト100

松井 幹雄mikio matsui

大日本コンサルタント(株)|EA協会

資格:

技術士 総合技術監理部門(建設部門)

 

略歴:

1960年 大阪府豊中市生まれ

1985年 大阪大学大学院工学研究科土木工学専攻修了

現在   大日本コンサルタント株式会社 執行役員 技術統括部副統括部長

 

1995年〜2006年 東京学芸大学 非常勤講師

2012年〜2013年 徳島大学 非常勤講師

2015年〜2016年 早稲田大学 非常勤講師

2012年〜2017年 大阪大学 非常勤講師

2007年〜現在  東京工業大学 非常勤講師

 

主な受賞歴:

2002年 土木学会デザイン賞 優秀賞(ふれあい橋)

2010年 土木学会デザイン賞 優秀賞(川崎ミューザデッキ)

2010年 北米照明学会賞(はまみらいウォーク)

2011年 土木学会デザイン賞 優秀賞(はまみらいウォーク)

2012年 グッドデザイン賞 (はまみらいウォーク)

2012年 土木学会デザイン賞 優秀賞(新四万十川橋)

2014年 土木学会田中賞 作品賞 (各務原大橋)

2014年 土木学会デザイン賞 奨励賞 (富山大橋)

2015年 土木学会デザイン賞 優秀賞 (各務原大橋)

2019年 土木学会田中賞 作品賞 (築地大橋)

2019年 土木学会田中賞 作品賞 (天城橋)

2020年 土木学会田中賞 作品賞 (史跡鳥取城跡擬宝珠橋)

 

主な設計競技:

堺市主催・大小路橋歩道橋デザインコンペ優勝/1996年(1998年竣工)

横浜市主催・横浜駅東口デッキ指名コンペ優勝/2004年(2008年竣工)

大阪市主催・(仮称)道頓堀川人道橋デザインコンペ入賞/2005年

各務原市主催・各務原大橋公開プロポーザル優勝/2006年(2014年竣工)

台湾政府主催・淡江大橋・国際コンペ入賞(2位)/2015年

藤沢市主催・藤沢駅北口デッキリニューアルコンペ優勝/2015年(2019年竣工)

 

主な著書:

これからの歩道橋 付・人にやさしい歩道橋計画設計指針(技報堂出版、1998、共著)

ペデ 〜まちをつむぐ歩道橋デザイン〜(鹿島出版会、2006、共著)

土木設計競技ガイドライン・同解説+資料集(土木学会、2018、共著)

 

組織:

大日本コンサルタント株式会社 技術統括部

〒101-0022 東京都豊島千代田区神田練塀町300 住友不動産秋葉原駅前ビル4F

TEL 03-5298-2056

FAX 03-5394-8408

 

業務内容:

建設コンサルタント業 (構造、保全、景観、道路、交通、都市、地域、環境、河川、砂防、地盤、空中物理探査、等)

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