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2015.06.09

08|曽木の滝分水路

星野 裕司(熊本大学大学院自然科学研究科/工学部社会環境工学科|EA協会)

概要:

平成18(2006)年7月に襲った豪雨は,鹿児島県北部を流れる川内川に浸水面積2,777haに及ぶ甚大な洪水被害を引き起こした。川内川中流に位置する曽木の滝は,年間30万人の観光客を集める観光名所である一方,上流に洪水を発生させる治水上のボトルネックであった。滝を迂回させて洪水を流す分水路の計画が以前より検討されていたが,大規模工事を観光地の景観と調和させる方法が見つからず実現が見送られていた。しかし,上記災害の復旧を目指した激特事業の一環として曽木の滝分水路が整備されることとなり,島谷幸宏教授(九州大学)の発案の元,私たちが景観デザインのアドバイザーとして参加することとなった。

 

 

 

曽木の滝分水路の航空写真。分水路は曽木の滝右岸に整備されたが,以下に述べる様々な工夫によって,左岸に位置する曽木の滝公園からは存在を認識することはほぼできない。その点では検討以前からの最大の課題であった景観との調和は,十分に満足されたといってよい。

 

 

 

私たちが参加することとなった委員会名は「曽木の滝分水路景観検討会」(委員長:小林一郎熊本大学教授)。検討会当初は「景観」が掘削法面の修景以上の意味を持たなかったが,周辺模型などを通して地域の課題を共有し,地域に付加価値を与えるような整備を行うことが「景観」検討だという意識の共有を図った。

 

 

 

人工的な将来計画案(原案)に対して大胆な変更が可能となった大きな要因は,土量の減少による整備費抑制効果を持つということであった(表中のB案を展開)。水理計算と景観検討を容易に両立させるという点で,CIM(Construction Information Modeling)が効果的であった。

 

 

 

断面形を平面図の上に並べるだけという簡易な(しかし十分に景観を検討できる)模型が行政および水理技術者との合意形成において大いに役立った。おそらく,河川断面を用いて行う水理計算モデルをそのまま立ち上げたような模型だったためであろう。なお,この水理条件の見直しにあたっては島谷幸宏教授の力が大きかった。

 

 

 

造形にあたって,最も貢献したのは施工者である。掘削は3段階に分かれて行われた。試し掘りの性格の強い1次掘削において,岩盤の表面を滑らかに仕上げる場合や岩の節理に合わせて発破の後をそのまま残す場合など,数パターン試していただいた。それらを現場で確認し,発破の跡を凸凹のまま残す仕上げを採用した。

 

 

 

自然な仕上げとするために,施工業者は様々な工夫を行った。例えば,岩盤の破砕は2mピッチで設置するダイナマイトの深さを,私たちが作成した粘土模型を読み取り10cm単位で微調整したり,破砕後の岩盤に対して,硬質で角ばった岩や不安定に残った岩をワイヤーブラシを固定したバックホーで丁寧に除去するなどである。

 

 

 

竣工後の分水路を下流側から見る。整備のプロセスに参加し続けた立場からも,まるで人工でつくったものとは思えない空間が現出した。なお,平常時の分水路は空堀であるが,農業用水の排水を流すことでせせらぎ水路をつくっている。

 

 

 

1次掘削後,正確に把握できた岩盤の深さに合わせてレベルを検討し直した管理用通路。できるだけ土と岩の間に設置されるように調整した結果,ゆるやかな起伏を持つ自然な動線を創出することができた。

 

 

 

適宜,階段等を設置し回遊動線を確保している。写真で示した階段は,岩盤と石積みで保護された土の間にうまく収められたものである。なお,この整備で生じた岩の多くは,川内川下流で同時に行われていた激特事業の一つである虎居地区や推込分水路の護岸に活用されている。

 

 

 

洪水を分流させている時の吞み口の様子。これが本来の機能を発揮している時の景観である。

 

 

 

曽木の滝周辺には,ダム湖につかる発電所の遺構(明治42年)など多くの資源がある。分水路の完成後,それらを歩く「曽木はっけんウォーキング」というイベントを3度開催している。現状では,このようなイベント時以外は分水路は立ち入り禁止となっており,運用方法に関しては,いまだ今後の課題のままである。

 

 

 

平成25(2014)年の分水路。多くの植物が繁茂し,せせらぎにはカエルや小さな魚など生き物も多く,優れたビオトープとなっている。自然の力によって,訪れるたびに異なる風景を見せてくれる。

 

 

 

所在地:

鹿児島県伊佐市

 

竣工年:

2011年3月

 

諸元:

延長:約400m,平均河床幅:約30m,分派量:約200m3/s,掘削:約25万m3

 

受賞:
グッドデザイン・サステナブルデザイン賞(2012年)
土木学会デザイン賞優秀賞(椎込分水路および虎居地区と共同,2013年)

 

事業費:
約9億円

 

関係者:
事業主体|国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所
設計|(株)東京建設コンサルタント
設計協力|熊本大学景観デザイン研究室,空間情報デザイン研究室,河野耕三,福留脩文

EAプロジェクト100

星野 裕司Yuji Hoshino

熊本大学大学院自然科学研究科/工学部社会環境工学科|EA協会

資格:

博士(工学)、1級建築士

 

略歴:

1971年 東京生まれ

1994年 東京大学工学部土木工学科卒業

1996年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 修士課程修了

1996年 (株)アプル総合計画事務所 勤務

1999年 熊本大学工学部 助手

2005年 博士(工学)取得(東京大学)

2006年 熊本大学大学院自然科学研究科 准教授

 

主な受賞歴:

2012年 グッドデザイン賞サステナブルデザイン賞 受賞

2011年 第25回公共の色彩賞 入選 (熊本駅周辺地域都市空間デザイン)

2009年 深谷通信所跡地利用アイデアコンペ 専門部門 優秀賞

2009年 平和大橋歩道橋デザイン提案競技 入選

2003年度 土木学会論文奨励賞 受賞

 

主な著書:

「風景のとらえ方・つくり方」(共著、共立出版、2008)

「川の百科事典」(共著、丸善、2008)

 

組織:

熊本大学

〒860-0555 熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1

TEL:096-342-3602

FAX:096-342-3507

HP:http://www.civil.kumamoto-u.ac.jp/keikan/

 

業務内容:

・景観デザイン・まちづくりに関する研究および事業支援

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