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2011.10.01

06|「組織として石積み技術を保持する会社」第1回:(株)寒風(その1)

兼子 和彦((株)東京建設コンサルタント|EA協会)
前田 格((株)東京建設コンサルタント|EA協会)

前回まで、瀬戸内の一人親方の石工職人の方のお話を紹介してきました。今回からは、組織として高度な石積み技術を保持し続ける会社のお話を紹介させていただきます。最初は、男鹿石の産出と石材工事の両方を行う、男鹿の「(株)寒風」をご紹介いたします。

1.(株)寒風ついて

男鹿石の丁場を持っており、採石から石工事、墓石まで石に関する事業を幅広く扱っている他、一般土木工事も請け負っています。業態の比率は、土木部が50%、他、石材部と石工事部、秋田営業所(墓石専門)で同程度の売り上げであります。土木部では、一般土木工事をすべて扱っています。
石積みについては河川が多く全体の70%、次いで公園が25%、民間が5%程度です。石積みについては、雑割間知石の生産から、設計、積み、土木工事に至るまで社内ですべて行うことができます。このような体制があるからこそ、石積み職人を抱えて石積みの仕事を続けていくことができると考えています。
雑割間知石は主力商品です。冬場も丁場の作業を行っていますが、大雪の時などは道路の除雪の仕事に入ることもあります。冬場には丁場の重機も除雪用に改造しています。雑割間知の他に、砕石の生産を行っています。C40が中心で、C150~250はふとんかごに用いられる物です。
山の恵みを享受している立場から、地域の振興を図る義務を感じており、シンポジウムの開催やイベントの開催等地域経済や観光産業の振興のための活動を行っています。地域に伝わる伝統的な技術を継承したく、石工の技術継承には力を入れています。

2.石積み工事の動向について

積みの仕事は減ってきています。石を使わなくなってきているのです。発注者には石は高いとのイメージが強いです。
場合によっては、石でも十分他の工法にコストで太刀打ちできる場合があります。地元の災害復旧工事などで、緑化ブロックやふとんかごなどで施工された現場について、男鹿石の石積みでやった場合のフォトモンタージュと両工法の積算書を作成し、写真とコストの比較表にして役所へ企画提案しています。男鹿を訪れる人が癒されるような風景を創るために必要なことだと考えています。発注者はすぐに「安定計算をやれ」と言います。コンクリートブロックはメーカーの計算結果が付いており、すぐに、誰でも施工できます。しかも、事業に関わるすべての人が楽をできます。石が使われなくなった一因であろうと思います。
最近は練積みの工事ばかりです。空積みの場合、弱いところは崩れると思われていますが、簡単に補修できるのも空積みの良さです。
練積みの場合、積み職人の作業は15時くらいまでであり、その後積んだ高さまで裏込めコンクリートが打たれて、一日の作業を終え、翌日また積み始めます。このようなやり方であるため施工延長の長い現場のほうが、作業効率が良いのです。

3.石積み技術と技術者について

現在7人の積み職人を雇用しており、内1人は臨時雇い、1人が正社員、1人が見習です。60代後半が3名で、若手では3名が30代後半です。若手とは言っても、見習も含めて3人共石積み技能士一級です。60代の3人は、昔は出稼ぎに出ていた石工であり、県外の師匠から教わってきた者達です。今居る60代の職人は、若手への指導も積極的です。昔のように「見て盗め」の状態で若手を育てることは、現場が減っている状況から考えても難しいです。技術は体で覚えるのが基本ですが、それでも、本やビデオといった教材が作れないかと考えています。
積み職人は稼働率が悪いです。積みだけでは商売にならないのです。寒風では、普段は丁場で雑割間知の生産をやらせており、現場が出ると、自分で作った石を積ませるといった形を採っています。自分で作った石なのだから、石が悪いとの言い訳は一切通用しません。上手い石工とは石なりに積む石工であり、下手な石工ほど石を選びます。あまり石を選び過ぎると、つまらない石積みになってしまいます。石なりに積むことが石屋の感性です。
雇用しているといっても、社員と見習の2名を除き、出来高払いです。雑割間知1個作って900円、積みの仕事が出たらm2当たりいくら、といった雇用の仕方です。稀に平米単価での雇用が難しい場合のみ、日いくらで払っています。
職人に大切な物はハングリー精神です。職人魂は社員に向きません。職人の腕とは、スピードです。請負でやらなければ励みになりません。スピードがある職人は稼げるのです。男鹿には寒風が雇用している職人の他に、2名の積み職人が居ます。職人同士の繋がりもあり、現場に呼んで、職人同士で金を振り分けたりもしています。
御影石は中国産が圧倒的に安く、国内の御影の山は苦しいと思います。しかし、中国産材についてはこれから価格が上昇すると思われます。国内の御影の山については、庵治石ほどのブランド価値がなければ、生き残れないのではないかと思います。男鹿石は安山岩であるが、安山岩についてはまだ中国と太刀打ちできます。
中国産の間知は味が出ません。中国産で乱積み用の石もありますが、やはり表面が平べったくなっており、面白味に欠けます。中国産材は寸法が正確であり、布積みの方が楽に積めると思います。現場で石を合わせる場合は、谷積みの方が楽に積めます。法線が曲線の場合も、谷積みのほうが、融通が利きます。柳間知(細長い間知石)を上手く使って合わせて行きます。布積みでカーブを施工する場合は、目地が揃わずに難しくなります。雑割石積みの場合、積み方の指定が無い場合が多いです。現場での判断で決めています。布積みとするのは、基本的に高さが低い場合のみです。事前に発注予定の情報があれば、営業に行き、好ましい積み方について提案を行っています。
石のエージングについては、御影石はあまり良くなく、安山岩のほうが、深みが出ます。男鹿石は吸水性が高く、苔も付き、生態系にも良いものです。また、練積みとした場合には、コンクリートとの相性も良く、御影よりも強度が出ると思われます。練積みの場合、どうしてもエフロ(エフロレッセンス)が生じてしまいます。アク止めを混入しても限界があります。エフロがひどく生じている箇所については、塩酸で拭きに行っています。エフロの発生には、施工時期の湿度が影響していると思われます。積雪期や梅雨期に施工した物にはエフロが発生し易いです。エフロのことも考え、できれば12月までに石積み工事を終わらせたいのですが、石積みは工事の工程で最後の方に廻されてしまい、2~3月の施工が多くなってしまっています。
技能士の資格については、若い人の目標や通過点となることから、積極的に取らせています。発注時に技能士有資格者を規定する制度化はやった方が良いと思います。高齢の石工には厳しくなるかもしれませんが、今後を考えた場合には必要な施策だと思います。高齢の腕のある職人は、推薦などにより特別に資格を与えるなど、技能士の制度の改革が必要ではないかと思います。試験官が石を積めない、毎年同じ図面を使っている等、試験の中身にも問題を感じます。
現在、コヤスケ職人なら居ますが、ハリマワシ職人が減ってきていると感じています。石の大割りができなければだめであると思います。石積み職人とは石を叩いて積む職人のことであり、野面は積むではなく組む、野面を組む職人は造園工です。穴太積みも造園工の技術の一つであると思います。野面の職人、石積み職人、どちらの技術も大切です。

 

◎(株)寒風で雇用した腕の良い職人について
【村上金治】(野面の職人)千葉県船橋市在住

福生市緑道公園の石積み。(村上氏施工)

 

新宿御苑の石積みを積んだ方で、野面積みのお手本となる職人です。
福生の事例では、最初は練積みの設計であったのですが、村上氏が空積みでやらせてくれと役所に頼んで実現しました。見事な崩し積みを積みます。造形センスと構造的な勘のバランスが良く、石を輝かせています。
村上氏は、現場で「糸(丁張り)を張るな」と言います。糸によりイメージが壊されるそうです。

【武藤広】(積み職人、72才)
横手川の乱積み部分で中心になった男鹿の石工であり、積みの仕事が出た時のみ、寒風が呼んでいます。積みは抜群に上手く、県下一、北東北でも一番であろうと思います。石種を問わず、御影も積めます。特に乱積みが得意であり、乱積みに関しては右に出る者はいないと思われます。間知については、寒風で常時雇用している者に負けない腕の職人がいます。武藤氏は、山に来て間知の制作をやってもそれほど多く採ることができないため、積み専門となっています。昔は出稼ぎをやっていたようですが、今は遠くへは行っていないようです。出稼ぎをやっていた職人も、高齢になると遠くの現場は嫌がります。
武藤氏は若い人に技術を教えません。彼の息子も石工として寒風で常時雇用していますが、父親と異なり手の抜き所がわかっていません。悩んでしまい、スピードが乗りません。武藤氏は息子にすら教えないのです。

【佐藤昭雄】(積み職人、69才)
寒風で常時雇用しており、積みの仕事が無い時期は丁場で雑割間知を作っています。間知なら、制作も積みも武藤氏より腕が上です。他に、60代の積み職人で倉貫氏がいますが、佐藤氏も倉貫氏も、若手への指導をきちんと行っています。

※    高い技術ばかりが石積みでは無いと思います。普通の土木作業員が積めるような石積みを否定してはいけないと感じています。
((株)寒風 石材事業部 倉貫氏へのインタビューより)

 

次回は、(株)寒風のお話の続きとして、今回ご紹介させていただいた武藤氏と佐藤氏の作品なども紹介させていただく予定です。

職人礼讃

兼子 和彦Kazuhiko Kaneko

(株)東京建設コンサルタント|EA協会

資格:

技術士(建設部門)

 

略歴:

1952年 静岡県生まれ

1976年 東京工業大学工学部社会工学科卒業

1976年 株式会社アイ・エヌ・エー新土木研究所 入社

1983年 株式会社地域開発研究所 設立

2011年 株式会社東京建設コンサルタント 入社

 

主な受賞歴:

2001年 土木学会デザイン賞優秀賞(鹿児島港本港の歴史的防波堤)

2008年 土木学会デザイン賞優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)

 

主な著書:

「歴史的土木構造物の保全」土木学会編、鹿島出版会、2010.9(共著)

「河川博物館、構想から運営まで」(財)河川情報センター、1997.10(共著)

「新時代の河川博物館、欧州にみる博物館の可能性」河川博物館協議会編、鹿島出版会、1999.10(共著)

 

組織:

(株)東京建設コンサルタント

〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-15-6

TEL:03-5980-2648

FAX:03-5980-2613

HP:http://www.tokencon.co.jp/

 

業務内容:

河川計画、河川構造物、河川環境、水質保全、上下水道、道路、橋梁、交通、海岸、ダム、砂防、環境アセスメント、観測技術、模型実験、都市・地域計画、廃棄物処理、事業執行マネジメント、防災、LCM、機械電気設備技術、情報通信技術、測量・地質調査、施工管理、建築設計

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前田 格Itaru Maeda

(株)東京建設コンサルタント|EA協会

資格:

一級建築士

 

略歴:

1967年 千葉県生まれ

1993年 多摩美術大学美術学部建築科卒業

1993年 (株)地域開発研究所 入社

2011年 (株)東京建設コンサルタント 入社

 

主な受賞歴:

2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鹿児島港本港の歴史的防波堤)

2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)

 

組織:

(株)東京建設コンサルタント

〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-15-6

TEL:03-5980-2648

FAX:03-5980-2613

HP:http://www.tokencon.co.jp/

 

業務内容:

・土木、造園、建築の計画及び設計業務

・都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務

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