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2012.05.20

09|「組織として石積み技術を保持する会社」第2回:田部石材(株)

前田 格((株)東京建設コンサルタント|EA協会)

前回まで、組織として高度な石積み技術を保持し続ける会社のお話として、男鹿石の産出と石材工事の両方を行う、男鹿の「(株)寒風」をご紹介させていただきました。今回は、寒風と同じく丁場と石工事の両方を手掛ける、島根の田部石材(株)をご紹介します。2006年5月に実施した田部石材店の田部哲朗氏へのインタービューをもとに構成しました。

 

1.会社の概要について

・    年間売り上げ約1億で、比率は7割が墓石、石積み2割、建築1割である。

・    石積みは民間8割、公共2割程度の割合である。

・    公共の石積みについては河川護岸と道路法面が主である。

・    間知ブロック積みの仕事も請けている。土建屋よりも石屋の方が仕事が早い。

・    採石については、自社の丁場を持っている訳ではなく、広瀬はマサ山であるために、採砂工場で出る副産物の玉石の御影(風化しきれていない御影石)を安価に購入し、現場で割って山から出して、広瀬産石の墓石に加工、販売している。

・    玉石といっても巨大な物であり、山で割らなければ降ろせない。

・    墓石になる部分は4割程度である。残りは乱積み用の石としている。

・    広瀬産石は大島石よりも落ちる程度の質であり、地場産の墓石は年に一個程度しか売れない。

 

2.石積み工事の動向について

・    公共工事は孫請けとなってしまうことから、民間工事の方が利益率が良い。

・    公共の石積みは減ってきている。昨年度は一件もなかった。

・    公共工事の石積みについては、河川護岸と道路法面が多い。

・    石積みに関しては、現在では中国産間知石の谷積みが多い。

・    中国産間知は加工されていることから、木っ端石が出ない。間知積みは本来、二方落としの雑割を現場で四方に叩いて加工し、発生した木っ端石を胴飼に使うものである。

・    岡山県の水川石は、今でも二方落としで出ており、現場で加工して積んでいる。

・    間知ブロックの時には、胴飼もコンクリートが要求され、そのためのコンクリートをわざわざ打設することがある。

・    松江では、「庭の川島」と「松浦造園」の二社が二大大手造園業者であり、川島は土建屋に近い造園屋、松浦は石積みや石のリサイクルにも取り組んでいる造園屋である。

・    田部石材もこれらの造園業者の下請けに入ることが多い。

・    松浦造園には専属の積み石工がいるはずであり、松江城の石垣修復にも10年間くらい携わっている。

・    大きな造園会社では石工は連れてくる場合が多く、積みの技術なら田部が負けない自信がある。

・    松浦造園では、大森銀山での石積みの仕事もやっているはずである。田部も誘われたが、現場が遠いことから断った。

 

3.石積み技術と技術者について

・    積みの仕事を請けた際は、すべて自社の社員で積む。

・    現在、積みができる職人は6人居り、皆若く、田部氏が最年長で44歳である。

・    6人中3人が石積み一級技能士の資格を持つ。

・    本来ならば6人共一級を取れたが、島根で一級の技能検定をやった際に、音頭を取っていた松浦造園の社長から何人か受験者を出せと言われて、6人出ようとしたら、他社が少ないからちょっと減らせと言われて3人しか受験できなかった。

・    自分は、現在四代目である。

・    中学卒業後、岡崎の犬塚石材の犬塚進氏の元で5年間修行した。修行の内容は主に手で彫る技術であり、道具箱作りから始まり、道具を作る鍛冶仕事、豆腐(直方体)作りと進み、石を叩く技術を主に教わってきた。

・    丁稚状態であり、全寮性であった。概ね四年制で、同期は3人、上下に5人、合計20人くらいが全国から来ており、寮生活を共にした。

・    給料ももらっていたが、一年生は飯炊きもさせられた。

・    岡崎にはこのような弟子を採る石屋が何軒かあったが、犬塚は最も弟子が多い石屋であった。

・    四年生の時に技能五輪に挑戦した。

・    4年間の修行を終えた後、自分は一年間御礼奉公をした。

・    島根に戻ってきてからは、米子で修行した自分の父や、松江の職人で姫路城の石垣復元も手がけた腕の良い石工「園山巌」氏(故人)から積みを現場で教わった。

・    巌氏には兄がおり、兄弟石工であった。兄は存命である。巌氏は灯籠と石垣の専門であり、石垣については、巌氏も兄から教わっていたはずである。兄は積みのプロである。

・    巌氏から積みを教わる代わりに、自分は文字彫りを巌氏に教えた。

・    安来市内に、加藤さんという腕の良い積み職人がいる。高齢だが、玄翁仕上げで良い仕事をしている。

・    悪い石屋はダイヤで削った石を積むので、味が出ない。叩いて積むと味が出る。

・    谷積みより布積みの方が楽であるが、谷積みの方が強く、カーブにも良い。

・    乱積みが一番難しい。

 

4.石積み工事について(事例を中心に)

【松江堀川護岸】松江市 平成12年度

・    延長200~300m程度の護岸の新規整備であり、カナツ技研の下請けとして石積み工事を請け負った。

・    石材は忌部石(安山岩)であり、カナツ技研が用意した物を現場で加工しながら積んだ。

・    松杭を打った上に空積みで積んでいる。

・    冬場の施工で、ドライ施工であった。

・    4人掛かりで2箇月くらいかかった。割からなので、手間が掛かった。

・    カナツ技研に見積りを出して契約した。しかし、実際には、「金はこれだけだが、文化のために、とにかくやれ。」「へいへい。」といった具合にやってしまうことが多い。

・    積み方は造園屋から指定されたが、きちんとした図面は無かった。

 

乱積みで積まれた松江堀川護岸の石積み。天端も綺麗に処理されている。

 

【焼(たく)火(ひ)神社石垣復元】西ノ島町 平成10年度

・    延長30~50m程度の文化財としての石垣の復元工事であった。

・    園山巌氏に来ていただき、陣頭指揮を執っていただいた。

・    大変難しい工事であった。

 

転石を積んだように見える焼火神社の石垣

 

【T家墓地】広瀬町内 個人

・    御影石の練積みである。

・    上は地元産の石を加工して、丁寧に施工したが、予算の関係で下は安価な材料、仕上げとなっている。

 

階段の上下で異なる質感となった石垣

 

【A家墓地】広瀬町内 個人

・    中国産御影石間知布積みである。

・    中国産材は400×300にかなり正確な寸法で入ってくるが、雑割でないと石積みらしさが出ない。

・    この現場は、雑割石を注文し、ある程度叩きながら積んでいる。

 

角の曲面部も違和感なく積まれている石垣

 

【S家石垣】広瀬町内 個人

・    中国産御影石乱積みである。

・    練積みであり、水抜きを入れろと言われた。あまり入れたくなかったが、塩ビ管の口に加工した石材を用いて設置した。

・    このような中国産材の石垣でも、材工で4万円/m2程度はもらわないと無理である。

 

 

【洞光寺石垣】広瀬町内 民間

・    地元広瀬町産の御影石を用いた。

・    元請けゼネコンから水抜きパイプの施工を指示され、仕方なく石を加工して口に用いて施工した。

・    予算の関係からか、いつのまにか裏側の擁壁は化粧型枠でできている。このような物を薦める元請けゼネコンの感覚が信じられない。

布目崩し状に積まれた石垣と石で作られた水抜きの吐口部

 

予算の関係で化粧型枠となった裏側の擁壁

 

4.文化財の復元工事の実情について

・    松江城では10年くらい前から石垣の復元整備が行われている。

・    今行われている現場は、間組が元請けで、松浦造園が下請けである。

・    このような文化財の復元事業の場合、実績から関東の石屋が呼ばれており、田部には出番が来ない。もっと地元の技術を活用して欲しい。

 

松江城の石垣復元工事の様子

次回からは、石積みの材料を産する国内の丁場の事情などについてご紹介する予定です。

職人礼讃

前田 格Itaru Maeda

(株)東京建設コンサルタント|EA協会

資格:

一級建築士

 

略歴:

1967年 千葉県生まれ

1993年 多摩美術大学美術学部建築科卒業

1993年 (株)地域開発研究所 入社

2011年 (株)東京建設コンサルタント 入社

 

主な受賞歴:

2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(鹿児島港本港の歴史的防波堤)

2008年 土木学会デザイン賞 優秀賞(嘉瀬川・石井樋地区歴史的水辺整備事業)

 

組織:

(株)東京建設コンサルタント

〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-15-6

TEL:03-5980-2648

FAX:03-5980-2613

HP:http://www.tokencon.co.jp/

 

業務内容:

・土木、造園、建築の計画及び設計業務

・都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務

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