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2013.08.02

02|“観察からデザインへ”
〜東京大学社会基盤学科における空間デザイン演習について〜

福島 秀哉(東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 助教)

0.はじめに

本稿では、東京大学社会基盤学科の空間デザインに関する演習である「応用プロジェクトⅡ」(3年冬学期、選択)について、2012年度の課題内容を中心に紹介する。本学科には、構造デザインの基礎的演習である「導入プロジェクト」(2年生冬学期)、「応用プロジェクトⅡ」(3年生冬学期)、「景観学特論」(大学院夏学期)の3つのデザイン演習があり、全て景観研究室の教員(中井祐教授、尾崎信助教、福島)が担当している。「応用プロジェクトⅡ」は、景観分野に関わらず、将来の土木分野を担っていく学生に空間デザインの基本的な考え方を伝える唯一の講義として、重要な位置付けにあると考えている。(※本学科のカリキュラムにおける設計演習全体の経緯については、2013年9月に行なわれる土木学会全国大会の特別セッション「土木における景観・デザイン教育の現状と展望」の中で「東京大学社会基盤学科における景観デザイン設計演習について」として発表予定である。そちらも合わせて参照されたい。)

本稿では、まず本学科の空間デザイン演習のこれまで経緯と特徴について簡単に紹介した後、2012年度に実施した「応用プロジェクトⅡ」の演習内容、および演習を担当しながら現在考えていることについて述べたいと思う。大学教員をはじめ、土木系の設計演習に悩む方々にとって、少しでもご参考になれば幸いである。

 

1. これまでの空間デザイン演習の経緯と2012年度の課題検討

本学科における空間デザイン演習は、2004年度まで「土木計画・設計演習」(4年生夏学期)として行なわれていたが、2005年にカリキュラムの全面改訂が行なわれ、2005年度より「応用プロジェクトⅡ」(3年生冬学期)として行われるようになった。

 

表1:本学科の空間デザイン演習の課題内容とその変遷

 

ここではまず、現在の「応用プロジェクトⅡ」の課題に至る経緯を把握してもらうため、2001年から2007年まで、本学科の空間デザイン演習の課題の中で最も長く行われてきた御茶ノ水駅および周辺を対象とした都市空間デザインの課題を簡単に紹介したいと思う。

(1)2001〜2007年度の御茶ノ水の課題について

課題は、前半課題で御茶ノ水駅を中心とした1 ㎞×1 ㎞の範囲の敷地模型(1/1000)を受講者全員で作成し、後半は個人課題として、駅周辺部の基本計画の提案および主要部の空間デザインを行うというものであった。

前半課題の模型制作では、対象地の地形や道路、鉄道、河川といったインフラ施設、建築物などの都市構成要素に関する調査手法や、模型制作を通した空間表現の基礎について学ぶと共に、設計対象地を都市スケールの中で考える感覚を掴むことを狙いとしていたと思われる。

 

 

写真1-1、写真1-2:2004年度のエスキスの様子と成果品の例

 

また後半課題では、構造や交通機能に関する設計条件、建築やランドスケープデザインの考え方、ディテールの基本的な寸法などについて、学生の興味に応じたエスキスを行い、それぞれのデザイン案を発展させていた。

この課題は、調査による都市機能の問題点の発見、整理と、空間設計による改善案の提示というオーソドックスな課題でありながら、空間デザインの基礎をバランスよく学ぶ機会となっていた。また最終成果についても、受講生のほとんどが初めて設計に取り組む機会であるにも関わらず、構造デザインからランドスケープデザインまで多様性に富んだ作品が見られたように思う。

 

 (2) 2008〜2011年度の課題について

2008 年度以降は、空間を設計する際の想像力や深い思考力の向上を目指した課題を模索し始め、演習内容の大幅な改変を試みており、2010 年度には当時景観研究室の教授であった内藤廣氏が提示した「ダンボールハウス」の課題など、各担当教員による特徴的な課題が取り組まれてきた。

 

 

写真2-1、写真2-2:2010年度ダンボールハウスの講評の様子

建築の原型を突き詰めると、路上生活者のダンボールハウスに行き当たる。ダンボールハウスを大真面目に考え、自分のシェルターとして作成してみるという課題であった。

 

また、2011年度に行った大学前の本郷通りのデザインサーベイは、その年の設計演習の最初の課題であり、都市をよく観察し表現するというシンプルな演習内容であったが、学生が意欲的に取り組み、初年度から充実した成果が得られた。本課題の成果品については、2011年度、2012年度とも景観・デザイン研究発表会にて展示しており、ご覧になった方も多いと思う。

 

 (3)2012年度の課題設定の検討

以上紹介したような過去の演習の経緯を振り返りながら2012年度の課題について議論した際に、2008年度以降では、より学生の想像力や問題意識の醸成を目的としたテーマ性の高い課題としたためか、ともすると設計の基本となる基礎的な観察力と論理的思考能力の向上に関する訓練が不足していたのではという問題意識を持つに至った。そこで、2012 年度の「応用プロジェクトⅡ」は、本郷通りのデザインサーベイと、御茶ノ水の課題を参考にしつつ、新たに飯田橋駅西口周辺を対象地に設定した都市空間デザイン課題を組み合せて行うことにより、基本に立ち返り空間デザインに向けた観察力と論理的思考を身につけることを目指した課題を設定することとした。以上を踏まえて、2012年度の応用プロジェクトの内容について紹介していきたいと思う。

 

2.2012年度の応用プロジェクトⅡについて

 (1)演習の概要

本学科の3年生50名のうち、応用プロジェクトⅡの受講生は毎年大体15〜20名程度である。2012年度は例年に比べ比較的多い20名であった。演習は講義の時間外に作業時間をとられるというイメージがあるためか、学生の中でも比較的デザインや絵、模型などに興味のある学生が受講している感がある 。

課題は4段階の構成とし、第1課題で本郷通りのデザインサーベイ、第2課題から第4課題は飯田橋西口周辺を対象とした空間デザイン演習とした。第2課題で設計対象地を含む全体模型を全員で作成し、第3課題ではグループで空間整備方針を提案、第4課題は個人で設計対象地の空間デザインを行なうこととした。

 

(2)第1課題〜本郷通りのデザインサーベイ〜(3週間)

「よく観察し、よく描く」をテーマに、本郷通り沿いの建築物(1人2軒)の立面図を鉛筆でケント紙に描き、最後に受講生全員の立面図をつなぎ合わせ大きな立面図を作成するというものである。

図1:課題1の敷地範囲と各学生の割当図

 作図の基本的な順序や手法などはあらかじめ伝え、影やテクスチャーの表現方法などはエスキスの中で個別に指導した。また、影の方向、光のあたり方などの時刻によって変化する環境要素や、作図上のGLの位置などについては、後でつなぎ合わせた際に不具合がないよう、受講者間で調整するように指示した。

成果としては、2012年度も2011年度と同様、ショーウィンドウの展示物などの細かい表現や、光のあたり方の表現を工夫した作品も多く、全体として質の高い図面となったと感じている。

 

写真3:第1課題の成果品の例

ショーウィンドウの奥行き感や陰影がよく表現されている。

 

写真4:第1課題講評後の集合写真

 

課題への取組みを観察していると、最後に全員の絵をつなげるということが、学生に対して影響しているようであり、丁寧に描く学生が1人出てくると、周りの学生の取り組み姿勢が変化するような場面が見られた。また、個人の取組みが、最後に大きな1つの成果品の完成に結びつくという体験は、達成感も感じられ演習成果の質を高めて行くことにつながっていると考えられる。

 

(3)第2課題〜飯田橋駅西口周辺の1/500模型作成〜(4週間)

第2課題から、飯田橋駅西口周辺を対象地とした都市空間デザインに関する演習とし、始めに1/500の模型を受講者全員で作成する課題を提示した。飯田橋西口周辺を対象とした理由は、大学から比較的近く、変化に富む地形、外濠、石垣など歴史的史跡、再開発地区から細街路までの街区スケール、鉄道を始めとするインフラ施設など、多様な都市構成要素を観察することができるためである。

 

図2:第2課題の範囲図

 

模型制作にあたっては、都市をよく観察し、観察した都市の構成要素を立体的に表現することを学ぶとともに、設計に先立って、都市の文脈(地形、土地利用、歴史など)からみた対象地の場所性や、街の将来のあり方、その中で設計対象地が果たすべき機能、有するべき空間の質などについて、論理的に思考するためのベースづくりができればと考えた。

 また新たな試みとして、課題に取り組む前に、研究室のプロジェクトの模型や、GSデザイン会議主催のワークショップの敷地模型、その他実務における様々な模型の写真などを見せながら、目的によって模型のスケール、表現方法などが異なることを説明し、模型の意義などについてレクチャーを行なった。エスキスの回では、地形や街路、濠などの模型上の表現方法や、特徴的な建築物などのスケール感を表現するための工夫の仕方などについて伝えていった。また、模型制作に関する細かい指導については、景観研究室の学生にTAとして協力してもらった。

 その結果できあがった敷地模型は、表現のスケール感、作り込みの細かさ、建物などの各施設の特徴の捉え方と表現の工夫など、初めて取り組む模型としては、非常に質の高いものであった。要因としては、コンタや樹木、神社などの建築物に関してそれぞれこだわる学生がいたことに加え、事前にある程度のレベルの様々な模型の実物や写真を見せたことで、表現したい模型のイメージが具現化されており、エスキスなどでも具体的な質問が多かったことなどが挙げられるのではないかと思う。また、やはり皆で1つのものを作るという課題は学生のモチベーションを向上させるようである。

 

 

写真5(左):模型制作の様子 写真6(右):第2課題の敷地模型完成写真

地形、水面、建物、樹木など細かく表現されている。

 

(4)第3課題〜考え方の異なる3つの空間整備方針案を提案する〜(2週間)

 第3課題では設計対象地の整備方針について5グループ(各4人程度)に分かれて議論し、対象地の観察に基づいた考え方の異なる3つの空間整備方針案をグループごとに提案するという課題とした。その際には「考え方の異なる」ということについては班員で十分に議論し、安易な形だけの違いや、一般的な概念のみに頼った対比にならないよう、「観察に基づき」という点について十分留意するように伝えた。

 結果として、牛込濠の「歴史」や、JRと地下鉄の乗降客数や乗換などの「交通」、牛込橋から見る外濠の夕焼けなどの「風景」、外濠の水質や水辺などの「水」などの空間整備方針が提案された。

 課題として、それぞれの提案は確かに都市の観察に基づいてはいたが、空間整備方針というより課題提示にとどまっているものも多く、次の空間デザインへの展開を想像しているものは少なかった。今後、この第3課題に相当する、演習内容が「観察」から「設計」へと移行する部分の課題については、課題の提示の仕方やエスキスに関する一層の工夫が必要であると感じた。

写真7:第3課題の発表風景

(5)第4課題〜具体の空間デザインの提案〜(3週間)

第4課題は個人課題として、全グループが出した空間整備方針(5班×3=15案)の中から(もしくは良いとおもった方針案を組み合せて)、自分の飯田橋駅西口周辺エリアの整備方針案を表明し、それを実現するための具体の空間デザインを提案するものとした。成果品としては、全体模型にはめることができる1/500の設計範囲の提案模型、手書きの平面図を必須として、その他のスケッチ等については自由とした。

最終成果の中には、あと何回か空間デザインについての議論を交わすことができれば、魅力的なデザインにつながると思われる提案や、丁寧な図面表現、模型表現を工夫もいくつか見られた。しかし、3週間という時間が短すぎたのか、全体として時間切れの印象が強く、空間をデザインしたと言えるレベルに達した学生は少なかったように思えた。限られた時間の中で空間デザインの熟度を増すための工夫もまた、今後の検討課題であると思う。

 

写真8、図3:第4課題の成果品の例1(模型写真と平面図)

人の動きをテーマにした例。西口駅前を、神楽坂、飯田橋を東京の重心の1つとしてとらえた時の副重心としてとらえ、歩行者の回遊と滞留を考慮した空間デザインを目指した。

 

写真9:第4課題の成果品の例2(模型写真)

水辺と橋の関係をテーマにした例。牛込橋が橋として浮かび上がるように周辺を整備し、その橋の風景を眺められる親水空間をデザインした。

 

写真10:第4課題の成果品の例3(模型写真)

歴史をテーマにした案の例。牛込見附、牛込橋の風景の再現と、その歴史的遺構を取り囲む公園をデザインした。敷地範囲を超えて設計したため、全体模型にはまらなかった。

 

(6)2012年度の「応用プロジェクトⅡ」を終えて

2012年度の演習を終えて考えていることから、今後の演習の充実に向けた議論の切り口として、以下の2点を挙げたいと思う。

1つ目は、表現手法の訓練としての「観察→表現」の課題から、「デザイン」の課題へと移行する際の課題の出し方、エスキスの進め方である。平面のスケッチにしろ、模型にしろ、手を動かしてモノを作る楽しさを伝えながら、基本的な表現力を教える前半の課題においては、学生も意欲的に取り組み、かつ一定の成果が得られている。しかし、後半提案型の課題になった第3課題、第4課題においては、学生の取組み意欲は感じられたものの、どう思考するべきか戸惑う姿が目についた。2章(4)でも述べたように、今後は、学生が自ら考えて観察を提案に結びつける思考を鍛えられるような、課題設定、エスキスの方法についてより工夫していく必要があると考えている。

2つ目は、スキルとしての空間デザイン能力を鍛えるための、デザイン案を繰り返し修正していく時間の確保である。あるアイディアを空間デザインへとブラッシュアップしていくためには、対話をしながら手を動かし、ある時は1人で悩むといった、様々な時間の積み重ねが必要であるが、その時間を演習内で十分にとることが難しくなっている。先に紹介した御茶ノ水の演習は、課題の数が少なく(全体模型制作と個人設計のみだった気がする)、十分に議論する時間が取れていた気がするが、一方で手書き表現についてのトレーニングはできていなかった。1学期を通した課題全体のバランスについては、今後も議論していく必要があると思われる。

 

3.さいごに

近年デザイナーには、都市への観察力や、そのまちの暮らしへの想像力が今まで以上に求められるようになっている。しかし、その観察や想像の結果をデザインへと昇華していく手法に関しては、個人の能力に任されており、十分に議論されているとは言えないと思っている。学生の演習の成果には、このような実務における悩みがそのまま現れているような気がしてならない。研究室のスタッフが携わっている東日本大震災の復興の現場においては、前提条件が毎日変わっていくような状況の中で、ことを前に進めるための空間デザインの提案が求められる場面が多い。そのような状況で求められるのは、今は見えない風景を含めた都市への観察眼と、そこに暮らす人々の生活に対する想像力である。今後同じような災害が日本を襲ったとき、その最前線で復興に立ち向かうのは、今演習を受けている学生達である。1学期の演習で全てを教える事は当然不可能だが、その研鑽に向けたきっかけになればと思い、今後も演習内容の充実に努めたいと思う。

本稿で述べた意見はあくまで私個人の見解であり、一緒に運営している中井教授、尾崎助教については、それぞれ異なる思いもあることと思う。最後は私自身の悩みの吐露になってしまったが、機会があればお読みになったみなさまのご意見をお聞かせ頂ければ幸いである。

最後に、過去の本学科の演習について資料提供頂いた、法政大学福井教授、東大生産研川添専任講師、および研究室のスタッフにこの場を借りて感謝の意を表したい。

福島 秀哉Hideya Fukushima

東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 助教

1981年生まれ。岩手県出身。2006 年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修了、小野寺康都市設計事務所勤務、独立行政法人土木研究所寒地土木研究所地域景観ユニット専門研究員などを経て、2012 年より現職。主な仕事に、岩手県上閉伊郡大槌町における東日本大震災復興計画策定に関する技術支援など。

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ドボクノ手習い-土木系大学のデザイン演習

2013.08.02

02|“観察からデザインへ”
〜東京大学社会基盤学科における空間デザイン演習について〜
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