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2011.11.01

08|小野寺康のパブリックスペース設計ノート

小野寺 康((有)小野寺康都市設計事務所|EA協会)

2-2 形態に多義性を与える

人を主役にする、人間のためにデザインするという観点から、前回は、空間の中心にモノを置かないという原則や、ベンチを基点とする空間造形について述べた。
考えてみれば、そもそも椅子やベンチは、人が座る行為をデザインするのに最も直接的な装置である。それがあれば、そこが座るべき場所であることは誰でも判る。
だからこそ、注意しなくてはならないのはそのニュアンスなのだ
「ここに座れ」という命令形になってはいないか。
ただ単目的のベンチを無作為に置くだけでは、自動的にそういうメッセージになりかねないという話だ。その結果できる「場」の意味性は貧しい。
学生のデザイン演習を指導していると、ろくに居場所を設定しないまま、ただベンチを並べてデザインした気になっている者が少なからず出てくる。ベンチを置けば人は座ると思っていて、前回見たように喜びに満ちて腰を下ろせる場もあれば、座りたくもない場所に座らざるを得ない場合もあるということに思い至っていない。そういった場合、そこに「座らせる」という意図が設計者の気付かないところに(気付いてほしいのだが)潜んでいるものだ。そして、そういうメッセージは必ず空間に顕れる。それがパブリックスペースの質として貧困であることはいうを待たない。
街角に腰をおろしている人を見て、座りたくて座っているのか、いやいや座っているのか、ろくでもない場所であるにも関わらず本人が無神経だから座れるのか、そういったシチュエーションの判断はつねに自身の眼で的確にしたい。「使われている」と一律に判断するのは軽率というものだ。
たとえば、屋外で食事を摂るのは気持ちのいいものだが、きちんとデザインされた街角のオープンカフェや水辺のテラスは、本人ばかりではなく、それを眺めている人々にとっても気分がいい。これらの光景と、コンビニエンスストアの前の縁石に腰をおろしてカップヌードルをすすっているそれが同じわけがない。パブリックスペースの姿として、後者は筆者において是認しがたい。

 

こんなに素敵にしろとは言わないが…(左/グラナダ、右/マルセイユ)

 

座りたくなるような、たとえば眺めのいい場所に、「眺望-隠れ場prospect-refuge」的構成でベンチを用意するということは基本であり、そのシチュエーションに合致したベンチの造形や素材を吟味するこということがいかに重要かということは前回に述べたとおりだ。
だが、そもそも公共空間を生き生きしたものとするためのもう一つのポイントは、“どれだけ主体(利用者)に自由度を与えられるか”、というところにある。
休みたくなるような場所を用意するというのは重要だが、それだけでなく、座るか座らないかの判断を利用者に委ねることがまた重要なのだ。そして、その委ね方がデザインである。
設計者は、「座れ」というメッセージで場所を創るのではなく、入念に居場所を用意し、黙ってそれを差し出すだけでいい。そういうさりげなさをパブリックスペースの造形の基本としたい。「声高」の造形は文字通り「うるさい」ものだ。
設計者が意図を込めてデザインすれば、必ずしも椅子の形をしていなくてもそこに座りたくなる場を創ることは可能なのであって、それが「椅子」であるかどうかは大きな問題ではない。
ローマのスペイン階段やトレビの泉は、ステップや防護柵にも多くの人が集い、座っている。座りたくなるのはその美しい劇場的な空間構成のためだが、ベンチ以外の各要素が実はちゃんと座れるようにデザインされているところに着目したい。利用者は、その場を自分が勝ち得たものと思うだろう。

 

トレビの泉は、階段や防護柵などいたるところに人が座っている。よく見ると、擁壁基部にベンチがあり、防護柵も座れる形状となっている。階段も広めだ(ローマ)

 

ロッテルダムのシティシアター前にあるスハウブルク広場Schouwburgpleinのベンチは、必要以上のハイバックで、モニュメンタルかつ有機的な形状をしている。座る装置であることは明らかなのだが、背面に寄りかかったり、あるいは遊具のように子供が遊んだりすることも想定されているようだ。自由度が大きい。
さらには、座るという機能以外に、広場空間の領域性を整える役割も兼ねている。ボードデッキの上に、木材でくるまれた人間のための境界(エッジ)が広場をやわらかく包み込んでいる形だ。さらにその背後には照明も兼ねた換気タワー(広場の下は駐車場なのだ)が並び、それらをすべて抱え込んで広場フロア全体が周辺街路からわずかに数段持ち上げられている。領域性が、たまねぎの皮のように幾層にもなって形成されている。
これが「眺望-隠れ場」構成であることはいうまでもない。

 

スハウブルク広場のベンチは、領域性を演出するハイバックの造形となっている。ベンチであると同時にオブジェ、遊具でもある。ベンチの前にあるのは可動式のパワーアームで、先端に投光器がついている。(ロッテルダム)

 

形に多義性を与えるという操作には、それ相応のデザイン力が求められるが、形に凝ればいいというものではない。
ボストンのウォーターフロントにあるクリストファー・コロンブス公園には、広い芝生地の周りに普通にベンチは並べられているが、それとは別に、芝生広場の縁が二段の切石積み擁壁になっていて腰掛けられる。あえて抽象的な形状にすることで、上段、下段のどちらに座ってもいいし、どのように使ってもいいように見える。
その自由度が、おおらかなウォーターフロントらしい雰囲気につながっている。

 

クリストファー・コロンブス公園には普通にベンチも置いてあるが、芝生広場の縁がさりげなくベンチ機能となっている(ボストン)

 

ボストンといえば、バックベイ地区にあるハドソン川沿いの水際公園もまた、伸びやかなウォーターフロント・ランドスケープである。ここにも多くのベンチが置いてあり、いずれも「定石」に則って、眺めのいい場所に木陰を伴いながら気持ちよく用意されている。広い芝生広場では、多くの人々がフリスビーをしたり、犬を走らせたり、あるいは敷布を広げて読書をしている。それぞれにお気に入りの場を見つけて人々は楽しんでいる。
しかし、その中で筆者の眼にもっとも気持ちよさそうに見えたのは、まるでデザインされていない、浮き桟橋でピクニックをする人々だった。
もちろん初めからそんな利用を想定して造られた施設ではない。これは、利用者による「見立て」だ。だが、ここでは、この単なるポンツーンが、生半可なベンチや水上テラス以上に魅力的な「居場所」を創り出している事実を確認したい。パブリックスペースにおけるデザインの可能性を示していると言えないだろうか。

 

バックベイ地区の水際公園のベンチ(ボストン)

 

水際公園のポンツーン(浮き桟橋)でピクニックをする人々(バックベイ地区,ボストン)

 

もうひとつ、ボストンの例を追加する。
JFK図書館・博物館(John F. Kennedy Library & Museum)は、いうまでもなく今なお絶大な人気を誇るJ F. ケネディ元大統領の資料館である。設計はI.M.ペイだが、その外構及びそれにつながる水辺のプロムナードを、ダン・カイリーが手掛けている。
図書館の建物は、白御影石を骨材としたホワイトコンクリートで造られているが、その同じ素材を照明柱や防護柵(チェーン)の支柱に用いている。あたかもペイがデザインしたもののように見える。実際にそうなのかもしれないが、カイリーはしばしばそういうことをするのであって、それでもカイリーらしさを失うことはない。
それはともかく、カイリーは海辺のプロムナードをデザインするにあたり、ざっくりとした石積み擁壁を緑地沿いに積み並べた。
これは何なのか。

 

JFK図書館・博物館に続く水辺のプロムナード(ボストン)

 

明らかに座れる高さに設定してある。一見、座りやすそうな気配はない。むしろ、広々とした風景の一部として素っ気ない表情で置かれているオブジェのようだ。これが風景を引き締めるのに一役買っている。
だが、よく見ると、側面こそ表情豊かにごつごつしているものの、天端は比較的滑らかに整えられていることに気づく。人が腰を下ろす前提で造形されているのは明らかだ。いかにもベンチでございという無粋さではないということに着目したい。風景を楽しんでいる人に、その風情を損なわないまま、そっと座る場所を差し出している奥ゆかしさがここにある。じつに口数少なくさりげない造形である。
人の座る場が快適に用意されているだけで風景はやさしくなる。仮に川の対岸にそれがあり、すぐに自分自身が使うことがないとしてもだ。これを「仮想行動」というが、座れる、行けるという確信が使い手の心象に顕れるだけで、その場は十分に人間のものとなる。こういう場の影響力を重視したい。おそらくカイリーは、そんなニュアンスを狙って造形している。手練れといっていい。
この熟達の造形に続けて拙作を持ち出すのはいささか気が引けるのだが、以下は、第1章-1「空間構成」でも事例として挙げた日向市駅前の交流広場「ひむかの杜」だ。緑地広場の中央部をオープンにして、それを包み込むように芝生の造形緑地やせせらぎ、並木、軌道高架などで薄く数層につつみこむ構成であることはすでに述べたとおりである。

 

造形緑地で広場のにぎわいを享受しながら休息する人々(日向市駅前「ひむかの杜」)

 

人々は造形された緑地に腰を下ろし、休んだり食事したりしている。
その造形緑地だが、ここにこういったアンジュレーション(起伏)がなく完全にフラットであればもっと活動スペースが広がると考えがちのことだと思う。だが、何の手がかりもないフラットな床面だけではなかなか人の居場所はつくれないものだ。利用者が自分で居場所を見つける手掛かりがなくなり、結局自由度が少なくなってしまう。
中央のオープンスペースを囲い込む襞のような造形緑地は、わずかな高低差とともに木々が添えられて、いうまでもなく「眺望-隠れ場」構成となっている。オープンスペースを囲いこんで領域性を形成すると同時に、それ自体が多機能の休息スペースとなるようデザインされている。それを周囲に配置することで、居心地のいい溜り空間がオープンスペースのまわりに散りばめられている形である。
それがこの広場のにぎわいの誘発装置となっている。
さらには、「架け橋」と命名された巨大な杉材のストリートファニチュアがある。箸のようにテーパー付きの二本揃えで、せせらぎを越えて架け渡されている。
これは、ベンチであると同時にせせらぎを渡る子供たちの遊び場であり、広い部分で座り上がってお弁当を広げてもいい形だ。様々な使い方を想定している。と同時に、外から内部へ人を導き入れる、アクセスの誘発装置にもなっている。

 

広場への誘導路であり、ベンチ、遊具でもあるストリートファニチュア「架け橋」(同上)。
ここに長いベンチを要求したのは筆者だが、それをこの造形に仕立て上げたのは南雲勝志氏である。それを受けて、さらに飛び石を追加した。この場は、そんなコラボレーションでできあがっている。

 

もう一つ。
宮崎県日南市の堀川運河にある「夢ひろば」でも、シンプルな造形の中に多義性を込めた。広場全体は、プロムナードと、それに沿って配置された巨大な煉瓦擁壁が空間の骨格になっている。
ボードデッキは、水際線より相当に退いた位置で収められているのだが、末広がりに広がる先端部をすっぱりと切り落とし、その先をゆるやかな下り勾配とすることによって、デッキ手前から見ると水上に張り出しているように見えるようデザインされている。
そこに腰を下ろすと三方に水面が広がって気持ちいいのだが、そこに人が座ってくれると背後からは水際ぎりぎりに人がいるように見える仕掛けである。
煉瓦擁壁の先端部に人が腰かけても同様のことが起こる。
そして、こういう風景がまちと運河を心象的に結び合わせるのだ。
これらデッキや煉瓦擁壁は、それ自体が視点場でありながらプロムナードであり、遊び場であり、くつろぎのテラスであり、時にはイベントの舞台にもなる。
様々な意味性を持った多義的な造形となっている。
これは、筆者がこれまで手掛けてきたウォーターフロント・デザインの一つの到達点である。あくまで現時点における、という但し書きがつくにせよ、様々なパブリックスペース・デザインのノウハウがこの造形に込められている。
このことは、改めて第3章で解説するつもりだ。

 

油津・堀川運河のデッキ・プロムナードと煉瓦擁壁で休む人々(宮崎県日南市)

土木デザインノート

小野寺 康Yasushi Onodera

(有)小野寺康都市設計事務所|EA協会

資格:
技術士(建設部門)

一級建築士

 

略歴:
1962年 札幌市生まれ

1985年 東京工業大学工学部社会工学科卒業

1987年 東京工業大学大学院社会工学専攻 修士課程修了

1987年 (株)アプル総合計画事務所 勤務

1993年 (株)アプル総合計画事務所 退社

1993年 (有)小野寺康都市設計事務所 設立

 

主な受賞歴:
2001年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(門司港レトロ地区環境整備)

2001年 土木学会デザイン賞 優秀賞(与野本町駅西口都市広場)

2002年 土木学会デザイン賞 優秀賞(浦安 境川)

2004年 土木学会デザイン賞 優秀賞(桑名 住吉入江)

2008年 グッドデザイン特別賞 日本商工会議所会頭賞(油津 堀川運河)

2009年 建築業協会賞:BCS賞(日向市駅 駅前広場)

2009年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(津和野 本町・祇園丁通り)

2010年 土木学会デザイン賞 最優秀賞(油津 堀川運河)

 

主な著書:
グラウンドスケープ宣言(丸善、2004、共著)

GS軍団奮闘記 都市の水辺をデザインする(彰国社、2005、共著)

GS軍団奮闘記 ものをつくり、まちをつくる(技報堂出版、2007、共著)

GS軍団総力戦 新・日向市駅(彰国社、2009、共著)

 

組織:
(有)小野寺康都市設計事務所

取締役代表 小野寺 康

〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-8-10

キャッスルウェルビル9F

TEL:03-5216-3603

FAX:03-5216-3602

HP:http://www.onodera.co.jp/

 

業務内容:
・都市デザインならびに景観設計に関する調査・研究・計画立案・設計・監理

・地域ならびに都市計画に関する調査・研究・計画立案

・土木施設一般の計画・設計および監理

・建築一般の計画・設計および監理

・公園遊具・路上施設などの企画デザイン

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